第一章 一話 大晦日の始まり
11時30分。今年も終わりが近づいて来たようだ。
「今年は受験も控えてるからこれといった思い出があんましねぇな‥‥‥。」
この物語の主人公。相原 彼方はそういって深い溜息をはいた。彼方は高校三年生なので大学受験がまっており、大晦日の今日も必死に勉強中であるが今日は何かと集中力が切れてしまう。
「あ~~~。集中ができねぇ!!!もう今日はやめだな。だいたい受験生がいるのに何なんだ、あいつらわざとテレビの音量あげてるだろ。」
下の階で年を越そうとしているバカ家族を呪いながら気分転換に窓を開ける。ヒーターの温かさは心強い味方でもあるが眠気も一緒に襲ってくるのが厄介だ。
季節が冬ということもあり外からは冷たい風が部屋の温度を瞬時に冷やしていく。
「寒いから星が綺麗に見えるなこりゃ。なんか良いことが起こりそうだ。」
満足そうに空を見ている彼方が異変を感じとったのはそれから数分も経たない内だった。体温も奪われているのでそろそろ勉強に戻ろうと窓に手をかけた時に上の方から声が聞こえた。
「おいおい‥‥とうとう俺も頭が逝かれちまったのか‥‥‥上から悲鳴めいた声が聞こえているような‥‥‥‥。」
彼方はまず自分の部屋の天井を見たが世間的から見ても普通の家だ。三階建でもないので上から人の声がするわけがない。じゃああと残っているのは外か・・・。彼方は視線だけをゆっくりと今見ていたへと移す。
「おいおいなんだよあの黒い物体は・・・って人か人なのか!この角度的にどうみても俺を狙ってんじゃねーか!!!」
彼方ははたから見れば体はどこも動いておらずさっきの姿勢を維持しているので焦っているようには見えないが、この気温だというのに頭から汗が止まらなくなっていることによく見れば気づくことができる。
(どうする‥‥いや、どうしたらいいんだ!!選択肢は二つ受け止めるか、机の下に避難か────────)
彼方は頭が割といいわりには馬鹿だった。あんな上空からの人を受け止めたらその瞬間肩から手までが一緒にストンだ!!
「そうだよな。最初っから答えは出てるじゃねーか!」
彼方は先ほどよりも凛々しい顔をしていた。この状況においてまた一歩前に進めることが出来たのだ。深い深呼吸をして息を思いっきり吸い込む。
「いくぜぇぇぇぇえええええ。」
雄たけびを上げながらの光速作業。すぐさま戸を閉めて二重ロック。窓も閉めてバリケードの完成だ。そして机の下に避難。まさに神業だった。
そこから数分がたち何も音が外から聞こえてこないことに不信感を抱き窓いわくバリケードを解除する。自分家の庭や近くの道路を見てみるが人が落ちた形跡はなかった。
なんだよ気のせいか。彼方は緊張から解放されてホッと胸をなでおろす。
「キャャャャァァァァアアアアア!!!!」
もう何もいないはずの上から悲鳴が聞こえてきた。この声からして女性のようだが注目するところはそこではない。
「なんでまだ落ちてねぇぇんだよ!」
盛大にツッコミを入れるが誰からも笑いは取れない。
「ほんとに何なんだよ!!!俺はこんな奇怪現象のぞんでねーんだよ。ちくしょうが!こうなったらどうにでもなりやがれ。」
(───受け止めてやる。)
「うおぉぉぉぉおおおおお!!!!!」
彼方はしたこともない太極拳の構え的なポーズをして叫んだ。上から降ってきたのは少女だった。
しかし普通に見れば可愛らしい少女の顔はこの世とは思えない顔をしていた。
少女の気持ちを思えば無理もないと思う。何しろあんな高い所から落ちてくるだけでも気絶ものなのに下で待ち受けていたのは変なポーズをして発狂していた男だったのだから。
「よしこぉぉぉおおおおいいいい。」
「いやぁぁぁああああああ!!!!」
少女の足は彼方の腹に直撃し効果抜群のダメージを与えるが、なんとか耐えようと足を掴もうと彼方が手を出すと、顔には全力の往復ビンタが強襲。
「うっ‥‥‥グハァ‥‥良い蹴りだ‥‥ぜ‥‥‥‥‥。」
彼方は何もできずに意識を手放した。しかし人生には何の後悔もしていなかった。
*******
彼方は腹にかなりの痛みを感じながらも上体を起こす。先ほどまでの光景を痛さからか思い出してしまう。
「いてててて。まさかあの一瞬であそこまでの攻撃が繰り出されるとはな。いったいどんなカリスマ性をもってやがるんだ。怖れいるぜ。」
「返す言葉がみつかりません。本当にごめんなさい‥‥‥。」
彼方の意味のわからない言葉にも先ほどこの家に落下してきた少女は額を床に擦りつけ謝ってくる。下のリビングからは笑い声が変わらず聞こえてくる。
「顔を上げてくれないか?こういっちゃなんだが、一つ聞いていいか?」
「なっなんでしょうか?」
「なんで俺は生きてるんだ?」
俺がさも当然のことを聞くと少女は悲しい目で俺を見てきた。その目はどう見ても哀れむ感情をだしている。
「そんなにヒドイ人生を送ってきたのですか?大丈夫です。明日はきっと良いことがありますよ!」
「どこの病んでいる奴だよ俺は!!!違くて、あんな蹴りをくらったのになんで俺は生きてるの?」
「私が神だからですよ。治すのなんて簡単です。」
少女は眼鏡を指であげるふりをして自慢してきた。さっきまでの反省の色はまったくもってなかった。一応眼鏡をとって握り潰しておく。
「あっああーーーー。私のちょっぴり大人っぽく見える眼鏡ちゃん56号がぁぁ。なんてことするんですか。見損ないましたぁぁああ。」
少女は涙目になり俺に襲いかかってくるが少女の攻撃はポカポカと効果音がつくぐらいの威力しかない。これで調子に乗ったのが悪かった。
「そんな攻撃が利くか!!俺はこれでも筋肉はついてる方だからなそんな攻撃は痛くないんだよ。わかったかこの殺人・ロリッ子で暴力的な神よ。」
「ひどいですぅぅ私はか弱くて暴力なんて振ったことのない健気な少女ですぅ。」
そう言ってまだ叩いてくるが先ほどとなんら威力は変わっていない。彼方ははっと思いだしたことをいった。
「あっ!!忘れてた。」
「何をですかぁ?」
「いやさぁそこの神の前にあと一つ着けなくちゃいけない言葉。殺人・ロリッ子で暴力的な神の前になあと貧にゅグハァdsじぇr!!!!!!」
最後までその言葉を言えなかった。言おうとした瞬間少女は空中一回転をしてかかと落としを彼方の頭に思いっきり当ててきた。あまりの痛さに部屋の中を転がりまわっていたが少し経って痛みは治まったが正座をさせられている。
「彼方さん謝ってください。事実とは程遠いワードを言うとしたことに!!わたしの心はボロボロのグシャグシャです。」
「す・・・すみませんでした・・・・」
俺が土下座したことに気を良くしたのか表情を緩める。
「まぁいいでしょう。時間が無いので単刀直入に言いますが、貴方には違う世界に行って民を救ってほしいのですが?」
「よし分かった。」
彼方は膝に手をつき重い腰をあげる。少女は何も言わずに了承してくれた彼方を尊敬の眼差しで見つめ、いままでしてきたことを反省する。
「そうですか!あなたがこんなにも、物分かりが良い人だったなん‥‥‥あのどこに電話を?」
少女は電話の相手がおおかた予想でき、それにともなって感激していた自分を殴りたくなっていた。いや殴っていた。
『はい、どうしましたか?』
『あの家に不審者が入ってきて‥‥‥はい。なんか得体が知れないですが、一つだけはっきり言えることは変な宗教かなんかやってますねあグハァァ!!。』
電話をしている所に少女の一回転踵落としがまたヒットする。
『どうしました!大丈夫ですか?もしもし〃もしもしバキィ!!!!‥‥‥‥。』
「お、俺のケータイが‥半分になってしまった。」
彼方は膝をつき先ほどまで傷一つ付けずに使っていたケータイを見る。床には『すいやせん兄さん。あっしはもう駄目みたいです』と横たわるケータイがあった。
「不審者って誰何ですか?」
いくら相手が少女だろうと彼方はケータイのことで怒っていた。あの遺言は俺の心に響いた!ここはガツンと言ってやる!!
「まだ分からないのか。しょうがない、教えてやるよ!!俺が言った不審者はな‥‥おま‥‥。」
「どうしました。」
勢いよく言われた題詞は最後まで言われなかった。否!!それを生存本能が言わせなかった。
背中を冷たい汗が流れた。彼方の首にはどこから取り出したのか、刀がピタッとくっついていた。なぜ、前にいる少女は笑っているんだ。
「‥‥いや、すいませんでした。よく考えたら不審者なんていませんでした。アハハハ。」
「私の話し。聞いてくれますよね?」
「はい。」
*******
「なぁ、違う世界ってどういう意味だよ。てかなんで俺なんだ?」
彼方は半信半疑ながらも冷静に質問をしていき、少女の信用性を確かめる。
「まず違う世界というのは、ここでいうファンタジーの世界と一緒です。 どうして貴方かというと大のお人よしだからです。」
「お人よしだけで決めるなボケ!!ちなみに俺がそっちの世界に行って何をするんだ。」
「性格は大事です!!!貴方にはあちらに行って魔法などで魔王を倒してもらいたいのです。」
(魔法と魔王か‥‥‥本当にファンタジーの世界だな。)
「どうですか?私の話しを信じてくれますか?」
少女は身を軽く出し俺を下から見上げてくる。ウルウル目ビームが俺の心臓をいぬいてくる。
「俺が行ってもこんな弱いんだけど大丈夫かな?」
「そこはお任せ下さい!!貴方には特別な力プラス願いを二つ叶えてあげます。」
(ひっ‥‥‥卑怯だ!!!俺はかなりイレギュラーだな)
「困っている奴らがいるなら行くしかないだろ。」
俺が渋々了承すると少女はぱぁっと笑顔になり喜ぶ。
「じゃあ願いを私に言ってください。」
「そうだな‥‥‥まず一つめは身体能力を上げてほしいな。その世界の一番上の奴より二枚ぐらい上手になるように。二つ目は魔力を魔王より多くしてくれ。そうしなきゃ勝てるわけがないからな。」
「まぁそのぐらいが妥当でしょうね。分かりました。ちゃんと叶えときます。では0時00分貴方を神の名の下に世界を渡ることを許可します。」
少女がそう叫ぶと、彼方を中心にエフェクトが出来、辺りを光が包む。
それが俺の長い長い旅の幕開けだった。