第一章 十五話 王位継承の儀 中編
*****garia said*****
どう考えてもこの不利の状況はかわらねーな。緊急ルールだか知らないが11対6じゃぁちとキツイ。ここは俺がひと肌脱ぐしかねーな。アイツらには聞きたいこともあるしな。
「カナタァ!!こっちは任せてもらうぜ。だからそっちは任せたぞ。」
俺のいきなりの言葉に訳が分からないとった表情で見てくるが、いちいち説明する時間はないので横にいるラッグにも確認する。
「あなたっていう人は・・・。僕ももしもの場合は本気を出させてもらいます。こっちは気にしないで良いですよガリア師団長。」
「ハッハッハ!!さすがだな。気を引き締めてけよ。」
「ええ。」
『陥没し押し返せぇぇえええ 集え集え集え 今ここに!!』
会場全体が震える。立っているのもままならないほどの地震。俺は魔力を右手に集めさせる。右腕にはエフェクトが何重にも重なっている。
『幾多の道を遠ざけ 俺の道だけを示せ』
エイドリック達がやっとのことで立ち上がり攻撃を仕掛けようとしたが、次の句を言われた瞬間に魔力の波動が襲い後ろに吹っ飛ぶ。
『巨人の壁』
振り上げた右腕を思いっきり地面に叩き込む。一瞬の今までとは違う桁違いな揺れ。それと同時にこの会場の真ん中を境に石の壁が地面から低い音とともに出てくる。
その壁は俺とカナタ達を分けて相手の4人をこっちに追いやった。その中には永久の騎士団の副団長にあたるワームスとかいうやつがいる。
「アイツだけは少々やりすぎちまったからな。お仕置きが必要だな。」
俺は永久の騎士団の証である剣を地面に刺してその前に一歩出る。そして背中に担いでいた大剣を抜き中段に構える。
「俺様をたおさねーとアイツらの所にはいけねーぜ。」
4人は怪しげな笑みを浮かべて黒とは対照の白く綺麗に仕上がった剣を構える。
「フォフォフォフォフォ!!馬鹿な人ですね。いくらあなたでも私めたちの人数がいては勝てませんよ。精鋭部隊は伊達にしょってませんからね。」
ワームスは剣を持つ手をゆっくりと肩を軸にして1回転させる。
「何がしてーんだ。」
右足を一気に踏み出して腰を低くする。足を踏み込むことによって上がった先ほどまで地面を彩っていた岩がガリアの後ろに宙で浮いたまま待機している。
「来ねーならこっちから行くぜ。」
走り出すと同時にとがった部分を前に突出し岩たちが相手に向かって飛んでいく。ワームスたちはすぐさま思い思いの所に回避する。その中で一番反応の遅かった奴を見つけ出す。
攻撃がされた地面がまたもや崩れていく。そしてまた岩の攻撃が力を増す。
「うっぬぅぅぅらららぁぁぁあああああ!!!」
さっきの倍になった量の岩を見つけた一人にすべて投げ込む。
『ズドドドドドォォォンンンンン!!!!』
その男は自分一人に来るとは思わずに対処がが遅れて成すすべなく倒れている。他の3人からは焦りの表情が伺える。
(まさかこれほどとは・・・。ガリア師団長。邪魔をしてくれますね。)
ワームスの頬から冷や汗が出てくる。
『我が身よ 駿足なれ』
間をおかずに一言の詠唱が紡がれる。
ガリアに突進する一人の騎士。エイドリックの騎士だろうが仮面をかぶっていて中の奴は見えない。その騎士とガリアの剣を中心に爆発的な衝撃波が飛ぶ。
「ほう。水使いのくせに特殊付加が『速さ』か。珍しいじゃねーか。」
騎士は答える素振りを見せることなくすぐさま連撃を繰り出してくる。あとの二人はその場から動いていない一体何をたくらんでやがる。
「終わりです。」
冷たい相手の声が距離がありながらも耳元で囁かれているのではと思わせるような不気味な感じを起させる。その感覚を取り払うかのようにガリアは声を張り上げる。
「まだまだぁぁぁあああ。」
騎士がその言葉と同時に隠し持っていた小刀を左手から出して突っ込んでくる。ガリアも応戦しようと刀を振り下ろすが切ったのは水だった。
「っち鏡か!!」
嵌められたことに気づきすぐさま後ろを振り向き近づかせまいと横に振るうが、さっき向いていた方向から着地の足音が聞こえる。
「なんだとっ・・・。」
ゴトッと音を出して首が地面に落ちる。首を切った騎士はガリアを見下ろすといきなり後ろに引っ張られる。
「なにっ!?」
「悪いな。そいつは俺のそっくりな石だ。」
首をガッシリと掴み、先に地面を尖らせていたところに突っ込ませようと思ったが、仮面が外れて現れたのは女だった。殺す気でやった動きを途中で停止させる。
反転して普通の地面へとやるしかなかった。女は「かはっ」っと肺の空気を一瞬にして体内から追い出し強い衝撃とともに意識を断つ。
「なんで女がいやがるんだ。」
『怒涛の強さよ 我より放たれ』
『壁よ出でろ』
分かっていた。躊躇ったら勝てるやつらじゃねー・・・。
倒した後魔力の収束がアイツらの方向でありすぐに壁を出したが壁を貫通する。攻撃はその速度を落とさないままガリアの脇腹あたりを直径五センチほどの穴が開く。
「うっ!!」
低い声を上げ片手を傷口に添える。魔力を集まらせて緊急治療を補わせて血が出るのを防ぐ。そこで倒れたと思われた女からの回し蹴りが後頭部に直撃する。
「やっぱり女だな。足腰が軟弱すぎやがる。『包囲せよ』」
ガリアは女の足を顔の位置でつかんだまま紡ぐ。ガリアと女を二人同時に囲むように半球型の囲いができる。
「ちなみに傷は負わされたがそいつも俺のそっくりさんだぜ。大事にしてくれよな。」
女は特別性の石の壁に閉じ込めたからこの試合中は平気だろう。問題はあの二人だな。あいつら俺が躊躇することをわかって送り込みやがったな。
それもあの髪の色と髪型。顔まで似てやがる。
「読んでやがったな・・・胸糞わりーぜ・・。」
「あの女の騎士は気絶をさせないんですかガリアさん?そんなことは自分の首を苦しめることになりますよ。」
「てめぇーはずっと前から城にいやがったな。一つ聞きてぇことがあるんだが。」
ガリアが質問を施すがワームスはしてくるのが分かっていたかのような気味悪い顔を向けてくる。
「十五年前の日に俺はお前が試験管で採用試験を受けた。」
「ええ。覚えていますよ。逞しくなりましたねあなたは。」
「そんなお世辞はいらねー。お前はずっと前から怪しいと思ってなマークしといたんだがな、やっと・・・やっと足をつかんだ。お前は十五年前から、いやちげーな、俺が知るずっと前から魔族の手下になっていやがたんだな!!」
「そうですが。それが何か?まさかそんなくだらないことを聞きたいんですか。」
間髪入れずにワームスが平然と返す。隣にいるやつも意に反さないといった表情だ。
「別に俺は魔族の手下になったことをこんなに怒っているんじゃねぇ。俺の村を襲ったことが気にくわねーんだ。」
「あなたの村を襲った証拠などありませんよ。何かの間違えでは?」
「間違えるわけねーだろ。てめぇの憎たらしい顔を。」
十五年前。俺は試験を無事に合格して騎士隊に入隊することができた。その報告に村は二・三日お祭り騒ぎだった。総勢600人ぐらいしかいないがその村には強力な魔法具があったから国からは特別保護が下っていた。
しかしそのころになって、その魔法具を国に献上してくれと申し入れが頻繁に起こったが村は断固として断っていた。
幸せな家庭を持って仕事も安定してきていたので村の事情にはあまり関わらないでもいいと仲間からも言われていた。俺もその気遣いに甘えていた。
ある日の鍛練中に城が少し騒がしかった。周りの奴らは気付かなかったが俺はそのことが気になり少し探るとどこかの村が魔獣に襲われているという報告だった。魔獣の総数は300らしい。そこにはワームス副師団長が小隊を率いていったらしいがそのことは内密だった。
まぁ上だけで処理されることも少なくはないので普段は疑問に思わないが、その時は嫌な感じがしたので少し首を突っ込んでみた。そしてわかったのはあまりにもひどかった。
襲われていた村は俺の村だった。
出陣するワームスは身近な騎士だけを編成に加えているときいていた。ワームスはその時から良いうわさはあまり聞かなかった。不安は最高潮に達した。
上官の命令を無視しての追尾。勢いよく馬を走らせて村に急いだ。村と国との間は少しだが離れているほうだがその日だけはすぐに目で見えた。勢いよく燃え盛る炎がその位置を示していたからだ。
馬を村から少し離れた森に残して向かうと信じられない光景が目に入った。
報告とは違う魔獣の少なすぎる数。村の人を襲うのは魔獣ではなく城の騎士たちだった。畑は荒らされ家は大半が燃やされている。逃げ惑う見知った顔達だが周りの森は火がつつんでいた。
それは疑うことのない計画的な犯行だとわかった。
踵を返し自分の家のほうに向かったが例にもれず燃やされていた。
綺麗に育てられた花壇は壊されておりドアが乱暴にも壊されていた。火など関係なく家に入るとリビングの端で血を流して倒れている愛すべき人。その上の棚には5歳になった娘と家族で絵描き師に描いてもらった絵が飾ってある。
もう生きていないのは分かっていたがやさしく抱きしめた。
そのあとに娘を探したがその姿はどこにも見られなかった。生まれ育った燃えた街を歩く。いつもは明るく声をかけてくる人たちはもういない。倒れている人たちの死因は斬殺。魔獣の攻撃とは違う慣れた奴らの剣捌きだ。
村にいた人たちの中で生存者はいなかった。村は地図から消えた。
あの時の悲惨な光景が次々と蘇ってくる。最後に見たのは仕事を終えて退却をするワームスたちが笑いながら帰還するところだった。
「てめーは100回死んでもたりねーぐらいに罪を犯しちまった。慈悲を請おうなんて思っちゃいねーよな?」
「そうですか・・・。あなたが命令に背いたと聞いていましたが村に来ていたんですか。それは考えるだけでかわいそうですね。だけど一つだけ間違いがありますよ。」
ワームスは薄気味悪い笑みを浮かべる。それが通常時の表情だといわれても納得してしまいそうに様になっている。ワームスは最初やったように剣を持つ手をゆっくりと一回転、肩を軸に回す。
「間違いだと?」
「そう。あなたにとってはさぞ嬉しいお知らせですよ。」
『───────ドクンッ』
さっき感じた感情。いままで何回も願っていたがもう諦めに代わり受け止めていた現実。
「─────────────────後ろにいるのあなたの娘さんですよ。」
『ズドォォォォォオオオオオオオオンンンン!!!!!!』
俺の作った岩の囲いをものすごい魔力一つで吹き飛ばす。後ろを見るとさっきの女が右手をこちらに向けて無表情のまま立っている。感情のない目をしていたが今ははっきりと読み取れた。
「・・・アイナ。」
「父さん・・・。」
その瞳の中にあるのは自分に向けられた憎しみだけだった。
「まさか魔法まで一緒にとけてしまうなんてね。困ったものです。」
予想外の出来事だがそのこともワームスにとってはどうでもいいことだった。そのつぶやきと同時に隣にいた一人はガリアに駆け出す。
『怒涛の強さよ 我より放たれ』
行動をしている分威力は落ちるが速度はそのままにガリアへと向かっていく。その雷撃をガリアは魔力で張ってあるだけの右手で止める。
「馬鹿な!!」
男のつぶやきとともに二人の剣は交わる。何撃も攻防繰り返して距離おく。
「ああ参った。まさかこんな日が来るとはな。思ってもいなかったぜ。ワームスお前に分かるかよこの親の感情が。」
「わかりかねます。」
今度は二人同時の攻撃。左右から攻撃が来るがそれをすべて体で受け止める。しかし傷一つ付きはしなかった。
「さすがといったところですね。あなたの鉄壁は噂道理のようだ。だけどこの一撃は防げるかどうか。」
一人ワームスは抜けて詠唱を開始する。その時の行動は練習されているものなのか行動はスームズだった。
『道を阻むものよ 貴公を退けわれ先に進もう』
『道を阻むものよ 貴公を退けわれ先に進もう』
二人の・・・ワームスとアイナの合わさった詠唱がこちらに聞こえてくる。二人同時の詠唱魔法本気で勝負を仕掛けに来た。一句を読み二人の前に魔法陣が現れる。
「残念だな。おめぇは終わった。」
「何を言ってる。今詰んでいるのはお前の方だぞ。」
男は後方に跳び技を食らわないように距離を取るがそれが仇となる。着地した部分に魔法陣が現れ男の足すべてを土が呑み込み硬化する。
『偉業を成し遂げ褒め称え 炎界竜』
『偉業を成し遂げ褒め称え 水界竜』
二方向から火と水をまとった竜、中位魔法がこちらめがけて勢いよく迫ってくる。中位と言っても二つ合わされば上位魔法に匹敵する直撃は死を意味する。
「いつの間に!術式陣を。」
「士官学校からやり直しな。」
そう男に別れの言葉を告げてその場から離れる。二つの魔法は男を巻き込みぶつかり合って大きな爆発を引き起こした。その爆風に巻き込まれないようにすぐさま土の壁を前方に張る。
攻撃の余韻を残して地面に立っているのは3人になった。
≪ガリア≫ 『轟け 台地よ 聖なる者よ』
「早くあの男を黙らせろ。」
ワームスはアイナにすぐさま指示を出して自分も詠唱を開始する。
≪ワームス≫ 『火の力よ 我が手元に舞い降りてきなさい』
≪ガリア≫ 『かの武人に向けられし牙をもう一度崇めたい』
二の句を結んだガリアのもとにアイナは短いナイフを持って突っ込んでくる。詠唱は集中力が切れたらやり直しである。しかしそれは分かっていた行動である。
「させない。」
アイナはそういってナイフを突き立てる。それは何のじゃまもなく腹に吸い込まれていった。詠唱を解くと思っていたアイナも一瞬の驚きをしてしまう。
「邪魔だ。離れてろ!」
ガリアから詠唱の時に出る魔力の波動を直でぶつけられ横に飛ばされる。
≪ガリア≫ 『出でよ 滅びし土龍』
詠唱を止めさせとどめを刺そうとしていたワームスは予想外の行動に集中力が一瞬だが切れ収束していた魔力は四散した。ガリアの詠唱で地面から這い出てきた龍はその大きな体を空に向けて羽ばたかせる。
(やばい。強力な魔法は間に合わない。)
『わが剣よ 炎を纏え』
ワームスの剣を炎が纏いその刀身を三倍ほど長くした。それを上からくる龍に向けて構えを取る。
「一瞬の動揺で判断が鈍ってちゃまだまだだな。ワームス。」
ワームスはガリアの言葉に答える余裕もなく迫ってきている龍に意識を傾ける。地面をけって龍を向かいうとうとした時地面が膨れ上がってバランスが取れなくなる。
「上から来たのは注意をひきつける龍だ。」
足元から急に先ほどとおんなじ龍が口を広げて迫ってくる。
「私が・・私がこんなところでぇぇぇええええええ。」
思いっきり下の龍に剣を叩き付けるがその直後上からの龍がワームスをもう一方の龍とはさんで突っ込んだ。ワームスはいたるところの関節が違うところに曲がり気絶した。
「アイナ。」
その光景を確認して隣に飛ばしたアイナを見やる。自分で刺したナイフを見ながら少し震えている。
「わたしの名を呼ぶなぁぁあああ。」
そういって水の球が無数にこちらを襲ってくる。自分のしたことに恐怖しながらもそれを消し去るかのように声を上げて攻撃してくるアイナ。
感情が戻るとこんなにも弱くなる。そんなアイナをやさしく見やる。
「そんな目で見るな。」
アイナは落ちていた剣を拾って襲いかかってくる。その振りは力任せで所構わず当てに来ているだけだ。その最中アイナの瞳からは涙がこぼれている。
「なんで・・なんでお母さんを・・・私を助けてくれなかったの!!お母さんは私を守って・・・。」
「悪かった。」
娘が今どんな気持ちなのかはガリア自身分からない。その心の傷は自分と同じぐらい、いや、それ以上に深いと分かっているから謝ることしかできない。
「信じてた!!・・・助けに来るってお母さんが何度も私に言ってくれた。なのに。」
「悪かった。」
剣のぶつかり合いは段々と少なくなっていき最終的には二人の動きは止まってしまった。剣を持っている手を下げただ立っているだけ。
「なんで泣くのよ!泣くぐらいなら・・・・・・。」
アイナは残っているほうの手でごしごしと涙を拭くがそれは止まってくれない。文句の言葉はやがて泣き声に変わって、剣も地面に落としてしまう。
「悪かった・・・・悪かった。」
ガリアはゆっくりと近寄り娘の体を優しく優しく抱きしめる。
アイナはその安心感からか声を一段と大きくして泣いた。ガリアはそれが収まるまでいくらでも待つ気持ちで愛する娘を抱く。
「うぅ・・う、おかあさん・・がね。・・・・ひっく愛して・・るって。」
ガリアは娘の思わぬ言葉に止まっていた涙がまた溢れ出す。もう誰にも傷つけさせはしないと心に誓って娘を抱く手に力を入れる。
「そうか・・伝えてくれてありがとうな。」
すみません 多忙です(T_T)
よろしくお願いいたします
( ̄∀ ̄)