第一章 十四話 王位継承の儀 前編
『ヒュルゥルゥルゥ~~~~~~~ドン・ドン!!!』
今日はこの国内で大いに盛り上がる日であった。民たちはこの日のために前々から準備をして置き今日お披露目をするのだ。武器屋だったら注目の品を・飯屋だったら最高の料理を・酒場だったら最高の酒を朝から解放している。
町が賑わう中でそこから少し離れた林の中では、場に似つかわしくない二人が倒れている。
「っちうるせーな・・・。なんだよ今日はどっかの運動会かよこのやろ~う!!花火なんて使わなくていいだろうが。」
せっかく気持ちよく寝てたところを起こされて、低血圧な俺は少々いらついていた。隣からはようやく目を覚ましたフェリスが頭をかきながら上半身を起こしている。
「なんだよ運動会って?てか今のは花火じゃなくて火属性の魔法使いが使う初歩的な魔法だぞ・・・目ぇ覚ませカナタ。てか花火ってなんだ?」
「んっフェリス!これはたしか何を知らせる花火だっけ?」
フェリスの言葉に頭が段々と覚醒してくる俺。
「だから花火って何だよ!!今日は王位継承の儀なんだから開始の合図だろうが。ちったぁ頭使えよ。」
「なんだよ。運動会じゃないんか!はっはっはっははははは!!!」
「もう意味分かんねーよ!はっはっはっはは。」
『ははは・・・・・・・・・あああああああ!!!!!!!』
何たる不覚だ寝過ごしてしまった。しかしフェリスはなんて言った。いまの音はやりますよ合図ではなく開始の合図だと!俺はダメだなもう。
「フェリスわかってるな!」
フェリスも一緒になって気づき俺の視線の意図を察知して大きくうなづく。
「ああ。今から俺んちに行ってシャワー浴びて飯食って出発だな。」
「よし。死ね。」
とびきりの笑顔をフェリスに向けて親指を下に突きだす。俺は構ってる時間もないので木にかけてあった上着を羽織って走り出す。
「ちょっと待てよぉぉおおおお冗談!!!」
少し遅れてフェリスも追い付いてきた。こういうときは魔法使いがもつ特殊付加が役に立っている。フェリスは雷の属性らしく『速さ』が上がるらしい。俺はよく分からなかった。
林を抜けると町の端に位置するというのにそこから人の数は普段にもまして多かった。
荒業を使って屋根の上を使って城まで目指すことにした。試合は神聖なので城の中にある専用の会場で行われるようだ。全力で走って五分ぐらいで着いた。
「試合って始まったんじゃないのか?」
「確かにそのはずだけどな・・・。おい何があったんだ?」
会場の前につくとそこには人だかりが出来ていた。見るだけなら誰でも無料なので入れるはずだからこんなにあふれるわけないんだけどな・・・。フェリスは疑問に思い近くの人に聞いてみる。
「おうフェリスか!なんかしんねーけどもう入場が出来ねーらしいんだ。会場がいっぱいらしい。」
「それはあり得んだろう!」
話しかけられた男は一回辺りを気にするそぶりを見せて小声になり話し出す。
「おい誰にも言うなよ!!昨日の酒場で聞いた話なんだけどな、なんか客は金をもらってるらしくて何かの役になるんだってよ。試合に文句を言うだけで金がもらえるんだぜ!だけどあくどい奴ばっかに誘ってるらしいからな。」
「ってことは今会場にいる奴らは買収されてると?」
「ああ。それも噂によりゃエイドリック王子がやってるらしい。」
「貴様ら何を話してる!!!」
騎士に見つかり呼びかけられて男は逃げだす。
「あっこれはこれはフェリス副長でしたか。失礼しました。では。」
騎士はフェリスを確認するとすぐに見回りを再開させてどっかに行ったしまった。そこに残った俺らは無言になる。すぐに会場から大きな声が聞こえる。
「ぶっ飛ばしてやる。」
そう吐き捨てると入口にいる騎士を押しのけて入ろうとするが数人がかかりで止められてしまう。いいかげん実力行使で行こうとしたところにコツコツ足音を鳴らして近寄ってくる人がいた。
「それは許すことはできませんね~~~。止まっていただけますか?」
そう言って出てきたのはワダラ村でティアを狙っていた男だった。その後ろには金で雇ったのだろう筋肉モリモリの男たちが十人ほどいる。
「いいねぇ~~話がはやいぜ。」
フェリスが小さく笑みを浮かべて剣を抜こうとすると男が制止を呼び掛ける。
「ここにはほかの市民もいっぱいいるのに剣を抜くなんて後々どうなるか分かったもんじゃありませんよ。この忠告はあなたたちのためですよ。それでは、お前達後は頼みましたよ。」
「金の分は働いてやるよ!!」
男はそう言い残してそこから一瞬にして姿を消してしまった。後に残るは筋肉だるま達。
「おいおい本当にやるのか坊やたち?」
「まだ今なら間に合うぜ。早く逃げな。」
男達が馬鹿にしたような顔をして口々に言ってくる。俺とフェリスは目を合わせる。「オジサンたちぃ!!!」と元気よく呼ぶ。
「なんだぁ??」
俺たちの呼びかけにこちらを一斉に向いてくるので俺らは笑顔で言ってやった。右手を突き出し親指を下に向ける。
『死ね』
オジサンたちのティーシャツがビリッと破ける。封印していた筋肉を発動してしまったようだ。そしてこちらも野次で投げ入れられたリンゴを片手で思いっきり潰す。
両者の視線は激しく交差している。
「フェリス!!」
「おう!細マッチョの時代の懸け橋に俺はなる!!!!」
そう高らかに宣言してゴリマッチョの所に走り出したフェリス。俺もすぐさま参戦する。
******Thia Side******
試合のために用意された個人的な待合室。外では試合の前のためか大きな声が中にまで伝わってくるが、この一室だけはまるで違う場所にあるのではと思えるほど静寂が辺りを支配していた。
部屋の両端には均等な間隔で火を灯す綺麗に装飾された台があるが、火は灯されておらずその意味をなしていなかった。この部屋を照らすのは布で閉ざされた窓の隙間から入ってくる少しの光だけである。
その部屋の中央に立っているのはこの国の第二王子。
『コンコン』
部屋のドアがノックされるが扉は開けられずにそのまま用件だけを言われる。
「王子。時間が迫ってきてますぞ最後の準備に取り掛かってくだされ。」
「うむ。分かった。」
この試合は王子一人+精鋭騎士団五名で構成されるチームで行われる。兄様の騎士団員は強いが妾の団員達も劣ってるわけではない。勝機はある。
紅の武具を所々につけるが身軽にするため必要な個所だけだ。そしていままで共に戦った刀を強く握る。震えが少しおさまる。
目を閉じて一回小さな呼吸ををする。
『灯りたまえ』
言葉と同時に両端にあった台に火がつくが一瞬の内に消えてしまう。灯った瞬間に剣を二振り一寸の狂いもなくその振りでできた風は火を消し去った。
力ずくにも迷いを振り切ったのか決意の表情をしてドアを開ける。ドアの前にはもう仲間たちが横に列を作り待っていた。
「みんな聞いてくれ。」
「妾にそなたらの命を預からせてほしい。共に戦ってほしい。こんな妾だがついてきてくれるか?」
「当然ですよ。そうですね皆さん!!」
少しの間を置きワームスが声を上げる。ほかの面々もそれに続いて声を上げる。
『おう。』
妾を護衛するために作られたこの隊。最初こそは上手くいかなかったが時間がかえてくれた。長年の仲間の顔を見て勝利の思いを強くする。こやつらとなら勝てる気がする。
「みんな行くぞ!」
アナウンスからの入場の指示があり戦場へと足を踏み入れる。観客席は大方埋まっていて始まってもいないのに声が凄かった。
『ヒュルゥルゥルゥルゥルルルルル~~~~~~ドン・ドン!!!』
開始の合図だった。すぐに作戦で決めた配置へとなるべく、指示を出すが後ろにいる団員は動こうとしなかった。後ろを振り向くと皆武器も抜いていなかった。
「何をしておるのだ!はやく位置につくのだ。」
なんだ。なんなんだこのいい知れぬ不安は・・・振り払っていたことが一瞬にして頭の中をいっぱいにする。頼むから早く剣をとってくれ。
カナタの妾を思って言った言葉。妾が一番恐れていた言葉。
「頼むから・・・皆。」
「悪いな王子・・・いや姫様。俺は今日で退団するわ!あとは勝手にやってくれ。」
一人が剣を捨て軽蔑の目を向けて相手の方に歩き出した。
するとほかの奴らも剣を捨て妾の所からいなくなっていく。これは一体なんの冗談だ。妾はやっと信頼できる仲間ができたのではないのか?また一人に戻るのか?
嫌だ。あんな日々はもう嫌なんだ。
すぐに味方はいなくなり最後に残っていたワームスまでもが歩き出す。剣を地面に刺してその通り過ぎようとする手を両手でしっかりと掴む。
「わ、ワームスは行かないでくれるよな。なぁワー「触れるなぁぁぁああああ!!!!」」
今まで聞いたことのない声を出されて恐怖と一緒に手を引いてしまう。
「汚らわしい汚らわしい汚らわしい汚らわしい汚らわしい・・・・・・・・。なぜ『災いの子』の護衛などやらなくてはならない!!!!見るのも嫌だというのに。」
「えっ・・何をいって・・・るんだ。」
やめろ。聞きたくない聞きたくない。妾は『災いの子』ではないそんな目で妾を見るな。
「それに・・・。」
『ポトッ』とかぶっていた帽子を剣のさやでつつかれ落とされる。それと同時に結わいでいた髪もさらさらと下ろされていく。会場はどよめく。
「女ではないか。継承の儀すらやらなくてもいいはずではないのか?」
その言葉に会場が同意する。ティアに向けて全角度から襲い来る罵声という名の暴力。
足ががくがくと震えた。目の焦点が合わなくなる。昔にもあった何回も何回も。やめてと叫んでも周りは良しとしない。現実は悲惨だ。
「お前なんて────────」
たたずむ妾を見降ろしてくる。この光景はもう見た。たった一人の生みの親に投げかけられた一連のことが蒸し返される。
その先は嫌だ聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない。
「────────────生まれてこなければよかったんだ。」
「あっ・・ああ・・・・。」
言葉がうまく発せられない、息が苦しい。
「そうだ死ね」「災いの子」「俺らの前に現れるな。」「死んで詫びろぉぉおおお」「死ーね」「死ーね」「死ーね」「死ーね」
会場からも周りのみんなからも冷たい視線。誰からも必要とされていない。
「どうですかこの声!!さぁ自らの手で死んでください。さぁ」
ワームスは懐から小刀を取り出してティアの前に投げる。震える手でその刀を両手で持つ。会場からも終わることなく罵声が発っせられている。
「わ・・わ、妾は・・・・生きててはいけないのか?」
もう辛い。生まれてきた時から誰一人味方などいなかった。だけど必死に生きようとした。
誰か一人にでも認められたいと思ったから。
そして必死に作った仲間からも妾は必要とされていないのか・・・。
生きていることがこんなに辛いならいっそもう・・・。弱い力でもった刀をゆっくりと首元にもっていく。
しかし声が聞こえた。その声はこの喧騒の中でもはっきりと聞きとることが出来た。
「生きてていいんだよティア。」
ああ。なんて安心する声なんだろう。このまま目を開ければきっとその男は優しい顔でだけど得意げに立っているのだろうな。
「妾はお主にひどいことをしたのだぞ。なんでまた妾の前に現れたのだ。」
「誓ったろ。俺はお前の騎士でもあり友達だ。そうだろうティア!」
さっきまでの罵声の中でも、裏切られても涙を流すことはしなかった。だけど今ならその弱さを受け止めてくれる人がいる。一人は怖いのだ。
「うぅ・・ヒッグ・・カナタァァァァァアアアアアアア!!!!!!」
大粒の涙をながして目の前にいるカナタを見つめ勢いよく抱きついた。温かい。これが本当の優しさなのだろうか。カナタは優しく彼女の髪をなでる。
「妾わぁぁぁ生きてても、うっ・・いいのだよな。」
「ああ。みんなが否定しても俺が許す。むしろ俺のために生きてくれないと困るな。」
なんども信じて裏切られたが妾はこやつがいればまだ、笑える、人を信じようぞ。
「こんちわっす。ティアさん!!今日から俺も永久の騎士団に入ったんでよろしくお願いします。」
片手をポケットに入れて残った方の手で団員が捨てた黒く輝く剣を拾うフェリス。顔が俺と一緒で結構派手に腫れている。するとその逆からも声があった。
「ガハハハハハ!!!カナタァァアア結婚式の仲人は俺がやってやるから心配するんじゃねーぞ!!!俺も今日から姫ん所のメンバーだ!!!」
「団長がその決断をするなら僕も剣を握らなくてはいけませんね。」
「おお。ガリア団長にラッグさんじゃん!!いつの間に。」
三人が楽しげに出てくる。フェリス達の登場シーンに俺自身も感動してしまったのは一生の不覚だ。これで全員と思ったが集まった奴はもう一人いた。
『カランカラン』
「さすがに重いですね・・・だけどわたしだって。」
必死に剣を持とうとしてるが力がなくて持つことが出来ないらしい。
「リムゥ!!!来てくれたのか。」
「当然です!女性を泣かせる男性は私が許しません。」
ない胸をえっへんと張る格好は大人の保護欲を刺激する。しかしこれを言うと起こるんだろうから言わない。
「みんな。妾のために・・・。」
ティアは集まってくれた仲間を見て目を閉じるのを忘れる。そしていつもの笑みを浮かべ自分の剣を持ち言葉を言う。
「・・・ありがとうな。」
『おう(はい)』
これからもよろしくおねがいします。WEWE