第一章 十二話 戸惑う心
空は清々しいほどの青空。町にも活気がわいていて事件も起きず平和な時間を過ごしているはずだった。そうだ。いつもの俺ならば町に繰り出して女の子と遊んでいる日だった。しかしその行動は一人の親友によって阻まれる。
フェリスはリビングのテーブル越しからその近くにあるソファの上へと視線を送る。そこには二日間同じ体勢をしたカナタがいた。カナタとは偶然に出会い二人でバカをやってきた。
短い間しかまだ付き合っていないがこいつといると何かと充実した日々を送っている。
「なぁいいかげん元気出そうぜ。俺はお前のことを信じてる。周りからなんて言われても気にすることはないんだぜ。なぁカナタ。」
「・・・・・・。」
いつも元気なカナタがここまで落ち込んでしまった。その原因はこのソファに倒れた日。二日前にあった。俺とカナタが家に帰ろうとしたら永久の騎士団のメンバーがいた。
カナタは笑顔であいさつに行ってくると言ったので俺は先に帰ることにした。しかしそれが失敗だった。一緒に行ってその後の行動を止めるべきだった。
カナタと別れてからすぐにその話は流れた。
「おいおい。今城の前で騎士同士が喧嘩してるらしいぜ。」
「あいつが言うにはあの永久の騎士団らしいぜ!!」
男が横を走る際にはなった言葉を聞きフェリスは城の方を振り向く。俺の知っているカナタならそんなバカはしないはずだが、ここの胸騒ぎがおさまらない。フェリスは城の方に駆けだしていた。
行ってみるとけっこう大勢の人が野次馬として集まっていた。
「そこをどけぇぇえええ!!!」
フェリス自身あまりださない大声を出して人垣を分けていく。少し進むとだんだんと騒動の起こったらしき景色が見えてくるがその足はゆっくりと止まっていく。
「なんだよ・・・これ・・。」
そのあの光景を見て固まってしまった。辺りの地面や壁が無残にも陥没や削れたりしている。辺りには永久の騎士団と見ればわかる程の有名な奴らが気を失っている。たぶん今カナタの前にいる奴を倒せば精鋭部隊の全員が倒された事になるだろう。
カナタの周りには全属性の魔力が飛びまわっていた。それを何もなく見ていたら綺麗と誰もが言うだろうが今そんな言葉を発せられる輩はいない。
フェリスも初めて見るカナタが出す本気の怒り。
動けなかった。止めようと割って入ろうとするのだが自分の体全部がそれを拒む。何もできずに時間が過ぎる。カナタは前に尻もちをついた男を片手で首を掴み持ち上げる。
「人のことを死ねというんだからお前も誰かに殺されてもしょうがないよな。」
無機質な感情が入ってない声がみんなの耳に響く。男は空気を取り込むことができないのか口を魚のようにパクパクと動かしている。
(ここで止められなくちゃ親友じゃないな・・・・。)
爪を手のひらに思いっきり食い込ませる。手には痛みが走り恐怖を忘れさせてくれる。
「カナタァァァアアアアア!!!!」
大声で叫ぶ。叫ばないと恐怖でまた体が動かなくなってしまう。フェリスはこちらをそれでも向かないカナタの顔面を思いっきり殴る。だが口の中を切っただけでその行動は止まらない。
「フェリス。今は邪魔をしないでくれ。」
目線をあわせずに言葉を言う。フェリスは自分では止められないことを悟ってしまった。上がっていた手を静かに下げようとしたら後ろから聞きなれた声がした。
「おいフェイスそこを退きな!!」
フェリスは何か分からないが反射的に左へと避ける。そこを見知った巨体ガリアが通り過ぎた。
「カナタ。歯を思いっっっきり食いしばれ!!!」
ガリアはフェリスとは比べ物にならないほどのパンチを繰り出した。カナタは男を手から逃しニ・三歩後退する。間髪いれずについさっき見た魔法陣が出現して黒い鎖がカナタを捕えていく。
城からは騎士たちとともにガリア団長とラッグさんが駆け付けたらしい。
辺りは二人の乱入に安心した顔をするが、カナタの近くにいたガリアとフェリス、術者のラッグは苦い顔をした。ガリアをも捕えた鎖が悲鳴を上げて今にも壊れそうだったのである。
「っち!!このバカ野郎がぁ!!!」
ガリアはカナタの胸倉をつかみ周りには聞こえないように注意しながら、しかし怒気のした声をカナタに向ける。
「お前が怒ってるんだからそれなりのことをこいつらはやったんだろうが、今は抑えろ!!ここでまだやったらお前の達場がなくなるぞ。それを分かってやがるのか。」
「俺のことなんて今はどうでもいいんだ。あいつらといるとティアがまた悲しい思いをしちまう。」
ティアだと?ああ第二王子のことか。一体どういう理由かは知らないが今はどうでもいい。ここじゃあ目撃者が多すぎる。
「ラッグ!ニ重術式だ。」
ガリアはラッグに命令をするがラッグからの返事や魔法の使用は感じられない。しびれを切らしてラッグのいる方向を向く。
「ラッグゥゥゥ!!!!なにやって・・・・・・アランじゃねーか。」
突然のことにガリアは呼び捨てで呼んでしまったがそれを聞くものは今ここにはいなかった。ガリアの呟きを聞いてカナタも動かせる首だけをそちらに向ける。
「な、何をしているんだ・・・カナタ。妾に説明をしてくれ・・・・・・なぜこのようなことをする!!」
周りはこんな所に王子がいることに驚くが、その王子が涙を流していることに困惑している。それはガリアとカナタも同じだった。
「聞いてくれよティア!!こいつらはお前をだましてるんだ!あの時だって奴らは敵に加担していたから姿がなかったんだよ。」
「何をいってるんだ・・こいつらは今まで妾を命をかけて守ってきたんだぞ!!そんなことをするわけがないだろ!!!」
カナタの言葉に動揺するがそれを振り払うかのように首を横に振るう。
「なんで信じてくれないんだよ!俺を友達っていうなら信じてくれよ。」
カナタの言葉を一向に首を振り続けるティア。今まで慕ってきた騎士も信じたいしカナタのことも信じたいが、このありさまを見てはカナタを非難するしかない。
ティアが勇気を振り絞って出ていた言葉はあまりにも残酷なものだった。
「・・・もういい。お主は永久の騎士団を追放する・・・今すぐ妾の前から消えてくれ。」
力のない声で目を一時も話さずに告げる。カナタは自分を信じてくれると思っていたので心から驚く。ガリアも王子の言葉に驚きを隠せていない。
「お、おい何言ってんだよティア。変な冗談はよせよ。」
解けた鎖を払ってゆっくりとティアに近付くが、それは後ろからでてきた騎士たちの槍によって止めさせられる。
「ティア。俺らは友達だよな?」
最後の頼みという名の言葉をティアに言うが、
「妾は今お前を信じることはできない・・・。」
顔を地面に向けたままティアは言う。耐えられなくなりカナタはそこから逃げ出す。そこに残った者たちはなにかやりきれなさを感じていた。
フェリスもそれと同時にカナタを追う。そして何時間探しても見つからないので家に戻ると子供のように
いじけてソファにうつ伏せになっていた。
一体何があったのか聞きたかったがそれを我慢してカナタが元気になるまで忘れようと思うフェリスであった。そこに城からの予期せぬ朗報が届いたのは間もなくのことだった。
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事件から一日たった夜の話
「おいお前ら。この騒動についてなにか言いたいことはあるか?」
みんなが寝静まった夜遅くの城は異様な雰囲気を出していた。ここはその中の患者達が専用の部屋だ。そこには今日怪我を負った永久の騎士団と男が一人いた。
「いや、あの新人には話は聞かれていたが今の状況じゃあ誰も信用しないからへいブッハァ!!!」
話していた奴の顔面に思いけりが入る。男は一瞬侮蔑した目を向けるとほかの奴らに視線を移していく。
「この俺の作戦に支障をきたすようなへまを起こすんじゃねぇ!!もっと周りを警戒して行動をしろ。せっかく王様を殺して第一皇子のこの男の体を乗っ取ったっていうのにそれをパアにしちまうきか。」
今言ったとうりに話している男は次期王になる確率が高いといわれている第一皇子アラン・ファル・エイドリックそのものだった。
「まぁいいもう俺がこの国を乗っ取るのも時間の問題だからな。」
エイドリックはそう言って静かに声を殺しながら笑いだす。周りはそれを見ていることしかできない。誰も咎めることはできない。それ程までに永久の騎士団といえど力の差が目に見るほど明らかだった。
「んっ!?」
エイドリックは急に辺りを見回しだした。
「いま少しだが探索魔力をかけられたような気がしたが・・・。」
≪コンコン≫
『!!!??』
部屋のドアが不意に叩かれた。この部屋にエイドリック自身が空間障壁をはったというのに気付かずにノックをされる。これはあってはいけないことだった。永久の騎士団員達はすぐさま割り当てられたベッドへと戻る。
「こんな夜分遅くに誰でしょうか?」
喋り方もさっきまでのものではなく、王族らしい気品の満ちた声を発するエイドリック。そこで一言失礼しますと言って大柄な男が入ってきた。
「あなたは確か・・・。」
いくらエイドリックの身体や記憶を乗っ取ったとしても昔から外交のことに専念をしていたことから上の階級にいる騎士でも見たことはあるが思い出すのに少し時間がかかる。
「いやいや久しぶりですね。最近は滅多に顔を見せないとお聞きますのになぜこんなぁ所に夜遅くいらっしゃるんですかい?」
「思い出しました。確かあなたは第四師団長のガリア殿でしたね。では聞き返しますがガリア殿こそこの時間帯に何の用ですかね?」
部屋にやってきたのはガリアだった。エイドリックは表面上は穏やかだが心中は焦りと怒りがいり混ざっている。
ガリアはいつもの調子で喋り出す。
「昨日にこやつらが起こした事件を憶えていますかい?」
「あれは事件というよりは新人の騎士が一人で起こした騒動と聞いていますよ。困りますねそういうのを他国が知ると攻めてくる可能性が高まりますから。」
「そのことなんですがね。そのバカはまだよく知ってるわけじゃないですが、そんな相手を傷つけることを進んでやるような奴じゃねーんですよ。それで信頼する奴に頼んで調べってもらったんですが、よくわからんので直接聞こうとおもって来ただけですねい。」
ガリアはニヤニヤしながらも相手をけん制する視線を送る。
「こんな時間にですか?」
エイドリックは手を後ろに組み直して先ほど聞かれた質問を聞き返す。
「俺は体がでかいもので昼間に動くと人目につきやすいんですよ。だからこうして夜に動くわけですよ。お分かりいただけましたかい?」
「私の耳が正しければ今の答えはなにか企んでいるようにしか思えないのですが?」
「ご想像の通りですね。答えが得られなければ尋問する予定でしたので。」
「クックッククク・・・・・。」と片手を口にやり笑いだすエイドリック。本当に面白く笑っているのか作り笑いなのか分からないが、少し雰囲気が変わった。
「そうですか。そこまで信用してくれるお方がいるなんてその新人も喜ぶでしょうね。しかしガリア殿?一つ私から忠告してもいいですか?」
そこで言葉をきり一拍置く。
「───────不用心に首を突っ込むと命を落としますよ。」
エイドリックの姿が一瞬ブレたと思ったら後ろの手から短刀を取り出しガリアの懐に迫っていた。ある程度予想はついていたが動きが速すぎた。
「くそ!」
刀を抜いてそれを受けようとしたが金属が混ざり合う音はしなかった。ガリアは自分の身体を見る。後ろから短刀が刺されていて身体を貫いていた。
このバカたれが。まさかこんなすぐに殺すことを選択するなんてな・・・予想以上にあぶねー奴だ。
「ラッグ!!ずらかるぞぉ。」
それを言うとすぐにガリアが光に包まれていく。瞬間転移魔法だと気づくとエイドリックも叫ぶ。
「逃がすなぁ!!!」
いつでも動ける準備をしていたのかベットから全員が武器を持ち襲いかかってくるがその武器は空を切るだけに終わった。このときエイドリック自身最悪のミスを犯してしまった。
「さがせぇ!そしてすぐに殺して首をここに持ってこい!!!!」
これからも見ていただきたいですm[_~_]m