第一章 十話 姫とクファーレ
俺はいったい何をしているんだ。
動きは止めないながらも今行動している自分に疑問が抱く。
「カナタ!友達としてのお願いだ。明日の朝早くに妾の部屋に来てほしいのだ。もちろん誰にも気づかれずにだぞ。」
昨日のティアが目覚めた時の話。ティアが何か良いことを思いついたという表情で俺に提案してきたのが、隠れて街に繰り出したいとのことだ。
ウルウル光線にやられて俺はその場で二つ返事をしてしまったが、よくよく考えるとそれはとってもまずいことなんじゃないかと思う自分がいた。
ティアの部屋は城のほぼ最上部にあるらしく難易度が高い。しかし気づいてみればもうあと僅かとなっていた。
「俺はもしかしてスパイとか向いてるのかもしれないな・・・。」
「いや向いてないな。」
階段を上ったところでの突然の声。急いで振り向こうとするがその動作は止められて剣の刃を首にあてがわれる。
「よし。そのまま両手を挙げてこちらをゆっくりと向くんだ。」
言われるがままに後ろを向くと年老いた風貌をした男がいた。その男は俺だとわかると目を一瞬大きく開き驚いたが、すぐに笑い出す。
「フォフォフォ・・・。まさかあなたがここに現れるとは。」
「なんだワームスさんですか。すいません驚かせてしまって。」
クラース・ベル・ワームス。王家に近い分家の人たちと紹介させられていた。この人は永久の騎士団のティアの次に偉い人で、俺は少しだけだが会ったことがあった。
「カナタ君でしたか・・・。しかしどういった御用でありますかな?こんな夜更けにここに来るとは。」
ワームスさんは長く伸びた白いひげを整えながら、俺に説明を求めてきた。当然のことだがドキリと心臓が縮こまる。嘘を言えるわけでもなく本当のことを全部話してしまった。
「フォフォフォそうでしたか。ではあとのことは我々で何とかしておきますゆえに楽しんできてくだされ。」
独特の笑い声を発しながらOKの返事をもらってホッと一安心をする。
「ではあそこの部屋が王子の部屋になっておりますので。カナタさん?一つ聞いておきたいことがあるのですけれども。」
「すいません。俺も一つワームスさんに質問があるんですけど。」
去り際に俺が質問しようとしたところを先に言われてしまったので被せるように尋ねる。その際ワームスさんの細まった目が薄く開きこちらをちらりと見据える。
「では私めからなんですが・・・。カナタさん?私めたちのチームに来ませんかな。」
「ワームスさんたちのチームですか?」
表面上は取り繕っても内心はすぐさま警戒の色を示した。なぜだか知らないが直感がだめだと告げていた。
「面白そうですけど俺はまだこのチームにも慣れていないので、掛け持ちなんて器用なマネはできません。だからまた今度誘って下さい。」
「そうですか。中途半端にならずにやるというのはいい心がけですね。私めも見習わないとですね。カナタさんの質問は何ですか。」
俺の答えに笑いながら答えてくれる。表情の変化が多彩な人だと思う。
「では一つ。いったいあの村でどこにいたんですか?」
「・・・面白い質問をしますね。その言葉では私め達がどこかに隠れていたかのような物言いですね?」
「いやいや。風のうわさですよ。別に気絶させれた時のことでもいいですよ。」
俺はしゃべっている間ワームスさんの表情をずっと見ているがあまり怪しい動きはない。怪しんでみたがやはり違うらしい。
「すいません。変なことを聞いてしまって。あとのことは頼みます。」
「いえいえ。では楽しんでで来てください。」
質問を途中で区切り別れを告げて部屋に行く。ワームスさんの気配は消えたのでまた地道な見張りを始めたんだと思う。
木製の扉。綺麗な細工が施してあるがなんか王子の部屋とは言えないような地味さがあるような気がする。深呼吸をしてノックを二回する。
「お迎えに来ました。姫様。」
少し白馬の王子様のようなセリフを吐いたが自分で言っていて悲しくなってきたが、中にいる人の反応はそうでもなかったようだ。
『ドッ・・バッタン・ガシャーーン!!』
すごい音がしたな。
ゆっくりとドアが開く。そこには鼻が赤くなっていて涙目のティアがいた。大体想像がつき笑ってしまう。なかには割れた花瓶もあった。
「変な言葉を言うのではない!!まったくお主には恥ずかしさというものはないのか。馬鹿者。」
どうやらご立腹のようだ。ぐちぐちと文句を言いながら部屋を掃除している。
「ゴスロリが趣味なんですか姫さん。」
「ゴスロリってなんだ?これは普通のドレスだろう。こんなの皆着ているぞ。」
「でも大丈夫かよ。髪留めも解いてさ・・・誰かにばれたらやばいことになるんじゃねーの?」
「ふっ!!」
俺が心配していると鼻で笑い。こいつは何を言ってるんだみたいな馬鹿を見たやつのような目つきで語りかけてくる。
「妾はこの姿でばれたことなど一度もないわぁ!!甘く見ないでほしいものだ。そんなことは心配せんでもいいから行くぞカナタ。」
そう言って懐から手のひらサイズの文字が大きく書かれた紙を取り出す。
「なんだそれは?」
「そうかお主は知らんのか。これは魔法具といってなこれはその中でも移動に特化してるやつでな。ここに記憶させてあるワープポイントまで瞬間移動することができるのだ。」
「おおすごいすごい。無い胸をそこまで誇らしげに張るなんて。」
得意げに言ってるので俺も拍手をしてやると顔面が一瞬にして焼かれてしまった。ティアは何事もなかったかのように語りだす。
「このワープ地点は町のはずれのところだ。さあ手を取れ。」
きらきらとした表情で宣言しているが、焼け焦げてた俺の顔を足で踏んづけてるやつが手を取れって馬鹿ですな。俺は涙を流しながらワープするのであった。
「えっとここはどういったご了見で?」
「いや・・・久しぶりにな。カナタと来て見たくなったのだ。」
あれから少し歩いて着いた場所がきれいに手入れがされた草原にある墓地だった。ここには察するにティアの親がいるのだろう。
「なぁ・・・ガリアがどうしてこんな事情を持っている妾にやさしいかわかるか?」
地面に埋められた石版を見てティアは口を開く。確かに昔の話を聞く限りでは昔からガリアはティアのことを守っていた。周りとは違い。
「この列の一番端にはなガリアの嫁と娘が眠っているのだ。」
「ええっ!!ガリアは結婚してたのか?」
「そうだぞ。じゃがな本人は納得するまでに結構な時間費やしてな。あ奴は昔国境の近くにある村に住んでいたらしいんだ。そこには昔から崇められていた魔法具があってな・・・それを狙われて何者かの集団に襲われた。家は燃やされて出てきたのは燃えカスになった亡き殻だけだ。あ奴はそれだけを救いに生きてると思い込んでいたんだ。だけどいろいろと本人を確認させるものが出てきて受け止めたそうだぞ。」
「・・・結構壮絶なんだなアイツの過去は。まだまだ勝てる気がしねーな。でも言ってよかったのか俺に。」
「んーーこの前のお返しだな。あ奴が教えてくれたから知ってるのは妾とお主とガリアだけじゃな。それにお主には言っといたほうがいいと思ったんだ!妾の直感的にな。」
「そっか。じゃあここであったことは秘密だな。俺らだけの。」
ニシシと笑みを浮かべて低いところにあるティアの頭を軽くたたく。だけどなんかティアの顔が寂しく感じる。「どうして妾にやさしいか分かるか?」あの言葉の断片が思い出される。
「でもなティア。ガリアは良いやつだから娘に似てるっていうのが全部じゃなくて、本当に同情じゃなく良心で気にかけてると思うぞ俺は。」
「・・・そうだな!」っと笑顔で言われて俺はついつい面喰ってしまう。
すぐに来た道を戻り元気に外へ出ていく。悲しげにも見えるが本当の笑みを浮かべているティアを見ていて良かったんじゃないのかと納得している自分がいた。
「なぁあそこの店がたしか人気のお菓子を作っていると聞くぞ妾は!!」
歩いていると急に手を引っ張り店を指さす。
「分かったからあんまり引っ張るなよ。」
周りの目がやさしい。兄弟で仲良く買い物とでも思っているのだろう。ティアはああ見えて身長が結構低い部類だからな。
「へぇ~~。こっちにもケーキがあるんだな。」
「ケーキ?このお菓子たちはクファーレっていうお菓子だぞ。しっかりと勉強をしろカナタ。」
見た目は一緒でも名前は違うらしい。でも結構この世界と俺の世界では似てる物はあるんだな・・・時計なども読み方ともに変わっていない。
「なぁカナタ!!」
こいつはいつでもきらきらとした目で見てくる。俺のほうが初めてなんだから普通はそういう目をするだろうに。
「どうした?」
「この超超クファーレを20分以内に食べ終われば豪華な商品らしいぞ。妾はものすごくやりたいのだ二人までだからカナタも手伝ってくれ。」
「落ち着けティア。もし食い切らなかった場合のことも考えろ。あの数字はシャレにならん!ゼロが何個あるんだ。」
俺の言葉にティアもあきらめてくれたのか。う~んと唸っている。そしてお決まりのあの表情だ。
「カナタ。王子兼姫の命令だ。あの物を食切るぞ。」
「・・・・・・仰せのままに・・・。」
この縦社会の馬鹿野郎!!!俺は顔色を青くして席に座る。そして出てきたのが普通のファミレスにあるテーブルをほぼ8割占めた皿に乗ったクフォーレという名のパフェ。
「カナタ行くぞぉぉぉぉぉおおおお。」
「ぉぉ!!」
そこから長い長い死闘が続いた。周りにはギャラリーもたくさん集まってきていて、俺らを熱く応援している。
「残り5分。」
無情な先刻。残りはあと僅かまで来ていたがもう腹はパンパンという状態だった。ティアは目に涙をためながら食っていた。
食べる前に魔法で少なくしてみては?っと言ったが。ティアに思いっきり怒られた。そういう正々堂々さがティアのいいところである。
「カナタ。」
必死に食っている途中に向かいの席からティアが話しかけてくる。俺は食べるのを一時中断して前に顔を向ける。
「カナタにこんなことをしといて妾はなんて図々しいのだろうか。」
急にティアが自虐的になった。さっきの怒られた件もあり俺はティアのことになら何でも従うと決意を固めてばかりなのだ。俺は強い瞳で見つめ返す。
「最後の命令を言う。」
「はっ。」
俺はしっかりと敬礼をする。周りも場の空気を読んで沈黙する。
「あとは頼んだ。」
『ドサッ』
ティアはそういって横にあった椅子へと倒れてしまった。周りは涙を流している。
ってお前らはなんでこんな三流芝居に感化されてるんだよ!!泣くな。おいやめろ。なんだこのカナタコールは!!
「あと一分・・・ぐすっ・・だ。」
料理長まで!畜生。わかったよ食べればいいんだろこの野郎ぉぉおお。
「終了。」
「はぁはぁ・・・うえ。」
俺は勝った。最後の最後で食べきった。ギャラリーは有名な化け物クファーレを食べきるとあって道にまで広がっていた。
「さすが妾の見込んだ男だ。よく食べきったな誉めてやろう!」
一分前までは倒れていたのにこの変わりようはどういったことだろうか。俺は生まれてこの方初めて殺意がわいてしまった。
そして料理長が奥から何やら持ってきたようだ。
「いいものを見せてもらったよ。これを持っていきな。なんだか分からないが高価な魔法具というのは確かだからな。ちょうどペア様だから。」
俺たちはそれをもらってすぐさま逃げるように出て行った。
「なぁカナタ。この飴細工きれいではないか?」
「あの服は妾に似合いそうじゃな。こっちはカナタにだ。」
「あ奴らは何やら音楽を奏でているようだな聞きに行くかカナタ。」
「おなかがすいたぞカナタ。」
あたりは気が付くと夜になっていた。日が沈むのは早い。
「なぁカナタ今度は「ティア帰ろうか。もう遅い。」」
俺が言葉を遮るとティアは見てわかるぐらいに不機嫌な顔になる。そして「嫌だ。」と一言いう。今日は本当に結構な距離を歩いたというのにまだ疲れないのかこいつは。
なぜだかため息が出る。
「また今度な。」
「それは友達同士だけができるという。約束か?」
「・・・ああ。そうだな。大切友達同士が次に会う時に言う言葉だ。」
俺はよくわからないことを流れ的に言ってしまってが、ティアはなんだかうれしそうな表情になり小さく頷いている。
「そうか。わかった。また今度だな。」
そういって笑顔を見せてまた懐から魔法具を取り出す。そしてすぐに朝いたティアの部屋に移動する。電気曰く灯りはついておらず月の光だけが唯一の明かりである。
「じゃあこれはティアにな。」
ティアに今日ゲットした魔法具をプレゼントする。おそろいのネックレスを片方とりティアにつけてあげた。そして俺も自分でつける。
「えっと。またな。」
「う・・うむ。」
ネックレスをつけた時から反応がないのでティアに別れの挨拶を言って静かにドアから出る。
ティアは自分しかいなくなった部屋でそのまま床にへたり込んでしまった。そして顔を紅潮させたまま意識を閉じてしまった。
「うにゃぁぁ・・・・・」
これからも よろしくおねがいします!!