デス・スターはなぜ崩壊したのか?
『銀河史学評論』第2847号寄稿~巨大機構の必然的崩壊について
12月の2600年の宇宙統一選挙は、丁度デス・スターが崩壊してから100年に当たる。革命軍と帝国の戦いの模様を決定づけた、この出来事は、当時の人々からすれば、まさに驚くべき——古代地球におけるローマ帝国の滅亡、アルタイル星系大震災、そして、第一次銀河大戦の終結——これらの歴史的大事件に匹敵する衝撃的な出来事であっただろう。
しかし、100年が経った現在、2600年では、当時、革命軍の兵士として戦った多くの人がこの世を去った。教科書でデス・スターについて書いてあるページは、現在の小学生のものでは一ページの半分にも過ぎない。そこには「宇宙帝国時代の巨大兵器。2500年に革命軍により破壊される」とだけ記され、その破壊が銀河史にもたらした意味についての考察は皆無である。
読者の親たちはかつて、帝国軍の兵士だったかもしれないし、革命軍の兵士だったかもしれない。だが、今となってはそれを気にする人はいない。この出来事は忘却の中にある。
だが、私は革命軍と帝国の戦争を専門とする歴史家として、この100年という記念的な日に、あのデス・スター崩壊が何を意味し、どのように今の私たちに教訓を与えるのかを共有したいのである。
まず、読者にデス・スターとは何かを軽く説明しなければならない。デス・スターは現在では、観光地としても知られており、映画の中でデス・スターを見たことのある読者も多いかもしれない。
だが、デス・スターは往々にして過小評価と過大評価を同時に受けている。
ある時には、宇宙最強の兵器。そして、ある時には、ガラクタを寄せ集めた巨大なでくの坊と言った感じである。
正式名「超巨大戦略惑星殲滅砲台」——ドイツ第三帝国の「ドーラ」巨大砲や「グスタフ」列車砲の宇宙版ともいうべき存在——通称「デス・スター」は2473年に建造が開始され、完成までに27年を要した。直径120キロメートル、表面積は約45,000平方キロメートルで、これは古代地球のデンマーク一国に匹敵する広さである。
中央に設置されたスーパーレーザー砲は出力2.4×10²³ワット、理論上あらゆる惑星を完全に粉砕する能力を持つ。運用人員は軍人だけで280万人、技術者・整備員・事務職員を含めると総勢420万人が居住し、その内部には住宅区域、商業区域、娯楽施設、病院、学校まで完備された、まさに宇宙に浮かぶ都市であった。
この兵器は、確かにその当時、宇宙で最強の力を持っていた。一度、中央にある砲が火を噴けば、惑星を粉々にして、文字通り、宇宙のチリにすることができた。
このような巨大兵器は今となってはロマンの塊でしかない。だが、当時は実際上の必要性も少なからずあった。
皇帝が専制を確立してから、宇宙の辺境部では反乱が頻発していた。旧共和制時代の民主的価値観を持つ惑星系は次々と蜂起し、特に中央から離れた外縁部——辺境宙域、未開拓領域境界部、そして独立を維持していた商業連合残党——これらが帝国の統治に激しく抵抗した。
帝国軍は各地で反乱鎮圧に追われ、一つの反乱を潰せばまた別の場所で新たな蜂起が発生する、いたちごっこの状態が続いていた。
反乱軍は現れては消えた。そして、専制が確立して10年もすると、辺境部は平定され、宇宙は統一された。ここに、宇宙帝国体制が確立したのである。
帝国は銀河系の約8割、中心部から外縁部まで半径5万光年の範囲を統治下に置き、25万を超える居住可能惑星、総人口50兆人という史上最大の星間国家となった。
そして、デス・スターの砲塔が火を噴くのは皇帝が変わった時の行事くらいとなった。
だが、読者も御存知の通り、宇宙帝国はその誕生から1世紀を迎えようとしたときに突如として崩壊した。かつての古代騎士団の末裔を中心とする自由連合軍の蜂起から始まり、わずか4年間で帝国全体が瓦解したのである。しかも、その時の自由連合軍の戦力は帝国軍の正規軍8000万、予備役を含めて1億5000万人に対して、ピーク時でも500万人にも満たなかった。
この、崩壊の原因については色々な説明が、学者の数だけなされてきた。例えば、経済学者たちは帝国の過度な軍事支出と中央集権化による経済効率の低下を指摘し、政治学者は皇帝の独裁体制が生み出した権力の腐敗と官僚機構の硬直化を挙げる。軍事史家は戦術の革新を怠った帝国軍の慢心を、社会学者は被支配民族の不満の蓄積を原因として論じている。
私もその一人として新たな説を付け加えよう。あのデス・スターを崩壊させたものと同じものが帝国を崩壊させたのである。一言でいえば、「歴史の必然」がデス・スターを崩壊させたのである。
私は、デス・スターの軍事司令部から、食堂の運営会社、人工庭園の整備会社、トイレの掃除会社、通風管理部門、照明メンテナンス課、ゴミ処理センター、娯楽施設管理部、ペット飼育許可課、内部交通管理局、気象制御部門、そして驚くべきことに宗教的祭事運営委員会まで——これらデス・スターにありそうで見落とされがちな仕事の記録を詳細に調べた。それは、今までの歴史家たちが敬遠してきた地味な作業であった。
以下は、デス・スター内部施設管理部・通風システム保守課に勤務する技術職員が日記に残した文章である。
「2496年4月1日:デス・スターに配属された。通風システムの保守管理が主な仕事だ。このポストは安定していて、危険もない。戦闘に巻き込まれることもないし、まさに理想的な職場だと先輩たちは言う。確かに、ここの空調管理システムは銀河一の技術の粋を集めたものだ。420万人の居住者の命を預かる重要な仕事だと、誇りを持って働いている。」
「2497年3月15日:反乱軍の攻撃が本格化してきたようだが、我々保守部門には直接関係ない。むしろ、戦時体制で予算が潤沢になり、新しい設備も導入された。今日は第47区画の空気清浄装置の点検を行った。全て正常に稼働している。」
「2497年8月22日:戦争は帝国軍の圧勝らしい。自由連合軍など取るに足らない存在だったということだ。我々の部署も戦時手当てが支給され、給料が20%アップした。妻も喜んでいる。」
「2499年11月5日:最近、上層部から『効率化』という言葉をよく聞くようになった。どうやら予算削減の波がついに我々の部署にも及んできたようだ。今まで4人1チームで行っていた保守作業を、3人で回すようにと指示が出た。」
「2500年1月8日:新しくルールが作られた。予算削減のため、今までは保守作業のために使用できた高速エレベーターが使用できなくなった。代わりに、貨物用の古いエレベーターを使えと言われた。重い工具を持って、あの狭くて臭いエレベーターで通風管の奥まで行かなければならない。片道1時間もかかる。これでは作業効率が半減だ。」
「2500年1月15日:貨物エレベーターの故障で現場到着が3時間遅れた。緊急メンテナンスの予定だったのに、上司からは『時間管理ができていない』と叱責された。あげくの果てに、今月の査定に響くと言われた。理不尽だ。」
「2500年6月3日:人員削減が決定した。我々の課は12人から8人体制になる。しかし、担当する通風管の総延長は変わらず、約50万キロメートルのまま。物理的に不可能な作業量だ。同僚のデイブは既に転職活動を始めた。彼の気持ちがよく分かる。」
だんだん予算が少なくなる。安定した職場でなくなる。カフェテリアの食事も質が落ち、技術者用の特別食堂も廃止された。ひと昔前まで帝国技術部門の花形だったのに、今では優秀な技術者たちは民間の宇宙船製造会社や惑星開発公社を目指すようになっている。
「2500年8月12日:人手不足で点検が追いつかない。第23区画の通風管で異音が報告されているが、手が回らない。さらに悪いことに、新任の係長は技術のことを全く理解していない。事務職出身で、コストカットのことしか頭にない。現場を知らない人間が管理職につくと、こうなる典型例だ。課内の雰囲気は最悪だ。」
さらに、最悪なのに輪をかけるように、皇帝が政権樹立100年を目前として、新体制確立のための大規模な制度改革を断行した。戦争の早期終結と、より強固な帝国政府の確立を祝するためだった。
そのために、暦の変更、時間単位の統一、通貨制度の改革、官僚機構の再編成など、あらゆる制度が新しく作り変えられた。例えば、時間の定義も変化した。
今までは水素原子の超微細構造による遷移周波数を基準にしていたが、新制度では人間の体内時計に合わせて1日を23時間50分に変更するという改革が行われた。
「2500年10月1日:デス・スター内でも制度改革のあおりを受けて通風システムに深刻な問題が発生している。新しい時間制度に合わせて自動制御プログラムを変更したところ、システム全体が不安定になった。第15区画では空気循環が完全に止まり、手動で緊急ファンを回している状態だ。もし大規模な火災や毒ガス漏れが発生すれば、避難システムは機能しない。上層部に報告書を提出したが、『予算がないので応急処置で対応しろ』という返事だけだった。」
「2500年11月20日:ついに恐れていたことが起きた。第8区画の主要通風管で亀裂を発見した。本来なら即座に全区画の避難と大規模修理が必要だが、人手も予算もない。テープとパテで応急処置をしたが、これでは焼け石に水だ。もし何か重大な事故が起きたら、確実に人命に関わる。」
そして、その後、あのデス・スター突撃作戦が起きた。日記はそこで途切れている。この技術者が最後まで職務を全うして死んだのかは分からない。だが、私は知っている。どんなに巨大な兵器でも、それを支える無数の縁の下の力持ちたちによって動いているのである。
そして、その基盤が崩れれば、どんなに強力な兵器も無力化される。デス・スターを破壊した小さな排気口の脆弱性も、こうした日常的な保守管理の軽視が生み出した必然的な結果だったのではないだろうか。
来る選挙を見よ。現在、多くの官僚や政治家たちが自由連合軍の家系の出身であり、元帝国軍に仕えていた人々の家系出身で議員であるのはわずか12%に過ぎない。人間の自由を得るために起こした崇高な解放運動も、今では落ち着き、100年前のあの帝国のように錆びついた歯車の如く、官僚的で硬直した組織となっている。
現在、多くの人々が現政府の中央集権政策、辺境惑星への重税政策、そして軍事費の過度な拡大に異議を唱えている。そこに真の自由があるのか?偉大な理念が残っているのか。それは、今度の選挙で明らかになるだろう。
あの巨大な宇宙に浮かぶ物体から私たちは多くのことを学ぶことができる。デス・スターは今も宇宙に漂い、その半分に崩れた姿で永遠の軌道を描いている。まるで、どんなに巨大な権力も、どんなに完璧に見える制度も、内部から崩壊していく運命を背負っているのだと、無言で語りかけているかのように。
星々に照らされたその残骸は、美しくも哀しく、そして何よりも雄弁に、歴史の教訓を私たちに伝え続けているのである。
銀河大学歴史学部教授 マーカス・ヴェイダー