表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話 戦の報酬

 ポートクリナム第4番街・東門前。


 西日に照らされた石畳の広場には、物々しい空気が漂っていた。荷馬車が数台、護衛にあたる戦装束のNPC兵士とプレイヤー傭兵が集合している。物資は厚手の布で厳重に包まれており、中身は一切見えない。


「……ルブライト村への物資護衛任務、か。やっぱり緊張感あるな」


 地図ウィンドウを確認しながら、ジニアがぼそりと呟く。


 目的地は、ポートクリナムの南東――《ゴブゴブ平原》を抜けた先にある前線拠点・《ルブライト村》。現在はフォルテラ領だが、対立国ライプテンとの小競り合いが頻発する危険地帯である。


「坊主。あそこに立ってるいかついのが指揮官か?」


 グラベルが顎で示したのは、重厚な鎧に身を包んだNPC兵士。肩に軍旗の紋章を掲げ、明らかに他の兵士たちとは風格が違う。


 ジニアは一歩前へ出て、その男に声をかける。


「傭兵ギルド《浮浪雲》だ。補給護衛任務の申請を済ませてある」


 手にしたギルドプレートを提示すると、NPCの指揮官は無言でうなずいた。


「確認した。配置は?」


「前衛二枚に、後方からの指揮役一人だ」


 一瞬、指揮官の眉が僅かに動く。魔術師や遠距離火力の記載がないことに驚いたのかもしれないが、特に異議は唱えなかった。


「了解。隊列右後方の護衛を担当してもらう。戦闘時には臨機応変に動いてくれ」


 ジニアは振り返って、仲間たちに手短に説明を加える。


「ファル、グラベル。俺たちの配置は荷馬車隊列の右後方だ。俺は魔力操作以外の戦闘スキルを持ってないから、後方で指示出しに専念する。実働は頼んだぞ」


「了解です、マスター」


 ファルは静かに頷き、背中の細剣を軽く確認する。


「へっ、言われなくても暴れる準備はできてるぜ」


 グラベルは肩に斧を担ぎながら、愉快そうに笑った。


 全員が配置に就いた頃、指揮官の号令と共に、補給隊は静かに行軍を開始する。



 ゴブゴブ平原――


 乾いた草が風に揺れ、遠くまで視界の開けた一本道。補給隊の荷馬車がゆっくりと進むその列の横を、《浮浪雲はぐれぐも》の三人は黙々と警戒しながら並走していた。


 ……そして、予兆は唐突に訪れた。


「来る……!」

 

 魔力のうねりを感知する。

 ジニアが鋭く声を上げた瞬間、平原の南にある低い丘陵から、魔力の放出と共に複数の人影が踊り出た。

 ライプテンに与するギルド《蛇顎連隊じゃがくれんたい》の強襲部隊のお出ましだ。

 ジニアが叫ぶのと同時に、襲撃者たちは隊列右後方への護衛兵へ向かって魔術と弓矢を放ち、戦線を一斉に押し下げようとする。混乱する隊列。煙幕と幻影が巻かれ、分断されかける。


「来させるな。ファル、任せた!」


「はいっ!」


 ファルが一歩前に出る。彼女の細剣が魔素に包まれ、淡い青白い光を放ち始めた。


「魔纏・死閃!」


 接敵した瞬間、剣が四閃。空気を裂くような鋭い斬撃が、襲撃してきた敵プレイヤー三人を一瞬で薙ぎ払う。


 その動きに迷いはなく、まるで舞踏のように美しい。それでいて、切っ先は容赦なく急所を捉えていた。


「ぐっ……何だこの女、早すぎ……!」


「囲め!数の力が正義だ!」


 だが《蛇顎連隊》もそう簡単に負ける気はない。後衛から魔術師が詠唱を開始し、周囲にいくつもの魔法陣が展開される。


「任せとけ、この物資は俺様が絶対守る!」


 グラベルが雄叫びを上げ、斧を振るって前に出る。魔法陣が完成する寸前、敵魔術師へ跳躍し、大きく斧を振りかぶった。


「ぶっ飛べェッ!《戦斧術・裂山》!」


 唸りを上げて叩きつけられた一撃が地面を砕き、広範囲に振動を走らせる。その衝撃で魔法陣が崩れ、術者たちの詠唱は無慈悲に中断された。


「フォルテラのプレイヤーども!今がチャンスだ。遊撃隊は後衛へ雪崩こめ!」


 グラベルの豪快な叫びが戦場にこだまする。


 その隙を狙って、敵の斥候兵が一人、ファルへ急接近してきた。双剣を振りかざす。

 だが、ファルはそれを真っ向から受ける。


「遅いですわ――」


 彼女の細剣が、一瞬だけ紫電を帯びて明滅したかと思うと、突き出された双剣の軌道をわずかに逸らし、斜めに受け流す。


 火花のような雷撃が衝突点で弾け、ファルは剣を滑らせるようにして、攻撃の勢いを殺しきった。


 直後――そのまま流れるように回転。


「魔纏・双閃!」


 紫電をまとった二閃が空気を裂き、敵斥候の鎧を貫いた。


 見ていた敵兵が思わず怯む。


「おいおい……なんて動きだ」


「な、なんだあの剣の動き……!」


 ファルは剣を納めることなく、次の標的に目を向けていた。


「戦場を舞う紫電に恐れ戦くといいですわ」


 ジニアは後方からその様子を見て、小さく頷く。


「ファルは絶好調だな。後衛を抑えたし、あとは……」


 視線の先では、グラベルが暴れ回っていた。


「俺は荷馬車を守るぞォォ!」


 怒涛の突撃。巨大な斧を左右に振り抜きながら、敵前衛を吹き飛ばし、草原を切り裂くように前進していく。


 その動きは獣のごとく豪快で、荷馬車の周囲には決して誰一人近寄らせていなかった。


「ここは俺が絶対に通さねえ。酒のためにな!」


 敵が次第に押し負け、補給隊が再び動き出す。丘を越えた先に、石造りの砦が見えてきた。


「砦まであと少し!二人とも駆け抜けるぞ!」


 グラベルとファルが補給部隊の前に塞がる最後の敵部隊の前へ踊り出て、最後の道を切り開く。


 敵の妨害部隊を蹴散らした後、砦の門が開かれ、彼らの姿がその中へと吸い込まれていった。


 ――静寂。


 門が閉じ、見張り台の兵士が報告を上げる。


「補給隊、全車無事到着!護衛成功です!」


 物資に傷はなく、NPC補給隊長が傭兵プレイヤーたちの前で深々と頭を下げた。


「感謝します。補給物資、完全搬入。被害なし……お見事でした、傭兵ギルドの皆様方こちら報酬になります」


 そう言って金貨30枚の入った袋と建材引き換えチケット3枚を各ギルドに配り始める。


 大成功で終わったなと思いながらジニアは肩の息を整え、ファルとグラベルに目をやる。


「……完璧な仕事だったな」


 ファルは剣を納め、少し恥ずかしそうに微笑む。


「ちょっとはしゃぎすぎてしまったようです。淑女として恥ずかしいですわ」


 グラベルは乱れた前髪を掻き上げ、笑った。


「へへっ、これくらい楽勝だろ? 今日は報酬でたくさん酒飲むぜ!」


 今回の初依頼を大成功させた。今回の依頼でファルとグラベルはちょっと有名になっちゃったかな……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ