1話 生命錬成!
そんなに真面目に更新されないと思っててくださいね。放り投げた設定を気が向いたら文章にしてるだけなので。
VRMMORPG 『Utopian Fantasy Online』の世界に足を踏み入れると、すぐにその仮想世界が自分の全身を包み込む感覚を覚えた。目を閉じ、深呼吸をしてから開くと、まるで夢の中にいるかのように、周囲が一変した。喧噪渦巻く港町の船着き場に降り立つ。潮の香りが鼻をくすぐり、風の音が心地よく耳に響く。
「ここが……」
言葉にならないほどに美しい景色が広がる。自分がゲーム内のキャラクターになったことを実感しながらも、その世界が完全に現実のように感じられることに驚く。目の前を行き交うNPCたちは、まるで生きているかのように動き、会話を交わし、活気に満ちた街並みを形成していた。
VR世界での壮観な街並みへの感動に一区切りつけ、やることを思い出す。とりあえず港から離れて人気のない倉庫裏へと移動して、メニューを開いて自身のキャラクターステータスを確認する。邪魔になるとよくないからね。
プレイヤーネーム:ジニア
戦闘クラス(lv):魔法使い(lv1)
生産クラス(lv):なし
属性:混沌
基礎ステータス
体力 : 90
マナ: 180
攻撃力: 15
魔力: 45
物理防御: 12
魔法防御: 28
敏捷性: 22
体力自動回復: 3/min
マナ自動回復: 18/min
取得スキル一覧
魔力操作 熟練度1
良質な贄 習熟度1
生命錬成 習熟度1
手に取ったメニュー画面には各種ステータスとスキルが表示されている。職業補正で魔力寄りのステータスになっているね。属性はランダム選択をした結果、定番の4属性(火、水、風、土)とは違う属性になってしまったようだ。しかし困ったことに属性固有の魔法スキルがない。無属性魔法スキルすら所持してないからマジックボールすら撃てないポンコツ魔法使いの出来上がりだ。スキルは属性や職業に合わせたものが手に入るって話だったけど……良質な贄と生命錬成って序盤にどう使えばいいのかわからない。とりあえずスキル説明でも読んでみるか。
[良質な贄]
習熟度1 自身がささげる代償によって得られた効果が増加する。レベルが上がるごとに増加量が大きくなる。
[生命錬成]
習熟度1 自身のステータス関連部位を代償として、人造生命体を錬成する禁術。
習熟度1では以下の3つから1つコストに選べます。
※コストとして支払った部位の見た目や機能が損なわれることはありません。支払われるのはステータスのみですので安心してお支払いください。
・心臓(最大体力10%低下、体力自動回復恒久的に0、マナ自動回復50%低下)
・肺(敏捷性20%低下)
・マナ器官(最大マナ10%低下)
生命錬成とかいう胡散臭いスキル……
いろいろステータスを失う代わりに人造生命体を作り出せるスキルって感じなのかな。それを良質な贄ってスキルでコスパ改善してる感じか。なるほど……
魔法の使えない俺だけだとこれから先戦えないのは事実だし、ここは高コストを払って強い生命体を錬成するしか手がないのでは?心臓一択だね。
ジニアは一度深く息を吸うと、スキルの発動を決意した。
「しょうがない、やってみよう……生命錬成!」
すると、手のひらが微かに光り、彼はその手を自らの胸に当てる。わずかな時間の後、ジニアの胸が疼き始める。その感覚は、まるで自身の命の一部が、「何か」に渡されていくような、そんな生々しい感覚だった。
ジニアの心臓が、一拍、二拍、力を込めて拍動すると、周囲の空気が震え、じわじわとエネルギーが凝縮されていく。その瞬間、ジニアは言葉を発することなく自分の心臓を、このスキルに捧げた。
胸に湧き上がった重い痛みとともに、ジニアの目の前に、白い光の中から形を持たない存在が現れる。まるで人間の形をしているようで、しかしその輪郭は薄く、少しずつ、形を成していく。
そして、ついにその光が収束し、目の前に現れたのは、長い白髪の少女の姿だった。白ワンピースに胡蝶蘭の髪飾りをつけているかわいらしい子だ。
ジニアの目が見開かれる。
彼女は、虚ろな表情で立ち尽くしていた。その紫色の目には何も宿っていない。彼女はここに存在するだけ。ただぼんやりと立っている。
ジニアはゆっくりと近づき、少女の顔をじっと見つめる。
「名前、名前を付けないと……」
誰かに指示されたわけではないが直感的にそう思った。
かわいらしい胡蝶蘭の髪飾りが目に留まる。安直だが彼女にぴったりな名前が思い浮かぶ。
「ファレノプシス」
ジニアはその名を告げると同時に、少女の目にようやく「命」の色が宿るのを感じた。彼女は微かに笑みを浮かべ、声を発した。
「マスター……私の名前はファレノプシスですね。長いのでファルとでもお呼びください。よろしくお願いします」
名付けた傍から略称を考え出すこのゲームでの相棒となる存在に苦笑してしまう。楽しいUFOライフになりそうだ。
「生まれたばかりのところ悪いが、ステータスを確認してもいいかな?」
「はい。どうぞご自由にご覧下さい」
キャラクターネーム:ファレノプシス
戦闘クラス(lv): 剣士(lv1)
生産クラス(lv):なし
属性:雷
基礎ステータス
体力 :150
マナ: 100
攻撃力: 10
魔力: 60
物理防御: 20
魔法防御: 20
敏捷性: 40
体力自動回復: 9/min
マナ自動回復: 5/min
取得スキル一覧
魔力操作 熟練度 max
魔纏 熟練度1
長剣術 習熟度3
「こんなに初期のステータスって高いものなのか?」
「私のステータスは控えめに言っても超が付くほど優秀ですよマスターの良質な心臓から生まれてきましたから。ただ……」
「ただ?」
「魔力に恵まれた体を頂きましたのに遠距離魔法は全く使えないのです……私にできることは真っすぐ行ってぶっ飛ばすくらいですの」
なんだか俺たちはちぐはぐなコンビなようだ。まあファルは俺がささげたステータス以上に優秀な能力だし何とかなるだろう。
「……今日は、いったんこのくらいにしておくか」
倉庫裏を抜け、ファルと並んで宿屋通りへと向かう。
この港町ポートクリナムは、すべてのプレイヤーが最初に降り立つ街であり、この未開の大陸で唯一の都市。今後の冒険はすべて、ここを起点に広がっていく。
ゲーム開始直後とあって、港はプレイヤーで賑わっていた。
ログアウトの際は、街中で不用意に固まらないよう、宿屋か自拠点で済ませるのが推奨されている。通行の妨げになるのを防ぐためらしい。
「さて、どこか落ち着けそうな宿屋は……」
そう考えながら通りを歩いていると、メインストリートから少し外れた場所にひっそりと建つ宿が目に留まった。
「ランタン亭、か。……人混みは苦手だし、今日はここでいいや」
中へ入ると、ひげをきれいに整えた落ち着いた雰囲気の宿主が出迎えてくれる。
案内された部屋は簡素ながら清潔で、どこか懐かしさを感じさせる空間だった。
「プレイヤーは最初の数日間、どこの宿でも無料……ってやつか。ありがたいな」
ベッドに腰を下ろし、大きく息を吐く。思った以上に、いろいろあった一日だった。
そろそろログアウトして、頭を整理したほうがいい。
「ファル、おやすみ~」
軽く手を振ると、彼女も静かに頭を下げた。
「おやすみなさい、マスター。ちなみに……ログアウト中、私が町の外で狩りをしておくこともできますよ?」
「え、マジで!? そんな便利機能あるのか……じゃあ、採集でもお願いしようかな。薬草とか、小銭になりそうなやつ」
「申し訳ありません。私、不器用ですので……薬草の判別や採集などは苦手でして」
「なるほど。じゃあ戦闘か」
「はい。近隣の野生のイノシシなどを狩っておきます。少しですが、お金にはなるかと」
「うん、十分だよ。必要になったら頼むからね。よろしく」
そう言って、メニューを開き、ログアウトを選択する。
ファルに背中を預けたまま、意識がゆっくりと現実へと戻っていく――