正月のやり残し
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
チャイはぁ、また今度、です!!
とある街の、とある公園の、とある場所を歩き回っていた時の事だった。隣を歩く女はふと何かを閃いた様に此方を見た。
「もうすぐ正月休みも終わってしまうのだが、やり残した事に三つほど気が付いた」
年末年始である事をいい事に、女は何かに付けて俺を連れ出した。大抵は電車を乗り継いだ先の散歩。そこで滅多に足を踏み入れない個人経営の老舗に顔を出していた。
チェーン店をこよなく愛する女にとって、それはとても珍しい事だった。
先日もこの辺りを歩き回って、老舗の甘味処に顔を出した
「まだチャイも飲んでないし、三色団子も、汁粉も食べてない」
「チャイと三色団子派は何時でも、汁粉は帰ってからでも食えるだろ」
その食に対する強欲さは一体何処から沸いて出てくるんだ。しかし彼女は真剣だった。俺の手をやんわりと掴みながら、目的地まで歩もうとする。
「そう言っていると、また来年へと繰り越してしまうだろう。善は急げだ。今すぐだ。嫌なら本日は君とお別れだ。安心したまえ。ちゃんと写真と感想は送ってやる。何も案ずることは無い」
そう宣言すると、するりと巻き付いていた指を離す。
「なんの生殺しだよ。行かないとは行ってないだろ」
という訳で、俺達は目的地の一つである、門の前へと移動した。
「…………」
重厚な扉は固く閉ざされ、侵入者を排する様に鉄格子が行く手を阻んでいた。何時もは歓迎してくれる看板もそっぽを向いている。
「チャイは諦めろ」
「なに。今日中でなくては良いんだ。年末年始中であればなんでも。気を取り直して汁粉を食べに行こう。何数分と経たずに着くさ」
そうして案内されたのは、昔ながらの甘味処だった。黄土色の壁が小さな店内を囲う中で、現在の干支が踊っている。正統派な甘味処と言ったところ。
女はそこで汁粉を二つ程頼んで、ちょこんと椅子に腰掛けた。暫くして、二人前の汁粉が前に置かれる。漆塗りの茶碗に膨れた餅が二つほど、ごろんと入ってる。箸で膨れた部分を潰すとパリパリパリっと破片と化す。皆が想像する汁粉の完成系がそこにあった。
先ずは小豆色の汁をちみちみと啜る。熱過ぎず、冷た過ぎず、良き温さ。あっさりとした、サラサラした小倉が口の中に入り込む。餡子のパンチは控え目であるが、その分、箸が進みやすい。
隣を見ると、焼き餅を頬張りながら目を輝かせる。俗っぽい物言いをするならば『餅、うまー!!』っと言ったところ。つられて口に入れると、仄かな焦げの焼き目と、柔餅の弾力が口の中を転がり回る。
そうして食事を終えた後、女は颯爽と店を出て、目的地まで足を早める。
「そう、急がなくても」
「そうして店仕舞いしていた時の私の気持ちが分かるか? あともう少しは早歩きをしていたら、ありついていたかも知れない。という後悔の念。あの時の感情は御免蒙りたいのだよ」
そうして辿り着いた店先。柔らかな午後の光と共に、数枚の朽葉が上から舞い落ちる。絵になる一時。それを切り裂く様に、女は店先に顔を出す。
女の後を追うように入ると、大衆向けの何処か懐かしさを感じる店内が目に入る。窓から見える緑が冬を告げていた。
女は早速三色団子を注文する。俺も同じものを頼んだ。
沈む夕陽を模した様な形状の盆に乗せられて出て来たのは、色の違う三つの団子。和菓子に使う爪楊枝の様なものがちょこんと添えられていた。
一口で食べるには大き過ぎる。半分に切って断面を除くと、おはぎの様な二層構造。
「不思議な味。甘い様な塩っぱい様な、また、何方でも無いような。ただ鼻から抜ける風味が新緑なんだ。檜の様に香り高い。この素材は何処のものだろうか? この黒文字から来てるのだろうか? 稀有な菓子だなぁ」
女は神妙な顔で、残った黒のこし餡や、摘んだ歌詞様楊枝をしげしげと観察している。
確かに一言で言い表すことが難しい味だった。確かに甘いのだ。けれどもそ奥に微かな塩味がある。いや、塩味では無いのかも知れない。苦味? 何かを燻した様な個性を表した癖が残る。
結局全て食べ終えても、その理由は分からず終いだった。
「満足か?」
「あぁ。うん……。あぁ……」
言葉では大方同意。けれども心理を見抜くと、もう半分は満足していない様だった。
「チャイなら今度な」
「そうではなくてだね。ふふふ。君、甘味屋に一目惚れした事はあるかい? なさそうだね。それがあると人生がころっと変わってしまうんだ。食べられないと何時までも何時までも引き摺ってしまうんだ。それほどまでに焦がれる存在を……。いや、野暮だな。チャイには付き合って貰うよ」
そう言って、俺達は帰りの駅へと歩み寄った。互いの家に着くまで。
オマケ さるぼぼ人形 お汁粉の甘味屋にて。
「さるぼぼみたいだなぁ」
「なんだ? さるぼぼって」
「君も見たことがあるだろうよ。ちゃんちゃんこを着た赤い人形」
そう言って、俺に画像を見せる。
「赤子の前でこれ見よがしに食らうのは気が引けるな。まぁ、食すが」
やっぱり食うのかよ。と言ったツッコミは仕舞っておこう。
初めて行く個人経営のお店って入りにくいんですよ。
だからビビってGWから繰り越され、繰り越され、今に至ります。
※ど真剣に結構勇気を持って参りました。緊張しました。
お正月のお汁粉の餅がみにょん、みにょんだったので、再度リベンジマッチしてきました。
美味しかったのですが、周りの小鉢とどう向き合うかずっと考えてました。
三色団子は鼻から抜ける感じが森林でした。
爽やかというには軽すぎる、もっと重たい感じ。
難しい。
まぁ、私の戯言はここまでにして、最後の考察でも。
初恋しかり、何然り、初めての物ってなかなかどうして洗い流せない。
ずっと心に碇となって残り続ける。
まぁ、代わり見つけようとしても駄目だって話ですよ。