また殺されたのね
ああ……
また殺されたのね。
私はまた闇に浮かんでいる。
これで何度目の死かしら?
何時も殺されたから、この場所は馴染みの場所だわ。
最初は誰に殺されたのかしら?
思い出した。
【一度目の死】はお父様の剣だこのできた太い指が私の首に食い込んで……
私は絞殺された。
お父様はこの国の将軍で鍛えられた体をしていたの。
魔獣の頭を砕くのだって一撃だったのよ。
お父様はどんなに忙しくても私の誕生日はお祝いしてくださった。
殺したいほど嫌われているとは……
思わなかった。
【二度目の死】はお母様が放った炎に焼き殺されたんだった。
お母様はこの国の魔導師で魔導大隊に所属していた。
お母様の最も得意なブラック・ファイアーで灰しか残らなかっただろう。
お母様はいつも優しく私の髪を梳いてくださった。
だから……
愛されていたと思っていたけど。
【三度目の死】はお兄様の毒に殺された。
お兄様はこの国の薬師でいくつも薬を作り、多くの命を救ってきた。
人を救う薬を作るには毒にも詳しくなければならない。
紅茶の中に毒は仕込まれていた。
私達兄妹は仲が良かったからうっかりしていたわ。
まさか……あのお優しいお兄様に殺されるなんて。
【四度目の死】は婚約者に殺された。
婚約者はこの国の第二王子でお人形のように綺麗な方だった。
子供の頃に彼に望まれて婚約して愛されていると思っていたわ。
何時から二人の関係が冷えたものになったのかしら?
彼の剣が私の首を切り落とすまで気が付かなかった。
殺したいほど憎まれていたなんて。
言ってくだされば婚約を解消したのに……
私は何度も何度も殺されて闇の中で浮かんでいる。
愛されていたと思っていたが、どうやら私の思い違いだったみたい。
貴族と王族では立ち振る舞いが違う。
あんなに王子妃教育を頑張ったのにな。
あ……
また光が差してくる。
また私は連れ戻される。
フルーメ神よ‼ これは罰なのですか?
私はいったいどんな罪を犯したのですか?
泣き叫んでも神様は答えてくれない。
~~~*~~~~*~
私はベッドの上で目が覚める。
何時もここから巻き戻される。
天蓋つきの豪華なベッド、白とピンクを基調とした部屋。落ち着いた高価な家具。
可愛らしいぬいぐるみ達。
昨日は私の誕生日だった。
家族と婚約者と館の皆がお祝いしてくれた。
17歳になったのにお父様は私にぬいぐるみを買って下さる。
子供っぽいと笑ったけど、うれしかった。
「お嬢様おはようございます」
若いメイドがカーテンを開ける。
そういえばこのメイドにも殺された事があったわね。
このメイドには階段から突き落とされたのだ。
「今日はフルーメ神のお祭りです。ガリレイ様がお迎えに来られます。飛び切り可愛く着飾りましょう」
そうだった。
今日はこっそり2人で祭り見学に行くと約束したんだった。
私は町娘に見える様に着飾る。
華美にならず、さりとて貧乏くさくならず。
中々のできだ。
メイドは最後にボンネットを被せてくれた。
ドアをノックする音。
メイドがドアを開ける。
護衛騎士が入ってきた。
彼も何時もの制服を脱ぎ、平民の格好をしている。
今日の護衛は彼のようだ。
「お嬢様、今日の護衛は私が務めさせていただきます」
私は頷く。
「宜しくお願いね」
ああ……そういえば彼にも殺されたわね。
馬車から突き落とされた。
私は馬車に乗った。
教会で婚約者と待ち合わせしている。
婚約者はパレードが終わってから来るから少し時間がかかる。
私達は神殿の近くで馬車を降りた。
パレードが来ているから、酷い混みようだわ。
私は人混みの中、パレードを眺める。
私も彼と結婚したならパレードに出て国民に手を振るのだろうな。
人々の歓声の中、私はぼんやり考えた。
あら?
護衛と逸れてしまった。
仕方が無いわね。
フルーメ神殿の場所は分かっている。
ガリレイ様とはフルーメ神殿の中庭で落ち合う事になって居る。
私は人混みをぬいながら神殿に向かう。
神殿の中庭には誰も居なかった。
何時もにぎわう神殿は神官達も少ない。
何時も神殿で行われる神事はコロッセオで行われる事になっている。
あら?
中庭に誰かいる。黄色い衣を纏っている。
聖女は白い衣、黄色い衣は聖女見習いで。
あの子は聖女見習い?
貧相な容姿の女の子だ。
辺境の生まれだが、類いまれな光の加護を持っているとか。
よく噂に聞く。
【祝福の儀】で光の加護を持っているから幼い時に神殿に引き取られ。
今日まで神殿で育てられたとか。
私とそう年の違わない少女に声を掛ける。
「巫女見習い様どうなされたのですか?」
あら?
彼女からいいにおいがする。
ゴクリ
喉が鳴る。
彼女は振り返り私を見て。
たちまち彼女の顔が青ざめる。
オイシソウ……
ダメよ‼
ここではもうすぐガリレイ様が護衛を連れてやって来る。
我慢するのよ。
デモ……ヤワラカソウナニク……
アア……
私は聖女見習いの肩をがしりと掴む。
メキメキと爪が伸びる。
アタマカラバリバリトタベタイ……
バキバキと耳まで口が裂け、牙が生える。
イタダキマス。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁ‼」
彼女の体から聖なる光が溢れ、私をガセボの柱に叩きつける。
アラ、ヒドイ。
ガセボが破壊されたわ。
なんて乱暴なのかしら?
とても聖女の所業とは思えない。
シュウシュウと私の体が焼ける。
聖女の光は魔物やゴーストにとって毒なのだ。
えっ?
マモノヤゴーストニハドク?
ワタシハ 何を言っているの。
それではまるで私が人間じゃないみたいじゃないの。
ゆらりと私は破壊されたガセボから立ち上がる。
違う‼ 違う‼ 違う‼
ワタシハ ニンゲンヨ‼
ガセボが壊れた音を聞いて神殿から神官達が出てくる。
護衛達に囲まれてガリレイ様が駆けつけてくださった。
ああ……ガリレイ様その女を殺して‼
ガリレイ様が私に剣を向け、聖女見習いを庇う。
なぜ‼ なぜ‼
その女は敵よ‼
なぜ‼ なぜ‼
その女を庇うの‼
ユルサナイ……
ソノオンナモ……ガリレイモ……ゴエイキシモ……シンカンモ……
ミンナシネ‼
護衛騎士の剣が、神官や皇子の炎魔法が私の体を切り刻む。
オアイニクサマ。
ソンナ ナマクラヤ ヘボマホウナド ワタシニハ キカナイ。
私の体から傷が消える。
でも……聖女が付けた傷だけが塞がらない。
それどころかますます火傷は躰に広がる。
「痛い‼ 痛い‼ ナンナノ コレハ」
「化け物……」
ガリレイ様が私を見て吐き捨てるように言う。
酷い……ヒドイ……ヒドイ……
貴方に会いたかったから……こんなカラダニナッテモ……
アナタヲ アイシテル……
ああ……思い出した。
一年前に領地に帰る時、長雨による崖崩れに遭って。
20人もの護衛騎士や馬車が崖から落ちた。
私は死んだんだ。
皆と一緒に生き埋めになったんだ。
闇と泥の中、死にたくないって思った。
その時闇の中から何かがやってきた。
それは私の側に来る。
黒い靄の様な死霊。
不思議な事に私には分かった。
『オマエ イキタイカ?』
「う……う……いやだ……死にたくない……」
『タスケテ ヤロウカ? ソノカワリ 』
「う……たすけ……て……」
こんな所で死にたくなかった。
ガリレイ様に言っていない事があった。
どうしても言いたい一言。
死霊は私に取り付いた。
ああ……そうか……なんだ……そうなんだ……
私は人食いの化け物になったから皆に殺されたんだった。
決して私を憎んでいた理由では無かったんだ。
そして……私は……
「ガリレイ様 愛しています」
やっとその一言が言えた。
私の体は聖女の光に包まれて消えていく。
私は笑って死んだ。
死霊の魂も私と共に消えた。
その一言を言う為だけに、何度お父様やお母様やお兄様やガリレイ様に殺されても。
時間を繰り返して、伝えようとした。
さようなら
みんな愛していました
ごめんなさい
~ fin ~
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2022/7/31 「小説家になろう」 どんC
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