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第十二話 必罰

「お前達は何をしていたのだ!」


 グーダ砦の会議室にて、開口一番にアクトの怒声が響き渡った。居並ぶ面々の多くはその悪鬼のごとく怒りに歪むアクトの表情に恐れおののいた。

 ちなみにその場にいたのは、アクトを筆頭に、副長のソロス、百人隊長ケントリオのテオドルス、《女狩人アルテミス》アナート、書記官のヘルモ、そして、東部軍の主だった面々だ。

 アクトの怒りも無理はなかった。苦心して成し遂げた長距離迂回機動と敵領地への奇襲を成功させ、意気揚々と戻って来てみれば、ティルノモスの駐留していた東部軍はアクトが事前に出しておいた指示を悉く無視した挙句、本来なら受けなくていい万を超す損害を出してしまったからだ。

 東部軍の指揮官達は震えていた。なにしろ、急に行方不明になっていたアクトとその麾下の部隊が何をやっていたのかを聞かされた時、あまりの異常すぎる行動に戦慄した。大きく迂回しててパルシャー領内に侵入し、しかもそのまま敵領内で散々に暴れ回り、後方を大いに扼して侵攻軍を撤退に追い込んだからだ。

 もし、アクトの指示通り、撤退を開始したパルシャー軍を即座に追撃していれば、これ以上にない完勝に終わっていたはずだからだ。

 だが、現実はそうではない。逃げる敵をみすみす取り逃がし、遅きに失した追撃を行って逆撃を被り、万を超す損害を出してしまった。中央がこれを知れば良くて投獄や左遷、悪くすれば死罪も同然の失策であった。


「今回の無様を晒した責任者は誰か!?」


 再びアクトの怒声が響いた。そして、居並ぶ東部軍の幹部達の視線は一人の男に向かった。一応のまとめ役であるベズーザである。


「・・・ヘルモ、あの男が責任者で間違いないか?」


「はい。あのベズーザなる者が皆を煽動しておりました」


 アクトはヘルモからティルノモスでの一部始終をすでに聞いていた。アクトの指示を徹底的に無視し、煮え切らない周囲を焚き付けて自分の意のままに動かしていた。

 そう聞いていたので、そのベズーザなる人物の姿をようやくにして拝めたので、アクトは怒りを抑えつつも、冷ややかにそのふてぶてしい顔を見つめた。


「ベズーザとやら、お前が皆を扇動して、私の指示を無視したのか?」


「いいえ、全然違います」


 ベズーザはきっぱりと否定した。その回答に今までの一部始終を見ていたヘルモは激怒し、ベズーザを睨みつけたが、素知らぬ顔を決め込み、平然とアクトと相対した。

 怒り心頭のヘルモを宥めつつ、アクトはこれ見よがしに首を傾げた。


「ふむ・・・。ヘルモからの報告と食い違うが、何がどのように違うのかね?」


「何もかもが違います。あまり子供の言葉を鵜吞みになさいますな。考えなしに平然と嘘を付いたり、あるいは知恵の無さから状況を誤認してしまったりします。どうかご注意を」


「なにをぉ!」


 ヘルモは怒りのあまりベズーザに詰め寄ろうとしたが、その横にいたアナートに肩を掴まれて止められた。ヘルモはアクトを兄のように、アナートを姉のように慕っているため、二人から宥められては、さすがに感情を抑え込んで引かざるを得なかった。

 ヘルモが落ち着いたのを見てから、アクトは再びベズーザを見据えた。


「では、ベズーザよ、いくつか質問をしてもよいかな?」


「お答えできる内容でしたらばいくらでも」


 あくまで不遜な態度を崩さないベズーザに、アクト軍団の面々はいい加減怒りが溜まっていたが、アクトが堪えているので、それに倣い、今のところは静かにしていた。

 もっとも、本心では、こやつの首を刎ねよ、という言葉を待っていたのであるが。


「では、最初の質問だが、お前が東部軍・・・、というか、ティルノモスの駐留軍の指揮をとっていたのであろう?」


「いいえ、そこからして違います。私は全軍の指揮を執ったことなど、一度もございません。あくまで、複数人いる軍団指揮官インペリウムの一人に過ぎません。私がやったのは、こうやってはどうだろうか、という提案のみで実際の指揮統率は自分の軍団レギオン以外執っておりません」


 ベズーザははっきりと言い切ったが、当然ヘルモはその答弁に納得などしなかった。だが、思い返してみると、ベズーザの言動はまさにそれであり、してやられたと感じた。


(そうだ。この男は自分に対しては高圧的な命令口調で通していたが、同輩の指揮官達には提案や相談、質問しかしていない! あくまで責任者っぽいだけで、他の部隊の指揮権は犯していない。実質、主導権を握っていいように動かしてはいたが、あくまで消極的で主体性の乏しい他の面々を煽っただけで、命令自体はしていない。くそ、成功すれば手柄面、失敗すれば周囲に責任を分散させて罪を軽くするつもりであったか!)


 そう気付いたヘルモは、悔しさのあまり歯ぎしりした。責任追及で今までの愚行の数々をその身をもって清算してもらうはずが、これでは罪が薄まってしまうと悔しがった。


「なるほど。その点についてはこちらの勘違いということか。では、次の質問だが、私は出撃しろと命じたのに出撃しなかった理由は? 敵が背を向けた好機を逃したのだぞ」


「罠を考慮したからであります。なにしろ、将軍閣下の遠大なる計画をそこの少年が一切話しませんでしたからな。知っていればただちに追撃しておりましたが、裏の事情を知らぬ身の上では、急な転身に対しては罠の存在を考えねばなりますまい」


 作戦を話さなかったお前が悪い、ベズーザはあろうことかアクトの罪にまで言及してきた。それには普段温厚な副長のソロスさえ憤り、思わず腰の剣に手が伸びかけたほどだ。

 だが、当のアクトは微動だにせず、会話を続けた。


「ならば、距離を詰めるために無理な行軍をした理由は?」


「無論、逃げた敵に追いつくためであります。普通に追いかけては追いつくのも困難でありますし、危険な近道を使う必要がありました。もっとも、その道を抜けたところで敵と遭遇してしまったのは不運としか言いようがありませんし、申し訳なく思います」


 口では何とも言えるが、全然申し訳なさそうにはしていなかった。ベズーザの態度はどこか他人事、責任は自分以外の誰かにある、と言いたげな態度を貫いた。

 もちろん、そんな態度はアクト軍団の面々の怒りの炎に油を注ぐだけであった。特に気の短いアナートとテオドルスは今にも得物を手にして襲い掛からん勢いであった。

 そんな空気を感じつつ、アクトは顎に手を当ててしばし黙考した後、ついに決断した。


「では、ベズーザよ、君の言を正しいものとする。確かにこれでは君に全責任を負わせることはできないな。なにしろ、君はその地位に就任しておらず、権限もない。他者の職権を犯しているとも言い難い」


「ご理解いただけてなによりです」


 ベズーザは初めて頭を下げてきた。なお、その表情は笑っており、一切の反省の態度は見えていなかった。ただ形だけ頭を下げた、そのような感じであった。


「では、ベズーザへの尋問はこれまでとする。テオドルス!」


「ハッ!」


「そこに並んでいる東部軍の幹部全員の首を刎ねよ!」


 待ってましたと言わんばかりに、テオドルスは剣の柄を握り締め、鞘から剣を抜いた。煌めく切っ先をこれから切り裂く獲物に向けて威圧すると、ベズーザを除く全員が悲鳴を上げ始めた。

 さらに、アナートがいつの間にか弓矢を手にしており、すでに矢を弦にかけていた。


「あんまりガタガタ抜かすようなら、まずはその大口目掛けて撃ち込んであげましょうか? それとも、逃げられないように足を床に縫い付けてあげましょうか?」


 明確な殺意のこもった女狩人の囁きに、狙われている者達はますます震え上がった。だが、肝心のベズーザは恐怖も憤りもなく、アクトを無表情で見つめるだけであった。


「将軍、これはどういうおつもりでしょうか?」


「無論、能無し共の処刑だよ。お前一人の責で済ませればよかったのだが、どうやらそれはできそうになかった。なので、いっそのこと全員処刑せざるを得なくなった。薄めて刑が軽くなるほど、今回の命令無視とそれによって生じた損害は小さい罪でないのだよ」


「なるほど、そう来ましたか」


 ベズーザは腰に帯びていた剣の柄に手を置いた。殺されたくなければそれを抜いて、この場を切り抜けねばならなかったからだ。だが、剣を抜かなかった。


「・・・フフッ、実際は剣を抜かせて、反逆罪を問う方向を狙っているのでしょうな。その手には乗りませんよ」


「ふむ、お前、頭いいな。このまま処分するのには惜しいくらいだ。軍団指揮官インペリウムを罷免されたら、こちらに来ないか?」


「嫌です。私はあなたのような、他者に敬意を払わず、自分の意志を無理やりにでも押し付けようとする輩が嫌いですから」


 ベズーザは手を鞘から外し、棒立ちの状態に戻った。殺せるものなら殺してみろと言わんばかりの態度に、アナートの手が震え始めた。


「ねえ、アクト、さっさと、『やれ!』って言っちゃってよ。私がまとめて撃ち殺してあげるからさあ。いい加減腕が疲れてきたわ」


「そうだな、では・・・」


 アクトがウズウズしていたアナートやテオドルスに指示を出そうとしたところ、一触即発の両者の間に割って入る者がいた。それはヘルモであった。

 ヘルモは弓を構えるアナートと棒立ちのベズーザの間に立ち、それを妨害する動きを見せた。アナートは誤射を恐れて慌てて弓を引っ込めた。


「皆様方、いい加減にしてください! 敵が迫っている中で、内輪揉めしている状況ではないでしょう! なにより、軍団指揮官インペリウムの処罰は皇帝陛下や軍務局の決済がいる案件です。重大な問題があって拘禁するならまだしも、裁判も開かずに処刑することは法的に問題があります」


 ヘルモの言は正論であった。いくら大軍団ダグマーの指揮権を有する将軍ドゥクスと言えど、軍の幹部である指揮官級の処刑を欲しいままにしてよいという道理はない。

 ヘルモとしては、ベズーザを始め、無能怠惰な東部軍の面々を擁護するのは嫌であったが、法的に問題がある以上、口を挟まないわけにはいかなかった。なにしろ、ヘルモはついこの間まで皇帝ユリシーズの書記官を務め、主に法務に関する仕事に携わっていたからだ。

 ここで不法行為を見逃していては、自身の順法精神に疑念が生じるであろうし、それを法務絡みで使っていた皇帝への疑義が生まれかねないのだ。


「私もヘルモの意見に賛成です」


 次に割って入って来たのは副長のソロスであった。剣を手にするテオドルスを落ち着かせ、剣を鞘に収めさせた。


将軍ドゥクス、指示通りに動かなかったこの方々にご立腹なさるのは理解できますが、短慮はなりません。下手な行動は、わざわざ誇官の儀まで執り行って、将軍に任命して下さった皇帝陛下の顔に泥を塗る行為です。どうかご自重なさいませ」


「む・・・」


 皇帝の名を出されては、さすがにアクトも引き下がらざるを得なかった。いかにも不機嫌そうに鼻を鳴らし、それからまだ収まりきらぬアナートやテオドルスに落ち着くよう命じた。

 二人は納得しかねると言いたげな不満顔を浮かべたが、それを無視してアクトはヘルモとソロスに顔を向けた。


「で、ソロスにヘルモよ、この場はどう納めるべきか?」


「罪は罪として問うべきですが、挽回の機会を与えるのがよろしいかと具申致します」


「私もヘルモの意見に同意します。じきにパルシャー軍がこの砦に迫り、戦となるでしょう。その際の働きによって、罪を減じることを考慮に入れるべきかと」 


 副長と書記官からの意見であり、将軍としても無視するわけにはいかなかった。どうしたものかと少し考えた後、意を決して口を開いた。


「よろしい。二人の言を是とする。東部軍の諸将よ、次の戦での働き如何によっては、陛下への上申書に手心を加えてやってもよい。心して当たれ!」


 アクトの叱責にも似た命令に東部軍の諸将は慌てて頭を下げた。というより、この命に従わなければ、目の前の男が皇帝にどんな言葉を投げ掛けるのか知れたものでないし、実際に数々の失策を犯しているので挽回の機会を得ただけでも御の字であった。

 特に意外であったのは、ヘルモからの擁護が入ったことだ。なにしろ、ティルノモスで出会ってからというもの、露骨なまでに悪し様に扱っていたのに、それを横に置いて純粋に法的にどうかという判断をしてきたからだ。

 なんとも、自分達のやって来たことがなんと浅慮であったかを思い知らされた。

 ただ一人の例外を除いて。


「随分と頭の回る部下をお持ちのようで、羨ましいですな」


 不敵に言い放つのはベズーザであった。あくまでアクトへの態度に一切変化がないのは、神経の図太さを物語っていた。

 アナートはこれに怒り、再び弓を構えようとしたが、そこはヘルモが再び割って入って止めた。

 聞こえるようにわざとらしく舌打ちをするアナート、それを無視するベズーザ。アクトは双方を見ながらため息を吐き、そして、命じた。


「では、諸将よ。自分の部隊を統括し、迎撃の準備をしてくれたまえ。無論、負傷兵の手当ても忘れるなよ」


 東部軍の諸将は再びアクトに対して敬礼した後、部屋から出ていった。

 残ったアクト軍団の面々は、ようやく“芝居”が終わったことに安堵し、一斉に息を漏らした。


「どうにか部隊として動かせるようにはなりましたかな」


 真っ先に口を開いたのはソロスであった。なにしろ、先程までの茶番劇を提案したのは、他ならぬソロスであったからだ。

 ソロスの考えはこうだ。頭ごなしに失策をなじっても士気は上がらぬであろうし、“飴と鞭”で言うことを利かせようとしたのだ。アクト、アナート、テオドルスの三名が鞭役で、東部軍を責め立て、あるいは脅し、そこをソロスとヘルモがもっともらしい理由をこじつけて止めに入る、という案だ。

 “処刑”をという鞭をチラつかせつつ、“挽回の機会”という飴を差し出してやる気を出させる。これで東部軍は必死に働くだろうとソロスは考えたのだ。


「いや、まあ、ソロスさんの提案だから従ったけどさ。本気で撃ち殺したかったんだけど」


「それな」


 アナートとテオドルスはまだ不満げであったが、そこはアクトが宥めた。


「まあ、あとでベズーザは始末する機会を与えてやるから、それで我慢しろ」


「うっし。なら、執行人は私ね。百本くらい矢を撃ち込んでやるから」


「アナート、矢が勿体ないから一発で仕留めろ」


 何とも物騒な会話であったが、全会一致でベズーザへの明確な殺意があったため、誰もそれを咎める者はいなかった。


「それで、ソロス、現状動かせる人数はどの程度か?」


 仲間内の冗談めかした会話は終了とばかりに、アクトは真顔に戻って副長に尋ねた。


「我々が率いていた一万五千に加え、東部軍が動けない負傷兵を除きますと一万。合計で二万五千といったところです。まあ、東部軍一万の内、どうにか動ける程度が半数で、機動的に動き回って戦闘するのは難しいでしょう」


「なるほど、実質二万で戦うことになるのか」


 楽はできそうにないな、とアクトは目の前に広げたグーダ砦の周辺地図を睨みつけた。


「それに対して、パルシャー側は少なく見て三万、多くて四万ほどいるはずです。しかも、恐らくは後続がいるかと」


 今度はヘルモからの情報であった。ティルノモスにて実際に敵軍を視認していたのは、この中ではヘルモだけであった。ヘルモは城壁の上から敵軍を観察し、視認した数と旗指物の数を比べ、おおよその数を割り出していたのだ。


「つまり、倍以上の敵を相手にするってわけか。将軍、なんだか初陣を思い出しますな」


 テオドルスのこの言葉に、その場の全員がニヤリと笑った。なにしろ、アクトの初陣である『ハッテ村の遭遇戦』は全員が参加しており、アクトの立てた作戦によって倍以上の敵をほぼ一方的に撃破したからだ。運も絡んだとはいえ、あれほどの快勝はなかなか味わえるものではなく、それ故にそれを打ち立てたアクトへの信頼も厚かった。


「今回は霧もないし、運の絡む要素はない。それでも、勝って勝利と共に凱旋するぞ。皇帝陛下への御恩と、帝国の栄光のために、な」


 アクトの言葉に皆が頷いて応じた。この人ならやってくれる、自分達ならやってやれる。今回のパルシャー王国との戦争においても、“三日月斬りクレセント・マーチ”という奇想天外な策によって敵を散々に翻弄し、これ以上にない痛快な勝利を味わうことができた。

 もっとも、それを東部軍がすべて台無しにしたことは、腹立たしい限りであったが。


「さて、まずはソロス、テオドルス、両名に先陣を任せる。二個大隊を与えるから、明日か明後日あたりに現れるであろうパルシャー軍に当たれ」


「お、いいね。先陣を任せてくれますか。腕が鳴りますな」


 実際にテオドルスはパキパキと手を鳴らして、やる気満々であることを見せつけてきた。先程の茶番や東部軍への鬱積をパルシャー側にぶつけて発散する気であった。

 だが、それに対して、アクトは首を横に振った。


「勘違いするな。敵も様子見として同程度か少し多いくらいの部隊を出してくるだろうが、絶対に勝つなよ。程々に戦ったあと、無様に敗走しろ。戦って、負けて、這う這うの体で砦に逃げ込む。それが二人の仕事だ」


「また難しい注文ですな」


 ソロスはやれやれと言わんばかりに頭をかいた。出会った時から変わらぬ難しい注文を、目の前の上司は要求してくる。だが、難しくとも実行不可能なことは絶対に言わないことも知っており、やってくれると信頼してくれるからこその言葉であることも知っていた。


「そして、今回の最重要任務は、ヘルモ、お前に託す」


 アクトの言葉に、皆の視線がヘルモに集中した。


「自分が、ですか?」


 ヘルモは恐縮していた。もし、自分がしっかりと東部軍を動かせていれば今回の苦労はなかった。そういう意味ではヘルモは処罰を受けても文句は言えなかったが、アクトは東部軍のみならずヘルモに対しても挽回を機会を与えたのだ。

 とは言うものの、アクトはティルノモスでの一件をヘルモの失策だとは思ってもいなかった。ヘルモはあくまで与えられた条件の中で最善を尽くし、指示通りに動いただけであったので、これを罰するなど有り得なかった。

 むしろ、確たる成果を上げさせ、出自に関係なく能力によって登用する皇帝像を確立させたい意図もあった。アクトにとっては、自身の栄誉やヘルモの立場云々よりも、ユリシーズの名声の方が重要であり、それをしっかりと前面に出していきたいと考えた末の、ヘルモの起用であった。

 ヘルモもそれはすぐに察したが、実質的には挽回の機会を与えられたも同然であり、大いにやる気が湧いてきた。


「精一杯やらせていただきます!」


「よし、よろしく頼むぞ。この砦を巡る戦いを制するのは我々だ。そして、その鍵となるのは、ヘルモと、そして、ここにいない奴だ」


 そう、この戦いにおける最重要の人物は、この場にいなかった。

 後に《盾の五星》と称されるアクトを支えた五人の人物はすでに集結している。しかし、そのうちの一人が今この場にいない。アクトの描いた必殺の一撃を繰り出すため、今は姿を眩ませているのだ。

 そして、その人物がいないことに気付いているのは、今、この場の五人だけであった。



             ~ 第十三話に続く ~


  

 


 

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