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第十一話 合流

 『天の台座ダフマ』を目立つ撒き餌に使い、次々とパルシャー軍を蹴散らしたアクト軍団は、敵が本腰を入れて討伐しに来る前にさっさと撤収した。

 それでも付近の独立大隊や守備隊を誘い込んでは殲滅し、撃破した数は合計で一万を超えるほどの戦果を稼ぎ、さらには拠点を襲って物資を奪うなど、パルシャー王国の北部は騒然となった。

 何より北部住民を震え上がらせたのは、アクト軍団と共に乱入してきた騎馬民族エフル族の集団が、殺戮と収奪を欲しいままにしたことだ。

 北部にいた部隊の大半は聖地である『天の台座ダフマ』を守るためにそちらへ向かったため、誰もエフル族を止める者がいなかったのだ。ただでさえ、帝国領への侵攻のために兵を引き抜かれていたのに、そこへきてアクト軍団襲来と聖地の危機が重なり、略奪者の好き放題に任せる結果となった。


「まあ、これで北部侵攻の怨恨ヘイトは全て、エフル族が引き受けてくれるだろう」


 アクトは自軍の幹部にそう漏らした。

 アクト軍団は民間人への手出しはしていなかった。攻撃はあくまで敵軍と軍事拠点にのみ限定し、略奪の一切を部下に禁じていた。ただし、軍事拠点に蓄えられていた物資については懐に入れることを許可しており、それで我慢しろとアクトなりの配慮を見せていた。

 しかし、エフル族はろくに反撃できない非戦闘員を攻撃し、殺戮と略奪をほしいままにしていた。どちらが恨まれるのかは自明であり、アクトはあらゆる悪名をエフル側に押し付けた格好となった。

 そして、程々に後方を乱し、十分だと判断すると撤収にかかった。

 その際に、あちこちで暴れているエフル族に対しても撤収する旨を伝えておいた。さすがに、利用するだけ利用して放り投げるつもりはなく、先方にも引き上げを促して、そろそろ帰る様に勧めたのだ。

 ところが、その時に奇妙なことが起こった。パルシャー領内に侵入したエフル族の半数にあたる五百名ほどが同行を申し出てきたのだ。

 エフル族は俗な言い方をすれば、とても現金な部族であった。欲しいものは奪ってでも手に入れるし、女にも金品にも目がない。それでいて、強者にはかなり従順であった。

 そんな彼らがアクトに対して同行を求めたということは、アクトを自分達の頭領に相応しいと判断したからだ。


「トーグ殿はどう思われるか?」


 判断に迷ったアクトは、トーグに助言を求めた。トーグはエフル族の、それも族長の家系の一員であり、彼らの心情を最も理解している人物でもあった。


「あいつらが求めているのは、勝利と褒美です。それを提供するアクト様こそ、仕えるに相応しいのと判断をしたのでしょう。普段は家族単位程度でバラバラに暮らし、仕事の時に召集に応じて集まるのがいつものことですから」


「そういうものなのか」


「まあ、半分はいつまでも煮え切らない、各部の頭にうんざりしているのかもしれませんがね」


 実際、トーグもその類であった。前族長が亡くなってからというもの、有力者が自身の勢力を伸ばそうと、無駄に内部抗争をしているような気がしてならないのだ。さっさとまとまって、またパルシャーからふんだくりたい。そう考える者が自分以外にもかなりいたということを、トーグは今更ながらに感じたのだ。

 そう感じればこそ、揉め事を回避するべくライアス帝国へ移住し、しかもブーンやアクトと言った理解者、あるいは雇用主とも言うべき存在と出会うことができた。

 そして、今こうして渇望していた勝利と褒美に与れる立場になったのであるから、トーグは自身の判断が間違いでなかったと実感していた。

 そんなトーグの姿を見たのであれば、ならば自分も、と考える者がいて当然であった。

 そもそも、エフル族には忠義などない。あるのは欲望だけだ。そして、その欲望を満たすためには、武芸を磨くのが手っ取り早いという考えの下、その武芸を売り込み、あるいは奮って、金品を強奪するのが彼らの価値観だ。強い者、あるいは褒美をくれる者が従うべき相手なのだ。

 アクトはそこまで草原の民に詳しくはなかったので、トーグがいてくれて事には幸いであった。アクトにとっては相容れない価値観ではあるが、それでもその武力は利用できる。

 腕利きの騎兵が五百も加わるのは嬉しいことであるが、手綱を離せばすぐに無軌道に動き回るため、扱いが難しいとアクトは考えた。

 そして、少し考え込んだ末に結論を出した。


「トーグ殿、彼らの扱いはあなたに一任しよう。遊撃騎兵隊として運用する」


「心得ました」


「手綱はしっかりと絞めるつもりでいるから、許可なき略奪の類いは厳禁だぞ」


「勝って褒美にありつけるなら、それは大丈夫かと」


 エフル族の求めるのは強くて気前のいい頭領だ。それを満たしているうちは、アクトを決して裏切らない。そうトーグはアクトに告げたのだ。



               ***



 こうしてアクト軍団は新たな力を手に入れ、今頃はパルシャー侵攻軍の背を追っているであろうティルノモス駐留軍と合流すべく、テン川を越えてグーダ砦を目指した。

 上手くすれば退路を遮断して、そのまま殲滅てまきるかも、という淡い期待もあった。

 川を越え、グーダ砦まであと少しというところで、使者として派遣していたヘルモが単独で馬を走られてきた。

 その姿を見たとき、アクトは露骨に不機嫌になった。なぜなら、ヘルモが単独で動いているということは、駐留軍に居場所がないということであり、自分の出した指示を駐留軍が無視したという証しであるからだ。

 事態は悪い方に傾いている、そう感じつつ、アクトはヘルモの帰還を歓迎した。


「ヘルモ、使者の任、ご苦労だった」


 行軍したまま歩みを止めず、合流してきたヘルモを迎え入れた。しかし、並走するヘルモは表情は明るくない。こちらもまた、露骨に不機嫌であった。


「・・・その様子では、あまり芳しくはないようだな」


「申し訳ありません。アクト様に任を託されながら、それを果たせませんでした。いかなる処罰も甘んじてお受けします」


「それほど悪いのか」


 申し訳なさそうなヘルモの姿を見て、アクトは想定より遥かに悪い状況だと認識した。

 そして、砦に向かう道中にヘルモは見聞きした情勢を事細かに報告した。嘘や誇張の一切ない客観的な報告や意見であり、いくら気に食わないからと、駐留軍の面々の事を大袈裟に語ってまで貶めることはしなかった。

 その点はアクトも大いに感心し、やはりヘルモに委せてよかったと感じた。

 同時に、あまりの無能ぶりに駐留軍への憤りを覚えつつ、そして、ああやはりか、などと自分の予想が悪い方に当たってしまったと嘆いた。

 こうして、ヘルモと無事合流を果たしたアクトは軍勢を率いて、グーダ砦へと急行した。

 事態は急を要する。なにしろ、半壊状態の駐留軍を率いて、これから殺到してくるであろうパルシャー軍と一戦交えて、これに勝たねばならないからだ。

 そして、砦に到着すると、砦内部は一時騒然となった。もうパルシャー軍が到着したのだと勘違いし、慌てて迎撃しようとしたからだ。

 しかし、旗指物ややって来た方向から友軍であることがすぐに分かった。なにより、その一団の中に気に食わない奴ヘルモがいたことから、誤解もすぐに解けた。

 守備隊は慌てて開門し、アクト軍団を砦内に招き入れた。

 そして、アクトを始め、彼が率いていた軍団の面々はあまりの惨状に驚き、そして侮蔑した。アクトの策に従い、かなり無理のある長距離行軍をしてまで敵の裏をかき、友軍に有利な状況を作り出したというのに、それを活かすことができずに、むしろ大損害を出した友軍の不甲斐なさに、言い表しようのない怒りが湧いてきていた。

 無論、それはアクトも同様であった。もし、自分の指示通りに動いていれば、こんな無様を晒すことなく、今は悠々と軍功話で酒宴でも開いていたことだろう。それがまるで葬式のような雰囲気に満たされ、死体と負傷兵だらけの砦がそれを拒絶していた。


「主だった者を集めろ! すぐにだ! ただちに作戦会議を行う!」


 アクトは不機嫌さを隠そうともせず、恐縮する兵士に向かって叫んだ。


(これは思った以上に疲れる迎撃戦となるな)


 アクトは次なる戦が想定以上に危険な戦になること感じ取った。

 だが、それに気負うこともなかった。なぜなら、自分のやることは、恩義ある皇帝ユリシーズの背負う重荷に比べれば、遥かに軽いからだ。

 こうして、アクトは大損害を被った友軍を率いて、迫りくるパルシャー軍と戦うこととなった。

 後に、『グーダ砦の戦い』と呼ばれる合戦が間近に迫っていた。



              ~ 第十二話に続く ~

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