序文
“世界帝国ライアス”
この国を知らぬ者はただの一人も存在しない。
ライアス帝国は人の踏み入る領域をその全てを治めたる巨大な帝国。歴史上類を見ない版図を広げた偉大なるその国は、数多の栄光と繁栄に彩られた輝かしい歴史を有していた。
北は天まで貫く巨大な山すら踏破して、その先に広がる広大な大地を手中に収めた。
西はこれまた峻険なる山々が広がり、その恵みは帝国の繁栄に寄与した。
南は海が広がり、そのさらに先には豊かな島々が存在し、交易によって帝国に富をもたらした。
東は大いなる草原が広がり、そこにも帝国の軍旗がなびいていた。
富と物は帝国の首都であり、世界の中心たるアルバンガに運び込まれ、人々は帝国の繁栄を楽しみ、酔いしれた。
道という道は帝都アルバンガへと通じ、海を行く船もまた帝都を目指した。陸の道と海の道、この二つが帝国に繁栄をもたらし、それが永遠に続くものだと人々は考えていた。
だが、帝国は衰退した。
未踏破の領域より現れた蛮族、火山の噴火、各地に派遣されていた軍政官の謀反、抑えつけられていた諸民族の反乱、世界の果てより到来した狂暴なる騎馬民族、理由を上げていけばキリがないほどである。
度重なる惨事に帝国は疲弊し、いつしか皇帝を自称する者が乱立して、自らの正当性を主張。血で血を洗う抗争の末に国は乱れ、崩壊していった。かつての繁栄は見る影もなくなり、僅かに煌めく残照も、海賊達の手によって南方へと強略されてしまった。
今や帝国はかつての領域を失い、旧帝国領でいうところの東部領の半分程度を維持するのみとなった。
帝国の旗の下に栄光と平和を謳歌した時代は過ぎ去って数百年。その国にはもう、栄光も、繁栄も残されてはいない。人々は嘆き悲しみ、夢も希望もなく、僅かな食料や土地を奪い合っては争い、ただ破壊と混沌のみが時代を支配していた。
空を見上げようとも、光の降り注がぬ暗黒の時代。神すらもこの地上を見捨てたのではないかと、人々は絶望に打ちひしがれた。
だが、そんな時代にあって、かつての栄光を取り戻さんと立ち上がる者がいた。
「栄光は蘇る! 繁栄は取り戻せる!」
そう叫ぶ者がいた。
その者はやがて皇帝となり、没落した帝国にかつての栄光を取り戻さんと奔走し、それを守る者もまた現れた。
栄光の扉を開き、帝国と臣民を支える“柱”と、それを守らんとする“盾”。
今より語られる話は人々を支える柱となり、希望の詰まる箱を開け、かつての栄華を取り戻すべく、生涯の全てを捧げた者達の物語である。
~ 本編一話に続く ~