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あなたの物語を食べさせて

貞子の全貌っていうか、

厳密にいうと貞子じゃないんだけど、いきなりパソコンから出てきた女の全貌は、


結構かわいい。


ぱっちりとした瞳に、明るい色の髪が背中まで届いている。

これは多分染めているのではなくて、彼女の生まれ持った髪色なのだと思う。


ベリーピンクのような独特の色合いなのだが、

俺は幼いころ、彼女とよく似た髪色の少女を見たことがある。


俺は少女に「染めてるの?」と尋ねたことがあったが、

少女は地毛だと言っていた。


それはツインテールの……あ、いや、なんでもない。


とにかくその髪色は、目の前に突然現れた彼女の白い肌質に良く映えていた。


そんな文句なしの美人のくせに、

前髪からぴょんと触覚のように跳ねている二本のアホ毛がどこか微笑ましい気持ちにさせる。


クリーム色のタートルネックのセーターに、プリーツの入ったエンジ色のミニスカートを履いている、

少女というよりは、もう少し大人で、それこそ俺と同じくらいの年なんじゃないだろうか。


「ちょっと、あなた何? 失礼じゃない?

 年頃の女の子のことをそんないやらしい目つきで、舐めまわすように見つめて」


そう言って女は俺の目の前に、人差し指を突き出して睨みつけた。


「はあ? 舐めまわすって、

 いきなり人ん家に不法侵入してきた奴が何言ってんだ?

 自意識過剰にも程があるぞ!

 いくら年齢=彼女いない歴を更新中の俺だってな、貞子と妖怪は願い下げなんだよ!」


祟られるかもとか、そんな恐怖心もどこへやら。

さすがに温厚な俺も、彼女の言いようには頭にきてしまい、言い返した。


「貞子じゃないもん。真美子(マミコ)だもん。

 それに私は妖怪じゃなくて、ネットに巣くう妖精さんだもん」


頬を膨らませた彼女は、床から3cmくらいのところをふよふよと宙に浮いている。


「都市伝説かよ」


そんな異様な光景に、俺は目を瞬かせた。


確か2チャンネルかなんかで、一時期まことしやかに書き込まれていた怪談話があった。


小説投稿サイト『Nの世界』に夜中の二時二十二分二十二秒ちょうどに小説を投稿すると、

読み専の幽霊『魔美子(マミコ)さん』がパソコンから現れて、異世界に連れていかれるのだと。


「それで、何? お前が現れたってことは、

 つまり俺はお前に引きずられて異世界に連れていかれんのか?」


俺は緊張のために、ごくりと生唾を飲んだ。


「別にっ……そんなんじゃ、ないわよ。人のこと化け物扱いして……」


マミコはそう言って、少し傷ついたように表情を曇らせた。


「ただちょっと、お腹が空いたっていうか……」


そう言って唇を尖らせた。


「ひっ! お前やっぱり、俺を取って食う気か???」


俺は枕を翳して、マミコに身構える。


「だから、違うわよ! 私は化け物なんかじゃないんだからねっ!

 妖怪じゃなくて、あくまで愛らしい妖精さんなんですからねっ!」


マミコは腰に手を当てて、憤慨している。

刹那、マミコの腹の虫がキュルキュルと切ない音を立てた。


「ったく、仕方ねぇな」


俺はぷっと噴き出して、ベッドから立ち上がり、キッチンの方に歩いて行った。

冷蔵庫を開けてみるが、そこはさすがは男の一人暮らしだ。

入っているのは飲み物ばかりで食べ物らしきものは皆無である。


次に俺は戸棚の上にストックしてあったカップ麺に手を伸ばす。


「カップ麺食べるか?」


そう聞いてやると、マミコはぶんぶんと首を横に振った。


「贅沢な奴だな、じゃあコンビニに行って買ってくるから、何がいい?」


俺はカバンから財布を取りだしながらそう言うと、


「そうじゃなくって、その……あなたの物語を食べさせて欲しいんだけどな」


マミコは少し顔を赤らめながら、上目遣いでポツリと呟いた。


同時にまたマミコの腹の虫がキュルキュルと切ない音を立てた。

どうやらよっぽど腹を空かせているらしい。


「物語を食べるって……お前、一体どうやって???」


さすがに俺も目を丸くした。


しかし指示されたように、とりあえず数日前に書き上げた短編を印刷した用紙をマミコに渡してやると、


「10日ぶりのごはん……です」


マミコは感涙せんが如くに感動に打ち震えて、俺の渡したA4用紙を握りしめた。


「ちょっ、お前、オーバーなんだよ! 

 俺の小説ごときで、何もそんな涙ぐまなくてもいいじゃねぇか」


なんだか、背中がムズムズする。


同時に不味いって言われたらどうしよう、って少し焦った。

何せ俺は、総合評価2を喰らった底辺作家だからな。


どこぞの三ツ星ランカーとは違うんだぜ?


っていうか、こいつ、一体どうやって物語を食べるんだろう?

それこそヤギの様に紙ごと、ムシャムシャやっちゃうんだろうか?


そんな好奇心を隠し切れずに彼女に注視していると、


「ではいただきます」


そう言って彼女は姿勢を正して、几帳面に手を合わせた。

そして口を開くと、唾液に濡れた桃色の舌が覗いて、なんかちょっとエロい。


そんなことを思っていたら、

いきなり紙に印刷された文字が青白く光って、紙の中から抜け出した。


それはゆらゆらと宙に浮かんで、彼女の口元に吸い寄せられる。


「ずおおおおおおおおおおおお」


彼女が必死の形相でそれをすすり上げる。


「ひっ!」


その形相があまりにも恐ろしかったので、俺は思わず悲鳴を上げた。

軽くトラウマになるレベルだぞ、これ。

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