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有馬アキラ筆を折る。

そろそろかなあ、という予感はあったんだ。

だから、なんとなく郵便受けを開けるのは気が重くて、少し躊躇われて、


だけどそれでも俺は勇気を振り絞りって、郵便受けを開けた。


鎮座する一通の封書には、『マルワカ書房』のロゴが踊っている。


俺は白目をむいた。

軽く魂がその身体から幽体離脱しかかっている。


封書には俺、有馬アキラの住所、氏名の後に

第31回前期『ジョリジョリ濃いヒゲ文庫ライトノベル新人評価シート在中』と書かれている。


幸いマンションのエントランスには、俺以外の人がいなかったため、

その奇行が他人の目に留まることはなかったが、


俺はKOされたボクサーのごとくに、真っ白に燃え尽きた。


今日これが届くということは、また、一次選考での落選だったのである。


◇◇◇


今を去ること六か月前、

俺はマルワカ書房が行うライトノベル新人賞に、

書き上げほやほやの渾身の力作の小説を送り付けた。


もう、絶対に優秀賞を取る気満々だった。

賞金の300万円の使い道とかを普通に考えていた。


「この小説が面白くなくて、一体どの小説が面白いというんだ?」


それは小説を書く者は、きっと誰しもが思うことであろう。


自分の持てる萌えをすべてつぎ込み、

ときには話の展開にニヤケ、そして書きながらマジ泣きをする。


気持ち悪すぎて、とても他人にはみせられない光景であるのだが、


そりゃあ10万字も書けば、キャラクターと同化し、

滅茶苦茶愛着のある作品となってしまうのも無理はない。


まるでその作品が自分の子供のように愛おしく思ってしまう。


ゆえに、小説の評価というものは、書いている本人にとっては、

冷静に受け止めることができないということが多々ある。


そしてそれは俺にとっても例外ではなかった。


封書の中に入っていた評価シートの総合評価は、2だった。

平均以下である。


もうなんか、『2』と書いて『カス』って脳内変換しちまったわ。


「マジでか……。へこむわー」


俺は盛大にため息を吐いて、自室のベッドに倒れこんだ。


「やっぱ、ここいらが潮時かもな」


天井のシーリングライトが、今日は妙に寒々しい。

胸いっぱいに膨らんでいた俺の中の物語が、死んでいく、なんかそんな気がした。


色を失って、物語が俺の中から消えていった。


「もう書けないかもしんねぇ」


真剣にそう思った。


「来年からは、俺も就活しなきゃなんないしな。

 ちょうどいい機会かも」


俺は現在大学二年生だ。

自由に大学ライフを満喫できる最後の年なのである。


昔から小説を書くことが好きで、好きで、

暇さえあればノートに小説を綴っていた。


それこそ小学一年生の頃に買ってもらったピカチュウの表紙の自由帳も、文字の羅列で埋め尽くされていたので、

うっかり俺の自由帳を覗き込んだ友人がマジで引いていたっけな。


友人ですら引くレベルなので、クラスの女子には大概キモがられていた俺なのだが、


そんな俺のマニアックな趣味に、ひとりだけ引かない女がいた。


「アキラくんの書いたお話、読ませてよ」


そういって俺に手を伸ばしたのは、ツインテールの美少女で……。


あっ、いや、やっぱりやめておこう。


これは、俺の黒歴史だから。


重い瞼を閉じると、気が付いたらいつの間にか俺は眠ってしまったようだった。


◇◇◇


どれくらい眠っていたんだろうか。


机の上のパソコンが、奇妙な音を立てていた。


(あれ? 俺、パソコンなんて起動させてなかったはず……)


違和感を感じた俺は眠気眼を擦って、身体を起こした。

やっぱりパソコンが起動している。


(メンテナンスか?)


しかしそんな設定をした覚えもない。


ただ暗闇に光るパソコンの白い画面に、文字が羅列されている。


「お腹が……空きました」と。


「ひっ!」


それを見た俺の悲鳴が、思わず喉で凍り付いた。


「え? 何これ???」


俺は気味の悪いこの現象に、震えあがる。


やがてパソコンの画面が切り替わり、髪の長い女の人が映し出されて、

じっとこちらを見ている。


「っ!」


本当に怖いときって、人間って案外叫べないものなんだなと思った。

怖すぎて声が出ない。


心臓がバクバクいって、

背中に変な汗をかいている。


そんな俺をじっと見つめる女の顔がアップになる。


「何これ、モニタリング??? 」


きっとこの部屋のどこかに、隠しカメラがあってだな、

人間観察バラエティー的なやつなんだよ。


恐怖のあまり一瞬そんな現実逃避をしてしまうが、次の瞬間、

パソコン画面から、リアルに女の手がぬっとこちらの世界に抜け出てくる。


「さ……貞子!」


俺はベッドの上で腰を抜かして、動けないのだが、あれよあれよという間に、

女はパソコンの中から這い出してきた。


「きゃあっ!」


その瞬間に、机から落っこちた。


(え? 貞子ってけっこう鈍くさい?)


俺は恐怖に引き攣りながらも、貞子から目が離せない。


「痛ったーい!」


貞子が涙目で、床にぶつけた頭を摩っている。


「もう! 暗くてわかんなかったじゃない。

 電気どこ?」


貞子がぷんすかと怒りながら、部屋の電気のスイッチを押した。


部屋が明るくなると、貞子の全貌が明らかになる。


(あれ? 結構かわいい???)


俺は目を瞬かせる。

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