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ここは始発、妖界門前駅

 ピピピピッ――。


 ピピピピッ――。



 スマホのアラームでヒロシは目が覚めた。

 午前6:30 いつも起床する時間である。


 就寝前と景色が変わらないので、夢オチと言う訳ではなさそうだ。

 朝日が差し込む窓から、妖界の景色を見る。


 奥には山、目下にはモダン住宅や商店が広がる。

 地方のホテルに泊まった感覚だ。

 都会の喧騒とした景色とは違い、のどかで落ち着く所。

 何だろう、ノスタルジックな雰囲気……落ち着くなぁ。



 テレビをつけ、8チャンを入れると、めざ◯しテレビが流れる。

 もうツッコまないよ。


 いつもの様に身支度を整え、出勤の準備をする。


「さて、朝食に行こうかな。」


 朝食チケットを片手に、施設内のレストランへ向かうと数名の先客がいた。

 猫耳のおじさんに、小太りの人狼、胴体から下は蛇の女性。

 魔物の群れに腰が引けたが、外国人を見るかを様な目で見てくるだけで、特に気にされていない様だ。


 襲われないか周囲を警戒しながら、バイキングの料理を見る。


 福島県産のひとめぼれで炊いたご飯はこれか――。

 他に味噌汁や玉子焼きと言った和食から、パンやオムレツ、フライドポテト等の洋食……、中華、デザートetc


 頼むから人以外に異世界感出してよ……。



 適当に料理をとって席に付き、食事を頂く。

 普通にウマい。 



 食事を終えて、レストランを出ると昨夜の受付の青年がいた。


「お客様、おはようございます。昨夜はよく眠れました?」

「おはようございます。おかげさまでとても良く寝れましたよ。」


 睡眠時間が短いのは仕方ないが――。


「こちらの世界はいかがですか?ご不都合はございませんでしたでしょうか?」

「思った以上にとても快適ですよ。」


 ネットが通じない以外は――。


「それは良かったです。人間界から移住しても良いかもしれませんね。」

 青年は笑顔で言うが目が笑っていない。


「……まぁ、考えときます。」


「あっ、すいません。ボクみたいな風貌で言うと悪魔のささやきっぽくなりますよね。」

「……ははは。」


 怖ぇよ!苦笑いしかできないよ。


「ボク、笑顔が苦手なのでよく言われるんですよ。デビルスマイルって。」


 ギャグで言ってるのかどうか分からんな。


「あざとさを演出してみれば……いいかもしれないですね。」

 返答に困った様子でヒロシは話す。

 我ながらテキトーなことを言ってしまったな。


「こんな感じですか?」

 青年は先程の笑顔をベースに少しうつむいて、上目遣いになった。


「デビルスマイルのレベルが上がってるよ!デビルスマイルLV2だよ!何でそうなるの?何で若干、白目剥くの?」

「“あざとさ”を出してみたんですけど。」


「“あざとさ”より、“危なさ”が出てるよ!」

「そうですか……。」


 マジで凹む当たり、真剣な悩みなんだな――。


 ヒロシは何気なく時間を確認した。

 そろそろ出ないといけない時間だ。

 油を売っている場合じゃあないな。


「では、出勤時間が迫ってるので失礼しますね。笑顔の練習は鏡を見ながらするといいと思いますよ。」

「ありがとうございます。試してみます。」




 部屋に戻り、チェックアウトの準備を行う。

 ルームキーを持って受付へ行った。


 受付には、あの青年も職務に当たっている。

 昨夜からずっとなので遅番なのかな?


「チェックアウトで。」


「ご利用ありがとうございました。また、こちらの世界にいらして下さい。」

「ここって自由に行き来出来る所なの?」


「ボク、バイトだからチョットわからないです。」

「もはやテンプレだな。」


 ヒロシは踵を返し、出口へ向かう。


「では行ってらっしゃいませ。」

 青年の言葉に振り返ると笑顔で見送ってくれた。



 デビルスマイルLV2で――。



◆ ◇ ◆



 異世界、とはいっても“人”以外は日本だ。

 ホント、マジで。

 

 駅前のファンキーマートに入ると、あの音が鳴って陳列されているのも本家のモノと変わらない。

 もうツッコむところ無いよ。

 普通に生活できるよ。


 ガムとコーヒーを購入し改札へ向かう。 



 「えーっと、千葉方面の電車――。」


 7:41発 総武線 千葉行き。

 これに乗って行こう。


 ホームへ向かうと黄色の電車が待機していた。

 乗客は少ない。


 “人間”はオレ1人みたいだ。

 「やった!座れる!」


 席に座り、しばらくすると出発のアナウンスが流れ電車は発進した。


 オレ以外の“ヒト”達はどこへ行って、どうやって帰って来るんだろうな……?

 そういった疑問を持ちながら外の景色を眺めていると、白く眩しい光に包まれた。



◆ ◇ ◆



 気がつくとそこは三鷹駅発 総武線の電車内で座っていた。

 あの“ヒト”達はどこへ行ったのだろうか?

 通勤・通学の人間で車内は溢れている。


 毎朝見かける様な光景だ――。



 電車は遅れる事なく発車し、次の駅を目指した。


 昨夜降車し損ねた荻窪を通り過ぎ、会社のある新宿へ向かう。


 結局アレは何だったんだ?



 何事も無く新宿駅に着き、改札を出る。

 ちゃんと料金も取られた。


 ふとカバンの中を確認すると、異世界で購入した後に入れたガムとコーヒーがあった。

 無論コチラの世界の製品だ。

 


 会社に着き、昨夜の出来事を同僚や先輩に話した。


 みんな、ネタとして受け止めているが、証拠として異世界で撮った写真を見せるため、スマホを取り出した。


 見事に全て消えている。


 「えっ、何で?」


 くまなく探すが見つからない。

 飲み屋でお姉さんとエンジョイしている写真はバッチリ残っているのに……。


 だんだん周りの視線が冷たくなっていくのがわかる。



 焦っていると、先輩に肩をポンッと叩かれ、

「有給取った方がいいんじゃない?」

 と、デビルスマイルLV1で言われた。




 ああ、穴があったら入りたいな。

 異世界に行けるなら行きたいな。

何か感想、添削箇所があれば嬉しいです。

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