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妖界門前ホテル

 結局何だったんだ、あの乗務員は?

 ホント、ハラ立つなぁ。


 何はともあれ、急いで改札口へ向かう。

 普段から利用客が少ないのか小さめの駅だったため出口はわかりやすかった。


 胸ポケットから定期券を出し、改札機のICパネルに当てた。


 ピッ!


 しっかり乗り越し料金がチャージ金額から引かれたが改札から出ることが出来た。

 あの乗務員が言う通り、改札を出ると出てすぐにホテルの看板が見えた。


 『妖界門前ホテル この先100m』


 “妖界門前”という名称と、あの乗務員の風貌から予想するに、オレは今、“妖界”と言う異世界に来ているのだろう。


 日本語で書かれた看板の案内に従って小走りで先に進んだ。



 早くチェックインして休みたい――。


 そのような思いが先走ってしまい、見ず知らずの異世界にもかかわらず、全く警戒をしないで歩みを進めていた。


 駅の入口付近に立つと、そこは人通りはなく、オレ1人だ。

 深夜のため、この妖界の全貌はよく見えないが、月と街灯の灯りから雰囲気が伺える。




 インターロッキングが敷かれた歩道、白色のガードレール、アスファルトのロータリー。

 午前0:00に閉店するファンキーマート言う名前のコンビニと、ガイコクドラックというドラックストア……。

 


 

 どこの駅前だよ。

 ほとんど日本じゃねーか。

 異世界なのに親近感が湧くよ!


 てか、深夜営業しないあたり働き方改革進んでんな!




 看板に沿って、方向を変えた瞬間ホテルが視界に入る。


 周囲に高い建物は無く、住居系の建築物が立ち並ぶ中、1棟だけビジネスホテルの様な外観で、4階建ての建屋があった。

 その建屋の最上階部には妖界門前ホテルと言う看板が掲げられ、アームライトで照らされていた。


「あれか。」




◆ ◇ ◆




「いらっしゃいませ。」


 ホテルに入ると、頭に角を生やした黒髪の青年が挨拶をした。


「あっ、人間……ですよね?この時間ってことは迷い込まれた方ですか?」

「まぁ……そんな感じです。」


 青年はどうぞコチラへと、暖かく出迎えてくれる。頭に角、口元にはチラリと見える牙など、見た目は悪魔の様な風貌だが爽やかな好青年だ。


「一泊したいのですが、空いてますでしょうか?」

「本日は……シングルルームが残り2部屋空いております。宜しければコチラに記帳をお願いできますでしょうか?」


 差し出された宿泊者名簿にはお馴染みの項目が、日本語で記入する欄があったので必要箇所を埋めた。

 ここ、異世界だよね――?


「次に宿泊プラン何ですけども……迷い込みプランっというプランがお得ですね。」

「迷い込みプラン?」


「よくおられるんですよ。今週に入って10数名の方がご利用されております。」

「みんな迷い込み過ぎでしょ!?ちなみに金額は?」


「一泊朝食付きで、通常8,500円の所を2,800円です。」

「安っす!それで今週10数名って経営成り立つの?」


「ボク、バイトだからチョットわからないです。」

「あっそう、じゃあそれでお願いします。」

「ありがとうございます。」



「それでは、ご朝食なのですがバイキング方式となっております。コチラのチケットを明日、お持ち下さい。」


 異世界の食事か……。

 思いっきり日本だから変わり映えはしないんだろうな――。


「食事ってどんなのが出るのですか?」


「そうですね。」


 青年は少し考える様に間を置き、口を開いた。


「まず、お米は福島県産のひとめぼれを使用しておりまして、野菜は契約農家から仕入れています。三鷹市や小平市が多いですね。それと――。」

「ちょっと待った!」


 ヒロシは思わず言葉を遮る。


「――ここ異世界だよね?すごいワードが飛び交ったよ!福島県産の米とか?」


「被災地の支援です。産地直送ですよ。」

「産地直送?!どうやって仕入れるの?」


「運送会社や宅急便の方が届けてくれます。」

「どうやってこの世界来るの?!迷い込んで来る所じゃないの?」


「ボク、バイトだからチョットわからないです。」

「そこまで詳しくて知らんのはオカシイでしょ!」



「まぁいいや、じゃあ野菜も同じ様に?」

「はい、それもありますが契約農家さんが、直々に届けてくれることもあります。先日は三鷹市の佐藤さんがカリフラワーを届けてくれました。」


「佐藤さんすげぇな!どうやってここまで届けたんだ?」

「軽トラに積んで、ですね。」


「違う違う、そこじゃない!どうやってこの世界まで届けに来れたのかを聞いてるの!」

「ボク、バイトだからチョットわからないです。」

「だからそれはオカシイって!」



「もういいや、食事の面は心配なさそうだな。」


 料金を支払って鍵を受け取り、記載された部屋へ向かった。

 404号室なのでエレベーターで行ったが、エレベーターは、日◯製だ。


 部屋内も至って普通のビジネスホテルの内装である。

 ソニ◯製のテレビ、TO◯O製のトイレ(ウォシュレット付き)、資生◯のシャンプー類等々、連絡先まで全て日本だ。

 ファ◯リーズまである。

 スマホも充電できるぞ。


「ただの快適なホテルだな。」


 スマホを充電しようと画面を見ると圏外エリアだった――。

 そこだけ異世界なのかい。


 この世界に来て1時間も経っていないけど、どっと疲れたな。

 シャワーして、さっさと寝よう。

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