最悪な真相
夕方あたりの時間帯、漣さんはいつもの話に区切りを入れると、ベッドの隣にあったソファーに近寄り、そして、ほふ〜ε-(´∀`*)とまるで重労働をしたおばあさんのように腰を下ろした。…さっぱりわからない。さっきまでやっていたことといえば、漣さんが例の話を語るだけであった。知恵熱というものは確かにあるが、だとしてもそこまで疲れるものなのか?まるで自衛隊の訓練兵とタメを張る程度の疲れ具合に見える。…僕は、気になって漣さんに聞いてみることにした。しかし、その瞬間、ある可能性が頭をよぎった。
「…漣さん、どうしましたか?.まさか!?......もしかして!?」
「…やっと気づいたみたいだね。鈍感すぎるよ、君は。」
「漣さん…大丈夫です、安心してください。更年期障害って意外と」
「って違うよ!!…はぁ〜、鈍感もここまでくると、逆にひきますわ〜…しかも、インドの辛甘文化みたいに真逆だし…」
「真逆?どういうことですか?」
「…そこまで言って、わからない鈍感人間は嫌悪を通り越して、逆に絶句だわ。少しは、女の気持ちを読み取れるようになろうぜ、メルト君よー」
と、発言はやたらヤクザっぽいものであるが、その声は、かなりのローテンションである。いつもの明るい雰囲気とは何もかもが違いすぎた。むしろ、ここまで普段と違うと、同一人物かさえ疑わしいが、目の前にいるのは紛れもない普段の衣装を着た漣さんなのは間違えない。…ならば、今、起きている現象が余計わからない。いつもなら、話の後は、いろいろな体験を嬉々として語って、楽しそうにしていたが、今日だけは、違う。何か変わったことでもあったか?...朝や昼は、いつものご機嫌の調子で特に変わりはなかった。機嫌が変わったのは、話し終えた後だ。その時の様子を鮮明に思い出してみれば何かわかるかもしれない。。確か、語り部のときの彼女は、話をするのがまるでついでみたいに、他のことをやりながら話していたはずだ。その時にしていた行為は…確か…訳のわからないものだった気がする。漣さんは、バケツをどこかに置いて、それか、ら!!!?...え?いきなり、背後から重たい衝撃が来た。そう認識したときには、さっきよりもさらに不機嫌に漣さんがカナバケツを持ちながら、僕を見下ろしていた。
「こらー、人が話している時に、なに無視しとんの!?」
…どうやら、漣さんが話している間に思考していたようだ。それに現在漣さんは御立腹のようだ。逆に、僕はそれだけ心配していたってことになるな。…まぁ、そこまで漣さんに情を持つようになったのも”あれ”のおかげと考えれば、悪い気はしないけど…
「いや、すみません。なんの話をしていたんですか?」
「本当に聞いていなかったんだね(`Д´#)」
…今度は青筋を浮かべてきた。( ゜∀ ゜)…、これは冗談抜きで本当にやばいかも…
「落ち着いてください。漣さん、僕はあなたの体を心配することに集中していて、すこし注意散漫になっただけです。なにも漣さんを意識的に無視した訳じゃないですよ。そう。言うなればこれは不可抗力ですって。」
これでなんとか、おさまってほしかった、論理を巧みに操る漣さんを考えて、自分なりに最高の答えを選んだと思った。しかし、現実は実に残酷だった。
「へー#、そうかい#。女の子の気持ちも知らない分際で私を気遣うとか、随分と偉くなったもんだねぇ….ここは保護者として、特大のお灸を据えとかないとねぇ。」
…ああ、そうなのか。何を答えたとしても、結局は終わりなんだな。…そう思った瞬間、漣さんはいつの間にか僕の背後をとった。避けようとしても、その思考をした瞬間に漣さんに腕を掴まれていた。そして、なぜか腕の力が完全に抜け落ちて、もはや自分の手じゃないみたいだ。…最初に言っておくと、この後、決して某漫画みたく江口江口な展開になるわけではない。そもそも、漣さんは、なぜだかわからんが、そういうことができないのだ。よって、その系統の行為をすることは不可能である。まぁ、そんなのは、もうどうでも良くなった。だって、もうおわりだもの。おそらく、この攻撃で僕はふぬけになってしまうだろう。…もう話すのも、どうでもよかった。…もし生きてたら、幸運だと思おう。….そう思ったと同時に、僕の意識は闇へと消えた。
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「おーい、起きろ。メルト君、こんなので死ぬようなタマじゃないだろ?前回よりもきつめにしたが、それでも大丈夫のはずだ。」
「…生きてる?」
「当たり前じゃん。殺すつもりならとっくにしているよ。あくまで『特大のお灸』を据えるだけだからね。今回は、この程度で済んだけど、次やったら、本当に殺すからね。せいぜい気をつけること!」
「…肝に銘じておきます。」
「….うむ、よろしい。ところで、なんで私が怒っているのかところでわかった?」
『…あんな空間にいて、そんなこと思考できるわけないだろう。』と人生で最大級の訴えを叫びたくなるが、そんなことしたら、またあの空間に逆戻りだ。脳をフル稼働させて、思考しながら語った。
「漣さんは、『更年期障害』の逆の状態に陥っているんですよね。そして、若い女性に起こりがちで、なおかつ、ソファーにもたれてないと耐えられないほどの何かがある。そして、…また何かのいたずらなのか、伏線まで張りましたよね?」
「ん?なんのことかな?」
「ふざけないでください。そもそもがおかしかったんですよ。グアルダナッポをなぜ、ティータイムの菓子として出したのですか?しかしよりによって、『ナプキン』の意味を持つものを。」
「…で、それがなんだい?そもそも、そのグアルダナッポの意味について聞いてきたのは、君じゃないか?」
「確かにそうですけど、僕が聞かなければ漣さんが教えてましたよね。つまり、ただの結果論ですよ。なによりも、ポルボロンのギャグは秀逸でしたが、グアルダナッポのギャグは、単なるそこらの知識の寄せ集めじゃないですか?それって、今日、今のような状態になることを今日のティータイム直前に気づいて、即興で作ったギャグだからじゃないんですか?ギャグの精度が明らかに落ちてますよ。…まぁ、根拠はそれだけですが、わりと的を得た推理だと思いますよ。どうなんですか?」
「…いや、すごいねぇ。即興でここまで考えつくとは、さすがのお姉さんもこれには鼻高々だよ。悔しいが、認めよう…正解だよ。ということは、どうして私が今怒っているのか、わかったよね?」
「…簡潔にいうと、好奇心半分怒り半分というところですか?最初は、伏線をあえて張ってそのあと、漣さんの様子で僕が気づくか試していたというわけですね。しかし、全く気づくそぶりすらないため、次第に怒りに変わり、それが憤慨に変わったと。その怒っていることこそ、…女の子の日ではないですか?」
「...やっと気づいたか?はぁ、しょうがないメルト君め!再度繰り返すが、次このようなことがあったら、今度こそ殺すからな。女の子の気持ちに気づけない男こそ醜い生物はいないからね。…まぁ、それは置いとくとして、さっきの推理は、目を見張るものがある。私の語った”あの話"の推理もやってくれないか?」
「…それはいいですけど、もし僕の推理通りなら、漣さん、かなりずるいですよ。だって、渡された情報だけでは完全に犯人を断定できないですから。…まぁ、漣さんが言うところのサナエさんなら、それでもいいかもしれませんが。普通の人なら、この時点で解決は無理ですよね。完全、サナエさん以外解決できないですよね。」
「おー、そこまで考えついたのかい。その通りだよ。だけど、まぁいいじゃない。今回の事件のサナエの目的は、犯人を特定することではなく、犯人を捕まえることなんだから。実際、今渡した情報の段階で、サナエらは、犯人を捕まえようとしているだろう?まぁ、これが成功するかどうかは後で話すとして、君の推理を先に聞きたいな。」
「…わかりました。」
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「まず、変だと思ったのは、酒場に張り巡らされた『血』です。事件が起きた最初の時に、サナエさんが酒場に来た時刻に関して考えていきましょう。シャーリドさんが事件について認識した時刻が6時頃、さらにテイミリィが酒場に来た時刻は、4時頃。最初にさくらんぼの収穫をしていたシャーリドさんの反応から、この頃は事件について知らなかったため、サナエがシャーリドさんに会ったのは、少なくても6時頃より前。だから、酒場に入ったのは、推定すると、4時頃から6時頃の時間帯まで。そして、逆に、病院に着いて、再度酒場に来た時刻は、少なくてもPM6:42よりも後。そう考えますと、最低でも、血液が空気に触れてから、12時間が経っています。なのに、サナエさんは、酒場の惨劇を『血の湖』と表現しました。つまり、血が『固まっていなかった』のです。もし、固まっている表現なら、湖という言葉を使わずに、最低でもマグマとかの表現があったでしょう。しかし、それを使わなかったということは、そもそも固まっていないと考えられます。そうなると、酒場にあった血は、血に似た何かだと推測できます。じゃあ、なぜそんなものが撒き散らされているのか?それは、今推測した内容の範囲だとわかりかねるため、後々説明します。そして、今度は、考えるべき死因としては、まず刺殺がありえないことです。もし、刺殺をするなら、歴戦の兵士がたくさんいる時点で、余程の不意打ちをしなければ殺せませんし。第一、刃物は、使えば使うほど殺すほどの威力を発揮できなくなります。さらに、壁が傷ついていたため、人がいる位置さえわかれば外壁から刃物を突き出して殺せるかもしれないですが、壁側にいない人はどうします?さらに、そんな状況で酒場にいた人間に急所を的中させることも無理です。よって、このような状況で、刺殺するなんてよほどの達人でも無理ですよ。それでは、考えられる死因はなんなのでしょうか?なら、今度は、逆にありそうな死因を仮定して、推理を進めてみましょう。もし、間違っていたらどこかで矛盾が生まれるはずですし、その時は、また別の死因を考えればいいだけの話です。最初に考えられる死因は、割られた酒の瓶や樽による溺死です。もし、そうだと仮定すると、まず何らかの方法で酒場に酒を移動させ、その時点では、溺死させるほどの水量ではないため、何かの液体を付け足して、溺死させたんだと思います。まぁ、そういう死因にさせるには、いろいろな問題があるわけですが、まずは、付け足した液体に関して考えてみましょう。そもそも、酒場の半分は、貯蔵室の酒であるため、溺死させるためには酒場のもう半分の容積の液体を入れないといけません。酒場の半分の容積は、貯蔵室にあった酒全ての容積だと考えれば、酒場を液体で満たすには、かなり多くの液体が必要です。そう考えると、それだけの容積を用意できる液体は、あれしかないです。確か役場の仕事に、『上下水道の消費水量のデータ採取』があったはずです。そうすると、漣さんが話した世界には、上下水道が整備されていたと考えられます。つまり、水が出るわけです。…しかし、能力者がいた場合は別です。もし『液体を出す』能力者がいた場合は、わざわざ水なんか出さなくても、いいわけです。しかし、能力者は、数人しかいないと聞きます。そんな少ない確率のことを考えるよりも、実際に考えられる現実的な可能性を今は考えてみます。それで、もし矛盾が出たら修正すればいいだけの話ですしね。とにかく、。何らかの方法で、犯人は貯蔵室の酒を酒場に移し、そして、何らかの方法で上下水道を使って、水を付け足し溺死させた。…確かに、この方法ですと、酒場にいた人たちを一網打尽にできますが、大切な部分を見落としています。なぜ、被害者たちは、酒場の壁を壊してでも酒場から脱出できなかったのか?そうすると、『酒場の弾性の壁を斧で思いっきり切ってもうんともすんとも効かないこと。』が思い浮かびます。つまり、酒場の内壁は、強い弾性のせいで衝撃をことごとく跳ね返すというわけです。しかし、いくら内壁が頑丈でも外壁はそうではありません。内壁に伝わった衝撃が外壁に伝わって、外壁の方が先に崩れた部分がありました。確か、『ところが、その壁自体に、穴が空いた箇所が複数存在していた。』と漣さんは発言してましたよね?しかし、それでも脱出できなかった。そうなると考えられるものとしては、酒場にかけてあった布しかありません。さらに、酒場の壁は1cm間隔で空いていたため、この布は防音と防水と緩衝材の三つの機能を持っていることがわかります。もしかすると、緩衝材の機能は、ただ単に布の内側の部分を内壁のあの緑の塗装をした結果であるだけかもしれませんが…まぁ、そんなことはとにかくどうでもいいわけです。ならば、なぜ天井方向に逃げられなかったのでしょう?そこなら、緑の塗装はもちろん、布だってかかっていません。…まぁ、それに関しては、今の情報ではわからないため、更に熟考した後で再度考えてみたほうがいいかもしれません。とにかく、今の推論では、液体で満たされた酒場に被害者たちは溺死したというわけです。それが真として考えてみると、そもそも犯人は、貯蔵室に行く必要があったわけです。なぜなら、能力がない一般人なら、まずは酒場の貯蔵室に入って、そこから貯蔵室の酒瓶などを割って、酒場につながる大きな穴を作ったと考えます。それとも、貯蔵室から酒場につながるような抜け穴でも作ったのでしょうか?後者はあり得ません。なぜなら、もしその穴を作ったとしても、ものすごく大きな穴が必要になったはずです。なぜなら、犯人は、被害者たちを閉じ込める手段として使ったのは、内壁と布です。それだけで、小さな穴を通った水が、酒場を満たすまでどれだけの時間がかかると思いますか?結構な時間がかかってしまいます。その間、誰かに壁と布を壊されたら犯人の狙いは瓦解してしまいます。よって、能力を持たない一般人の場合は、サナエさんが貯蔵室で見た大きな穴で酒を酒場へ移動させたはずです。それでは、能力者の場合どうでしょう?これの場合、考えられるものとしては、自分の姿を変える”変身”という能力か、相手に幻想を見せる”幻惑”という能力のどっちかでしょう。可能性としては、前者の方が可能性が高そうです。なぜなら、サナエさんの場合もシャーリドさんの場合も能力を発動するには、理性というものが媒介しないと発動しないと漣さんは、解説しました。そうなると、今回の能力者も理性を媒介にしないと能力は発生しないと考えた方が自然です。もし、間違っていたら、矛盾が出るはずですから、その時は今回の犯人は、理性を必要としないと考えればいいのだけの話です。そうすると、もし、貯蔵室に上がるとしたら、オリヴィエさんの姿にならないと入れません。店主は既に酒場にいるはずですから、それしかありえないのです。そうなると、犯行時刻は、オリヴィエが出て行った時刻からになる。なぜなら、そもそもオリヴィエがいないことを確認しないと矛盾が生じるからです。そして、なぜ”変身”のほうが可能性が高いのかというと、先ほどの説明を真と仮定すると、もし”幻惑”だった場合、酒場にいた十数人の一般人に理性を与えないといけないわけです。そうなると、理性の消費量が膨大になってしまいます。そのため、”変身”の方が可能性が高いです。ならばサナエさんと同じ”移動”という能力であるなら、どうでしょうか?これはそもそも無理です。もし、店長とオリヴィエさんしか行ったこともない貯蔵室に行けるとしたら、犯人はただ場所を意識するだけで”移動”できるということになります。もしそうなら、なぜサナエさんは意識して、犯人のところに行かなかったか?いきなり犯人のところに現れれば、犯人にとっての不意打ちとなり、そこで犯人に触れて、即牢屋に移動すればいいだけの話です。なぜそんなことをしなかったのか?なぜわざわざ捜査という回りくどいことをしたのか?簡単です。そもそも、意識した場所がしっかりとわかっているところでなければ、”移動”できないということです。ならば、犯人が貯蔵室に入ることも叶わないでしょう。そうなると、能力者ならば、一番可能性が高い能力は、”変身”。つまり、犯人は、オリヴィエさんに化けて、2階へ行ったということです。今のを考えると、逆に一般人はどうやったら、2階へ入れるでしょうか?2階で唯一入れる窓は、事件発生までずっと2重ロックがかかっていたと言われています。それをどうやってサナエさんは気づいたのでしょうか?考えられる可能性は、オリヴィエに事件前の窓の様子のその構造を聞いたということです。漣さんの発言では、『酒場の2階にある事件当時からずっと閉まった二重ロック式の窓。』と断言されているため、その可能性が高いでしょう。つまり、犯人がその窓から入ることは、詳しいことは分かりませんが、できないということです。そのため、犯人は少なくても”能力者”であることは確定しているということです。今回は、もっとも可能性が高い”変身”という能力であると仮定します。今までの推論をまとめると、『犯人は、オリヴィエさんが出て行った後に、”変身”をしてオリヴィエさんになり代わり、2階の貯蔵室へ行き、酒場の樽を割り、そして大穴を開けて、そのあと何らかの方法で水を酒場の半分の量まで入れて、被害者たちを溺死させた。』ということです。」
「おっと、メルト君。一応聞くけど?酒場の壁は、1cm間隔の隙間があったんだよ。そこはどう説明するのかな?」
「ん?そんなのわかりきっているじゃないですか?酒場の外側を覆っていた布を使って、液体漏れを防いだんですよ。それに、おそらく酒場の底側に布を固定していたはずですよ。じゃないと、被害者たちの攻撃を受けたら、布が壊れる前に、布が傾いて酒場の左右どちらかから落ちてしまうわけですし。」
「ふふふ、わかっているならいいんだよ。」
「いきなりなんですか?そんなこと、漣さんならわかりきっているじゃないですか。」
「別に。ただの気まぐれだよ。それよりも続けて続けて。」
となんだかわくわくした視線を送ってきた。…このシナリオを即興で考えた漣さんの方が一番すごいよ。
「わかりました。」
「そのあとは、どこかに、使った液体を隠せるような場所に移動したんでしょう。しかし、捜査の途中でそれを隠し通せるほどの大きな場所などなかったわけです。よって、考えられるものとしては、酒場の地下です。おそらく地下のどこかから酒場につながるような小さな穴が酒場の床にあったわけです。しかし、人に気づかれないほど小さな穴。または、あっても酒場だから気にされないほどの穴だったんでしょう。サナエさんは、事件の捜査中に酒場の床の穴について言及してませんでした。ということは、穴はいつもと変わらないか。変わっても気付かない程度のものだったのでしょう。それを使って、全ての液体を地下に流し込むとなると、たいそうな時間がかかります。それでも、見つからないようにあえて穴を小さいまましたということは犯人は相当用心深い性格のようです。さらに、アルコールの匂いについて、サナエさんは言及されてませんでした。よって、おそらく一回、犯行に使った液体を地下に流した後、さらにもう一回、酒場の水を使って、酒場を洗ったのでしょう。こうしたことからも犯人の用心深さが見えてきます。そして、おそらく死因が刺殺に見せかけるように、傷をつけたのでしょう。しかし、犯人は重大なミスを犯しています。急所ばかりを狙ったことです。普通、この人数の刺殺なら、必ず何かの争ったあとくらいは残ります。例えば、腕の傷とかの致命傷にならない部分とかです。しかし、被害者たち全員に全くそれが見当たりません。よって、これらが刺殺ではないことの証明になったはずです。そのあと、いかにも刺殺されたかのように見せるように死体を別々の場所に分散させて、事件とは関係ない店主さんとオリヴィエさんの部屋が荒らされていたことや大穴が空いていたことを考えると、捜査を混乱させる目的でもある酒場の床とかの傷をおそらく増やしたりしたのでしょう。そのあとなんなのかわからないですが、血に似た液体を壁という壁にばら撒きました。これはおそらくアルコールの臭い消しのためだと推測できます。そして、4時くらいにテイミリィさんが犯人を確認したため、殺されたように見えます。しかし、それがおかしいのです。そのとき、テイミリィさんの証言によれば、犯人はシャーリドさんの姿になっていたそうです。つまり、シャーリドさんの姿に”変身”したということです。しかしそれならば、別にテイミリィさんを殺さなくても、むしろ逃がせばシャーリドさんに疑いが向き、犯人の疑惑が薄まるはずです。なのに、なぜ殺したのか?よりによって、”分身”という能力で殺すのが一番めんどくさい彼女を殺したのか?むしろ、殺さないといけない存在だったのではないかと思います。そもそも、犯行時刻は、テイミリィさんの働き始めて10周年記念日の前夜祭みたいな感じです。それならば、むしろ主役のテイミリィがいると考える方が自然ではないですか?だから、最初からテイミリィを殺すためにやった犯行だと思います。しかし、まだ疑問が残ります。まず、犯人は、酒場に入ってから、2階の貯蔵室に向かったはずです。ならば、酒場に入った時に、テイミリィさんをなぜ確認しなかったのですか?考えられる可能性は、テイミリィさんがいることを確認することも忘れる、あるいは、蔑ろにするほどの何かがあったのでしょう。この酒場全体の中で起こったことといえば、オリヴィエさんの貯蔵室の酒瓶破壊です。それを聞いた犯人は、2階に行ったのか?いや、それは考え難いです。あのとき、酒場では結構な騒がしさだと聞いています。それならば、一番距離が遠い2階の瓶の割れる音など聴こえるものでしょうか。今までの仮説が正しければ酒場の店主ですら聞こえなかったのです。客観的に考えれば無理です。それならば、どうやって犯人は、2階の異変に気づいたのでしょうか?考えられるものとしては、『酒場の貯蔵室に、透明な見たことない小さな箱』か、伝達役の能力者です。能力者この際、いるかどうかは後で考えるとして、『酒場の貯蔵室に、透明な見たことない小さな箱』がとにかく考えものです。まず透明なものといえば、現代で言えば、プラスチック類とかその類のものです。しかし、それを作るには電気を使った技術が必要ですし、なによりも材料となる過去の生物を掘り出すのも、重要なインフラのひとつである水道が『人力で供給されている水道』である時点で、電気という概念もプラスティックという概念もないものと思います。それならば、ガラスはどうでしょう。…それも不可能です。ガラスは光に敏感なため、すぐに気づかれてしまいます。ならば、もっとシンプルに”変身”の能力を使って、その箱だった物質を透明にしたということでしょう。しかし、プラスティックのような透明なものを作れない貧民街で、人が認識できないほどの透明な物質を考え出す発想もないでしょうから、そうなると犯人は、少なくてもこの貧民街出身の人ではないです。さらに、この透明な物質も当然犯人のものというわけです。しかし、自分の持ち物の一つを犯行現場に置いていったことは犯人にとって、自分の正体が貧民街出身ではないということを伝えるデメリットでしかないものですから、なぜ回収しなかったのでしょうか?...回収できなくなる可能性としては、犯人の元に予測もしない事態が起きたか、サナエさんを恐れたのか、のどれかしか今は考えつきませんでした。まず、犯行に使った液体を地下に流している最中に犯人はその箱は回収可能のはずでしたから、おそらく自分の正体がバレる可能性に賭けてでも、貯蔵室にあの箱を残したかったというわけです。しかし、ずっと置いておくわけにも参りません。正体がバレる可能性を賭けるのはあくまで貯蔵室に置いておくことの利益のためであって、犯人は正体がバレることは恐れているはずだからです。よって、どこかのタイミングで回収する予定のはずですが、先程のような例によって回収できなかったと考えられます。先程の前者は推測不可能なので考えませんが、後者の場合とは、サナエさんの”警鐘”の能力です。もし、サナエさんの捜査途中または、その前から誰かがサナエさんの“警鐘”の理性量を増やして感度を上げた道具を事件発覚時にどこかに隠して、酒場に戻ってきた犯人を追い詰める可能性を懸念していたのでしょう。とにかく、この箱がただのハッタリである可能性もありますが、今は、この箱によって、犯人は貯蔵室での酒瓶破壊について知ることができたと仮定します。つまり、少なくても音声はあの箱を通じて犯人に送られてきたというわけです。そうなると、そんなことができる技術は現代技術と同等のものになります。そんなことができる国といえば、漣さんの説明で考える限り、とても信じ難いですが、隣国のヴェナンサジロではないでしょうか。こんな古代の時代にとてもあり得ないですが、おそらく一番技術力のあるヴェナンサジロしかあり得ないと思います。よって、犯人はヴェナンサジロの人間だと仮定します。しかし、本当にヴェナンサジロの人間なら、貧民街とはいえアデルプラント王国にいること自体がおかしいですが、、ある一つのことを除いて、、、とにかく、その箱のおかげで、貯蔵室の酒瓶が壊されていることを知った犯人は、オリヴィエさんが酒場に出てくるのを確認すると、”変身”を使って行ったわけです。テイミリィさんを確認していなかったこと、盗聴器が貯蔵室に仕掛けられていたことから、前もって貯蔵室で今回の事件と同じようなことをやろうとしていたはずが、先に壊されていたため、急いで計画に移ったのだと思います。その証拠は、酒場から地下につながる穴を作っていることがそうです。
第二に、テイミリィさんの”分身”があれば、犯人から逃げられたはずです。なにせ複数人をいきなり出して犯人に向かって突進すればいいわけですから。ではなぜ、逃げられなかったのか?窓から逃げようとすることもできたはずですが、前述の通り、窓は事件発生時から、閉じていたためそれはあり得ません。ということは、考えられる可能性は、ドアがどうしても開かなかった。ならば、犯人はどうやって、現場から逃れたのか...もう一人の加害者が、ドアを何か重いもので塞いだのかと思いましたが、そんなことをしたらむしろ通行人にバレてしまったら大変だと慎重な犯人は考えるはずです。どういうことかというと、貧民街であるなら、少なくとも街の治安を守るため夜の警備員もいるはずです。事実、ガーリヤさんは夜の見回りをやっていたわけですし。それらに酒場を見回れるのを恐れたはずです。ならば、ヴェナンサジロの技術を使って、オートロックのドアに改造したかそういう能力者がいたかのどちらかになります。能力者の希少性を考えると、前者の方でしょう。しかし、時間的に考えるとなかなかシビアだと思います。なぜなら、犯行時刻を最大で見積もっても2:00~4:00の間ですからね。しかし、そこは犯人の手際が良かったのかと思います。それくらいしか考えられないですしね。とにかく、テイミリィさんを殺した後には、血の匂いを完全に消すためにシャワーをしたんじゃないでしょうか?まぁ、”変身”の能力がどこまでのものかわからない以上、その必要はないかもしれませんが。まとめると『犯人は、ヴェナンサジロの人間で、今回の事件のような計画を前もって考えていた。その技術力を活かして貯蔵室のところに、あらかじめ”変身”の能力で透明化した小型の盗聴器を仕込み、酒場の酒瓶が割れたことを理解、そしてオリヴィエさんが酒場から出たことを確認するとオリヴィエさんに成り代わって、酒場の貯蔵室に入って、何らかの方法で早めの時間で酒場を液体で満たした。もちろん、内壁の弾性力と布の内側の弾性力が合わさって、被害者たちは抜け出せなかった。天井部分を除いては。そして、被害者らが溺死した後に、地下に繋がる小さな穴で水を抜きながらアルコールの匂いを消すために水を使って酒を薄めることを最低2回くらいは繰り返した。もちろん、壁には布をしっかりとかけた状態で。そして、液体を抜かしたあとに、刺殺に見せかけるために被害者たちの急所を傷つけ場所をそれぞれ移動し、床や壁に傷をつけてから、血に似た液体(おそらく、アルコールの臭い消しのため)をぶち撒けて、アルコールの匂いを完全に気づかないようにした。ただし、犯人は酒場に誰かが訪れた場合は考えて、あらかじめシャーリドさんに”変身”した。普通ならば、殺さずに逃していただろうが、4時くらいに発見したのが、テイミリィさんだった。そして、当初の計画通りに殺したあとに、やったかわからないが、臭い消しのためにシャワーをした。そして、ドアを開けて、酒場を去った。』というわけです。
このまとめでの疑問を今までの推測から導き出すと、まず最初に『被害者たちはなぜ天井部分から脱出できなかったのか』を考えます。犯人は、酒場のドアをオートロックにするほどの技術力を持ちます。それなら、鏡をはめ込むの業者が弾性力のあるあの緑の塗装をしたらしいので、犯人はあらかじめその業者に成り代わったのでしょう。そうなると、『業者=犯人』の関係が成り立ちます。もしそれが真ならば、実際に酒場の天井には何もしてないように”変身”することが可能であるわけです、実際はその塗装をしているのにもかかわらず。さらに、貯蔵室の大穴は、犯人がオリヴィエさんが去った後にあらかじめ、貯蔵室に酒を満たしておいて、そのあと大穴を開けてから、貯蔵室に透明に隠しておいた大きめの強い弾性塗装をした蓋を使って閉じ込めておけばいいわけです。それをするには、かなりの力が必要ですが、力持ちでもあったのでしょう。ここまで推測すると、店主曰く『今回の業者=前回の業者』のため、『前回の業者=犯人』の関係が成り立ちます。ちなみに、サナエさんが、『犯人≠業者』と言っていた、「『帝都の業者ならいそがしいから長期期間滞在できないということ。だから、犯人ではない』は、犯人は非常に用心深いため、酒場の水道を使わない。なぜなら、役場で水が大量に使われていることがバレるため、刺殺にならないため。だから、残る手段として、上下水道の管から、高性能ポンプをいくつも使って吸い上げて、複数の小さな穴から水を出す方法をとって、酒場を液体で満たした。役場でサナエさんが調べてもらったことは、おそらく犯行時刻の酒場の消費水量でしょう。つまり、酒場の水を使ったのか上下水道管から直接吸い上げたのかを調べたかったというわけです。とにかく、この方法を取るには、かなりの期間、この貧民街にいなければならない。なぜなら、この貧民街は小さな町であるため、他のところから来た人は注目が集まる。そのため、比較的、注目されない深夜の時間帯で行う必要もあるし、さらに上下水道は地下深くにあるため、酒場までのルートだとかなりの時間がかかる。さらに、動機に関わる部分、、まぁそこは後で話すとして、これらの理由で犯人は長期滞在者出ないと無理。よって、ちょくちょく移動する帝都の業者だと無理。という結論でしたが、犯人が”変身”の能力者なら、姿さえ業者の姿なら大丈夫であり、ふだんは違う姿であれば問題ないため、この理論が破綻する。」
2番目に、『布をかけた状態でも、布に犯行に使った液体が溜まるが、その液体はどうする。』ということです。もし、上記の全ての犯行が終わったとしても、『被害者たちはさまざまな状態で見つかった。=いろんな武器を使った』ということなので、犯人は被害者らを傷つけるために使った道具と布を持ち歩いた状態で酒場を去らないといけないです。そうしないと、サナエさんが武器に反応しなかった理由がわからないからです。一番、犯人は一番時間をかけずにやりたいはずです。なぜなら、朝になればなるほど、酒場のみなさんが増えてくるからです。その証拠に、犯人は、わざわざアルコールを水で飛ばすという本格的に匂いが消せることをせずよい強い匂いで間接的にアルコールの匂いを消しています。よって、犯人は短時間で安全な処理方法を望んでいます。考えられる限りの短時間で安全に処理する方法は、大きな荷物を背負った恰幅の良い人間の姿になることじゃないですか?そうすれば、武器を手で持ち、背中で液体の入った布を背負っても怪しまれません。
3番目は、なぜテイミリィさんが狙われたのかということです。漣さんの話を聞く限りだとテイミリィさんに憎まれるほどの動機はないです。ならば、逆にテイミリィさんと親しい人を傷つけるため、この事件を起こしたのかもしれません。そうなると、まず筆頭に上がるのが、サナエさんです。サナエさんが恨まれそうなマイナス点をあげると、まず『世界と自分と意識と...なにもかも、どす黒い衝動に染まった。』という漣さんが語った部分。『世界と自分』という分け方をしている時点で、自分と世界は別物だとわかります。そして、世界と自分…..はどす黒い衝動に染まった。とあるので、サナエさんは、少なくてもサナエさんのテイミリィ死体発見時の心情のような状態が自分とは違う存在である世界にもなりかけた、と推測できます。ここだけ見ると、サナエさんが理性よりも欲望や衝動に襲われると、現実世界にかなりの影響を与える存在と考えられます。これがもし本当なら、客観的にみて厄介な存在ですね。2点目に、サナエさん曰く、テイミリィさんのいつもの他者への発言である、『っ、、っ、、、私の中でっ、、1番の、、、最高の、生きる道しるべである、、お兄様を、、っ、、、っ、、馬鹿にしないで、、っ、、ください。。』という点。つまり、一生懸命みんなのために尽くしているのに、サナエさんは嫌われているということです。もし、1点目のことが真実ならば、どんなに尽くしてもナ●トの●尾みたいな存在ですから、嫌われるのも納得です。この2点をみてみると、サナエさんは客観的にみてかなりの危険人物で、いつ暴走するかわからないため、みんなに嫌われているということでしょう。それに、もし暴走しかけたことはあっても、一度も被害がでていないならサナエさんが大人になっても一生嫌われ続けるのは少しおかしい気がします。つまり、過去にサナエさん絡みで事件があったわけです。貧民街全員に嫌われるような事件で、漣さんが話した内容の中だと、おそらくここが貧民街になった理由である貧民街以外の全ての周辺都市が砂漠化したという話でしょう。それで、自国のアデルプラントが首都を入れ替え、隣国のヴェナンサジロが警戒体制を引き、そこから互いに鎖国状態になったという推測です。そして、今回の事件の犯人は、おそらくヴェナンサジロからの使者でしょう。なぜなら、技術が完全ヴェナンサジロのものですし、鎖国状態のヴェナンサジロがこのような技術者を逃すわけがありません。だとすると、もともとヴェナンサジロの技術者で、研究熱心の国だと聞いていますし、サナエさんをヴェナンサジロへ連れ出すために、テイミリィを殺して、その犯人がテイミリィに成り代わって、酒場の人が全員殺されたことにショックを受けて、ヴェナンサジロに移りたいとでも言ってサナエさんをヴェナンサジロへ連れ出すつもりだったのでしょう。そうして、莫大な力を持つサナエさんを研究材料にするわけです。そのために、サナエさんについて詳しい情報収集が必要だったはずです。よって、長期滞在者でないとこの事件は成り立たないです。
そして、肝心の犯人ですが、シャーリドさんか、ガーリヤさんか、ホテルに住んでいる1名の長期滞在者のどれかです。なぜなら、貧民街に住んでいる人たちの中の誰かが犯人ならば、深夜に穴を掘っても、まともな家ではないため、壁が薄い。仮に、例の防音布を使っても、別の国から来たものは注目されてしまうため、完全にやりにくい。そんな途方もない場所で作業する気にはなれるはずがない。そこで、長期滞在者でかつ、しっかりとした家で住んでいるこの3名の可能性が高い。なかでも、一番可能性が高いのは、ホテルの長期滞在者である人。単純に、シャーリドさんとガーリヤさんにはアルバイがあるからだ。だけど、あくまで推測の域を出ないため、確定ではない。それでも、サナエさんは、犯人を絞ることができたため、これら3名に対して、触れようとするはずです。もし、今回の用心深い犯人ならばすぐに避けようとするはずです。漣さんの解説上、シャーリドさんだけは、微妙なところですが。とにかく、それをやってから、今話した推理のあらすじを告げて、動揺したらその人が犯人と決めるという方法じゃないですか?....まぁ、それはどうでもいいです。どうでしょうか。この推理はあってますか?一応筋は通っているはずですが。」
そういうと漣さんは、眉を寄せてこう言った。
「うん。合っている。すごいほど合っているよ。」
と言って、なんだかどんな感情なのかわからない表情をした。
「どうしたんですか?」
「いやー、すこし悔しくてね〜。一応、なけなしの私の脳を10%くらい使って、考えだしたものなのに、こうも即興で解かれて、驚くよりも残念です。…次は、30%の力でいくから覚悟してね。」
「… え?まだ、難しくできるんですか?」
「大丈夫、次からはシンキングタイムをしっかり出すから。」
「え〜、いくらそうでも、いやですよ。」
「だ〜め〜」
と言って、指で額を突いてきた。
「これは、とても必要な行為だから、や る の!!はやく、私のように賢くなりなさい。そうしたら、いっぱい可愛がってあげるから。」
「漣さんがいう、『可愛がる』のはかなりいやです。」
「そんな真剣な声音で言わなくていいじゃん!?大丈夫、普通の可愛がり方だから。….あと、メルト君、最後の演説口調連発は、敬語がめんどくさくなってきたんだねぇ」
「藪蛇です。」