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犯人は誰だ4

pm3:35、よく、3時のおやつ、とも言われること時間帯だが、実際には『1日の中で最も脂肪になりにくい時間帯』として本当に効果があるらしい。詳しい論文のデータなどは、全く知らないため、確かなことではないのだが、この時間に、いつも漣さんがお菓子と紅茶を召し上がるのも、そういうのが理由かもしれない。テーブルの上には、前に僕の前で食べていたポルボロンと食パンみたいな見た目の生地に黄身色のジャム?みたいな物質がのった菓子『漣さんが言うには、グアルダナッポという名のポルトガルのお菓子らしい』をちょびちょびと食べながら、紅茶を飲んでいる。どうしてそんなにお菓子を多く知っているのだろうか、と思い聞いてみたが、漣さんは「単なる趣味だけど」と言った。...まさかそんな女の子らしい趣味があることに驚いたが、漣さんの女の子らしさを認識できてよかった。ここで、もし趣味が、人体実験とかだったら、目も当てられない光景が広がっていたため、そこは普通で本当に良かったと思う。とある日のティータイムでは、ほとんど漣さんがポルボロンを召し上がったが、今回は僕も一緒に目の前にある二種類のお菓子を交互に食べている。

「ねぇ、メルト君。おいしい?そのグアルダナッポ。」

「はむ...はむ...はむ...、おいしいですよ。そのにしても意外ですね。このグアルダナッポの食パン部分って、メレンゲを焼いたものだったんですね。でも、そうなるとこのお菓子ってほとんど、卵じゃないですか?このジャム部分だって、卵だし、食パン部分も卵ですし。ポルトガルってそこまで卵って有名でしたっけ?」

「何を言っているんだ。ポルトガルの菓子といえば、卵だらけだぞ。有名なものだと....そうだな...、エッグタルトは知っているん?」

「はい、それならなんとか。」

「あれも、ポルトガル発祥だよ。」

「え!そうなんですか。」

「ふふ、知らなかったのかい?『卵菓子=ポルトガル』となるほど、卵菓子は有名だけどなぁ。」

「じゃあ、プリンもポルトガル発祥なんですか?」

「あ....」

そう聞くと、漣さんは視線を逸らし、口籠ってしまった。おそらく、有名な菓子を考慮できなかった自分が恥ずかしいのだろう。しかし、沈黙に耐えられなかったのか、小さな声でこう言った。

「プリンは、.....残念ながら....英国発祥だ。」

...イギリス、この国は、近代化をいち早く遂行した国で世界の中でも、トップクラスの学業先進国、つまり能力者否定国だ。そういう意味では、漣さんの嫌いな国の一つだろう。だから、その地雷と前述した恥ずかしさで、なかなか会話を話し始めづらいということだろう。ここは、僕が話題を提示しようとしたが、それがまさにある意味ミラクルだった。

「ところで、漣さん、このグアルダナッポって、日本語だと何ですか?」

「...メルト君、なかなか攻めた質問をしてくるねぇ。それとも、本当に知らないのかなぁ?」

とやたら自虐気味な雰囲気を残しながら、少し頬を膨らませて、少し責めるような言い方をしてきた。

「え?まさか、それも英国関係のやつですか?」

「あ〜、本当に知らないのね。ふふふ、だったら話は別だよ。当ててごらん。もし当たったら、また好きな料理を私がご馳走してあげるよ。」

と、今度は悪戯な笑みを浮かべて、猫の目でこちらをターゲットのように見つめてくる。...どうやら、からかう話題が見つかって、悪癖である悪戯心が騒いだみたいだな。でも、そんなにノリノリで聞いてくるということは、英国関係ではないのか。いたずらっ子の表情を浮かべて、質問するということは、江口系なのか...うーん。

「お尻ですか?」

と我ながら会心の回答だと思って、答えた。だが、

「...えー!!...メルト君、いくらなんでもふざけすぎ。それじゃあ、ただの監●学園の理事長の好物じゃん。それに、その表情、まさにあの質問のときの主人公のドヤ顔だよ。...メルト君がそこまで江口江口していたとは、お姉さん、結構ショックです。」

と、わざとらしくショックげな顔を作って、アピールしてきた。その表情に、若干の苛立ちを覚えながら、聞き返した。

「じゃあ、なんですか?」

「それをワザと私に聞くの?いよいよ、『変●ここに極まりけり』だねぇ。まぁ、いいよ。...この、『ぐあっ!!_(꒪ཀ꒪」∠)_ランランルーダクルッポー⊹⋛⋋(◐⊝◑)⋌⋚⊹だハメ』は、日本語訳にするとねぇ、、、なんと、、、、『ナプキン』でした( ̄∇ ̄ノノ\パチパチパチ!! 」

とまるで誕生日を祝う拍手をするような効果音が出そうな、テンションで答えを告げた。...『ナプキン』かぁ。実物を実際に見たことはないが、知ってはいる。いわゆる、女の子の日に使うものだ。しかし、わざわざこんな名前をつけるとか発案者は、お菓子になんか恨みでもあるのか?と思わずにはいられない。まぁ、もし僕の答えた『お尻』でも、思うことは同じだが...

「随分と不名誉な名前ですね。」

「あれ?菓子の改名については、触れないんだ。かなしきかな、かなしきかな。これについてはこの間のポルノボロンほどではないにしろ、結構な自信作のギャグだったのにね。」

「ギャグもやり過ぎると価値を失うのですよ。とにかく、この菓子が開発された時代に『ナプキン』があったことにも驚きましたが、それよりもなんなんですか?その不名誉さは。」

「まあまあ、いいじゃないか。私は、この常識に縛られないネーミングセンスは逆に素晴らしいと思ってるよ。」

「お菓子に江口ネーミングをするとか、常識どころか、理性までも喪失している気がするのは僕だけですか?」

「でも、道端で直接、襲う犯罪行為よりもそういうものの開発で解消させた方がよっぽど高尚で平和的じゃない?なによりもここに最低でも一人は、そのネーミングで楽しんでいるんだからwww」

と言って、僕に視線を向けていた。

「僕は楽しんでませんよ。」

「ん?誰が君のことを言ったの?wwそのネーミングで楽しんでいるのは、わ た し☆ふふふ、やっぱり、君はいじればいじるほど、味が出てくるねぇwwwなんだかんだ言って、君が一番楽しいよwww」

と言って、大笑いをした。ああ、結局、このティータイムはこの間のやつと同じで、江口で終わるんだなと思ったと同時に、3時のおやつが終わり、4時になった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


「あー、笑った笑った。...そういえば、あの話を途中で止めてしまったわけだね、じゃあ続きをやろっか?」

「...わかりましたよ。それでは、始めてください。」

「...」

「馬小屋の店主の馬が全頭殺されたことが判明したというところまでです。」

「やっぱり、気が利くねぇ、メルト君は。それじゃあ、始めるか。」

今から思えば随分前になる物忘れが激しいことについては言及してはいけないという教訓を忘れずにおいたことを後で感謝した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


普通の思考なら、馬という唯一の脱出手段を手放すのは、はっきり言って、悪手だとしか思えない。もし馬を殺すなら、自分の使う馬以外は全て殺すのが定石だろう。だが、この場合は馬小屋に存在する馬全員が殺されている。...『犯人=狂人』なのかとしか思えないが、そんなので思考を止めてはいけない。とにかく、今はいち早く情報が必要だ。そう思い、次の情報収集場所へと移った。今度は、特にこれと言った収集場所は思い浮かばない。とりあえず、もしかすると、殺したいのは、あの中の被害者の一部だったかもしれない。実際は、その一部を倒したくて、しかし完全犯罪を起こす仕掛けがこの酒場でしか思い付かなくて、しかたなく、恨みのないものも殺した可能性もある。とにかく、被害者の家族に被害者についてしらみつぶしに探ってみるか...


結局、被害者全員の家族から事情を聞くのに、朝になるまでかかってしまった。しかし、被害者家族は、遅い時間にも関わらず、被害者家族たちは、僕がこの事件を解決するためだと知ると、寝る間も惜しんで細かなことまで伝えてくれた。やはり、家族を殺されたことに対する怒りは、あるわけだなと改めて思った。それにしても、やっぱり、この街の住人は基本的に賢い。僕の予測では、今回の事件は少なくても一人の能力者が絡んでいる。その能力者がシャーリドさんであるかはともかくとして、あんな悲惨な事件を起こした犯人が、まだこの街にいる可能性が非常に高いのだ。そんな状態で、犯人探しをしようとするのなら、それこそ自殺行為に他ならないだろう。よって、シャーリドさんが伝えてくれたこともあって、犯人探しは僕に一任されている。とにかく、事情を聞いた成果としては、はっきり言って、聞いてきたことで事件との関連性がまるでなかった。また、今回の事件の被害者たちはどれも他人から恨まれるようなことを過去にしていないし、当然現在でもそのようなことはなかった。だとしたら、あと残されている動機としては、国家精鋭部隊に捕まった犯人の逆恨みとかか?流石に、酒の勢いであの人数を殺したとしたら、無理があるため、それもないだろう。それならと。過去に犯罪歴のある人間を探そうと思い、僕はこの街のブレインとも言える役場に”移動”した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


一般的に、能力者は寝ないと能力の精度が落ちていく。というのも、そもそも能力とは、理性が元の力であり、精神が衰えていくと、理性の量も能力を使わずとも消費していき、理性の質も下がる。よって、必然的に能力の質が下がっていくのである。かくいう、僕もその例外ではない。確かに、僕には”超回復”があるため、寝ないことによる身体的ダメージはないが、精神的ダメージは一般人と同様にある。普通、寝ないことによって体のあっちこっちに異常が生じ、そのストレスから精神的な疲れが生じると思う人が多いだろう。僕も、寝ない体験をする前までは同じことを思っていたが、それによって、今話した因果関係が精神的ダメージに繋がらないということは明らかだろう。そこで、このことをシャーリドさんに相談してみると、驚いたことにシャーリドさんも知らなかった。シャーリドさんも一度そのことに驚いたと同時に、僕が寝なかったことを叱ったが、なんやかんやあって、感謝されたんだっけか?まぁ、今となってはすでにどうでもいい話だな。と過去を振り返った自分に、今はそんな時ではないのだと言い聞かせ、僕は捜査を再開した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


役場についた僕は、さっそく見知った受付の人、ガーリヤさんに要件を伝えて、犯罪歴のある人たちを調べてもらった。この役所は、さすがにこの街のまつりごとを決めるだけあって、他の場所よりもすこしだけ小綺麗であった。普通の住民のトタン屋根とは、違う整った木材の建物。酒場が、木材を使っているのは、外壁と内壁だけで残りは全部コンクリートなのに対し、この役場は正真正銘の100%、木材を使っている。そもそも、木材という材料自体が高価なため、この貧民街の中では、比較的裕福だった酒場の店主でも、壁の部分しか木材にできなかった。しかし、それはこの街で1番の金持ちであるシャーリドさんの助力のもと、建てられたもののため、それが可能だったのだ。とにかく、そのような振り返りをしている間に、ガーリヤさんは仕事を終えたのか、僕座っている椅子の隣に腰掛けて、

「終わりましたよ、サナエさん。これが今、この町に滞在している元犯罪者たちです。どうぞご確認ください。」

と言って、該当の人物が載っている広く大きな草で書かれた名簿を、僕に渡してくれた。僕はそれを受け取ると、

「あ、そうだ。迷惑ついでで悪いんだけど、今から言うことも調べてくれない?」


それから数分後...

「サナエさん、これがお探しのものですか?」

「あー、そうそう。これだよ!ありがとね。」

といって、渡された資料を一瞥する。

「....なるほど。ありがとな。これはかなり重要な手掛かりだ。」

と言って、謝礼の金を彼女に差し出す。彼女は嬉しそうにそれを受け取ると、

「まいどありがとうございました。」と営業スマイルを向けてきた。...一応、公共機関の部類に入るはずなんだけど、そこのところは、商魂が逞しいなと思いながら、今度は商店街に"移動”しようとしたが、一つ言い忘れたことを思い出し、彼女にもう一つ依頼をした。

「もし、帝都から馬を供給するというお触れが来たら、悪いんだけどしばらく、その提案、断ってくれない?犯人にその馬を奪われないとも限らないしね。それと、この街の観光産業などの外からの旅行者や来客に依存する商売をしばらく禁止にして欲しいんだ。頼む。」

と言って、ガーリヤに頭を下げた。しかし、ガーリヤはその行為自体がないもののように扱い、それから発言を加えた。

「私一人の一存では、決められない問題ですが、わかりました。できる限りの努力はしてみます。」

と言ってくれた。一見、そっけないようにも見えるが、この時の彼女ほど頼もしい存在はなかったように感じた。


ガーリヤ、僕より年下だが、テイミリィよりは年上で、彼女は普段のそっけない態度からは考えられないほど、真面目で努力家だ。そもそも、彼女が役場の職員になれたのは、彼女の努力の賜物だ。この貧民街の役場といっても、公務員であるのには、違いない。その公務員の仕事というのは、全住民記録の暗記、及び住民からの税金の額とその種類の明記、地下深くに存在している上下水道の消費水量のデータ採取、外からやってきた人の公的な手続きなどを行なっている。本来、そのような職に就くのにも、法律の勉強、専門的な算術、現在の政治知識、また、人力で供給されている水道、燃料などの細かな知識等、帝都に住んでいる人でも難関とされている試験を見事合格して、今の仕事に就いている。それもシャーリドさんから全て学んだらしいが、それにしたってそこまで努力できるのは素直にすごいし、尊敬できる人材だ。だが、今回はたとえ彼女であっても、立派な容疑者候補のため、その資料の目的と用途は一切話さなかった。


とにかく、僕はこんどこそ商店街に”移動”した。


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商店街といっても、そこに建物があるわけではない。ただ、商人が敷物の上に商品を並べて、買う人が来るまで暇でも潰しているような場所だ。雨が降ってきた場合は、ちゃんと自分たちのテリトリーを覆えるようなものが自分たちでしっかりと用意されている。とにかく、僕はその商人たちの中から、名簿に記されている元犯罪者を探した。そしたら、意外と早く見つかった。髭面ではあるが、一見犯罪なんて起こしたことなどなさそうな優男のイメージがつきそうな人だった。僕は、この人と同じ視線になるようにかがむと、この人に聞いた。

「あなたが、シャクシューさんですか?」

そう尋ねられた男は、驚いたように顔をあげると、僕の顔に視線を集中させた。

「驚いたね。君のような人には、まだ名前すら名乗っていないのに、知られているとはね。これまた、人生何が起こるかわからないものだ。」

と言って、一笑いした。なんだ、てっきり警戒してくるものだと思ったが、案外呑気な人なのかもしれない。しかし、その方が話が早くて助かるため、こちらとしても万々歳だがな。

「単刀直入に聞きます。あなたが殺したときの話を聞かせてもらえませんか?」

この男性は、今ではこの貧民街で小さな商いをやっているが、殺人を犯して、アデルプラント王国で唯一、死刑を免れた人物である。しかも、その殺人が一人ならまだしも殺した数は数えられないほどだと聞く。なぜそのような状態で死刑を免れたか興味はあるが、今は事件関連のことに集中しよう。そう思った時、その人は口を開いてこう言った。

「さしずめ動機調査とかだろう?だが、無駄だ。オレは、昨日は、酒場に行ってすらいないからな。」

「僕を知っているんですか?」

「ああ、力なき庶民の代わりに、事件を解決してくれる心優しき人として、それなりに有名になってるよ。」

と言って、その人は優しげな視線を僕に向けた。

「ちなみに、酒場に行っていないことを示す証拠はありますか?」

「ああ、それなら、近くにいる物売りの奴らに聞いてみればいい。オレは昨日もずっとここにいたから、知っているやつはたくさんいるだろうなぁ。」

「…わかりました。捜査のご協力感謝します。」

「なあ、心優しき人よ。」

「なんです…」

「本当に、いろいろ申し訳ないが、…幸せになってくれよ。」

「?」

訳が分からなかった。『捜査頑張ってくれ』という言葉なら、そんなことなど考えずに素直に返事をして会話は終わっていただろう。だが、なんなんだ?『幸せになってくれよ』という文言は?もしかすると、よく貴族が言う『ごきげんよう』のように案外意味のない言葉なのかもしれない。だが、どうしてもその言葉が...いや待てよ、それより気になることといえば...

「どういうことですか?」

「…いや、なんでもないよ…」

「僕とあなたとは初対面ですよね。だったら、『幸せになってくれよ』はともかくとして、『いろいろ申し訳ないが』がよく分からないんですが?」

そういうとその人は少し黙りこくってしまった。強く言いすぎたか?そう思うと同時にその人は口を開けて

「オレは、多くの人を殺した。だから、今はこの貧民街で小さな商いをしている。この商売こそ、オレの贖罪なんだよ。その一環として、ここに寄ってくれた人の中にもしかするとオレが殺した人の関係者がいるかもしれないから、いつもこんな言葉をかけているだけだよ。気にしないでくれ…」

そう言った。…まぁ、いいか。今は、この人よりも先に事件を解決しなければならない。この事件の場合は、最悪の場合、無差別殺人の可能性もある。そうなると、早めに解決しなければ、また死者が出ることになるため、早期解決がとにかく大事だ。

そう思って、あの人に言われた通りに近くの物売りたちから昨日のあの人のことを聞き、あの人の言っていたことが真実だとわかった。

 このような感じで、僕は次々と元犯罪者について聞いた。その結果、得られた答えに、またさらに困惑した。元犯罪者だとしても、恨みを買うような人物はいなかったのだ。ほとんどの元犯罪者は、酒場に行っていないとか、事件はそもそも隠蔽されていて、国の上層部しか知らないものだとかそういうものばかりだった。前者を調べることは、簡単だが、後者はなかなか骨が折れるため、本当に思考材料がないときに調べるとしよう。

…次はどこを調べるか…オリヴィエやシャーリドさんへの聞き込みは、情報がある程度集まってからできればやりたい。そうすることで、情報の真偽が判別しやすくなるからだ。…とりあえず、まだ訪れていなくて、かつ人がいそうなところでも回るか…そう思って、僕は、この町で唯一のシャーリドさんが資金提供した木造ホテルに向かって、”移動”した。


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このホテルは、シャーリドさんが観光業発達のために帝都から業者を呼んで作ってもらった木造の本格的な宿屋だ。そのおかげもあってか、観光客の数はこのホテルを建てる前よりぐんっと伸びた。しかし、1階、20部屋。2階、30部屋と普通のホテルよりも小規模なのは、いつも観光客ががっかりするポイントの一つだ。しかし、それでも街の施設の中で一番稼ぎが多いのが、このホテルらしく、この地域の経済に多大な貢献をしているのは事実だ。とにかく、捜査のために、まずはこのホテルのスタッフにいろいろ聞いてみた。

 …うむ、なるほど。スタッフの供述からわかったことは、次の通りだ。1、今部屋の状況は、1階に10名、2階に30名、それぞれ一部屋ずつ滞在している。2、ホテルをフロント側から11番目と6番目、9番目の部屋は現在改装中である。3、最近にこのホテルにチェックインしたのは、1階、4名。2階、3名である。4、長期滞在しているのは、1階一名。2階、0名である。ということだ。5、午後2時以降に、外へ外出した人は誰もいない。さらにわかりやすくするために、この建物の見取り図とそれぞれの部屋の住民の滞在状態を書いた。さらに、酒場との関連性を見出すためにも酒場の近くにある建物も書いてみた。…なんだろう。長期滞在者とホテルの位置が一直線になっている気が...とにかく、これだけではまだ情報不足ではないのか?そう思ったが、必要ならば、後で付け足せばいいと思い、ホテルを去った。

 次は、…いや、必要な情報はある程度揃ったし、今回の最大の容疑者シャーリドさんが現在いるであろう病院へ向かった。すると、そこには、運が良いことにオリヴィエもいた。まずは、オリヴィエに話を聞こうと思う。しかし、事態は思いがけない方向へと向かった。オリヴィエは、青白い顔で涙を流しながら驚きの言葉を言った。

「(৹˃ᗝ˂৹)〜〜、ッッ!!!サナエさん、、、、申し訳、、ございませんッッッ!!酒場の皆様を、、、殺したのは、、、私です、、、!!」

と大胆な告白をしていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


いきなりの言葉に驚き、事情を聞こうとしたが極度の罪悪感からなのか、話がそもそも分からなかった。よって、代わりにシャーリドさんが事情を伝えてくれた。

「酒場の貯蔵室の酒を、すべて割ってしまったみたいなの。」

「どうしてそんなことしたんですか?」

「まぁ、端的に言ってしまえば、テイミリィへの嫉妬ね。というのも、前に酒場の内壁に鏡を埋め込んだことがあったじゃない?その時の業者と同じ業者の人がいるのを見て、テイミリィのためのなにかだと思ったんでしょうね。まぁ、しょうがないわよね。よりによって、こんな日に見たんですもの。」

「…、テイミリィが働き始めてから10周年の日。」

「…、そうその通りよ。もっとも、今回の事件でそれも台無しになってしまったけどね。」

…酒場の主人は、酒場に大変高価な物質である鏡を埋め込む時点で説得力はないが、一種の倹約家である。といっても、家の内装などの一生残るようなものには金は一切惜しまないが…今回もおそらく、その類いであろう。とにかく、それの影響もあって、たとえ娘でも買うものは節約するように言いつけてあるのだ。よって、今まで、店主の娘、オリヴィエに与えられた高価なものは何一つもない。もっとも、それはテイミリィも同じだった。しかし、実の娘よりもただの従業員である妹を、優先させたことが許せなかったという訳だろう。それで報復として、貯蔵室の酒をすべて割ったというわけか…

「話を続けるわ。それで、瓶を床に打ちつけて割り、テイミリィの部屋にあったハサミを使って、樽を壊したらしんだけど、そのこと自体が変なのよね。」

「…どういうことですか?」

「いやね、本当にそんなことできるのかと思って、酒場にあった樽とおなじものを使って、やってみたの。そしたら、やっぱり、はさみで刺した程度じゃ、良くて突き刺さる程度だったの。だから、『あなたはみんなを殺していないのよ、別の犯人がやったのよ。』と諭してみても、『お父さんが、2階に上がらせるのは、私とお父さんだけだもん。』と言って泣き止まないの。実際、業者が2階の工事をするなら、2階くらいあげて貰えるものだと思うけどね。」

「シャーリドさんはその業者が怪しいと思っているんですか?」

「ええ、かなりの確率でね。」

「…しかし、シャーリドさん。多分その推理、間違っていますよ。だって、テイミリィですらいまだ上がらせてもらえないんですよ。それだったら、たとえ業者でも無理な気がしますが…」

「あら、うっかりしてしまいましたわ、確かにそうねぇ。そうなると、誰が犯人なのかしら。」

「その業者の工事って、いつから始めたものですか?」

「私が聞いた限りじゃあ、昨日の深夜から始めたものだそうね。」

「それじゃあ…その業者はおそらく白ですね。だって、この事件の場合は、少なくても、長時間この町に滞在していないと成立しないですから。それも帝都の業者だと、こんな貧民街に長く滞在する方がおかしいですから。」

「そうなのかしら?なんで?」

「すみません、それは教えることはできないんですよ。」

「ふふふ、私もすっかり容疑者の一人なのかしら。」

と言って何故か嬉しそうに微笑んでいる。

「なぜそんなに嬉しそうなんですか?自分が容疑者候補になっているんですよ?」

「だって、優しい自慢の息子が、事件早期解決のために必要なことをやり遂げられているもの。感情に囚われず、疑うことから始めるその姿勢には私も鼻高々ですわ。話が逸れたわね。とにかく、酒をすべて割った後、自暴自棄になって、外を出て、深夜を巡回していたガーリヤさんに保護されて、ここに運ばれたの。ガーリヤ曰く、家出を経験するのも一興だから、私のところに連れてきたということ。わたしはもちろん、店主の元に返そうとしたのだが、オリヴィエがどうしても帰りたくないと駄駄を捏ねるため仕方なく一晩だけ、彼女を泊めて、自分も一緒にそこで寝たの。」

「それを証明する人は?」

「直接、ガーリヤに聞けばいいんじゃないの?もしくは、この病院の患者にでも聞けばおそらく昨日の深夜のことでも覚えている人はいるんじゃないかしら?」

僕は、あえてシャーリドさんが目の前にいる今のときに、それを複数の患者と、”移動”でガーリヤにこのことが真実がどうか聞いた。その結果、どれも全く同じ答えだった。…これで、今回最大の容疑者であるシャーリドさんの疑いは晴れたように見える…まだ、確固たる証拠は出ていないが…まぁ、いいや。とにかく、話の続きを聞こう。

「それで、そのあとは、どうしたんですか?」

「それから、4時くらいに起きて、生活に必要ないろいろなことをとにかくやったり、あなたも見た通りさくらんぼの収穫をしたりしていたわ。ああ、もちろん助手とこの病院の患者が証人だから、嘘なんてついてないわよ。それから、事件のことについて知ったのが、6時頃で、それから、オリヴィエの精神治療をしたんだけど、いまだにこんな有様で…ってしょうがないわよね、家族の訃報を聞いたらそれはどんなに精神的に癒されても心はついていかないものだしね。」

念のため、このことも病院の患者に聞いてみた。…真実だった。

…なるほど。もう仮説の域を出てこないが、もうほとんどわかったぞ。あとは、実際に確かめてみるだけだ。

そう思って、「わかりました、シャーリドさん。僕はこれから捜査があるので、行ってきます。また、戻ってきますので、待っていてください。」と言って、”移動”した。…ホテルのフロント。酒場の貯蔵室に、透明な見たことない小さな箱。酒場の2階にある事件当時からずっと閉まった二重ロック式の窓。酒場の弾性の壁を斧で思いっきり切ってもうんともすんとも効かないこと。もし今回のトリックを使わずに犯行するのに、かかる時間。ある場所らから、酒場に着くまでかかる時間。うん、やっぱり全て予想通りだ。あとは、テイミリィに会うだけだな。そう思って、シャーリドさんのところに”移動”してから、テイミリィの病室へ”移動”した。


「お兄さん、お帰りなさい。捜査の方は、どう?」

「ああ、ほとんど終わったようなものだよ。それより、テイミリィ、どうだい?体調の方は?」

「すこぶる元気だよ。シャーリドさんにも退院のお許しを得られたほどだしね。」

そう聞くと、涙が少しあふれてきた。そして、心の中でいるはずの「本当によかったよ。」というセリフも流れてきた。

「ふふ、お兄さん。心配しすぎ。シャーリドさんがいて、死ぬようなことなんて起こりっこないって。」

「…ああ。そうだな。」

と強く念じるようにそう言った。

「…さっそくで、悪いんだが、テイミリィ。君が覚えている範囲で、起きたことを教えてくれないか?」

「うん、わかった。実は….」

...なるほど、妹が酒場に来たのは、4時だったというわけで、それから………


ははwwたとえどんなことをしても、僕は君のその行動を誇りに思うよ。よく頑張った。本当によく頑張った。...テイミリィのおかげで、今回の事件も解決できたようなものだよ。

 それじゃあ、早速犯人を捕まえるための準備でもしますか。


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