犯人は誰だ3
am6:58
この屋敷に住み込みで、働いている例の執事は今、心底呆れている。いま、例のクソ嬢は、自室で例の少年、メルトと一緒のベッドで寝ている。メルトというのが、偽名なのは、見て明らかであるが、現代では、キラキラネームというものがあるらしく、それも考慮に入れたら、本名である線も侮れない。まぁ、メルトが本名であるかそうでないかなんてこの際そんなのはどうでもいい話である。とにかく、少年と仮にも成人女性であるクソ嬢が一緒に寝ることは、現代日本ならば、大問題だが、少年本人もそれを望んでいる上に、クソ嬢がそれをどうしてもやりたいそうなのでこの際追求はしない。昨日の深夜あたりに、あのクソ嬢が珍しく料理をしたみたいだが、別にあの厨房にこだわりがあるわけでもないため、そんなこともどうでもいい。だが、今日の朝、その厨房の流しを見てみると、流しの中には、調理に使っていたであろう稲の残り草、野菜のヘタなどの捨てるべきものがそのまま置いてあり、そのなかからこの世で最も生命力の強いとも言われるG、通称ゴキブリが顔を見せていた。さらに、そのGは私を視認すると、私に向かって、飛んでいき、『おう!俺の領土になにかようか?』と尋ねるように横柄な態度を見せてきたような気がした。そう思うと、そのGが日頃のストレスもあるのか、そのGがだんだん恨めしくなっていき、気づけば、手でそいつを潰していた。 ...『そう思うと....だんだん恨めしくなっていき.....気づけば、そいつを潰していた。』....ここだけをみると、事件を起こした動機が思ったよりみっともなかった犯人役の台詞のように見えてくる。今は、そんな洒落も言いたくない気分だが...はぁ、シンクの清掃とゴキブリ対策の清掃という本来やる必要もない仕事が増えたのか...クソ、めんどクセェ...
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am10:29、意識が朦朧とした寝起きをする前の時間、昨日の泣いている漣さんの顔が目に浮かんだ。今思えば、そのときの表情には、僕が拗ねたこととは別の深い悲しみが見て取れたように思えた。”あれ”を受けたとしても、その悲しみを推し測ることはできなかった。一体、僕が拗ねたことが漣さんの心の奥のどのような部分に触発されたのだろう?それを知るには、本人に聞くのが一番だろうが、漣さんがそんなこと、しかもよりにもよって黒歴史とも言える昨日の出来事を教えてくれることなどないだろう。...今は要観察の段階に留めておくか...
そう思考し終え、ベットから体を起こそうとする。しかし、昨日の寝る時刻が遅いせいもあってか、なかなか起き出せない。そうやって悪戦苦闘していると、右手を捕まれ、無理矢理起こされた。その人物は、もちろんあの人だ。
「おはよう、メルト君」
と思いの外、しっかりと目を見つめ返し、昨日のことでも忘れたかのような笑顔を送ってきた。そんな漣さんの顔を見て、僕も何事もなかったかのようにこう言った。
「おはようございます、漣さん」
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ベッドから起きた後、漣さんが、長テーブルに置かれた白湯を僕に渡してきた。
「ほら、しっかり飲んで元気をつけなさい。」
確かに、ちょうど喉が渇いていたので、ありがたくもらった。にしても、まだ寝起きだからなのか?ほのかに体が暖かいような...あれ、なんで、さっきの長テーブルの上に冷却シートが置かれているんだ?そんな不思議な光景に漣さんは気にもせず、両手を僕の右手に重ねて改ってこう言った。
「メルト君、まずは昨日のことについて感謝するよ、ありがとう。そして、安心して。君の看病に関しては、私が頑張ってするから。」
『...え?看病?何を言っているんだ?僕は、この通り、元気だし体に異常なんて何もない』そう思ながら、試しに額に左手をついてみたら、その瞬間、そんなことなど言えなくなっていた。僕の額は、普段よりもずっと、、、熱かった、、、
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漣さんのことだから、もっとぶっ飛んだ看病をしてこないか心配だった。しかし、実際は、本職の人と比べても遜色ない。いや、それ以上のものであった。...ただ一つを除いては
「ふふふ、どうしたんだい?メルト君?照れなくてもいいよ。これも重要な医療行為なんだ。さぁ、この屋敷に滞在してから一度も出していない溜まった●液を私の体に出してくれ。」
昨日のことで、何かが吹っ切れたのか漣さんはより積極的に、より江口になってしまった。とは言っても、やってくる行為といえば、毎晩されている抱き枕が関の山だが。つまり、それ以上の行為は何が要因かわからないが、一切やってこないのだ。...口では散々言ってくるけど。...今の状況を簡潔にいうと、言葉責めだ。漣さんは、実際には僕の下着に触れるどころかズボンを下ろす行為すらしていないが、僕の体に抱きつきながら必死に僕に自●をするように口説いてきている。...なんか、自●という伏せ方をすると、グロテスクな別の意味にも見えてくるような...ってそんなことはどうでもいいのだ。とにかく、そうやって言葉責めを受けること、約1時間。正直、風邪よりもこの言葉責めの方が辛くなってきた。男としては、自●はもちろん、●すことだって、本当はヤりたい。美しさと可愛さの混じったその顔と容姿が色気に変わる瞬間は、普段のギャップから相当、そそり立つようなものになるであろう。かと言って、江口なことをしてはいけない。昨日は、何かの拍子で理性が少し欠けていたため、ガードが緩くなっていて、危うく本当に江口なことをやりかねなかった。しかし、今日は頭が熱に冒されている頭が逆に冷静な判断を下してくれた。最愛の人がいた人間に、どんな理由であれ、江口なことをしてはいけないと思う。仮に漣さんが言う『●欲=愛情欲』が本当だとしても、愛情を与える相手を限定してこそ、その愛情はより満たされるのではないだろうか?いや、そもそも漣さんの愛する人は、この世にいない時点で、それは成り立たないか。そうだとしても、今、それを受け入れることが本当の漣さんの幸せにはなるのか?仮に僕で『●欲』=『愛情欲』が満たされたところで、それは妥協した案でしかない。”あれ”をした後でそれが痛いほどわかる。しょせん、僕への信頼や愛情は代用品でしかないのだと。そんな歪んだ愛情の形で本当の幸せになるのか?と。今、それをヤってしまったら、僕たちの関係は、もう戻れないのだと。...本当に幸せにする方法は、僕には重すぎてまだわからない。...だから、僕はその行為を拒否し続けた。しかし、それが続いて、1時間。流石に、疲れた頭で、それを拒否し続ける理由を並べて、骨が折れた。だから、僕は『なんでも券』を漣さんに見せた。
「ん?どうして、『なんでも券』なんか、見せてるんだい?」
「『なんでも券』を、今の漣さんを落ち着かせるのに、使います。...すこし落ち着いてください。僕は、あなたが愛したあの人とは、違います。だから、その人のような方法では、愛情を与えられないですが、それがなんですか?僕は、時が許す限り、ずっとあなたのそばにいます。あの人のような離れた場所からの愛ではないです。それでいいじゃないですか。もし、つらかったら、愚痴を言ってください。なんでも聞きます。もし、愛情に飢えたなら、抱きしめることしか許しませんが、いつでもしていいです。もし、、、もし、どうしても辛くてどうしょもなかったら、思いっきり感情を爆発させてください。あの人ほどの、特効薬に成れるわけではないですが、今はその関係を維持しましょう。」
と言った。その途端、あんなにも饒舌だった漣さんが黙りこくってしまった。やっぱり、言い過ぎたのか?そう思った次の瞬間、いつものような雰囲気でキッパリと答えた。
「....ごめんね。君にそこまで言わせてしまうなんて。....了解したよ、その『なんでも券』の依頼は確かに受け取った。」
と言い、『なんでも券』を返してもらおうとしている。まぁ、ここまでは、予定調和だ。問題はここからか。
「ありがとうございます。あ、そうそう。『なんでも券』は、返しませんよ。」
「ん?なんでだい?『なんでも券』はもう使っただろ?」
「『なんでも券』の効力が一回だけだと、漣さんは言いましたか?そんなこと言ってませんよね。今回のようなことがまた起きないとも限らないので、しばらくは持たせてもらいます。」
所詮、『なんでも券』など身も蓋もないことを言ってしまえば、ただの紙くずだ。漣さんがそれを拒否すれば、その効力などないに等しい。漣さんが激情に揺さぶられたときは、効果など皆無だろう。だがそれ以外の時は使えるかもしれない。この『なんでも券』、せめて僕が現在の漣さんの関係についてどうすべきかの時間稼ぎくらいにはなって欲しい。というかなってくれ。そんな思いを込めて、漣さんに言った。すると、
「メルト君、今から動かないで。」
「え?」
困惑した。どういうことだと思った。しかし、そんな思考をしている最中にことは起こった。...『一人の男が、漣さんに何かを伝えている。それは、二十歳くらいの顔が整った成人男性かのように見えた。...そして、時間が随分と経ち...っっ!!?なんなんだ、この光景は。...漣さんが死んでいる?いや、かろうじて息がある。そして、横たえている一人の男性が漣さんに何かを言って、...』そして、長いようで短かった幻影は終わった。漣さんを見てみると、彼女の顔からは僕からの憂いの他に、何かの感情を渦巻いているように見えた。しかし、その感情についてもさっぱりだ。そして、彼女は『なんでも券』のことで言及した。
「メルト君、いいよ。君の提案については了承しよう。ただし、奴隷のような理不尽すぎる命令ばかりだったら、すぐに『なんでも券』は取り返してもらうからね。」
と言って、僕はそれに了承した。だが、、一つ言いたいことがあった。
「漣さん、病み上がりの人間に無茶させないでくださいね。」
『次の機会は、やめてください、僕の身がもたないですから』という意味を暗に含ませ、僕は漣さんに釘を打った。対する漣さんは、片目の目線を僕の視界から外しバツが悪いように顔を伏せて、言った。
「わかったよ。」
と少し、赤顔してながら、言った。
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それから、漣さんは、先ほどのようなことはなく真面目に看護をし、数日のうちに僕の風邪は良くなった。そして、僕と漣さんの関係は、一定時間、一定の距離を置いたものとなることが予想されたが、実際はいつもと変わらない態度で僕たちは、会話を続けた。
「そういえば、メルト君。最近、あの話をしていなかったね。どこまで話したっけ?あの話?」
「貯蔵室のお酒が店主の娘さんに全て破壊されたことと推測した時までです。」
「おー、そうかい。君は私と違ってよく覚えているねぇ。感心、感心☆それじゃあ、始めようか。」
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...あとで、オリヴィエには、...そう。あとで事情を聞くとして今は建物の捜査に集中しよう。僕は、貯蔵室から出ると、2階にある店主とオリヴィエの部屋に入ってみたが、そこは別の意味でひどかった。部屋のあらゆるものが散乱し、さらに、酒場へと続くでかい穴ができていた。血の匂いは、その大きな穴のせいもあってか、酒場と変わらないくらいの悪臭を放っている。...とにかく、ここでの必要そうな情報は、これで全てか。あとは、建物の外観について、変化がないかを確認したら、酒場の生存者やその周辺に住むものに聞き込み調査でもするか。そう思い立ち、血生臭い酒場を通らずに能力を使って外に出た。
建物の状態がほぼ限りなく、事件当時の状態にまで保管されていたのは、今回の事件の最大の容疑者であるシャーリドさんのおかげでもあるだろう。シャーリドさんは、この町では、色々な部分で貢献していて顔が広いため、ある程度の融通が利く。そのため、今回の捜査が有利に進んだのは、シャーリドさんの功績でもあるのだ。とにかく、時刻は19:01 この時間は、まだ太陽がサンサンとしている。他の街ではどうか知らないが、この街では夏になると、日の入りはだいたい23:00くらいだ。それまでは、まるで昼間のように暑い。実際は、昼間よりもだいぶ気温が下がっているのだろうが...さらに、日の出は、3:00になる。そうなると、この季節では、昼夜問わず、太陽が出ているように錯覚してしまい、日の出入りの概念すら忘れてしまう観光客も多々いる。こんな貧民街に、来る物好きなどいるのか?と思うかもしれない。しかし、ここは比較的安全な貧民街なのだ。貧民街といえば、観光客の荷物をひったくる泥棒やそこら一帯を指揮しているマフィアとかが連想されるのではないかと思う。実際、僕が生まれてくる前の貧民街は、実際にそうなる寸前だったらしい。しかし、シャーリドさんがここら一帯を指揮して、貧しいものたち全員の食い扶持はどうにかできるようになったらしい。それから、その人らにそれぞれ公正な職業を分け与えて、今では他の地域よりは経済力は低いが、そこそこ暮らせる街にのし上がったとされている。まぁ、よくもこんな小さな街の周辺にはあたり一面砂漠しかないようなところで、ここまでの成果をあげられたものだと感心を通り越して、拝みたくもなってくる。...砂漠については、初見であるらしいため、ここでこのあたりの地理について解説をしようと思う。まず、この貧民街も、とある国の首都の辺境ではあるが、一部である。その国の名前は、アデルスプラウト王国である。アデルというのは、昔にこの国を建国した能力者である初代国王の名だ。スプラウトというのは、sprout、要は『芽生え』を意味しているものらしい。そして、方角的には、アデルスプラウト王国より西に位置するヴェナンサジロ王国。この王国は、長年、アデルスプラウト王国と対立していたらしい。しかし、10年前を機に両者との対立競争を全面的にやめ、それからアデルスプラウト王国とヴェナンサジロ王国は、お互いに鎖国令を引き、以降、異国からの貿易は両者ともに完全止まっていったのだ。実際、両者ともに大国であるため、それで経済的な問題を引き起こしたことは今まで一度もない。そのため、この状態が今でも続いている。しかし、いくら鎖国をしようとも地理的に距離が近いこともあって、ヴェナンサジロ王国の噂は、密かに流れている。とある場所では、凶悪な人体実験の温床だとか、またとある場所では、他とは一風変わった薬品生成に力を入れているとかそんな噂だ。実際、それらの噂が事実かどうかは知る由もないのだが、全ての噂に共通しているのは、ヴェナンサジロ王国は、これから紹介するどの国よりも技術力が飛び抜けて高いということだ。次に紹介するのは、アデルスプラウト王国よりも北に位置するサンタアリナ共和国、この国では『共和国』と名がつくほどの民主制国家である。この国は、気候が他よりも圧倒的に寒い場所に位置しているため、さまざまな暖房施設が発達した。さらに、生存していくためには協力が不可欠という考え方が根底にある民族が、人口の多数を占めているため、民主制国家になるのも当然といえば当然だろう。また、寒い気候のため、作物がよく育たず、作物のほとんどが輸入頼りになっている。しかし、暖房技術の発達のおかげで、サンタアリナ共和国の財政の主力は、それらまたはそれらの技術を使った新たな製品の輸出となっている。しかし、先ほど紹介した2国が鎖国状態を貫いているため、新しい方針に切り替えたという。そこら辺の進捗は、鎖国状態のしかも、地理的にはヴェナンサジロ王国よりも遠い場所に位置しているこの貧民街では、そんな情報など全く入ってこない。次に、アルデスプラウト王国よりも北西に位置するサディック・シュムルツヘルン王国。この国は、他の国には見られないほどの数多くの海産物が有名で、気候も平均的にこの貧民街より全体的な気温が5度低いくらいで、そこまで変化はない。しかし、過去に一度、アデルスプラウト王国と大きな対立を起こした事件があったとされる。その事件のことは、貧民街であるこの街には、地理的にさっき紹介した国なかで一番遠いため、全く知る由がなかった。しかし、それを機にサディック・シュムルツヘルン王国は、アルデスプラウト王国との輸出入を全面的に拒否し、また造船技術や軍事技術などの産業に執着していったとされている。最後に、アルデスプラウト王国に対して南に位置する国々。正確にいえば、60近くの小国が群雄割拠として、長年対立をしまくっていると聞く。しかし、その紛争問題はまだ解決していない。この国々では、1日で滅びる国もあれば、長年かけて勢力を拡大していったにも関わらず、すぐに滅びたりする壊滅情報などで移り変わりが激しすぎるため、むしろ情報が漏洩することはない。どう言うことかと言うと、そもそも噂とは流れるための最初の人が必要である。だが、この国々では使える人は、骨まで使い、墓も準備するいとまがないほど日々戦いに明けくれているのである。つまり、馬車馬よりもひどい立場で多くの人が使われるため、情報が行き渡らないほどに、激しく情勢が移り変わっていくのである。さらに、南には、太古の文献だが、人間は存在せず、そこには獣しかいないと聞く。まぁ、あくまで太古の文献であるため現在の真偽は全く不明だが、それくらいの文献しかない時点で未知の領域には違いない。この街で、骨を埋めるつもりの僕にとってはどうでもいいことか。
全体的な説明はこれで終わった。そして、いよいよ砂漠の解説だが、これに関してが今回の中で一番謎な部分である。この砂漠は、僕が生まれる以前には、存在していなく、むしろ現在の帝都よりも賑わっていた都市が大勢いたらしい。しかし、何かが起こったため、現在では貧民街を除けばあたり一面、砂漠だらけの空間になったのは間違いない。さらに驚くべきことに、この貧民街から首都に行くよりもヴェナンサジロ王国の関所の方がよほど近いらしい。そう考えると帝都の国王は、よほど僕が生まれる以前にあった事柄について、恐れているらしい。
まぁ、そんなところで解説は十分だろう。とにかく、酒場の外観を確認する。...見た目は、事件前と様子がまるで変わりがなかった。外からも漂ってくる血生臭さを除けば、事件前と何一つ変わっていない。そう思い、屋敷の裏側にまで回ってみたが、一つも変わっているところなど存在していなかった。酒場の周辺にある土の湿り気も確認したが、やっぱり変わっていない...おかしい、おかしすぎる。...この酒場の内壁も外壁も両方、隙間があるはずだ。というのも、ここ、貧民街の気候は、全体的に暑い。冬でさえ20度を下回ることはない。よって、店主は風通しをよくするために、酒場店の壁の設計として、少々割高になるが、たくさんの細長い加工された木材でできた壁と壁の隙間を1cm感覚で開けているのである。となると、割られた酒瓶や樽の中身が外に飛び出るはずだ。しかも、あの貯蔵室にある、酒の容積を全部見積もっても、酒場が半分埋まるくらいである。つまり、この酒場の壁の構造上、それだけの酒が酒場に溢れたならば、その壁の縦側の木材を支える底の横型の木材は、湿ってなくてはならないのである。確かに、今日の気温は恨めしいほど暑い。だが、酒場が半分埋まるくらいの酒の量なのだ。ならば、せめて太陽が当たらない酒場の周辺の深いめなところに位置する土ぐらいは、アルコールの匂いが染み込んだ湿った土のはずだった。...しかし、それすら乾き切っていた。アルコールの匂いなど全くしなかった。...とりあえず、あの事故が起きる前に酒場に退出した者がいないか確認するとしよう。そうすれば、自然と事件発生時刻が絞れてくる。僕の知っている常連客は、残念ながら全員死亡したが、酒場近くの住民から聞き出せば、なんとかなるかもしれないとそう思い起こし、僕は近くの住宅街に寄った。もっとも、住宅街といっても、世間から見れば、そのほとんどがトタンの板でできた雨風を凌ぐためだけのボロボロの家だが。
...情報収集をしてから、1時間近くが経った。その時間で、僕が集めることができた情報は、次の通りである。1.夜中の1時には、まだ事件が起きていないこと。2.酒場の中は、ものすごく騒がしかったが、外に出ると、ものすごく静かだったこと。3.店全体が、大きな布で覆われていたこと。4.その布のことをいくら店主に聞いても、店主は教えてくれなかったこと
以上4点だ。1はともかくとして、2,3,4がものすごく謎である。しかし、まだ情報収集の段階で考えても埒が明かないため、今度は馬小屋の店主に聞いてみるとする。...どういうことかと思うだろう。何、簡単なことだ。事件を起こしたとバレれば、即牢屋で、この国では殺人は人数を問わずほぼ死刑だ。このような状況で犯罪的心理を考えると、普通の犯人ならば、殺人犯のいる場所には住みたくないとかの理由を言って、どっか遠いところに引っ越すだろう。馬小屋の店主は一般人だ。一般人ならば、その理由が合理性の取れたもののため、疑いもせずにそのまま、馬を渡してしまって、そのまま犯人にさよならというわけだ。そういうことで、今日の朝に、ここから出た人間がいないか聞こうとした。しかし、返ってきた返答は、今までで一番ない可能性のものだった。憔悴しきった馬小屋の店主が曰く
「今日の朝に起きたら、飼っていた馬が全頭、殺されていた。。。。ッッッ!!!俺はこれからどうすればいいんだ!!!」




