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犯人は誰だ

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am10:00、ふと起きて、隣にいるはずの男児の存在を確認するように顔を横に向けた。もしそこに彼はいなくて、ベッドの隣の窓が壊れていたら、私は間抜けと言わざるを得ないだろう。まぁ、そんなことがもし起きたら、私は自分に失望するよりも彼に失望するだろうなぁ。例の男児、メルトだっけか?即興にしてはなかなか面白い名前を考える。melt、その言葉は今の状態を驚くほど正鵠を射ている。そう考えていると、全てが目論見通りなのかとも思ったが、とある一つの要素からそれは排除される。しかし、それが違ったとしても、全てが解明したとしてもそれから私はどうしたいのか?...

今は今のことを進めよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


昨日の夜、また”あれ”をやられた(☍﹏⁰)。漣さんには、呆れることはあれど、けっした失望することはない。むしろこの上ないほどに尊敬している。僕にとって、”あれ”は痛いなんてものじゃない、突き詰めた精神的な痛みで体全体もそれに呼応するように神経が悲鳴をあげる。それくらいのものなのに、寝て起きた時には、全てがなかったかのように、心身が健康だ。むしろ、寝る前よりも活力に溢れている。”あれ”で漣さんのことは、概ねわかったが、本当にあれは真実だろうか?能力のことならば、昨日もまた一昨日もそれを体験したため、それについては疑いようがないが、原理については本当だろうか?そんなことを考えたって無駄なのはわかっている。おそらく、今ですらその原理が正しいかさえわかっていないのだ。僕ごときの、数十分にも満たない思考でそんな簡単に真理が解明できるはずもない。そう結論づけ、意識を覚醒に近づけようとした。そう、....近づけようとした。本当は、『自力で意識を覚醒し、朝日を浴びるあの快感は1日の中での最初の動力源を与えられるようにで感じられる...って,この感覚は別人格か、まぁ今はこの人格に意識を任せよう』という意識が直前まであったが、誰かの指に鼻を摘まれて、強引に覚醒まで持っていかれた。その誰かとは、もはや言うまでもなかろう。

「....漣さん、....いやなんでもないですよ。」

一瞬、嫌味でも言って睨みつけようかと思ったが、この人の場合は、言うだけ無駄であるため、睨みつける視線だけを向けた。

「ふふ、ポ●モ●の伝説のにらみつけるさんかな?」

「やけに、そのタイプの知識だけは豊富ですね...」

漣さんのように、幼稚ではないが、若干の嫌味を残してそう言った。

「まぁ〜ね、あいにく時間だけは腐るほどあったもんだから、その手の知識には誰だって負けない自信があるよ。」

「じゃあ、試しにそのにらみつけるさんって、なんですか?」

「おっと、それに関しては、世界の礎に関わる大事なことに違反する可能性があるから伏せておくしかないなぁ〜」

という謎の文言を残すと、漣さんは本題とばかりに例の物語を話そうとする。明らかな話題を逸らしだが、昨日みたいにまた”あれ”をくらうハメになるのを避けるために詮索することはやめた。しかし、ふと気になることがあり、そのことはおそらく聞かれるのが想定済みであったらしいため、あえて漣さんの会話の途中でその話題について触れた。

「思ったんですが、今日は執事さんが来ませんね。どうしたんでしょう?」

「あいつに関しては、お前が起きる前に来てたぞ、たしか7:00くらいだったけか?」

「え?じゃあ、今は一体何時なんですか?」

「うむ、いやー、惜しいねぇ、あと5分早ければ、10:00justだったのに。」

「それって、寝過ぎてません!?」

「いいんだよ、君はまだ子供なんだし。どんどん寝て成長して、かっこよくなっておくれよ。」

「なんで成長したらイケメンになることが前提なんです!?」

「うん??今でも十分イケメンの片鱗が見えているから、このまま順当に成長すればイケメンになること、間違えないと思うけど?何か変なこと言った?....ああ、大丈夫、もしイケメンになれなくても、骨格は整っているから、整形代はいくらでも出すよ。」

「そんなこと、懸念していませんし、そもそもなんでイケメンではなかったら、整形するということを僕が了承している前提で話を進めているんですか!?」

と、一連のやり取りで漣さんには一種の妄想癖でもあるのではないかとすら思えてきて、若干恐怖するのだが、一方、漣さんはそういう僕とは対照的で、にやにやと、笑みを浮かべながら、

「なんか、今のやりとりで、メルト君の新しい属性を発見できてお姉さん、嬉しいです( ^ω^)」

と訳のわからないことをまねき猫のような顔と声でのたまっていた。そして、寝台の横に置かれているアンティーク調の小さな円型テーブルの上に置かれている水を飲んで、一息してから今度は真剣な声音で言った。

「真面目な話、魅力に関しては無理のない範囲での整形で手に入るなら、整形してでも手に入れた方がいいぞ。」

…?訳が分からなかった…仮に魅力なんて、なくたって、別の能力、例えば、勉学やスポーツなどに魅力を磨くのに浪費する時間の代わりに費やせば、そのことから魅力を感じる人など大勢いる。実際、そんな話は、腐るほど聞く。むしろ顔による魅力だけで、魅了されるような人とは、どちらにしろ良い付き合いはできないのではないのかとすら思う。また、それが仕事などの何かの目的のための行動の潤滑油としての働きを期待するならば、それこそ、一部の阿部種を除けば、人口の半数しか効果がない。そんなことなら、コミュニケーション能力を高めた方が普遍的な効果があると思う。

「?....そこまでして手に入れる必要ってありますか?」

「うん、重要だよ。ある意味、一番重要と言っても過言でもないほどにね。いいかい、メルト君。君はやがてはいやでもイケメンになって心身共に大きくなる。」

「…もうこの際ですから、イケメン云々の話は突っ込みませんけど、”あれ”を行った時点で、心身のこころの方はこれ以上、伸びる気がしないのですが…」

「もし、心は大人みたいな考え方をもったり、さまざまな経験をして海千山千の人物になり真理を悟った自称仙人になったり、はたまた、”あれ”を行なって思想、考えが並外れたりしたとしても、それらを到達点と立証できるものってないでしょ?それどころか、技術の問題になってしまうけど、現代技術でも理解できないものがあるということは、考えの枠組みが、完璧ではない、つまり、理論的に解明されていない穴がある。ということはすなわち、仮にその穴に通じる理論を通じて、また一つ心が進化する可能性を大いに秘めているということでもある訳だ。よって、少なくても技術の問題で解決できてない問題がある限り、それは新たなる心の始まりの可能性を示唆、いや立証している。つまり、”あれ”を行っても、全然進化の余地はまだあるってこと。これらを抽象化すると、数え切れないほどの可能性が眠っているでしょ?第一、私でさえ完璧じゃないんだから、君が完璧なことなんてありえないのよ。ふふ、わかった?」

なるほど、要は、どんなものからでも心の進化の可能性があるから、心の到達点などない..か….ふだんははっちゃけている彼女でも、やはりその気になればかなり凄いのだということを改めて実感した。ただ、せっかくの論証も最後の猫みたいな目でのドヤ顔で台無しだが…

「それで、さっきの話に戻るけど、大きくなれば、子供の頃に比べてできることの自由度はかなり増える。そして、久しぶりのプラトンさんを引き合いに出すとするが、魂、つまりイデア論上における人間の本体は、理性、気概、欲望の3部分から成ると結論づけた。そして、健全な場合、つまり、感情が大きく揺れ動いていない時は、理性が気概と欲望を支配するとも結論づけた。これらから、とある事実が浮かび上がる。自由度が上がるほど、それに伴って欲望の種類とそれぞれの量が増え、また正常な状態であるなら、その欲望を押さえつけるほどの理性を増やす、と。便宜上、この事実を頭の隅にいったん置くとしよう。….いや、やっぱり、メイト君、覚えておいてくれ。」

 『著名な数学教授が、実は普通車免許すら持っていなかったために、帰りには教え子に送ってもらう』、そんな拍子抜けする光景と同じような展開が、目の前で起きているにも関わらず、なんとなくそうなることが予想できてしまうあたり、やっぱり記憶力に関しては、おばあちゃん並だと思わずにはいられない。そんなことは、昨日の経験で口が裂けてもいえないが…

「わかりました。それでは、続けてください。」

「ふむ、わかった。それで、話は変わるけど、人間には、よく言われているが、3大欲求として、食欲、睡眠欲、そして●欲がある。この●に関しては、便宜上、此方の世界では見えないと思うが、まぁ想像通りのやつだ。」

「?なんのことをいっているのですか?此方の世界って?」

「ああ、それは….まぁ、君が知ってはいけない世界の話だ。」

「それでは、前の話と矛盾しませんか?前では、まとめると『どんなことでも、心を進化させる可能性があるから、いろんなことを知るべきだ。』とおっしゃっていたはずですが…」

「いや…それは…と、とにかく、お前と関係ないことだから、詮索するな、また、夜に”あれ”をぶち込むぞ!!」

と、強引に話を打ち切ったが、そうされるとやけに気になる。流石にここまでの詮索は、最悪、精神崩壊を起こしかねないため絶対にやりたくないが、しかしそんなリスクを起こしてでも知らなくてはならない予感がした。だが、それは根拠がない勘とも言えるものだと思った。よく女の勘は当たるとも言われているが、それは無意識の領域で根拠を積み上げる論理を働かせているものであるからである。つまり、ある程度根拠があるのである。実際、脳は眠っている段階ですら実はよく勤勉に働いているらしいため、この推論もあながち間違えではないのだろう。だが、この勘に、根拠など微塵もない、いやもしかすると女の勘と同じく無意識の領域で論理を働かせているのかもしれないが、そもそも漣さんの言う『此方の世界』の情報が少なすぎて理論を積み上げる以前の問題であろう。さらに、”あれ”を受けた後だと、漣さんがそれを隠すのにも、それ相応の理由がなくては、とてもではないがありえない。だが、知って得る損なんてせいぜい負の感情を得るだけである。さらに、漣さんの力さえあれば、たとえどんな困難でも解決して、そしてその感情も彼方へ消せるとさえ思っていたが、解決すらできない問題というわけか…このことに関しては…やっぱり、漣さんの意思に従おう。

「それはさておき、本題に移ろう。当然、3大欲求とも言われているように、歳をとればとるほどこれら三つの変化は特に顕著だ。さらに、これら三つは人間の本体、つまり魂の成長に深く関わってもいる。つまり、それだけ、理性の成長、ひいては、能力の成長とも深く関わっているということだ。そのなかで、特に●欲は、人間の根現的な欲求と繋がっている。もちろん、残りの二つもそうであるが、常時、根源的な欲求と関わりがあるのは、●欲をおいてほかにないだろう。詳しく説明しよう。そもそも、世間では●欲とは、太古の昔の狩猟生活時代で、種として生き残るための本能として生まれた欲望だと言われているが、本当にそうであろうか?確かに、種を繁栄させるため人間は、.......うむ、これから、この話題に関連するのに、よく使う言葉として便宜上、江口えぐちを使おう。偏もさんずいであるし、左右の一部を見れば、すぐにその意味にも気付きやすいしな。とりあえず、人間は、江口交渉を絶えずやってきた。世間は、それこそ本能の化身として言われてきたが、はたしてそうであろうか?確かに、人間は、いろいろな過程を得て、最終的には種を蒔き、子供を作ってきた。しかし、ただの本能であるだけなら、そんな江口交渉などせずとも、種を先に出しておき、人工的な機械を使って、子供を作れば良いのではないか?そうすれば、江口交渉などせずとも、確実に子供は生まれてくる訳だ。ならば、世間でいう●欲=本能というのは当てはまらないのではないか?では、なぜ江口交渉をわざわざするのか?答えは簡単だ、赤ん坊のときの親からの体温の温かさから愛情というものが想起される。ある学者の研究では、その温かさから、赤ん坊の脳内で初めての快楽物質であるオキシトシンやドーパミンが分泌されて、そこから愛情を求めるようになるという。私も、そのことに関しては今の現実を見てみれば、確かにその通りだと思う。しかし、実際には歳を取れば取るほど、肌の温かさによる愛情のなど欲望を抑える理性のせいもあってかそれを言い出せる人は少ない。その反動で、人間はその肌の温かみの代わりに、他人と繋がる江口交渉を行うのではないか?前述したように、人間は大きくなればなるほど欲望の種類が増え、さらに個々の欲望の求める量も変わってくる。とくに、青年期と呼ばれる時期にこそもっともそれが顕著だ。よって、愛情欲も大きく膨らみ、世間でいうところの●欲につながる。その時、理性量の多い君がもしイケメンだったら、その欲望以外にもいろんな欲望を当事者の視点でいろいろ観察できる機会も多くなるだろう。もし、そうなったら人間の機微が、書物の知識ではない本物の体験ができるという訳だ。さらに、やがては本当の愛する人を見つけ、愛情欲も満たされ、その人と生活をしていく上で本当の愛情欲を感じ、幸福になれるという算段だ。別にイケメンではなくても、幸福になれるのではないかと思うだろうが、イケメンではない人が本当に幸福になれるパートナーを見つけられる可能性なんて滅多にない。一回目や二回目なんて、せいぜい婚期が遅れてしまうから、妥協した結果の相手になるに決まっている。そして、お互い一生親密な相手になれるはずもなく、離婚するが、当然、相手してくれる人などおらずそのまま、人生を果ててしまうのが、普通だ。つまり、大抵は、その真の幸福も感じられずに人生を終わるだが、イケメンなら、やり直しは何度でもきくため、その可能性がないに等しい。よって、イケメンなら真の幸福になる可能性が高いし、人間の感情に詳しくなれるという訳だ。これでも、イケメンが重要な要素ではないと言えるか?」

…いや、論理は確かにあっているように聞こえるが、とある部分が間違っている…やっぱり漣さんは僕をイケメンにしたいだけではないのだろうか?

「第一、イケメンではなくても幸せだという人はいくつもいまし、本人だってそう言っている人はいます。その時点で、今の仮説は瓦解してしまうのではないですか?」

「いいや、わかっていないねぇ。私が言ったのは、本当の幸福、つまり、そんじょそこらの奴らが感じている幸福よりももっと優れたものだよ。第一、そういう人たちが、相手に心から自分の本音を告げることは、したのか?相手の言葉などいらないほどの以心伝心の仲にでもなれたのか?その状態で、愛情を感じられて、毎日が幸福だと感じられるのか?そのほかにも、いろいろあるが、そんな条件を、満たした恋人で、イケメンじゃない人など、滅多にないと思うがね…まぁ、それだとの条件が合うには、イケメンだけじゃとても無理だが、その問題の一部とは、ようは内面の話だ。きみは、その点はクリアしているから、あとは作法の問題さえ、完璧ならば私が言った通りの完璧な幸福になれる。でも、そのためにはイケメンではなくては、とても無理だということだ。わかった?」

「…漣さん、…一席ぶっている間に、記憶力の改善が見られたみたいですね。とても良かったです。」

「コラーヽ(`Д´#)ノ、話を逸らすんじゃありません。…まぁ、とにかく何がなんでも君にはイケメンになってもらうからそのつもりでね。」

「もうなんでもいいですよ。それよりも、今の理論にも飽きてきたころですし、昨日話した漣さんの蛇足知識が入った話の続きをお願いします。そろそろ話題を変えて欲しいです。」

「….まぁ、そうじゃないかとは薄々思っていたよ。蛇足知識って言えば、まぁ、その通りだね。免疫とか、この時代では、誰も知らない概念なのにそれを語るとかか。….まぁ、そこは多めに見てくれるととても助かる。何しろ、古代の技術の概念をぶち込んだら、ただでさえ難解な物語に古代概念も考慮しなくてはいけないことになって、お姉さん、頭がパンクしちまう。…それじゃあ、始めようか….」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇



「っっっっ!!!??」

息を呑んだどころの騒ぎではない。危うく、呼吸すら飲み込みそうになった。…あのシャーリドさんが、僕たちをここまで育ててくれたシャーリドさんが…僕の1番の宝である妹を含めた人間、さらに、そこにはシャーリドさんが世話になった人たちもたくさんいたんだ。それを殺したのか?いや、、それは考えられない。だって、被害者の妹の傷をここまで完治させたのも、シャーリドさんだぞ!その妹が生きていてしまっては、自ら犯行を自白する行為に等しい。それじゃあ、誰が犯人なんだ…その瞬間、僕の頭に先程のセリフがリフレインされてきた。

『今からいう願いは、この後に私が何を言っても取り乱さず、冷静になって聞いて、そしてこの事件を解決して…..』

….いや、なんなんだ!!このていたらくは!我が妹は、一切の感情に振り回されずにこの事件を完璧に解決して欲しくて、心が張り裂ける気持ちで辛くてもこの事件を解決するように言って、真実を僕に託したんだ。それを早速無碍にするつもりか…とりあえず、真実はどうあれ、シャーリドさんは立派な容疑者候補だ。もし、シャーリドさんが犯人なら、むしろ僕がさっき考えた理由ではありえないと思わせて、犯人候補から外すようにすることだって十分考えられる。だから、さっき言った理由でシャーリドさんが犯人ではないとは言い切れないのだ。でも、シャーリドさんが犯人ならば、複数犯ではないと絶対成立しない。なにしろ、シャーリドさんは、人を殺す術を持っていないのだ。シャーリドさんは、卓越した暗殺術はもとより、身体能力に関しては一般人と同等かそれ以下だ。もし、それすらも嘘で、俺が生まれてから今になるまでそれを隠していた可能性もあるが、だとしても落ちぶれたとは言え、日々、訓練している酒場の精鋭たちを打ちのめすほどの訓練をしている様子は生まれてこの方一度も見たことがない。それとも、僕のような能力の複数持ちだろうか?いや、それは極めて可能性が低いだろう。一度、能力の複数持ちについて気になったので、王都に行ったことがあるのだが、街の文献を見ても、能力を複数持っている人物は、この王国には一度も記録がないし、シャーリドさんに頼って、僕でさえ知っている有名な学者に会わせてもらったことがあるのだが、その学者でさえ僕以外の複数能力者は見たことがないというのだ。ならば、シャーリドさんが、複数の能力をもった能力者という話は、色々な可能性を潰した後の、最後の可能性として考えておくことにしよう。とりあえず、思考はここまでにして、妹に、僕の”能力”のひとつである”警鐘”を引き起こす”あれ”を渡してから、事件の捜査をするとしよう。

「テイミリィ、これを渡しておく。なにかあったら、急いでこれを強く握るんだよ。」

「?お兄さん、これ、何?なんか細長い棒状のものだけど…」

「テイミリィがいつも、指にかけている銅指輪があるだろう?それよりもずっと強力な”警鐘”の力を秘めたお守りだ。もしものことがあるといけないから、僕の非成長型の理性もこめた結界が張られている凄いものだ。今回の事件の犯人がまだいる可能性があるから、肌身離さず、持っておくれよ。僕は、その犯人を捕まえるために捜査に行ってくる。」

「お兄さん、気をつけて。」

と言って、妹は僕の手を重ねて、祈るような目つきでそう言ってくる。

「心配する必要なんて、微塵もない。だって、僕には”超回復”があるじゃないか?あれがある限り、たとえ軍隊が来ても、僕はやられはしないさ。」

とは言っても、妹は手を離してくれない。

「うんうん、違うの。そのことを心配しているんじゃない。お兄さんはとっても優しいから、きっと今回の事件でも無茶をするの。そして、傷だらけになっても、犯人を傷つけずに捕まえるようとするでしょ?その際に、今回のような事件を起こした犯人だから、痛みでお兄さんの精神が破壊されないか不安で….」

と、愛らしい我が妹はそんなことを心配していたのかと思った。その愛らしい額に、自分の額を重ねてこう言った。

「…大丈夫だ、愛しい我が妹のテイミリィ。お兄ちゃんは、みんなのために、いままで数々の無茶をやってきたが、平気だっただろ?それもこれも全部、君のおかげだ。君がいなければ、確かにいくら”超回復”があっても精神の方はとっくに死んでいた。しかし、君がいて、温めてくれる。それだけで、僕は、この厄介でしかなかったこの能力にも自信が出てきて、自分にも自信を持てて、今の自分がいる。ただのろくでなしだった僕が、いまではなんでもできるろくでなしになった。全部、君のおかげで、僕は凄いやつになれたんだ。だから、大丈夫だ。それとも、テイミリィは、この僕を信じられないのかい?そんな訳ないだろう。君がいつも他の人の前で言う言葉を言ってみろ。」

そう、僕が言うと、テイミリィは涙に浮かべて恥ずかしそうにし、不器用ながらも何度聞いても聞き飽きないこの言葉を言ってくれた。

「っ、、っ、、、私の中でっ、、1番の、、、最高の、生きる道しるべである、、お兄様を、、っ、、、っ、、馬鹿にしないで、、っ、、ください。。」

『お兄様』か、こう見えてもテイミリィは、照れ屋さんだからな。きっと、『お兄様』が照れ臭くて僕の前では、『お兄さん』と呼んでいたのであろうな。…ずっと前に気づいたことだけどますます、妹の好感度が上がってきたな。

「よく言いました。…それじゃあ、もう俺は行くよ。帰りには、きっと良い手土産を持ってくるから、楽しみに待ってて。」

そう言って、僕は”移動”を使って、事件現場に向かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


そういえば、僕の能力の一つ、”警鐘”については、まだ話していなかったか。”警鐘”は読んで字のごとく、なにか危機がきた時は、”警鐘”の理性が流れている特定の器具に、ある程度刺激を与えれば、僕の脳内に直接、その知らせが来るという能力だ。この能力は、その器具に強い刺激を与えれば与えるほど強く知らせてくる。ただし、その器具にどれだけの理性を与えるかによって、伝えられる感度が違うがな。また、この能力の理性は、僕の”超回復”を除けば、僕が知っている中で、唯一の消えない理性だ。僕の知っている他の能力者は、能力を使った後には、必ず理性を消費し、そして能力で生み出しだものはやがて効果がなくなる。しかし、”警鐘”は、いちど理性を他の道具に与えると半永久的にその役割を果たす。テイミリィのジャスミンの花の銅指輪も僕が理性を与えているため、指先で少し刺激を与えればすぐに僕にその知らせが届き、さらに、一生、その効果が続くと言う訳だ。

 あと、結界についても話しておこう。シャーリドさんが僕の能力を研究の対象としていた頃の過去の話になるが、シャーリドさんが、僕の”超回復”の理性を使って、僕以外の人間は通ることもできなければ、壊すこともできない究極の結界を作ることに成功した。その結果を見て、やっぱりシャーリドさんは凄いとか言う次元ではなく、チートではないかと思った。

 とにかく、先立つ疑問として『なぜ僕は今回最大の容疑者であるシャーリドさんの経営している病院でテイミリィを寝かせることにしたのか。』と思うだろう。例えば、下手に動いてもし、体調が悪化したりしたら元の子もない。”移動”を使ったとしても、もし体調が悪化したら、どうする?能力者は、どうやら普通の人とは、体の構造が違うらしく、僕は能力者に精通しているシャーリドさんくらいしか治すことはできないとさえ思う。仮にシャーリドさんが今回の犯人でも、彼女の持っている”能力”は”治癒”なのは間違えない。よって、もしテイミリィをシャーリドさんが再度襲ったとしても、この結界は絶対に破れない。もし、入れるとしたら、テイミリィの体調悪化だが、能力を使う限り、我が妹を殺すことは能力の性質上、不可能であるため、いや違うな。もし、シャーリドさんが複数能力者だった場合は、危険だ。でも、もしテイミリィに危害を加えることがあれば、俺は間違えなくシャーリドさんを殺している。そんなリスクを負ってまで、正体を明かして、殺すとは余程の狂人出ない限り無理だ。よって、どれもこれも消去法的に、シャーリドさんの病院が一番安心だ。だから、僕はそこで最愛の妹に待機させてもらったのだ。

 とりあえず、補足説明も終わったことだし、事件解決をしに行きますか…

 



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