聖母になるまでの鎮魂歌(レクイエム)28
〜カロンside~
…生暖かい日差し…詳しいことはわからないが、この街は街全体を覆っている冷房施設のおかげで、本来、強かったはずの日差しが生暖かくなっている…その日差しは多くの人にとっては、目覚めのチャイムだが…夜に働いている少数派の人間にとっては、眠りのチャイムだ…現在やっている仕事上、カロンたちは、その少数派のグループに入らざるを得ないのだが…この日差しは、それだけを区別しているように思えない…
いまだに捜索の噂すら聞かない時点で、僕こと、カロンや、シャクシュー、サキナはほぼほぼ元から奴隷であることは確定である。だけど…、…、…それくらいの根拠があってもまだおかしかった…私たち三人は、奴隷生活の中を約一週間過ごした…一週間と聞くと、そこらにいる奴隷と比べ物にならないくらい浅い日数だと思われる…それくらいの短い期間でなおかつ、夜の稼ぎがあるなら、誰でもできそうな感じがしてくるが、実際…やってみるとかなりきつい…というかキツすぎた…
まず、汚い地面で寝そべることは日常茶飯事…もし整備された道路で奴隷がいたとしたら、平民からの妨害でろくに寝れるわけない…そして、もし…生まれた頃から奴隷なら、『泥=普通のベッド兼床』…そういう認識のはずだ…例え記憶が失っても…それだけは変わらない…記憶喪失の人が納豆を渡されても、それを食べるものとして認識しているのと同じである…例え記憶が失っても…主観的な万物への認識は永久に変わらない…少なくても、私はそう思っている…だけど…だけど…私にとって、最初の頃、その地面に寝そべることは耐え難い苦痛に等しかった…現代に例えれば、ベッドもなく、外の野良猫のように寝ることと同じだ…もしそれを一週間やれと言っても、現代のほとんどの人は拒絶するだろう。…つまり、私の不変と思われた認識は…まるで、奴隷じゃないみたいだった…
不自然なのは、当然それだけじゃない…、もっと不自然なのは、気づいて当たり前の…こと…というか、もし生まれた頃から奴隷なら…絶対に起こり得ない…こと…それが起こっていた…
『僕は、なんでこんなにも世の中についてよく知っている…』
その一言だ…奴隷の現実は…まぁ、生まれた頃から奴隷なら、百歩譲ってもいいだろう…だが…先程の…冷房施設しかり…国の地上げ問題で、残った土地が多いことしかり、…奴隷にしては…やたらと知識が多いことが目につく…いったい僕は…なんだろう?
そう…思って、当然の疑問が生活に余裕ができたからなのか、出てきた。…今までの安全が保証されていない生活だからこそ、生活などの生命に関係ない疑問なんてものは頭の隅に追いやっていた気がする…思わぬこのゆとりある生活の思わぬ収穫に僅かに歓喜した…その時、思いドアが…外側から開いた…出てきた人物は…強盗や殺人犯よりは最悪よりも一歩手前の人物…あのリーダー格の男だった…
「ん?カロンちゃん?…もう起きたのかい?偉いねぇ〜、ちょうど起こしに来ようと思った時間なのに…」
「…何しに来たんですか?」
…そんな、出会ってすぐ言うには、失礼な言葉がきつい口調で反射的に出てしまった...、…しまった!...そう思った頃には、もう後の祭りだった…だけど、その男は鈍感なのかはたまた、気にしない性格なのかわからないが、それに触れず、淡々と本題を簡潔に語った。
「起きて早速で悪いんだけど、今から仕事をやってもらうぞ、カロンちゃんたち…5分後にまた呼ぶから、他の二人の嬢ちゃんを起こして、この服に着替えてくれ…」
仕事…、…渡された制服は… ジャージ…、…ただの変態じゃないて…特殊な●癖を持ったど変態…、…思わず、絶望の顔を浮かべそうになったが、理性でそんな感情に浸っている時間もないことを自分に言い聞かせる。だが、感情は思い通りに動いてくれなかった…、これから行われることと、筋肉質の男たちが相手だということを認識して、命がいくつあっても足りないんじゃないかと思えてくる…今更だが、奴隷として買い取られた身分のため、自分のことなんて、気にしないだろう…脱出もこの窓もないコンクリートに囲まれた家じゃあ、無理だ…ならば…結局…地面で寝ていた時の方がずっと良かったのではないかと、今になって思い始めた…そうなると、体の方も自然に震え始める…そうなると、負の感情に苛まれるのはすぐで、それによって行動できなくなるのも早かった…、…さっきまで立っていた体は、どんどん腰が抜け、立つことすらままならなくなる…そして、とうとうコンクリートの地面に尻餅をつく体勢になってしまった…思考をしようとも…今回ばかりは、すぐそばに死が迫っている…そう認識すると、思考も、無理矢理やろうにもまとまるどころか、感情に埋め尽くされて…無理だった…このまま…何もかもが終わると思ったそのとき、いつの間にか起きたのか、シャクシューが私を抱きしめていた…この時の温かさは、寝る時に、いつも3人、寄り添って寝ていた時に感じた体温とは、ずいぶん違ったような気がする。もし何か異変があったとき、すぐにでも起こせるように寄って寝ていた時に感じていた体温は心地よかったが、この時の温かさはそれよりもずっと気持ちよかった…(だが、●●●のような18禁の溢れ出る気持ちよさとは全く違っていて、心がどんどんと元気を取り戻していくような心地よい気持ちよさであった…)
「カロン...大丈夫…何があっても、私たちがあなたを守るわ…だから、大丈夫…」
いつぞやに聞いた似たような言葉…普通なら、そんな根拠のない励ましなどいらないと、跳ね除けていたであろう…だけど… 今だけは、その言葉に縋りつきたいほど…震えていた…
「カロンさん…安心してください…僕達が一生、あなたについています。」
後ろからも…、こちらもいつ起きたんだかわからない、サキナによって抱きしめられた…、その姉弟の根拠のないが、力強い言葉と抱擁に…しばらく…そのままの体勢でいた…もはや言葉よりも、そっちの方が心が休まった…だが、当然、5分後…くるべき人物が来るべき時刻に再び来た。…、覚悟は決まった…短い人生で一番、勇気を入れたような気がする…
「おーい、カロンちゃんたち〜。そろそろ時間だけど、準備はできたかい〜?」
幼児の江口的虐待に対して…罪悪感すら感じさせない声に…悪意すらどこかに置き去ったような瞳に…純粋で最恐の悪魔を感じた…穏やかな口調と雰囲気では感じさせない…だけど、性格と外見がそれを如実に示している…そんな悪魔に…ある意味一番言ってはいけないことを…今から言う…、今でもはっきり言って…怖い…恐ろしい…人間の皮を被った悪魔…つまり、狡猾な人間よりも厄介な存在だ…だけど…逃げて正面突破なんていくらなんでも無理だ…、絶対に三人のうちの一人は捕まってしまう…この中の誰かを見捨てることなんてできない…だから、これしか方法はない…、…
「おじさん、少し話し合いをしたいのですが…いいでしょうか?」
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今の自分が出した声にしては冷静な声だったと、褒めておきたい…とにかく、相手に弱みを見せずに会話に持ち込めた…、…そしてこの人の反応は…
「ん?カロンちゃん?どうしたんだい?」
と意外にも普通の反応だった…これで会話にすらならないという最悪の事態は避けられた…相手はとりあえず話を聞く程度はできるようだ… だったら、話は早い…ひたすら病であることを演じきれ…
「隠していて//申し訳ございません…僕たち…、…//…////…実は、江口病...を…///…発症しています…だから…ッヒック…ヒック…おじさんの仕事は…シク…多分無理じゃないかな?///」
…江口病…これは、男女間の情事に発生する病気として知られている…これに発症したら、生涯治らないとされているから、平民街だけではなく、アデルプラント王国の一大問題の一つになっているものだ…これならば、いくらなんでもその『仕事』をやらせるわけがないだろう…しかし、僕はこの人の賢さを甘く見ていた…
「…あはははっはっはは!!!なるほど、そうやって仕事をサボろうという言い訳だな…けどなぁ、嘘はよくねぇ〜な〜、カロンちゃん…じゃあ、なんでそもそも昨日、『仕事』という交換条件を受け入れたんだ?単に、1日だけでも宿泊したいだなんて気持ちで、受け入れただけならわからなくもないが、嬢ちゃんたちはちと聡い…そんなことをしたら、常連である俺らからの収入がなくなり、収入が少なくなって、もともと極貧だった生活がさらに極貧になって、大問題だろうさ。わざわざ、そんなリスクを犯すほど、嬢ちゃんたちが馬鹿じゃないと思ったんだがな…まぁ、いいや。とりあえず、嘘だというのはわかった…やりたくないところ悪りぃが、今日は本当に体調が悪くない限り、無理矢理でもやるから、覚悟してくれよ…」
…そんなに頭が回る印象がなかった…当たり前だ。この人の印象は、機嫌がよくて、フレンドリーな口調の人だが、本当はよく深くて、僕たちを奴隷とする時点で、欲のためにリスクを犯すような人であると思った…そして、その身なりと風貌と普段している私たちとしていた普通の会話から、そこまで賢くない人物だと思っていた…『人にレッテルを貼っていいことなんてのは、リスクを考えていないのと一緒である…』そんなどこかで聞いたような言葉がこだましたような気がした…ああ、その言葉は正しかったんだと、今更ながらに思うと同時に…即興で考えた策はこれだけのため、もうなんとかする術がない…、…今度こそ…本当の終わりだ…、そう認識したと同時に私は…糸のほどけた人形のように床に倒れ込み …膝持ちをついた…後ろで… シャクシューとサキナが抱きしめてくれた…ような気がする...、だけど…自分の死が約束された状況では無意味…結局…僕も…自分のことしか考えてなかったんだと思い知らされる結果になってしまった…
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〜リーダー格の人物side〜
…ん?
いや、なんかおかしくないか?いくらなんでも…訓練をするだけで…そんなに焦燥した様子を見せるなんて…、…確か、この三人はこの訓練を受けること承知でここに泊まったはずだ…それなのに…こんなに嫌がる…?いまいちよくわからない…、…いや…2歳児の思考なんてみんなそういうもんだろう…『明日やろうは馬鹿野郎』理論みたいに、先々のことを楽天的に考えて、いざやるとなったら、全力で拒む…そういうものだろう…もちろん、全てを俺の常識で語る方が間違いであろう…、だが、概ねそれであっているだろう…だけど…だけど…とてつもない違和感が…ある…俺の見立てじゃあ、もっと三人ともそんなタイプではなく、困難に全力で立ち向かう気概があるタイプのように見えたが…まぁ、しょうがない…やることが一つ増えただけだ…さほど変わらん…
「…とりあえず、このジャージに着替えてこい…体を動かすんだから…これくらい着ないと、怪我をした時に大変だからな…」
このジャージは特注の特注…昨日アスフェルトから、無理を言って、買ったものだ…アスフェルトによると、これはよほどのことがない限り、壊れないほど、衝撃を吸収するらしい…これならば、、このジャージを着て怪我することなんて滅多にないと思う。…流石に、2歳とはいえ、女の裸を除くわけもいかないから、俺は先に退出した…
〜カロンside〜
「…う〜…〜〜〜〜、大変だ〜〜〜、怪我するほど…●されちゃんの〜〜〜???...これじゃあ、どのみち…死確定じゃん〜〜〜」
「カロン、カロン、落ち着いて…大丈夫…カロンにどうしようとも手を出させないから…私とサキナがなんとしてもあなた方を守るから安心して…」
「…どうやって…どうやって…手を出させないようにするの??...無理でしょう…、…どのみち三人道連れだ…____」
「…カロン、…お願いだから聞いて…、私たちは、今度は根拠のない理由でそんなことは言っていない…、助かる方法があるのよ…」
そうシャクシューが光の提言をした…って…助かる道??あの大男たちに毎回●されながら、…いや、奴隷は奴隷でも彼らは大人になった自分たちも味わいたいだろうから、そこまでは延命されるだろう…だけど…それまでの過程でどんどん従順な奴隷になるように調教されて…、…それからは…考えたくもない…とにかく精神衛生上、豚箱小屋以下の環境で…精神が死んでいく状況で、どんな手段があるのだろうか…
「どうせ、無駄でしょ…大丈夫、励ましてくれなくてもいい…どうせそのうち精神は死ぬんだから、苦しむ時間が長くなるよりも少しでも死に近づけたら、それで楽になる…だからほっといて…」
「…カロン…、…、…、…とりあえず、着替えましょう…どちらにしよ、彼に逆らう方がもっと大変な目にあうわけだから、着替えましょう?」
「…そうだな…」
そう憂鬱や悲しみ…絶望…それすらを全く別の意味で乗り越えた…いや、超越して、無気力状態の私は…死にたいけど苦しみたくない…曖昧な板挟み状態で…着替えて、それから、外を出た…二人も遅れてやってきた。それを確認したこの人は、開口一番にこう言い放った。
「お!? やっと出たかぁ…それじゃあ、始めようか…嬢ちゃんらが、俺を超えるための基礎身体能力訓練を... まぁ、とにかく最強を目指してくれよ。」
...ん??調教じゃなくて...身体能力訓練...いや、言い回しを変えただけ...だけなのか?...そう、もしかすると、私たちはただ単に身体能力を上げて、超人を作るために宿に泊めたのかもしれないという淡い期待を...いや、希望をわずかに抱いていた...だが、それらは多くの場合、実現しない...『例外』を除いては...今回こそが本当にその例外なのだが...カロンの中では、まだ江口奴隷99%超人育成1%の信用ぐあいであるから、カロンの心境はまだ穏やかじゃないが...
「最初に、ルールを説明しておこう。まず、お嬢ちゃんたちは、俺が許可するまで、走り続けてくれ。もしどうしてもの場合は、水を用意しておく。あ、もちろん、俺も監視の主目的とトレーニングの副目的も兼ねて、走るぞ。ただし、あくまで
嬢ちゃんたちの監視が目的だから、走る時は、嬢ちゃんたちがいつも前で走り続けてくれ...俺は、後ろで監視しておく...あ、そうだ。当たり前だが、俺に追いつかれたら、ダメとかのルールは鬼畜すぎるから、流石になしな。とにかく、最終的にどんなに遅くなってもいいから、走り続けて欲しい。これができたら、今夜はご馳走を用意してやるから、楽しみにしてろよ...」
...今夜...夜まで走り続けるのか...聞くだけで気怠さが押し寄せてきた...いや、もう押し寄せている...だけど...それよりも今感じているのは、歓喜感激の雨霰であった...つまり、今日は何もしない...、いやまだ肉体的に筋肉質な女性が好きだから、というのもあると思うが...私はその絶望の可能性など考え付かなかった...いや、なきものにしていた...つまり、どんどんと自分の良い方向へ思考を移動させていたのだ...つまり...そうなると...、本当に〜!!そういう淡い信用が...少しずつ確信に変わった時の快感を味わったのだった...そして、一応、念の為、この人にも...聞いてみる...いや、もしこれが本当ならこの人呼ばわりをしていたことも謝ろう...
「あの〜、一つ...いいですか...とても大事な質問なんですけど...」
「おう、なんだい?」
「私たちを引き取った目的って...?」
「ん?なんだ?って、そりゃ...俺の戦闘技術を後世に残すための3弟子にするために決まっているだろう?それを条件に、お嬢ちゃんらは、この宿に住むことを了承したんじゃないのか?」
「「「...、...え...ええええ〜〜〜!!!??」」」
これを超える驚きは、長い人生といえどももう来ないだろう...そう思わせるほどのものであった...
...人生で一番の驚きは、案外、すれ違いが拗れた末のお互いの解釈の違いが判明することだと思う...少なくとも...僕は、そう思いやす。by ks みたいな作者




