聖母になるまでの鎮魂歌(レクイエム)26
一週間して、小屋が立った…
だけど、それは建築知識などない素人が作ったもの…そのため、大風が吹いたら倒れてしまうような脆いものだった…今のところは、そこまでの悪天候に至っていないため、この小屋も瓦解することはまだない。しかし、地盤が湿った土の上であることもあって、脆い…建築関係の本職ならば、そのような条件でも多少なんとかなるかもしれないが、なんの知識もない私たちでは…無理だった…
しかし問題は、他にもたくさんある…
一つは、衣服の問題…これは小屋ができれば解決するかと思ったが、全然だめだった…
そもそも、この土地は地上げされ尽くされた後に、残った土地…この国は、土地の権利関係は案外…適当である…そのため、土地の出品者自体もその土地の大きさすら理解していないものも多いほどであり、そのため、金にならないほど、小さな土地が余ることはよくあることである。
とにかく、私たちは、建物と建物の間の狭い土地の間に住んでいる。だからこその宿敵か…あれの問題があった…
『臭い』…だ…
隣に並んでいる建物は、全部、平民が住んでいるアパートだ。そうなると、当然、生活しているわけだから、料理の臭いや、排泄物の臭いなどが、服にまとまりつく…服の衛生面に関しては、稼いだ金で三人分の服を買い、しっかりと洗える場所は確保したため、問題はないが、洗っても洗っても、生活圏の近くにいるせいで、その匂いだけは取れるわけがなかった…
そのせいで、3日前に、新客からのリピートが来なくなった…つまり、商売にもすでに影響していた…
だけど、このような小さい子による癒しは、他では提供できない唯一無二の商売のため、人が絶えることは今のところない…
他に使える土地がないか探したが、どれも今住んでいるところと同じような環境だった…だから、これに関してはどうしようもない…
しかし、次の問題に比べればそれは些細な問題だと、私だけではなく、シャクシュー…サキナ…全員が思った。
今、一番重要な問題…私たちが本当に困っている問題は…衛生面であった…
なにとは、具体的なことは言えないが…生理現象として起こる…排泄物を処理する場所が…ない
奴隷の便所として、容認されているゴミ捨て場近くにある奴隷たちの肥溜め場所など、ただでさえ匂いが問題視された服をさらにきつくするような行為なので論外だ…しかし、出さないという選択肢は人間である限り、ないに等しい。だから、人がいないだろう私たちが住んでいる土地とは別の小さな土地を探して、今までは排泄していた…だけど…このままでは、…検非違使に捕まる可能性がある。
シャクシューとサキナ…この二人に身分を聞いてみたが、二人とも自分の身分がわからないと答えた…自分もそうであるが、その真偽に関しては、疑わしい…とにかく、色々聞いてみたが、二人とも自分に関することは、ほとんどわかっていないと聞く…、そうなるとますます怪しい…だけど、今の現状では、シャクシューの力なしでは生きていくことは難しいため、それに関して、頭に留めておくだけにしよう…だが、はっきりわかったことは、三人とも奴隷の可能性がある…というか、この賢い平民街の人たちが、自分の子供をどこかに置いていくこと自体、考えられない…だから、ほぼ奴隷であるといって良いだろう…仮に捕まったとしても、平民の親がいると、嘘をついて数日間、保護されて時間を稼ぐが、もしそれで親が来なかったら、私たちは奴隷扱いされてしまう…奴隷の刑罰は、どんなことでも結構重い…もし、排泄物の件で捕まったら、流石に死刑ではないが、額に一本線が刻まれてしまう…そうなったら、もうこの商売はやっていけないだろう…つまり、間接的な…『死』だ…
だから、前者のどうしようもない問題よりも、三人とも後者の方を真剣に考えていた…しかし、待てど暮らせど、そう簡単に解決できるような問題ではない…私の提案で、奴隷の肥溜めに行く時だけの服を着れば、いいじゃないのか?と発案してみたが、シャクシューから、それだと、仮に他の服が臭わなくても、そのうち、体まで洗っても臭ってくるようになるからダメと言われた…まぁ、あんな生ゴミを毎日食べている連中だ…確かにそうだな…だったら、洗い場として使っている近場の川で、やってみてはどうだろうか?...と発案してみたが、シャクシューから、それだといつも川のところで泳いでいる三人組として逆に目立ってしまうわと言われた…その通りだ…
その後も、同じようなやりとりをしたが、一向に良い策が見つからない…だから、この際、最終手段を使うことにした…
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時刻は、夜中…とは言ってもあたりが見えないほどの夜中ではなく、薄暗いくらいの夜である。星空は今回はなく、空は雲が分厚く曇っていた…
…私たち三人組は、稼ぐために、また例の酒場へと訪れた…今日の客は、一週間前くらいに、お世話になった例の筋肉質のおじさまたちだ...見た目はごついが、一夜をともにした(話を聞いたり、話をしたり、撫でられたりした)ので、悪い人ではないのはわかっている…とにかく、日々の任務の疲れで癒しが欲しいだけのことだった。
今日も、一週間前とは変わらない態度で歓迎してくれて、話の花も色々と咲いた...前回は聞けなかった仕事の内容について、聞くと、そのリーダー格のおじさま、曰く、他の国の領地占領の指揮を取ったり、直接、戦いに行ったりするのが、仕事だと聞く…最初は、兵士長的な役割の人かと思ったが、話を聞く限りだとそれよりもかなり偉い立場の人らしい…酒が入っているためか、それとも私たちの前でカッコつけたいだけなのか…真偽はわからないが、このようなチンケな酒場に来ている時点で本物の可能性は低い。…だけど…一応…この話を持ってこないといけないなぁ…そう思い、最終手段として…この方法を今使った…
「だったら、おじさま…そこまで、偉いなら、僕たち三人から…ちょっとしたお願いがあるんだけど…いいかな…?」
…そう、上目遣いで自信なさげに言った…『かな』なんて語尾…普段なら絶対に使わないが、今回の要望はことがことのため、成功率の高い言葉遣いを選ぶ…
「おう…なんだい??カロンちゃん。カロンちゃんの願いなら、なんでも聞いちゃうぞ〜。」
そう酒の入った赤みがかった顔で、リーダー格のおじさまは、上機嫌に答えた…他のおじさまの接客をしているシャクシューとサキナもこの話題を始めたかと、認識すると同時に視線をそのリーダー格のおじさまへと移した…
「…おじさま…出来ればでいいんですが…私たちの家を買うための金を少しでいいので、恵んでくれませんか…?」
そう、客に対して言うには、あまりにも失礼な言葉を言った…言うしかなかった
稼ぎとして与えられるお金は食べる分には全く問題ないが、家で住めて生活できるレベルかと言われると全然足りない.。わかりやすく言うと、..日本円で言えば、月5万円くらいの稼ぎである…
そして、三人で話した結果、どう考えてもトイレが必要だと言うことに気がついた…トイレは、民家の中にしかない…つまり、家を一つ買わないと絶対に、トイレはついてこない。ということだ…とにかく、その経緯をしっかりのリーダー格のおじさまに説明した…というか、ただお金が欲しいだけだと、このお願いは絶対に聞いてもらえないため、説明を尽くさせてもらった…その結果、おじさまが出した結論は、こうだ…
「ふむふむ…なるほど…、それは確かに、重大だ…まぁ、奴隷である嬢ちゃんたちが、生きていくには、この先だけじゃなくて…現在でさえ…きついのか…、わかった…、じゃあ、一つ、人が住んでいない建物があるんだ…それを貸してやるよ…近くで、そばにいてくれる女三人守れないようじゃ、男が廃るどころの騒ぎじゃねぇからな。」
そう笑顔で答えてくれた…!! サキナは男だと言うこと、私たちを奴隷扱いされたことなど、気にならないほど…内心では喜んだ…思わず、顔が綻びてしまったのは、鏡を見なくても、わかる…他の二人の喜ぶ声も、後ろから聞こえてきた…とにかく、これで明日を生きていける!!!そう思って、天に昇るようにはしゃぎそうな自分を必死に抑えた…、しかし、そう思ったのも、つかぬ間…唐突に、リーダー格のおじさまの次の発言で、体が固まった…
「おっと、悪いが、流石に無条件で渡すわけねぇ〜だろ〜、それ相応の対価は払ってもらうからな〜」
そう、そのリーダー格のおじさまは、舌なめずりをしながら言った…、…え、…対価…金もスキルも…何もない私たちが…渡せるもの…、そして、このおじさまが望んでいるもの…、それって…、…




