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聖母になるまでの鎮魂歌(レクイエム)25







 「カロン、私はあなたがとても心配なのよ。もしものとき、そのために私たちは、あなたを支え続けます。そのために、何もないこの土地から住み始めます。」


その言葉…それ自体が...本音であること自体が…当時の私はありえないとしか思えなかった。無償の愛を捧げるような人物は、この世の中に絶対にいない…いるわけがない…そう幼い子供ながらの卓越した考えを持っていた…だから、そのシャクシューには感謝はしたが…怪しんでもいた…そんな心情を知ってかしらずか、シャクシューは僕に、こう言う。


 「とりあえず、雨風を凌げるものくらいは作りたいから、手伝ってちょうだい。平民街の南のゴミ捨て場に、素材になりそうなものを探しにいくから。」


 …まぁ、確かに必要なものであろう…雨の水分は、明らかに汚い…そんな雨をあびつづけると、身体に害が出る…その上、仕事の一つである癒やしをする上で、服装が汚いのは、明らかな欠点…減収…最悪、無給の可能性だって十分あり得る…さらに、この平民街の雨の確率は、三分の一…これは日本の降水確率と同じだ。だが、裏を返せば、三日に一回くらいの確率で雨が降るということだ。だから、風の備えはしなくても、雨の備えだけは必須ということだ。そんなわけで、三人揃って、ゴミ捨て場に行った …、行ったはいいが…問題は、たくさんあった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇



 …ゴミ捨て場…そこは、平民街の南部にある平民街だけではなく、貴族街全てのゴミを処理している場所である…このような現代風で言うと、3Kがつく仕事は普通奴隷とかがやるものだと思っているが、そんなことはない。確かに、奴隷にそんなイメージが先行するだろうが、奴隷という身分のせいで、仕事に就ける割合の方が圧倒的に少ないのが現状だ。地下水道にいる奴隷の清掃業務だって、たくさんいる奴隷の中のごくごく限られた定員の枠しか用意されていない…つまり、それで働ける人は、奴隷の中で能力的に優秀な人間だということだ。そして、貴族街全体と平民街全体の美化に関わる仕事は、疫病を防止する観点から、国家権力の役人が行っている。つまり、信頼が低い奴隷には、このようなことは任せられないというわけだ。しかし、その業務の100%は、ゴミの運搬…それだけである。ゴミの本格的な処理は、奴隷たちがしている。だが、当然、正当な方法でやっているわけもない。生ゴミの場合は、食べれるものは、奴隷が食べ、食べれないほどのものは、植物の栄養素にする。可燃ゴミの場合は、もの作りなどに再利用する。その中で、紙のものは、自分の能力を高めるための手段として、読み書きに使ったり、絵を描いて売ったりなどさまざまである。どうしても使えないものは、極論、奴隷の場合はない。なんでも使う。体液を拭くために使った葉も乾燥させて、また何かに使う。とにかくどんなものでも再利用する…不可燃物も、結局、何かのものづくりとかに使う…まとめると、奴隷は何にでも活用するため、南のゴミ捨て場に捨てれば、自然にゴミがなくなるというわけだ…しかし、私はその奴隷たちの処理能力を甘くみ過ぎていた…人間長年生活していれば、何にでも慣れてくる…ましてや、生まれた時から奴隷だった人物など、その生活を極めていると言っても良いレベルの人物だ…まぁ、どういうことかと言うと…私たちが持っていけるゴミなど…片手の一握りくらいしかなかった…別にゴミを選り好みしたわけではない…コンクリートや木材はもちろんのこと、紙類から草まで使えそうなものは三人がかりで探した…だけど…本当に使えそうなものはない…地面はコンクリートがけされている為、地面から土を奪えない…いや、土で作るなら、もともと住む予定の土地の土の方が湿っていて、使いやすいではないか…と、ここまで思考力が落ちるほどの収穫のなさだと改めて自覚した

 …役人たちがゴミを運ぶのに使うのは、大きな馬車…それを使って、ゴミを運ぶ…だから、その馬車が来るまで、ここで待てみてはどうかと、二人に提案してみた…


「これだけ探しても、なかなか見つからないんだ…一旦、馬車が来るまで待って、みたらどうだ?」


「…確かにその通りだけど…カロン、ここにいるたくさんの熟練奴隷の中でゴミを、奪い取れる自信なんてあるの?」


「そんなのはやって見ないとわからないんじゃないか?ここには、三人もいるわけだし、一人くらい、建物の素材くらいは手に入ると思うが?」


「手に入れたとしてよ。ここにいるたくさんの奴隷がゴミに群がるわけだから、まだ幼い私たちじゃ、その奴隷たちの大群に押し潰されて終わりよ。そんなのは、いやでしょ?」


「…それじゃあ、どうすればいいんだ?」


「…、…、…しょうがない…奴隷から奪い取るしかないわね…」


「…、…やっぱりそうなるか…」


と薄々感じていた可能性が今一番、素材を手に入れる可能性が高いことを知った…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


奴隷たちが、ゴミを巡って争うことは珍しくない…いくら、奴隷がたくさんいたとしても、一人の持てるゴミの量にも限りがある。他の奴隷たちの猛攻を避けられるほど、逃げ足が早ければ、その限りではないが、大体の奴隷はそんなわけない…中には、急ぎすぎるあまり、ゴミの一部を落としたままで自分の陣地へ帰っていくものもいる…そういうゴミから、奪い取れれば、きちだが、そう言うゴミは、質量が小さい紙類であり、三人の中で建築に活用できるものはいない…よって、建築に使えるコンクリート、あわよくば木材とかを台車とかの隙が多いもので運んでいるものから奪うか...両手にゴミを抱えているものに隙を突いて、それから奪うしかない… そう三人の間で、決めた…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇

〜しがない一人の奴隷side〜


 …飯…飯をくれぇ〜…そうやって、乞食をやっても誰も助けてはくれない…ダメ元でやってみたが…この平民街では…誰も慈悲がなかった…かと言っても、貴族街なんて、貴族しか入れない為…そこから、乞食なんて絶対に無理だ…、働ける仕事なんて…こんな何にも特技のない俺じゃあ…無理…、学ぼうとしたって…文字も読めない…金の無い俺に何かを教えてもらえる人なんて…誰もいない…完全に詰んでやがる…どうすればいんだ…


 そう一人の無精髭を生やしたしがない奴隷は、生命の危機にも直面する問題に対して本気で悩んでいた…奴隷はいくら死んでも、周りに気にかけてすら貰えない…それどころか、気味悪がられ、その死体は、ゴミ捨て場のところへ連れて行かれて…奴隷たちの食料になってしまう…いっそ、その方が…このまま、飢えに苦しむよりもずっといいのでは無いかとすら、思えてきた…だけど…本能が懸命に頑張れと、訴えかけてくる…これ以上…生きているのか死んでいるのか…わからない生活はしたくない…だけど、死にたくないという板挟みな意志の弱い俺は、毎日食べるものを探して懸命になりつつ、困り果てている…

 

 昔は、まだよかった…必要なことは何も教わっていない…というか、奴隷である時点で、読み書きができない人の方が半数以上だから、教えることができなかったのであろう。しかし、それでも母親がいろいろ頑張ってくれて…俺をここまで育ててくれた…最期にやつれ果てた体で言った言葉は…


「生きなさい。どんなに苦しい…この地獄みたいな世の中でも…、生き続けさえいれば…いつか報われる日が来るはずよ…」


だった…一年以上前の出来事でも、この言葉だけは一言一句間違えることはないだろう…だけど…本当にそんな日が来るのか?と、思い始めていた…いや、あってないものだと思い込んでいる…無理もない…毎日、食事を探すために、平民たちから石やコップを投げつけられながら、手薄な売店をリサーチし続ける毎日…やっと、店主がよそ見している頃を見計らって、店の商品を盗むことには、すでに日が暮れていることなんて何度もあった…この国では、盗難が日常的に行われていることもあって、それに対する対策が十分にされている…その対策は学のない俺にはどう言う仕組みかさっぱりだが、店主の視界に奴隷が入るだけで、数十秒後にはいくらもがいても解けない縄が体全体に引っかかり、身動きが取れなくなる。奴隷は金なんてほとんどないため、売店に近づくのは十中八九『盗み』である。そのため、店員は視界に入っただけで罠を掛ける…普通の平民も盗みはやるが、それは本当の客人かもしれないため、その罠は即座に起動しない。しかし盗みがバレれば、当然捕まる…かと言っても、平民の場合は、俺たち奴隷とは違って、死刑ではないらしい。以前、盗みをしくった平民がいたが、1ヶ月後には普通に生活していた。だが、『捕まる=社会的身分が下がる』というリスクは、どんな身分でも等しい。そんなリスクがあっても、習慣化された出来事はいやでも上達する…つまり、平民街の住民たちはそれを掻い潜るように、日々上達していっているのだ…奴隷を除いて…正確には、奴隷も窃盗技術をあげているが、それは亀の歩みが如し...第一、俺ら、奴隷は団結することがまずない、それがたとえ家族であったとしてもだ。俺の母がたまたま珍しかっただけで、普通、人間は明日には我が身の命があるかどうかもわからないなら、他の人の心配をしている余裕が全くない…むしろ、他人を蹴り落とすほど、他人に対して敵対心を抱えている。だから、奴隷は基本的に単独行動だ。だから、数による戦略もできないし、奴隷たちは、頭が悪い…いや、実際は、周りから散々、罵倒され続けた人生のため、自己肯定感がなくなって、どんどん自分で考えることがなくなったのだと思うが、それでも、毎日、知識を蓄えている平民たちに比べたら、当然、何もかもが低スペック…売店の店員もその平民に当てはまるため、奴隷如きの、しかも単独の戦術なんて通じはしない…そんなんだから、日々、ゴミ捨て場の生ゴミを食べている奴隷の数の方が圧倒的に多い。しかし、俺はこれまで、そんなのは一回も食べなかった…というよりも恐ろしかった…匂いが強烈なのは、生ゴミだからしょうがないとしても、その味はどうしても人間の食べるものじゃないと思えて、生理的に受け付けない…奴隷の分際で、そんなことは選べないだろうが、あんなのを食べ続けていたら、いつか病気になって、絶対に死ぬだろう…だから、リスクはあるが、比較的、内臓に負担のかからない『盗み』で得た戦利品を食べてきた。…とは言っても、それで上達したのは、『身のこなしと俊敏さと動体視力』これだけである…それでも、それがあったからこそ、たとえ店員がよそ見していたとしても、なんとかうまく盗めた…そもそも、店員の視線だけではなく、石などを投げつけてくる平民の視線にも注意しないと店員に気づかれてしまうので、それも考慮して盗まないと行けない。だけど、それもこの栄養が足りていない体では…もう無理だ…というか、今日食べないと、もう餓死するのではないか、そう思うほどだった。…だから、最終手段を使った。ゴミ捨て場の生ゴミだ。あそこに行くしかない。そう思って、おぼつかない足取りで、ゴミ捨て場へと一歩 …また一歩と歩を進めた…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


 ゴミ捨て場にやっとついた。予定よりもだいぶ遅い到着だが、ちょうどよくもあったかもしれない。少し遠めのところに馬車の姿が確認できた...あの馬車の生ゴミさえ、食えれば少なくても今日は生き延びれる…そう思うと、なぜだか力が湧いてきた…そして、遠めのところで馬車の台車のゴミが傾く…ゴミをそこに置いていくつもりだ…、期待したゴミの中身が見えてきた..腐敗した魚の骨…腐り切ったパン…腐敗した野菜のヘタ…どれも普通なら食べないが、今回ばかりはそれに食欲がそそり、体がそれを望むようによだれも出てくる…そして、そのよだれが垂れ落ち、地面に落ちたその瞬間、俺は犬みたい…いや、その時は火事場の馬鹿力が働いたのだろう…確実に犬よりも速く4速歩行で走っていた…大量のゴミに群がる奴隷たち、俺はその蜂の巣の中にいる蜂のような大群を自慢の身のこなしと俊敏さで、どんどん避けていく…そして、その生ゴミに手が届くその瞬間…俺の目の前にあった、生ゴミは..消えた…いや、自慢の動体視力はその詳細をしっかり捉えていた…髭面の男が取ったのだ…###!!!!!!!!! 俺は激怒した…目の前にあったはずの生ゴミは、俺の視界にある限りだと最後の生ゴミだった。それを奪われてはもう俺に明日はない。だから、俺は、生きるための当然の行動…その髭面男に襲い掛かろうとした…その瞬間…突然死角から衝撃が走り、そのまま俺は奴隷の群れの外へと追い出されてしまった…しかし、またその大群の中に入ろうとする…いや、入ろうとした…だが、いくら頑張ってももはや足が一歩も動かない…奇跡的に起きた火事場の馬鹿力も…最期は、自分の不運で全部…終わったか…そう本当の最期に思って、意識が暗い闇へと…どんどん...どんどん...堕ちた


…、...、。。。


…、。。。。。


…、。。。。。。。ゴツッッ!!!


『ごつ?』...芳しい匂い…どこかで一度は嗅いだことある香り…そう…この香りは…まさか…木ッッ!! 木!!! 木!!!! 木~~~~~~!!!!!


俺は、その木材にむしゃぶりついた。おそらく、奴隷たちの暴走の衝撃で、ゴミとして処分されるはずの木材が、俺のところへと飛んできたのだろう…それは幸運…不幸の中のその不幸…何度も続いた不幸の中…唯一自分で手に入れた…幸運!!もし、この木材の当たる角度が一度でもずれていたら、俺のところには来なかっただろう…衝撃の強さが、少しでもずれていても同じだろう…まさに、幸運!!神より与えられた幸運…そう思い、俺は、自分の体の面積の10倍はあるだろう木材を全身で抱きながら、少しずつ食べていった…いや、いこうとした…その前に、股間に強い強い…衝撃が走り…このまま…意識を失った…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


〜カロンside〜


 ゴミ捨て馬車が来た。だが、当然、奴隷の中につっこみはしない。突っ込んだら、大人の体重差で吹き飛ばされて終わりだ…だから、私たちは、それが終わるまで見届けるつもりだった…だが、それをする必要はすぐになくなった。先程、吹っ飛ばされた無精髭の成人男性のところに、当初の建物を作るのにちょうど良いどころか、十分に雨風凌げるくらいの小屋が建てるくらいの木材が転がっていた…しかし、持ち運ぶとしても、この男性が邪魔だ。気絶させとこう…もし後で起きでもされて、抵抗されたら、いくら我ら三人がいても、大人相手には敵わない。そう思って、今、木材に顔面を擦り付けている?男の人に、男の人が一番、気絶する可能性が高い場所目掛けて小さな体を使って、勢いをつけて上から体重を加えた。


*2歳の平均体重は、13kg…カロンの体重を、10kgと仮定しても、十分の破壊力があります。


その男性は動かなくなったが、仮にも成人男性だ。これぐらいで死ぬことはないだろう。


*普通に死にます。良い子も悪い子も絶対にやめましょう。(内臓の届くほどの斬撃を10回以上受けた痛みが毎秒ごとに来ます。)


そう思って、私はこの男性をその板からどかすと、シャクシューとサキナを呼び、三人で、例の場所まで運んだ…それから、色々な工具を夜中に盗んでは、返しを繰り返し…一週間後…やっとそれらしい小屋ができた。




 



しがない奴隷男性は、股間の凶撃で動けなくなり、本格的に食べ物を調達できなくなり、...餓死...しました...無念...

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