二人目の加護
"\u4e16\u754c\u304c\u4e00\u90e8\u30d0\u30b0\u3063\u305f\r\n""\u79e9\u5e8f\u3092\u5909\u3048\u308b\r\n"
pm:11:42 深夜の屋敷のこの時間帯、いつもならこの屋敷には、一人の執事とその男とは別室で寝ている例のお嬢しかいない。しかし、今夜の場合は、違う。そのお嬢の部屋にこの時間にこの屋敷にいるのに似つかわしくない外見の小学生高学年の少年がいるのだ。ただ寝てるだけならば、よくもないのだが仮に百歩譲ったとしよう。深夜はこの時間、世間から言わせれば、小学生などまだ子供の中の子供であるにも関わらず、この時間に家に帰らずにしかもはたから見れば怪しげな館で寝てること自体が現代のコンプライアンス的に言えば、大分セーフの中のアウトに見えるが、まぁ今の状態に比べればそれも目を瞑ろう。それで、肝心のその状態とは、よく見ればすぐわかることでもある。いや、よく見なくてもデジタルコンテンツ産業が盛んな昔から別の意味でカオスに歪曲した現代の日本の人、いわゆる「オタク」と呼ばれる人たちから見れば、この状況こそたとえ有り金を全て使ってでも、叶えたい「垂涎もの」でさえあるであろう。だが、実際にその経験をしてみれば、かなり歪んだ意味ではあるが、よほどの強者?でもない限り、幸福を感じるところかむしろ興奮して寝れないのではないのかとさえ思ってしまう。しかも、少年にしてみれば、相手は素性もわからない上に、いつ殺されるかわからないほどの力を持っていることを少年も理解しているだろうからそうなると、眠れなくなるのは、尚更であろう。さらに、大変皮肉ではあるが、一般的に見れば例のクソ嬢はかなり美人な部類に入るであろう。その嬢は今、小学生とは言え、第二次性徴がおそらく発現している期間の子供を抱き枕にして寝ているのだ。少年の方はというと、何を考えているが知らないが、最初の方はクソ嬢から誘ったため、躊躇いがちにクソ嬢のベッドに潜り、抱き枕になったのだが、ある時間を期に抱き枕を異様な感じで嫌がったり、逆にいきなり泣き出し、おもいっきりクソ嬢に抱きつたりするのだ。最近の小学生の事情など知る由もないのだが、少なくともこの少年が性格が普通とは違う狂人である可能性もないわけではないが、午後のクソ嬢との会話の流れを考慮すると、それも考えがたい。となると、残った考えられる可能性としては、お嬢がこの少年で遊んでいるのか...明日、この少年にはクソ嬢よりも精のつくものでも食べさせてやるか...今夜、おそらく日本で一番苦しい目にあっているであろう少年に執事は憐憫の念を心の中で示した。
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am10:33
いつもなら、遅くてもam7:30にはクソ嬢を起こしているのだが、今回だけは、少年の疲労を考慮して、かなり遅めにクソ嬢の部屋に入ってみた。...どういうことだ。昨日の様子から、二人とも寝ているものだと思った。少なくとも、あの少年に関しては疲れ果ててこの時間でさえも起きれるはずがないと思っていた。だが、実際は予想とは全く違っていて、珍しくいつもの青いフリルがたくさんついた不思議のアリスのアリスを現代のソシャゲらしく豪華にしたバージョンのような服装の上に柔らかい生地を使った白衣をきたリボンが目立つ服装をしているわけでもなく、白のTシャツに大きく「人生、働いたら負け」と書かれた●ま●らで売っているような安っぽい服装を着ている。また、少年の方はいつ買ったのかわからないが、クソ嬢とは対照的に、いたって普通の赤色のチョーク柄を着せていた。
「よう、今回は随分と遅いじゃないか。」
...どうして遅れたのか、知っているのにわざわざそれを言うのか...まぁ、いいや。無視しても結果は変わらん。
「...あまり、こいつをいじめてやるなよ、どこに行くつもりだ。」
「ん?いや、単なる買い出しだ。いない間は、屋敷の留守番頼むよ。もし、帰った時にいなかったら、わかっているな?」
「安心しろ、もとより、私にここを抜けて住む勇気はない。それより、こいつはまだ休ませた方が良いのではないか?第一、倒れられでもしたら、一番困るのは、お前の方だろ?」
「ああ、それなら。no problem.お前が懸念していることは私がいる限り、決して起こりはしないよ。」
「どういうことだ。お前に決してそんな”能力”はないだろ?」
「そこまでお前に話す必要はないだろ?とにかく、私はこいつと一緒に出かけてくる。留守番を頼むぞ。」
まぁ、いいだろ。この少年の体力が回復してなかったら、本当に困るのは、このクソ嬢なんだ。そんなことをあいつがするのは、この少年を殺すよりももっとない。久々にこのクソ嬢の金でも使って、好きに過ごすか。
「...了解した。」
と返事をして、執事は自室へと戻った。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし、さぁ行こうか。」
「はい、わかりました。」
と言って、二人は怪しく薄暗い屋敷から出て行った。
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pm5:12
「ふー、食った、食った。やっぱり、あいつの飯よりファミレスの方がうまいなぁ。キミはどう?」
「僕もうまかったです。しかし、お姉さんは
大丈夫ですか?」
「ん、なんのこと?」
「その、お姉さんは、普段着がなんか患者服みたいだから、どこか体が悪いのかと思って…」
「あ〜、そのことかぁ。あれは…うん、単純に私の好きな服装ってだけの話だよ。」
「うそつき…」
「いや〜、ばれた?」
とウィンクを返して、僕に言った。
「まぁ、でも、実際問題、そこまで重症じゃないわけだし、すぐに治るような病気だから、安心して。」
「…まぁいいです。ところで、お姉さん、前から気になっていたんですけど、お姉さんの名前って何ですか?」
「あ〜、そう言えばまだ、教えていなかったよね。ん〜、….漣、うん、潮彩漣ってことにしよう。」
「また、嘘つき。」
「まぁまぁ、今度のは明らかに嘘だっていう表現だったでしょ。」
「そうですけど、…本当の名前は教えてくれないんですか?」
「いいや、教えてもいいけど、長くて呼びずらいよ。多分『じゅげむじゅげむ云々』とタメを張るくらい。」
「そんなに!!」
と少年は驚く。それから、少年の視線は、漣の荷物に注がれた。
「あ、やっぱり気になる?」
「それはそうですよ。だって、買ったものといえば、どれも使い道がわからないものばかりですし、何に使うんです、そんなもの...」
「ふふふ、あのクソ執事に悪戯をしようと思ってwww」
そう言って、最近見ない悪戯をする子供のような顔を浮かべた。
「そのためだけにこんなに買ってきたのですか...」
と少年は、半ば呆れた表情をした。すると、今度は漣が少年の顔を凝視し始めて
「どうしたんですか?」
「いや〜、変わったね。昨日の態度と口調が全く違うよ。昨日の”あれ”はやっぱり効果覿面だねwww やっぱり、キミもこう見えて男の子だったというわけか。」
と細長いネコの目のような揶揄う目つきと口調で、僕を見つめる。
「誤解を生むような発言はやめてください。漣さんは、僕のことを全然考えてません、”あれ”のせいで性格や口調が変わってなんか色々と変な気持ちなんです。」
「え〜、私は昨日のキミよりも、今のキミの方がよっぽど大人らしくて好きなんだけどなぁ。」
「また、心にもないことを言って。」
少年はため息をつくしかなかった。
「あと、今度からはもう”あれ”はやめてください。今回のやつでも、死ぬほど痛かったのに、また次のやつをやるとなると、痛いじゃすみませんし。」
「いや〜、ごめんごめん。そこまで痛かった?」
「痛いですよ、まだ実際の人生経験は浅いですけど、総合でダントツ1番にくるぐらい痛かったですから。」
「ま〜、過ぎたことをいつまでも気にしても仕方ないよ。安心して、もうやらないから、その代わり、毎日語る、例の物語の聞き手にはなってもらうよ。」
確かに、あの痛みに比べれば全然楽だし、むしろ楽しそうだ。
「わかりましたよ。けど、その話をする前に早く帰らないといけませんね。」
「ああ、そうだね。じゃあ、帰ろうか。」
夕焼けに染まるデパートの人影の中から、二人の人影が一瞬で消えた。
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tenstoinaimiemnihsg
pm5:25
「おい、クソ執事!!いるか?!いなかったらどうなるかわかっているだろうなぁ?」
とさながらヤクザの脅しのような声で屋敷の玄関で、執事を呼ぶと、しばらくして憤怒した様相でやって来た。
「おかりなさいませ、クソ嬢様。御食料になりますか?それとも、天に行ってお清めになりますか?それとも、自 殺 ☆
どちらでも好きなのをお選びください。どちらを選んでも、本当の意味で『絶世の美女』になることを保証いたします。」
しかし、その瞬間、目の前に立つ彼女の容姿と普段の声音では、考えられないほどの事態が起きた。『悪魔』が降臨したのだ。つまり、
「アァ!?お前、死にたいのか?全然意味がちげえし、『絶世の美女』とか、喧嘩売ってんのか!?本当にお前を食料にしてやるぞ!!」
とどす黒い声で、そう言い、執事を睨み返したのだ。この刹那、執事は気づいた、『あぁ、いつもなら先ほどのような言葉を言っても、ずいぶんと洒落たことを言うのね、と一言言って終わりのはずだった。事実、このクソ嬢は、今は決して不機嫌ではなく、機嫌が良い。だが、逆に機嫌が良すぎた。私の知っている限り、どの過去のクソ嬢を見ても、今日よりご機嫌なことはないだろう。だからこそ、良すぎて、この気分を台無しにしたときは、その好機嫌の倍、機嫌が悪くなるのだ。』と。それに気づいた瞬間、失意で体全体が脱力し、体重を支えてくれた両足がさながら某rpgのごとく膝から崩れ落ち、視線は玄関の床に釘付けとなった。クソ嬢に、最後の生命活動までも奪われてしまうかと悟ったが、もうすでに遅い、人生終了だ、と、そう思った。瞬間精神までもが終わりを迎えたのか、私の顔を覗き込むクソ嬢の顔面からツノが生える幻覚が見えて来て、さらに暴れん坊将軍の曲まで脳内再生される幻聴が聞こえて来た。しかし、その瞬間、事態は全く予想していない方向に動いた。
「なーんて、するわけないじゃんwwwふふふ、いーや、にてもよくできているねぇ、このおもちゃ。よしよし。」
顔を上げると、クソ嬢は、美人な顔には似つかわしくないドヤ顔をしながら、ツノが目立つ闘牛のぬいぐるみを愛でていた。普段なら、クソ嬢が笑い出すという天変地異レベルの現象に絶句していたのであろうが、生憎、九死に一生を得たような今の気分と私の「能力」も相まって、今は心底嬉しい気分だ。そうして、冷静になるとさっきの現象にも合点が行った、『なるほど...そういうことか、さっき見聞きしたものは幻でもなんでもなく、あのぬいぐるみのツノとそれに備え付けられた曲だったというわけか。あとは、私の視線に映るようにする。ぬいぐるみをあの男児に持たせれば、違和感なんてない、か。』と。そうこう考えているうちに、クソお嬢は、私を一瞥して、「あ〜、面白かった。にしても、おまえまで、私を驚かそうとするなんてすごい偶然だな。なかなか面白かったけど、胆力が足りなかったな。」と言い、男児と一緒に自室へと戻った。
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その後、いつもよりなぜか機嫌が良さそうなクソ執事が、料理を持って来たが、ファミレスで既に食べに行ったことを伝えるとさっきほどではないにしろ少し不機嫌になって、自室へ戻って行った。やけに、私の料理よりも男児の料理が豪華だった気がしたが、あいつらの間に何か関係を進展する時間なんかあったっけか?
「まぁ、どうでもいいか。さて、今回は前回に比べるとだいぶ遅いが、始めるとするか。」
「その前に、漣さん、いつも僕の呼び名って、代名詞ばかりじゃないですか?」
「ああ、そうだな。不満か。」
「うん、偽名とは言え、漣さんも名前を教えてくれたし、僕も名前で呼んでほしくて。」
「お〜、そうか”あれ”をやった後でも、しっかりとしたアイデンティティを持てるなんて、お姉さんは、嬉しいよ。それで、名前は?」
「メルト。」
「....、あ〜、そう来たか。確かに、こっちとしては、名前を明かしていないから偉そうなことは言えないけど、偽名はどうかと思うよ。」
「まぁ、いいじゃないですか。それに、こっちだって、漣さんと同じ理由かもしれないし。」
「仮にそうだとしても、私よりは確実に短いはずだけどねぇ。」
と、漣さんは若干拗ねたような声音で言ってきたが、実際はそうでもないだろう。
「とりあえず、今回も始めようか。『語り継がれなかった物語』を。」
「ん?今回も前回みたいにあらすじを僕に聞かないのですか?」
「まぁ、前回のラストは衝撃的だったから、流石に記憶には残っているよ。それより、メルト君、なんか私の記憶力の扱いが『よく忘れる認知症のお婆さん』みたいになってない?」
「....」
「あー、そうかい。もう決めた。今夜ももう一回”あれ”をやろう。決定事項だ。」
「っっ!!本当にやめてください。謝りますから!!」
「まぁ、その謝罪と誠意は、語った後で見せてもらうとしよう。じゃあ、早速始めるよ。」
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『ない、そうあるはずがないんだ。ほら、よく見れば着ている服がいつもと違うじゃないか。こんなに赤い服なんて妹の持っている服の中にはない。』と、蝋燭の火のように脆く頼りない理論で思考してみても、『妹とすごく似た人物が倒れている。だが、こんなのが妹であるはずがない.......』と、錘を詰めたように動かない口でそう言い聞かせても、視線はその死体が妹であることを悠然と語った証拠に釘付けとなった。左腕の薬指に....ジャスミンの花の銅指輪...あ、、、あ、、あああ!!!!!!!なんで!!!なんで!!!
そう思った瞬間、世界と自分と意識と...なにもかも、どす黒い衝動に染まった。理性がそれを懸命に阻止しようとするが、そんなのは、焼け石に水だ。そして、どんどん大きくなっていくのだろう...と思った。次の瞬間、脳内に焼けるような痛みと理性とはまた違う、形容し難い感情が俺を侵食?し、、、そして、『若きシャーリドさんの傍で腹部に致死量にも及ぶ血を出しながら何かを叫ぶ女性、アダムとイブの木に寝そべる誰か、目の前で血を噴き出して倒れる一人の筋肉質な青年男性、大粒の涙を浮かべながら強く抱きしめながら何かを訴えてくる武装したスタイルの良い女性、血の海と読んでもいいほどの阿鼻叫喚となった貧民街、首の長いのにマダラ模様の見たことない生物、濃霧と言って差し支えないほどに霧に覆われた森で、別れの挨拶を告げる一人の人?かも判別できないもの』これらの光景が、刹那の間に脳内を駆け巡り、気づけば、僕は妹の手に触れて、、、
『能力』を使った。
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気がつくと、僕は見慣れた個室のベッドに寝ていた。そこで何が起きたかの顛末は全て理解した。ならば、重要なのは、結果だ。そう思って、部屋から出ようとするのだけど、それを僕の意思が拒む。理性は、様子を見るべきだと叫ぶのに、結果を知ることによる恐怖で足が動かなくなった。だが、またもや理性とは違う何かが働いて、僕は部屋を抜け出した。
部屋を抜けると、シャーリドさんがガラス越しの部屋で理性に従って我が妹、テイミリィを癒している。それを確認すると、その部屋に行き
「シャーリドさん!!俺にできることがあったら、今すぐ言ってください!!」と答えた。
theiiotnmmanseiisng
pm18:42、僕とシャーリドさんの能力を使って、なんとか妹の命を救うことができた。たった、半日もしないうちにあんな大怪我を治せるシャーリドさんの能力とそれに対する熱意には感服するばかりである。しかも、実際、治療にかかった時間はというと、3時間ちょっとであり、残りの時間は念のための安静である。妹の朗報を聞くと、僕は”能力”を使って、妹のところに向かった。
”能力”、実際にこの力を使えるものはこの国でも、数えるほどしかいない。その中で僕が知っている能力者は、恩師であるシャーリドさん、我が親愛なる妹のテイミリィ、そして、能力が使えること以外で特になんの才能もないポンコツである僕、サナエである。シャーリドの”能力”は、治癒。能力者とは、本来一つの能力しか使えない。例えば、治療するにしても、薬を調合したり、血行を促進する按摩などがある。しかし、彼女にそんなことはできない。彼女にできるのは、接触した人間の免疫力または回復力を極限まで高めることだけである。しかも、その使い方がどうやら思っている以上に奥が深いものらしく、日々の能力研究はその治癒力のコントロールや向上が主目的だ。
目に入れても痛くない我が最愛の妹、テイミリィの能力は分身だ。しかも、その分身は、実体を持っており、その能力を使って酒場でバイトをしている。その店主曰く、たった一人のバイト代で何人分もの労働力になるものだし、実の娘を超える可愛さであるため、実の娘よりも可愛がったり融通をなにかと利いたりするらしい。それを聞いた時、『歳をとると店主もこんなにも視力が衰えるのか』と、盛者必衰の理を感じた。我が妹は、この王国でも一、二を争う、いや全世界でさえ一、二を争うくらいの可愛さなのだ。それが、凡庸の娘を比較対象とする時点で、歳のせいで観る目も衰えてくるのかと思うと、やっぱり『いと』がいくつあっても足りないほど、いといといといとかなし。
なお、能力者のことでシャーリーさんが教えてくれたことだが、能力者には、成長型と非成長型に分類されるそうだ。シャーリドさんとテイミリィは成長型に分類されるらしい。一方、この僕に関しては、...大変不気味と言えざるを得ないこととなっている。つまり、二つの分類に当てはまっているのだ。どういうことかというと、僕の持っている能力は、”移動”、”超回復”、”警鐘”のトリプル持ちなのである。その中で、成長型に分類されるのは、”移動”、“警鐘”。 非成長型に分類されるのは、”超回復”である。成長型とは、文字通り、経験や強い願いに応じて、能力が進化していくものである。例えば、我が妹のテイミリィは、最初の頃は、分身を出すことはできるが、どれも1分程度で途切れ、かつ出せる人数も少なく、さらに、本人の完全下位互換のスペックであった。しかし、酒場でのバイトを通じて今では、本気を出せば百人を超える人数を記憶を共有した状態で動かすことができる。ただ、この能力にも弱点があり、分身していないオリジナルの意識が消失すると、分身は全て消えてしまうのだ。この弱点というのも、さすが成長型だけあって、克服できるらしいが、さすがに能力を成長させるために毎回気絶させるわけにもいかず、結局この弱点は今も直っていない。次に、非成長型についても、また文字通り成長しない能力である。一見すると、成長型の劣化であるようだが、それが全く違う。まず、非成長型は端的にいうとチート。僕以外の非成長型の能力者に会ったことがないため、僕を例にすると、僕はたとえどんな傷を負っても、絶対に死なない。たとえ、細胞一つになったとしても、全身回復まで5分もかからない。そう考えると、シャーリドさんの”治癒”の上位互換のように感じるが、シャーリドさんのように相手を癒すこともできないし、俺が癒すことができるのは、あくまで傷だけだ。精神的な痛みは、”治癒”の力で直せるが、”超回復”はこの点に関しては治せない。これは、前述した『一つの能力しか使えない』条件に反くように感じるがそんなわけもない。そもそも”治癒”の原理は、シャーリドさんが持っている理性という能力の源を使って、その理性を被治療者に流し込むことで発生するものらしい。どうやって習得したかわからないが、その流し込んだ理性を人間の魂にあたるところに流れるように誘導すれば、心理的な痛みも治癒されるらしい。つまり、心理的痛みの治癒もさっき言った条件には反かない。ちなみに、もし細胞一つ残らないような攻撃をされたら、流石の”超回復”でさえも発動せずにそのまま死ぬ。まぁ、そんな攻撃、いままで聞いたことも見たこともないけど。
そして、もう一つシャーリドさんから教えてもらったことだが、『相手に直接影響を及ぼす能力の場合、同じ能力者の場合は、簡単に発動できるが、普通の人間の場合はそうはいかない。さらに、物の場合はもっと上手くいかない。」というのも、この例に当てはまるものは、僕の”移動”と”警鐘”、シャーリドさんの ”治癒”。シャーリドさんは、色々と説明したため、今度は”移動”を例とする。僕は、自分の理性を使って、自分を自由に移動できる。さらに、相手と接触することで、その相手ごと移動できる。しかし、その相手が能力者ならもともと相手の理性の量は多いため、少量の理性で事足りる。しかし、相手が一般人なら、能力者より理性の量が少ない分、多くの理性が必要になる。また、物の場合は、そもそも理性というものは存在しないため、ものに対して基本的には能力者の理性量と同じくらいの量を渡さないといけないため、理性量の多い僕でも、うまくいって5回が限界だ。
とにかく、僕は”移動”を使って、テイミリィの病室へ来た。一般の人から見たら、扉を開けた跡すらなくいきなり人が現れるのだから、驚くのも無理もない。だが、そのことに慣れている我が妹、テイミリィは訳違う。彼女は僕の姿を確認すると、大粒の涙を浮かべながらこう言った。
「っっ...っっ..お兄さん、よかった。もう会えないと思ったよぉ。」
確かに、今回は本当にそうなるところだった。もしあのとき無意識の領域で、僕が”移動”を発動していなかったら、妹は間違えなく死んでいた。そして、もう二度とこの顔を拝むことさえできなかっただろう。そう思うと、涙が溢れて来て、思わず妹を抱きしめていた。妹もそれを受け入れ、しばらくのそのままの状態が続いた。
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自分が先に落ち着いた。理性量の関係もあったのだろう。一般的に、能力者は理性量が多ければ多いほど感情よりも合理性を重視する傾向にある。僕は、そのまま泣き続ける妹を宥めながら、酒場で起こったことを思い起こし、思考した。
『あそこの酒場は、元傭兵と元国家精鋭部隊隊員などの凄腕の兵士たちが、わんさかいる。あんな場所に潜り込み、尚且つ、そこにいる全員を抹殺することなんてたとえ、国家精鋭部隊の隊長でも無理な話だ。となると、考えられるのは、あの酒場で顔見知りであり、なおかつ、戦いに長けた人物、僕の知っている人の中にそんな人間なんていない。さて、どうしたものか...』
と思考し終わると、ちょうどテイミリィが泣き止んでいた。
「なぁ、テイミリィ。覚えていたらいい。酒場を襲った犯人の記憶は残っているか?」
というとテイミリィは、顔を青ざめて...またさらに青ざめながらもいうのも躊躇いがちに、妹の記憶にあるありのままを語った。
「お兄さん、今までお兄さんにはたくさん迷惑をかけて、いろんなお願いもして来たけど、今から言うお願いは、私の人生の中で一番叶えて欲しいの、お願い。」
「ああ、わかった。なんでも言え、このお兄ちゃんがなんでも叶えてやる。」
「........私の記憶の中では、酒場を襲ったのは、単独犯。そして、今からいう願いは、この後に私が何を言っても取り乱さず、冷静になって聞いて、そしてこの事件を解決して.....私の記憶にある限り、酒場を襲ったのは....」
「シャーリドさん。。。。。」