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聖母になるまでの鎮魂歌(レクイエム)18



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


〜オリシアside~


 …あの当主がどういうつもりで渡したか、さっぱり検討がつかないが、今、わたしは、『カロン』という名の最強の武器を手に入れた。…彼女の能力さえあれば、戦闘面ではもはや誰にも敵わないであろう…それくらい、彼女の能力は強い…強すぎる…

 仮に100人…いや、たとえ一万人の武装した兵士がいたとしても、彼女に傷一つつけることも叶わないだろう…、そのくらい彼女の能力は、異次元のレベルであった…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


 『カロン』…別名…真紅しんくの片目の死神…

彼女の能力と気質は、驚くほど合っていた…合いすぎていた。彼女の能力の一つである憎悪紙死ぞうおししは”非成長型”である…この時点で、既にチートの雰囲気はぷんぷんと醸し出しているが、ご多分に漏れず、チートである。この能力は条件があるが、その条件さえ満たせば、相手を簡単に死に追いやることができる…具体的には、次のようなものである。


 『強い憎しみを抱いた相手限定で、カロンの中に決めた制約に反すれば、相手は死ぬ』


…この能力…前提さえ満たせれば、かなり強い能力だということが、理解できるだろうか?まぁ、具体例がなくては、理解はなかなか難しいため、一例を出そう。

 相手に強い憎しみを抱いている前提を満たした上で話すが、例えば、カロンの中で決めた制約が、『相手の呼吸禁止』だとしたらどうだろう?その相手は呼吸した時点で、絶対に死ぬ…しかも、この制約は口に発する必要もなく、ただカロンの頭の中で決めればいいため、相手にはこの制約は不可避である。…改めて言おう…呼吸するだけで絶対に死ぬ上に、その制約はカロン以外には誰もわからないのである…、つまり、いきなり初見殺しの即死攻撃をくらうのと一緒である。しかも、ゲームと違って、普通の人のライフは一つしかないため…カロンにこの能力、憎悪紙死ぞうおししを発動させた時点で相手の死はほぼ決まりである。ならば、前提条件の『強い憎しみ』を発動させなければよいだろうと考える人もいるだろう…確かに、カロンが普通の人間ならば、その対策もできたであろう…普通の人ならば…だが、能力者であるということは、闇堕ちレベルの感情爆発を経験した人でもある…つまり、普通の人である可能性など能力者である時点で虚空の彼方の可能性でしかなかったのだ…しかし、ただ普通の人でないだけなら、まだいいであろう。普通の人でなくとも、いきなり初対面の人に強い憎しみを抱くことはなかなかできることではない。たとえ抱いたとしても、その人にばかり脳が集中するほどの憎しみを抱けるだろうか?四六時中、その人物だけに怒りを燃やすほど、親の仇と思うほど、恨みのない初対面の相手にそれほどの憎しみを果たして注げるだろうか?考えるまでもない無理である…よほど、特殊な人でなければ…そう。この能力を持ち、なおかつ、初対面の相手に一生引きずるくらいの恨みの熱量を注げるような人…能力者でさえ、人口が3億人程度のアデルプラント王国でも百人を満たないのだ。その中で、瞬時に相手を強く憎しむ熱量を発せる人など天文学的な確率よりもさらに天文学的な確率であろう…それが、カロンなのである。

 …中縹なかはなだの髪色の彼女の目は、オッドアイ、つまり、両瞳の色がそれぞれ違うのである。左目は黒猫の瞳のように自由気ままさを彷彿とさせる黄色い瞳。右目は真紅しんくの由来とも言える地獄の業火を体現するが如き赤き瞳。そのそれぞれが、端正な顔立ちとあいまって宝石のようにキラキラと光って見える程、神々(こうごう)しい。ただその目は、ハイライトなど存在しないほど濁り曇っていた。その心は、絶望を何度も体験しただけでは、たどり付けない境地まで進んでいた。自らの意思など全くない人形に最も近い人間を体現していた。だからこそ、自分のどんな感情もまるで道具のように扱うことが出来た。

 よって、カロンにとって、憎悪紙死ぞうおししは無条件で相手に初見殺しの即死攻撃を放てる究極の能力である。しかし、この能力にも欠点がある。もし能力を発動する前に、相手に殺されたらおしまいである。つまり、思考するよりも早い方法で、身体を破壊されたら終わりである。…しかし、そのカロンの唯一の欠点ですら、もう一つの能力が補ってしまっていた。

 擬態透過ぎたいとうか...この能力も恐ろしいことに非成長型。非成長型が二つ…一つでさえ、チートなのに、…それが二つも存在している。この能力は、あらゆるものをすり抜ける。物質はもちろん、打撃や爆発による衝撃、原子レベルに干渉する攻撃、心理的ダメージ…あらゆる攻撃はいっさい、効かない。例えるなら、ナ●トのオ●トのすり抜けが、5分という制限なく、なおかつ常時発動でき、しかもカロンが攻撃する時もカロンの攻撃は相手に効くが、相手がその時に攻撃しても全く効かないのである。つまり、どんな時でも相手の攻撃を無効化する能力、それが 擬態透過ぎたいとうかである。この能力は、さらに任意の相手に触れているとき、カロンの判断で、その相手も同じ効果を受けることができる。例えば、さきほど、天下のイエラ家の屋敷の最上階、約50m…そこから飛び降りたオリシアとカロン…二人は手を繋いでいる。この光景を事情の知らない人から見れば、心中自殺という血迷った行為に見えるだろう。だけど、実際は違う。先ほど話した能力 ”擬態透過ぎたいとうか”を使って、オリシアとカロンは、無傷で着地できる。

 まとめると、カロンはいつでも回避不能の即死攻撃を放てて、しかもどんな攻撃も効かないという小学生が考えたようなチート能力者である…しかし、さらに意味不明なのは、こんな超チートキャラを、簡単に手放せた当主の意図が完全に不明である…




 …身体に自由落下による空気抵抗を本来ならば感じていたであろう…しかし、カロンの擬態透過ぎたいとうかによって、そんなものは皆無である。例えるなら、スカイツリーのエレベーターが一番近いであろう。衝撃が全くなくいつの間にか下に降りていた感覚だ。それならば、地面に着いたときすら気づかないのではないかと思ったが、カロン本人は、その感覚はわかるらしいため、問題はなかった。

 そして数秒後、私とカロンは屋敷の庭に足をつけていた。それから、私は使者だったポンコツのあいつを探し続けて、早1時間…想像以上のそれ以上に、彼女は使えた…いや、能力からして使えるのはもう明白だが、それを考慮しても想像以上に使えた…落下時間を予測して、私へ擬態透過を解除する自己能力の使いこなし、コロシアムで見た死角の空中からでも体勢を変えて反撃できる圧倒的な身体能力の良さ、強さを確かめるため、兼、金稼ぎの目的を含んで一回、コロシアムの参加を躊躇いもなく行ってくれる主人の命令に絶対忠順の姿勢。...凄すぎた。本当は、あのポンコツ使者も使うつもりだったが、もうカロンだけでいいと本気で思った。…というか、カロンのコロシアム賞金だけで三日で10万pt稼げる勢いだった…うん、もう金稼ぎじゃなくて、カロンの稼いだ金で一年間、宿屋に泊まって犯人探しに専念するだけでよくね?

 そう思ったのは、屋敷を出てから初日であった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


 カロン自体が、どういう経緯でこんな性格になってとかのバックボーンとかは、私が触れるべき問題ではない。第一、これほどまで、心理的に取り憑かれている人間に私が何かを言っても無駄であろう…

 窓から、暖かな日差しが流れ始める時間、早朝の平民街のとある宿に、オリシアとカロンは共同部屋で泊まっていた。稼ぎ頭なのはカロンのため、別の部屋を一応提案してみたが、カロンはなにも要求しなかった…ただ

「主様の御心みこころ…それのおもむくままに…」

と言うだけであった。とことん自ら稼いだ金を、自分のために使わない。…私も鬼ではないので、流石に生活するのに必要な費用は、カロンの分も負担した。...いつもどこか違う側を見ている気がしてならないのは、気のせいでもないだろう。

 …ベッドから起き上がって、カロンを見てみる…カロンは床でいいと提案してきたが、流石に却下させてもらった。カロンが稼ぎ頭だったのもそうだが、彼女の過去を知ると優しい態度で接さざるをえない。…そんなのは、カロンにとってはどうでもいいものだろうが、心情的にはそうしないと奴隷よりもひどい扱いをしているように思えた。ところで、カロンの顔を見てみると、私よりも整っているように思える…なぜだろう?...カロンの過去を考慮すれば、新対面で少しは影響が出てもおかしくない…いや、逆にアスフェルトに仕えていたときに、能力に関しては散々使っただろうから、どうしても自分の感情については折り合いをつけないと成り立たないのだろう。だから、身体的な影響は出ない程度に抑制し続けられたのか…?そういろいろ考えてみても結局、その真相はカロンのみぞ知るものだ。

 いいや、今は今後について考えてみよう…まず、今回の敵はptインフレを起こした張本人、一番可能性が高いのは、戦争開始日からランキング一位をずっとキープしている人、番号:1039127814829578…この人だろう。しかし、もしそうだとしても、見つけだすことは至難の技だ。だって、相手の番号以外の情報は何も知らないわけだ。普通ならどんな探偵でもこの情報だけで人を特定することは不可能であろう。しかし…、私の次の順位の人でさえ、もう歴代の20位くらいの順位になっている。ならば、今回の私を除く参加者全員は、そのインフレ犯人と手を組んでいるのだろう。実際はルール上では使者の監視のもと、参加者同士で手を組むのは禁止事項だが、今回の犯人ならばその隙をついてくることもできるかもしれない。…とにかく、参加者なら誰でもいいので、今回のptについて聞いてみないことには、話は始まらない…そう思って、朝食と荷造りを終えて、カロンと二人で宿を出るのだった…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇




時をすこし飛ばして…先の展開を見てみるのもまた一興…ひとつの確定事項を見せよう。



…9ヶ月後…カロンは…木材香る部屋で…死んでいた

 







 



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