聖母になるまでの鎮魂歌(レクイエム)4
…冷静さというのは、どんな状況でさえ必要になる。急を要するときは例外だが、そういうとき以外ではどんなときでも必要になる。もちろん、この戦争だって例外じゃない。いや、私たちにとっては本当に必要なものの一つであろう。この冷静さというのは、言い換えれば自分の持っている知識を最大限利用できるような状態のことである。難題と思っていたことが意外と簡単な方法で解けた経験はないだろうか?もしその経験があるなら、なぜ自分は早めにその方法へと行きつかなかったのか?そういう疑問が最初に出てくると思う。ただし、思いもしない方法でその知識を活用した場合はその疑問は出てこないと思うが、次に同じようなことが起きた場合は、その方法を使うための冷静さが必要である。とにかく、その疑問の結論を言ってしまえば、簡単である。一点に集中しすぎたのである。ある要素が関係してくるはずだからと、まだ自分が見つけていないであろう要素を次々と考えるが、実際はそんなところに結論がない訳だから堂々巡りしてしまうのである。つまり、決めつけて視野を狭くしてしまった結果、こんなことが起こるのである。このようなことは、以外に日常でも驚くほど乱発している。例えば、コンビニのバイトをして、店の奥側にあるドリンクを補充するとき、店の店長からビールを補充するように頼まれたとする。そのとき、ビールを補充したが、店長は激怒した。これは、どういうことだろうか。別にドリンクの入れる場所は少しも間違っていないし、入りきらなかったドリンク類はしっかりと棚に種類別に分けて入れた。つまり、しっかりと教えられた通りにやった訳だ。なぜだろうか?これは、店長の前提と補充した者の前提が全く違った訳だ。コンビニのビールには、ときどき奥の棚とは違った棚に4本セットのビールが置かれていることがある。しかし、バイトをしている人にとってはあまりみない場所である。つまり、バイトが入れたビールはその4本入りのセットのビールである。このビールは奥の棚のビールと全く同じものであるが、セットとして仕入れをしたため、データーを書き直す必要があるため面倒なのだ。しかし、ここで注目して欲しいのは、店長はそのバイトがそのことを知っていると思って、ドリンク類の補充をさせたが、バイトはそのことを知らなかったということだ。店長の思考としては、バイトをしているのだから、セットくらい読み取ってくれるだろう想定。だがバイトにとってはどこの棚にどの商品があるのかは大体わかっているが、そのわずかしかないセットをドリンクの補充場所と一緒に入れたことで、勘違いしてしまったということ。この二つの点の相違があって、このような現象が起きたのだ。つまり、二人ともその思考に集中したため、他の可能性を考えなかった。このようなことは他にもたくさんある。例えば、あれをとってこいと言われて相手の予想と違うものを持ってきたことがあるであろう。上司に仕事を託されて、予想と違ったものを作られて怒られたこともあるであろう。つまり、前述したことがこのような日常でも頻繁に起こるのである。あるカテゴリーに集中していたために、目的通りに行えなかったのであることが頻発しているのである。このようなことが起こらないようにするためには、色々な可能性を思考し、感情に縛られない別の可能性を考え、間違った可能性を別の推測で打ち消す力、冷静さが必要である。そして、その冷静さを発揮するために、まず性格的な冷静さが必要になる。それを感じさせない言動…本当に、どうやって生き残ったんだ?この人は??間違いは確かに誰にでもある。しかし、その間違いがこの戦争では致命的なものになる。しかも、この戦争は我が一族にとって重要なものであるため、戦争を生き残った猛者である使者が間違いをする可能性は皆無であろう。…いや、そもそも、私の前提が間違っているだけで、この戦争はある程度の間違いは許容されるのか?...いや、たとえそうだったとしてもその考え方自体が危険だ。…今、一番高い可能性は、使者が間違えるものすごい可能性にぶち当たったのか??...そうなんだろう。いや、そうとしか考えられない。そう思って、私は目の前の人が本物の猛者という認識に正した。そして、目の前の人にこう言う。
「わかりました。それでは、私はここで待ってますので、屋敷へ戻ってくださいませ。」
そう言って、再び本番に向けたシュミレーションに移ろうとした。しかし、それを妨げたのはまたしても例のこの人だった。
「…あの〜、本当に申し訳ないのですが〜、屋敷への帰路を忘れてしまったので、教えてくれませんか?〜」
「...。…本当に使者の方なんですか!!」
と思わず怒ってしまった。その威圧に気圧されたのか、目の前の人は平謝りしている…もはや、こいつが使者でないのは確定だ。こんな人がこの熾烈な戦争で生き残れるわけがない。そう思って、私は目の前に転がる人には見向きもせず、自室へ戻った。しかし、それは私の自室に入り込んで、土下座までしてこう言った。
「頼りなくて本当に申し訳ないです!!ですけど、本当にお願いします。もし、支給されたものが今日中に渡されなかったら、私はどうなるか本当にわかりません!!お願いです!!教えてくれなどいいませんから、せめて屋敷までの地図を貸してくれませんか!!賃貸料は後で返しますから!!。゜(゜´Д`゜)゜。」
…無視だ。無視。こんな詐欺野郎に、時間を費やすだけ無駄だ。そもそも賃貸料なんか渡されてもこっちは無一文になるのだから無理もない。もっと魅力的な提案ができない時点でこいつは偽物だ。そう思って、私はそれを黙らせようとした。
「…これ以上騒ぐと、私が今持っている刃物であなたを殺します。言っておきますが、こんな見た目でも的中率はかなりのものなので、黙った方が身のためですよ。」
…そうやって言ってやると、使者は本当の涙を浮かべて私の部屋から出て行って行った。ふぅ…これで邪魔者は消えたことだし、与えられた時間を使ってシュミレーションをしますか。そう思い、シュミレーションを続けた。…しばらくして、それも終わり、最後の仕上げとして本を読み続けた。それが続いて、夕方になり…夜中になり…深夜になり…日が明けて…次の日の昼間になってしまった。…結果的に二日間不眠不休になってしまったのだ。
…なんで待ちに待った結果、使者が一人も来ないの!!とオリシアは悲鳴にも似た声をあげたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇
「なんで!!なんで来ないのよ!!!私は、敬愛するイエラ家の血筋のはずでしょ!!...どうして…どうしてなのよ!!!」
そう本気で悲鳴を上げた。…しかし、それは空気となって霧散して意味がない。...念の為、母に聞いてみた。自分がいたした相手をイエラ家の当主と勘違いしただけではないかと思った。母の思い違いなのかもしれないと思った。しかし、本物だった。まごうことなき、本物であった。…買ってきた本で何度も見た我が父君の直筆サイン…そのフォントで、母の名前が書かれてあった…、もしかすると…と、一つの可能性に気がついた…しかし、肝心の使者が来ないということはもうこれしか方法がない。…あ〜、しょうがない!!そう思って、例の情けない使者を探し回った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇
雨が降る中、街の住民にしらみ潰しに聞いて行った。その結果、このあたりにいるはずだ。最初は小雨だった雨も、だんだんと強くなってきた…、…かなりの時間を浪費してしまったが、この戦争のルール上、制服と水、そして肝心の使者がいなければ話にならない。なんとしても早めに探し出す必要があった。しかし、場所を絞れてもなかなか見つけ出せない。…こんなときにこそ、冷静さが必要だと思った。だけど、二日間寝ていないのと極度の焦りがあって、なかなかその状態に至れない。…ああ…どうしようか…このままじゃ、私は…クソ、クソ!!!なんてザマなの!!.そう思うと、だんだん気持ちも沈んできた…すると、なぜか思考がよりグチャグチャになり、とうとう私は泣き出してしまった。恥も外聞も消え失せた声で咽び泣いた。周りの目線すら気にならなかった。
「ッッ!!...うあ゛ぁあ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ!!どうして!!どうしてなの!!なんで私だけこんなに不運なの!!...ッッうあ゛ぁあ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ!!...私の使者は、グスッ….頼りない上に、….必要な時にいなくなって…なんで、私だけこんなに不運なの!?おかしいでしょぉぉぉぉ!!!?」
そう叫び泣いた。女性は出産が1番の痛みだと聞くが、今なら精神的な痛みに関してそれと匹敵する自信があった。そんなことを繰り返して、1時間…感情の流れはずっと奔流であるわけもなく、しかも1時間という長めの時間をとったおかげで、気持ちが少しは落ち着いた…かと言っても、まだ沈んだままだが…、ん?なぜか下の方から聞こえてくる?なんか聞いたことがある声だ。かと言っても、親しい者の声ではなく、一回だけ聞いたことある程度のものであった。…!?もしかして!!?、と藁にもすがる思いで、その可能性に縋りたくて、雨で汚れている下水道の入水口に耳をためらいもなく近づけた。…あいつの声だ!そう認識したとき、体は思考よりも先に動いていた。
「おーい!!いるのか!!使者の野郎!!いるなら返事してよ!!」
「…いますよ!!今、下水道のところで溺れかけているので、誰か助けを呼んでもらえませんか。」
「!!?…いや、文句を言っている時間もない!!すぐに呼ぶから死ぬんじゃねえぞ!!」
と言って、すぐさま助けられそうな人を呼びに行った。後ろから奴がなんか言っているような気がするが、それを機にする余裕がないほど今は切羽詰まりだった。それから、15分後…やつは無事引き上げられた…目の前のやつは、謝罪の言葉を述べていたらしいが、緊張の糸が解けたのだろう。問題を解決した途端、眠気を訴えてこなかった脳が急に、スイッチを入れたかのように意識が吹っ飛び、そのまま地面に倒れ込む形で、意識を失うように眠りについた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇
気づけば、明日の夕方になっていた。時刻は17:48。この時間ということは、もうランキングは載っているということか…見に行くか。そう思って、私は目の前の戦犯に付いてくるように厳しく言った。すると、こいつは犬のようについてきた。…従順になってくれただけでも進歩か…そう思い、こいつのことなど気にしない速度で走った。…しかし、こいつはそれを余裕で追いつきついてくる。…まぁ、想定外の想定内の誤算かな。とりあえず、一応の役には立ちそうで安心した。そう思いながら、平民街の掲示板に足をより一層速く足を進めた。
掲示板にたどり着いた。まぁ、1日、なにもしなかったわけだから、私の順位は再開に違いない。しかし、周りがどれくらい儲けているのか知りたかった。そう思って、一通り見てみる。は?...なんだこれ?と息の仕方も忘れるほど仰天した。一瞬、今年から点数の単位が変わったのかと思った。…そう思うほど、自分とその次の順位のものとの差は絶望的だった。前回の一位の資本数は、56000000 pt程度であった。前回、生き残ったものの最低点数を見ても、三千万pt程である。しかし、これは最終日までの資本のptであり、365日頑張った成果で、これくらいである。対して、目の前に広がっているのは、1日で頑張ったにしては法外なptであった。
7891042642671758 10000000pt
0721151519197219 0pt
*日本円にすると、1pt = 1万円 です。




