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原始の望み



 理性…この言葉は、普通、欲望を抑える人間的なもののことを指すであろう。ただ、欲望を抑えるだけのものではない。それは、目的を叶えるためのものである。


 では、その理性が少ない場合はどうなるであろうか?理性が普通よりも少ない場合を如実に表しているのが、動物だ。彼らは、自分のやりたいことばかりをやる。たまに、餌を手に入れるために、理性を働かせることもあるが、人間のように目的を叶えるため長期間努力するようなことはしない。…つまり、理性が少ない程、欲望に動かされやすいということだ。しかし、どんな人間も何かをするには、欲望なしで行動することはあり得ない。


 一見、善行に見える行為だって、自分が相対的に偉い人のように自分の中で納得させたいからである。貧しい人を助ける団体側の人間だって、『貧しい人たちが救われてほしい=自分が貧しい人を救うほどすごい人間になりたい』...この等式が必ず成り立つ...


 それが正しいならば、欲望を抑える理性も、何かの目的…いや、『理性が働く』ということは、それほどまでにその目的を叶えたいわけだから、それは強い欲望とも言えるだろう。そうなると、この理性を働かせている欲望を、食欲などの普通の衝動的欲求よりも明らかに強いものだろう。ならばまとめると、理性が強い人ほど、その中に内在している欲望を有象無象の他者とは比べ物にならないほどのものではないのか?

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


 昔、あまりにも強い理性を持った人間がいた。…いや、それは怨念と言っても差し支えないかもしれない。その人は、あるものをひたすらに求め続けた。求め続けて…やがて…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇


  その人が心より欲しかったのは、一心同体のパートナー…何をせずともお互いの心がわかり、互いに心理的に癒し会うことができる唯一無二の存在である。…しかしそんな存在、普通ならそんなのは、とっくの昔に諦めている。そしてその欲望を別のことに転換して、発散させているだろう。(…まぁ、本命の欲望が満たされていないため、つまり、そんなのはただのまがい物であるため、僅かにそれに対する未練が残るのは、人類皆共通の出来事だが…)…しかし、彼は違った。


  『諦める』という楽で魅惑的な欲望は、ものすごく強い理性のせいで、考えることすらなかった。よって、彼は苦しんだ。いるはずのない存在を見つけるために、まず近しい存在である『家族』というものを作った。しかし、なんの力もない人間が家族を作ったとしても、それらを守れるはずがなかった。…家族である三人は、その人を除いて全員戦争に巻き込まれて死んだ…彼は、求めた。絶えず求めた。頭がおかしくなるほどの衝動と怒り。これらの欲望を生来せいらいの理性ではねのけながら、それらの欲望をはるかに凌駕するほど、彼は強く…強く…全てを守り切れるほどの”力”を求めた!!!…その結果、彼は全知全能の能力を手に入れた…彼は求めていた能力が手に入って、ひどく興奮しただろうか?それとも、求めていた能力が手に入ったおかげで、死んだ三人に対する悲しみが溢れたのだろうか?その感情の大波は、推し量るのにはあまりにも複雑で大きすぎたのだろう。…結局のところ、彼の心中しんちゅうはわからないが、歴史の事実ではこう語られている。


『 彼は、また12人の新しい家族を作り、彼の死後、その家族たちの一部が彼を神格化した国を作った。…しかし、彼が本当に望むパートナーは生涯、見つけることはできなかったという…』


 そして、時は流れて、約四千年…一人の少年は彼と似て、理性が非常に強かった。そうなると、当然、その理性を発動させるときの欲望はかなり強かった。…しかし、パートナーを見つけることができなかった彼とは違って、この少年には、大事なパートナーがいる…そのはずだが、彼と同じ…いや、それ以上の苦しみが毎回少年を襲っていた。話はこの少年が生まれた頃まで遡る。


  この少年の魂は、生まれた頃から理性が強かった。しかし、理性は強い欲望を叶えるためのものである。…それでは、生まれたての少年の理性がその欲望を叶えられないと判断したら、どうなるだろう。現代風にわかりやすくいうと、受験のためにずっと努力していた理性の人間が、ある日に志望校には絶対に入れないことが確定したとき、どうなるだろうか?...それと同じことだ。彼は暴走した。絶えず暴走した。


 自然がコンクリートでできた重層な都市にあまねくほどにアクセントを与え、一言で表現するなら、『自然共存都市』という言葉が適切であろう。文明は現代とは比べ物にならないほど劣っているが、現代の都市にはない人間と動物の完全な『搾取する側と搾取される側』の関係が出来上がっていない本来の意味での理想郷が少年が生まれる前には広がっていた。馬は確かに移動用として使われているが、現代のように馬を捨て駒にしていない。人間と動物同士がしっかりと相手を労って生活している。うさぎや鹿を狩りの対象とはしているが、欲望のままに乱獲するのではなく、しっかりと生態系を考えた上での狩りをしていた。…このような都市が、たった一晩で…雨がほとんど降らないような砂漠へと変貌したのだ。たった一晩で、あたり一面には血の海が浮かんでいた。たった一晩で、大国の首都は、貧民街へと姿を変えた。


 しかし、その暴走も終焉が近づいたのだ。…彼の近くのいた医師が、そのパートナー代わりになると言った。この先の全ての人生を彼のために捧げると心の奥に深く誓った。実際、彼の親代わりとして長い間、失った愛の代用品として与え続け、ずっと育て続けてきた。彼女さえいれば、惨劇はもう2度と来ないと周りの住民たちは思い、安堵していた。


 …しかし、自体はそこまで甘いものではなかった。…少年が6歳のとき、少年の暴走は、ある人を転機としてまた起こった…生まれた時と比べて、脳が発達したせいで理性がさらに増加したせいでもあるだろう。今度の暴走は、生まれた時とは比にならなかった。大地は大きくえぐれ、人は一瞬のうちに朽ちていき、隣国や、首都、さらに遠く離れた沿岸の国々にまで広がった。そのせいで、全ての国々が未曾有の恐慌へと陥ったのだ。ここまで来ると、この少年を殺してくれる人がいないかとだれもが強く望んだ。例の医師もその事態に気づき、早速と少年に駆け寄った。


 …だが、全く機能しなかった。むしろ、より暴走は強さを増していき、地球が壊れてしまうのではないかと思うほどの暴走であった。だれもこの暴走を止められるものはいないと嘆き諦めかけていた。


 しかし、暴走は奇跡的に収まった。それを止めたものは、正真正銘英雄であるだろう。だれがそれを止めたのだと民衆たちは当然気になった。屈強な精神と肉体を持った戦士だろうか?はたまた、戦況を一変するほどの知性をもった策士であろうか?答えはそれのどれでもなかった。


 この暴走を止めたのは、少年と同い年?いや、少し小さいくらいの『少女』であった。


 

 民衆たちは、驚いた。こんな少女があんな暴走を止めたのか!?と。しかし、そんなのは一瞬で、その後には少女を神とたてまつる動きが起こった。…しかし、少女はそれを強く拒絶した。しかし、集団の動きがいくら良いいさおを立てた人間でも単なる一個人である。集団の前では個人の意思などないに等しかった。結局、少女の意思でその動きを止めることはできなかった。それと同時に少年を悪と断じて、抹殺を希望する団体が各地で生まれた…しかし、どういうことであろうか?国がそれを頑なに拒否した。拒否し続けた。…そのため、今のその少年は例の少女と医師と一緒に生きながらえている。


 民衆はその少女の方ばかりを善として、根源である少年の方には大した関心を向けないが、少年の方はどうであろうか?ある人は、その少年に思い切りの憎悪を向けた。ある商人は、その少年に対して、どんなものでも高価な値段を請求した。そのような状況での少年の心境はどのようなものであろう。

 答えはこうだった。



  『どうでもいい。』


少年は、その少女のことばかりに関心を向けていた。自分はどうでもよくて、ただその少女のことのために行動し続けていた。民衆にいくら罵倒されようが、いくら暴行されようが、その少女の名誉のために善行を取り続けていた。そして、しばらくして、鈍感な民衆でもあることに気づく。少年の暴走のことについては何も覚えていなかった。いや、正確には脳の中に封印してしまったのである。これならば、この暴走を思い出して、再度暴走しかけることもないだろうと民衆は逆に安心していた。確かに、その通りであった。周りの対応も少年がそのことを思い出さないようにそれ相応の対応をしていたが、それを加味しても暴走する気配がまるでなかった。しかし、少年の中の心は地獄そのものであった。

 多重人格というものを知っているだろうか?結構有名な病名だが、一応説明すると、その病気の患者は、過去の衝撃的な出来事から逃げるために今の自分とは違う別の人格を作るというものだ。つまり、脳が理性を最大限に使っての現実逃避なのである。この少年の場合も大体同じようなものだ。少年は暴走の記憶を留めておきたくなくて、脳が自動的に記憶喪失をしてしまったのである。しかし、彼の持っている欲望を抑える理性が、その現実逃避を許してくれるわけがなかった。彼は記憶喪失には成功したが、突然…体全身が処刑という処刑を100年間受けているような苦痛…それが不定期に訪れるようになったのである。これはお察しの通り、例の暴走の記憶の一部である。結果的に、彼の理性が、彼の精神をことごとく破壊し尽くすことになったのである。

 そんなことになったら、当然、いつ精神崩壊してもおかしくないだろう。しかし、少年はいつまで経っても精神崩壊しなかった。なぜだろうか??その答えを知るのは、随分と先になりそうだ。


 

 


この話が完全に明らかになるのは相当先になりますが、首を長くして待ってくれると嬉しいです。

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