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東雲奈月の章 -2-

外に出ると、目が覚めたときの予感は間違いじゃなかった感じた。まだ日が上って間もないと言うに、ギラついた太陽が容赦なく奈月の白い肌を焼こうとしている。

 スマートフォンを取り出して、友達から連絡が来ていないか確認しながら学校までの道を歩いていく。

 行儀が良いとは言えないが、今時の普通の女の子は大多数がこんなものだろう。

 SNSを開いてみると、親友の奏から連絡が来ていた。時間は今日の明け方。内容を開いて見る。


『ちょっと話したいことがあるんだけど、何時くらいに学校着きそう?』


『今、家を出たから、あと15分位で着くかな。』


返事はすぐに返ってきた。


『わかったー、待ってる』


 そんな他愛もないやり取りを続けながら、登校していく。


「ちゃんと前見て歩かないとぶつかるわよ?」


急に話しかけられ、慌てて顔をあげる。

 巫女装束に身を包んだ背の高い若い女性が奈月のすぐ目の前に立っていた。


「あ、すみません、気を付けます……。」


 奈月は手に持っていたスマートフォンを慌ててブレザーのポケットにしまった。

 うむ、よろしい、と言うと彼女は手に持っていた箒で掃除を始めた。

 奈月はそのまま無言で彼女の掃除の邪魔にならないように通りすぎる。

 巫女さんがいたと言うことは、桐田神社まで来ていたということだ。スマートフォンを触っているとそんなに長くはない通学路とは言え、あっという間だなと思う。

 奈月は無神論者でもなければ、敬虔深い信徒でもない。苦しいときに助けて神様と言うことが有るか、無いか、その程度のものである。

 お正月に家族で初詣に来るくらいで、その程度の認識しかない。

 さっきの女性は桐田さん。下の名前は知らない。七五三やら、初詣やらで何度か会ってはいるが、特段親しいと言うものでもないし、興味もなかった。

 学校では男子たちに人気があり、あの手この手でお近づきになろうとして居るような奴らまで居る。

 噂によると学校の先生がフラれたとか、校長先生と二人で歩いているのを見たとか、そんな噂まで有る。

 奈月としては、彼女のことよりも、彼女についての噂話の方に興味があるのだ。

 無論、不躾に本人に確認したりはしないし、そこまで親しい間柄ではないので、彼女についてどんな噂があろうと、奈月の心が痛んだりはしなかった。

 巫女さんが見えなくなると、先ほどポケットに入れたスマートフォンを取り出して、再び連絡をとり始めた。


『校門みえた』


 それだけ書いてスマートフォンをポケットに入れる。校門では生活指導の先生が立っている。歩きスマホなどしていたらそれだけで朝の時間がつぶれてしまいかねなかった。

 オハヨウゴザイマス、と端的に挨拶をして隣を潜り抜けた。校則スレスレのスカートの丈はお咎めなしで安心した。

 近年は校則がかなり緩くなってきている、いや、口うるさい先生が減ってきているように感じる。

 嬉しいような、何となく申し訳ないような、そんな事を思いながら下駄箱に靴を入れ、内履きを取り出した。


「おっはよん、待ってたよー?」


「ぬぉ、わざわざ玄関まで来るかね?」


 肩まで伸びた明るめなブラウンの髪、背丈は奈月より少し高くい眉目秀麗な女の子がそこに立っていた。先ほどまでスマートフォンで連絡をとり有っていたのも彼女である。


「いやー、早く話したくてさ。」


「そんなに慌てなくても、私は逃げないよ?」


「そーなんだけど、良いじゃない。」


 わざとらしく頬を膨らませている。他人がやったら鼻につきそうな仕草だが、彼女の場合は許せてしまうのは、その可愛さから来るものであろう。


「それで、話って?」


 簡単な話なら、SNSでのやり取りで問題ないだろう。わざわざ、話があるなどと勿体つけるのだから、何かしらの理由があるのだろうと、奈月は考えていた。


「今日の夜に会えないかな?」


「夜?具体的に何時くらい?」


「んー、九時くらいなんだけど」


 歯切れが悪いと言うか、なんとも煮えきらないような返事だった。しかしながら、彼女たちが高校生であるとするならば、当然の事である。二十二時以降に出歩いていれば、彼女たちは補導の対象にもなる。受験を控えたこの時期に、何故リスクを負うような真似をしなければならないのか。


「理由による」


 奈月は端的にそう答えた。奏は親友ではあるが、近くの大学に通う人たちと交流があることを奈月は知っている。彼らと合コンだとか、そう言ったことは興味がないわけではなかったが、それよりも恐怖心の方が勝ってしまう。


「ちょっと付き合って欲しい場所があるんだけど……、そうだな、奈月は見星ヶ丘の幽霊の話、聞いたことがある?」


 それには覚えがある。見星ヶ丘は同じ市内にある有名なデートスポットの一つだ。奈月たち住んでいる場所からは少し外れていて、市街地の夜景を一望できる。また、通年星が美しく見え、秋には紅葉も楽しめることもあり、海外から訪れる人もいる程だ。


「ああ、あの女の子が出るって話だっけ、確か。」


 その怪談話のあらすじはこうだ。夜、あるカップルが夜景を見に見星ヶ丘の公園まで車を走らせていた。時期は秋も終わりかけで、気温がぐっと下がったそんな寒さが身を差す季節。間もなく目的地に着くといった頃合いに、助手席に座っていた女性がバスローブを羽織っただけのような女の子を見つけた。彼氏にお願いして、車を止めてもらい、声をかけるとたちまち姿を消してしまった。と言うものだった。


「そう、それなんだ!他にも種類があるのは知ってる?」


 怪談話やら、噂話には尾ひれがつく事は珍しくない。大筋は同じだが、あっという間の話のはずなのに、時間が二時間進んでいたとか、女の子が化け物に変身したとか、そう言った類いの話も存在した。


「幾つかは。全部は知らないと思う。」


「そのなかの一つに、その子が何でも願い事を叶えてくれるって言うのがあるんだよね。」


「へー、そんなのが……」


 そこまで言って、言葉が止まる。何となく、彼女の願い事について心当たりがあった。


「あ、なんとなく、わかっちゃった?」


 そう言いながら、教室のドアを奏は開けてくれた。教室に入り、後ろから三列目、窓際の自分の席に鞄を置いて、座った。


「なんとなく、だけど。でも、それで叶っても喜べるものかな?」


 気の置けない仲と言うこともあり、奈月は思ったままを口にする。奏も奈月の性格をよく知っているから、何らかの抵抗が有るのは予測していたようだ。


「そもそも、私はこの話はあんまり信じてない。だから、これをあてにしている訳じゃないの。本当かどうか知りたいだけなの。それで叶えば儲けもん、って感じ?」


 周到に用意していたのか、矢継ぎ早に奏は捲し立てた。奏が奈月の性格をよく知っているように、逆もまた然りであり、こうなった奏は梃子でも動かない事を奈月は知っていた。


「こうなったら聞かないもんね、わかったよ、それで、場所は?」


「さっすが奈月~!愛してるわ。」


 世界で一番安そうな愛の言葉を受け取ったが、奏から言われると悪い気はしない。もちろん本人には言わないが。


「いいから、そう言うの」


「ごめんごめん、怒んないで!そうね、見星ヶ丘の公園の入り口に集合で。そこから二人で丘の上の公園に向かうって感じでどう?」


「わかった、放課後また連絡もらえる?」


 そこまで話すと丁度予鈴がなった。担任が席に付けと言いながら教室に入ってきた。奏はそそくさと奈月と同じ列の廊下側の席へ戻っていった。今日の学校は長くなりそうだ。

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