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東雲奈月の章 -起-

 東雲奈月はどこにでも居るような、普通の女の子だった。

人口が五万人を割って久しい神内市にある、一軒家で両親と一緒に暮らしている。

スマートフォンのアラーム音が、そんな彼女の意識を夢の世界から現実へと呼び戻した。

画面を開いてみると、それは確かに、昨夜自分がセットした時間である。

高校三年生についこの間進級したと思えば、時間はあっという間に過ぎ去り六月の半ばにまでなっていた。

春の陽気など、既にどこかに消え、暑ささえ感じる頃合いだ。

カーテンの間から差す光が、今日もまた一段と暑くなることを教えてくれているように感じた。

そんな季節であるから、寝ている間に汗が滲んでしまった。今すぐにでも着替えたい、そんな気分ではあるのだが。


「どんな季節でも、眠気には勝てないんだよね。」


そう言ってアラームを解除ではなく、スヌーズに切り替えようとした時である。


「奈月ー、起きる時間でしょ、遅刻する前に起きなさい。」


母親が一階から大きな声で呼ぶ声が聞こえたのだ。

こうなってしまっては、いくら眠気に負けそうになっていたとしても起きていかざるを得ない。母親に逆らえる子どもは、きっとごく少数だけなのだ。

着替えることもせず、寝間着のまま一階へと降りる。


リビングに入ると、先ほどまで感じていた暑さが消え、程よい涼しさを感じた。

リビングは今流行りのダイニングキッチンの構造になっていて、台所まで見渡せるようになっている。

台所でエプロンを外して片付けている母の姿が見えた。


「おはよう、ご飯できてるからきちんと食べてね、お弁当はいつものところにあるから。」


「ん、わかった、行ってらっしゃい。」


「奈月も気を付けて行くのよ。」


そう言って母親は家を出ていった。

父親は既に仕事に行っている。朝早くて、帰ってくるのも基本早い。

別に親子仲は悪くない。むしろ円満といっていいほどだ。

だが、普通の日常の一コマなんて、このようなことの積み重ねだろう。

奈月はいつも通りテレビを見ながら朝食を済ませる。

朝から気の滅入るようなニュースが取り沙汰されている。やれ、汚職がなんだとか、失言がなんだとか。


「どうして皆こうも暇なんだろうね、あら探しする余裕があるなんて羨ましいよなぁー。」


誰に行ったわけでもない、独り言だった。

事実、彼女は受験生で、受験まで残り半年程度しか残されていなかった。

神内市内にある、そこそこ進学校として名が通っている神内市立高校に入学できたのだから、地頭は良い方なのだと思う。

ただ、東雲奈月は、勉強はあまり好きではなかった。そんな事よりも楽しいことが、高校生活には溢れていた。


「ごちそうさまでした!」


誰も聞いてなどいないが、奈月はそう言う事が当たり前だと思っている。感謝の気持ちを口にすることは悪いことでも、恥ずかしい事でもない。

食べ終わった食器を片付けて、洗面台で歯を磨く。

鏡に映った顔はいまだに眠そうだ。歯を磨き終えると、ヘアアイロンで寝癖を直しにかかる。

自分でも容姿は悪くない方だと思っている。

黒い艶のある髪、定番になりつつあるボブカット、つぶらな瞳に、小さい口。絶世の美女とまではいかないが、まぁまぁモテる方だと自負している。彼氏がいるかどうかは別として、基本的には可愛い方にはいるはずだ。

そんな可愛いの原形が作られていく。いや、美しい素の形に戻っていった、とした方が正確だろう。

たいした時間もかからず、いつも通りの自分が出来上がった。部屋に戻り、制服に着替える。

少しよれたブラウスに袖を通す。ブレザーを上から羽織って、校則違反ギリギリを攻めた丈のスカートを履く。


「かんせーい!!」


特に意味もなくそう叫ぶ。ここまで来るとつい先ほどまであった眠気はどこかに消え去っていた。

お弁当を忘れず鞄にいれ、家を出た。テレビは、消し忘れた。

消し忘れたテレビは誰も見ていない事などお構いなしに、話続ける。


『暑さもこれからが本番!そんな時期には涼しくなるお話でも、いかがでしょうか。』


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