その5 白いイヌウサギ(Part. H)
初めての授業日。
鞄に授業セットを詰め込んで、先生のいる準備室へと向かっていた。
はく製やらミイラやら、室内の風景を思い出すと足が重い…。
と、部屋の前に小さなもこもこした何かがこちらを見ていることに気が付いた。
「…あれ?」
もこもこの純白の毛玉から、ちょこんと出した短い手足。
チョコレート色の円らな瞳に、白磁に描かれた桃の花のような色の口。
その出会いも衝撃的だったけれど、もっと不意の出来事だったのが、
「…ハーミアかえ('ω')?」
「うん。…え!?しゃべった(๑°ㅁ°๑)!!」
イヌウサギが言葉を話したことだった。
思わず普通に返事をしてしまった自分自身に驚きつつも、身構える。
イヌウサギって、ワンワンって鳴くけれど、言葉を話すなんて聞いたことがない。
と、彼の後ろにある部屋の存在に気が付いて、不穏な勘が頭をよぎる。
もしや、ネクロマンス的な何かの産物だったりして…。
でも、可愛いな…。
「そう怯えるでない。わっちはあの魔術師の使い魔となる代わりに、潜在能力を解放してもらったのじゃ。ほれ、授業じゃ。ついて参れ。」
くるりと向きを変えたイヌウサギは、スタスタと準備室前を後にする。
教室が変わったから、その案内に遣わされたのかな…?
ついていくと、白い日差しの入る教室に辿り着いて、教卓にはディアス先生の姿。
明るい部屋の中だからか、なんだか少し、頬がこけているようにも見える。
「…おはようございます。」
「お、おはようございますっ!」
挨拶が遅れたことを少し申し訳なく思いながら、慌てて頭を下げる。
すると先生は私の考えがお見通しみたいに、その子について教えてくれる。
「その生き物は私の使い魔で、名をライトと言います。」
「ライ君と呼んでくりゃれ。」
よろしくなのじゃ!と敬礼するちんまりした姿に、思わず頬が緩んでしまった。
その5 終
【ひとこと事項】
・ライト
ディアスの使い魔となったイヌウサギ。知能が高く、なぜか流暢に会話が可能。
・スコラ・リンデの授業期間
入学式の後、一週間程のオリエンテーションを経て授業開始となる。
・ディアスとの授業
転送術科の学生は1名のため、転送術の専門の授業は1対1で行われている。