その3 転送術士協会(Part. H)
「…というわけだったんです。」
ディアス先生に挨拶をした時のことを話し終えると、面白そうに目を細める女性と、腕を組んで唸るおばあ様が目に入る。
「あはは!災難ねぇ…くら~い部屋で、はく製に囲まれたアヤシイ先生なんて!」
あたしなら即帰国ね、とケラケラ笑うお姉様は、先輩転送術士のオリヅルさん。
もう何かに憑依されちゃってるかもよ~なんて、からかってくる。
先輩は遥か東国から留学してきた才女で、黒髪がきれいで、体のラインもしなやかな美人さん。
私と入替わりで卒業後、この協会の正職員となった。
現状ポケット先生の最後の弟子である彼女が、ちょっとうらやましい…;
「…将来の生活がかかってんだ。すぐに帰れる身分なんてそうそうないんだよ、ツル子。あんたがハー坊の教育係なんだから、まともに仕事ができるように仕立てやっておくれ。」
「はいはーい。」
「…(…ハー坊って私のこと?Σ( ˙꒳˙ )!?)。」
ツル子と呼ばれた先輩は、踵を返すと手をひらひら、奥の部屋へと消えていく。
そんな飄々とした様子に眉間に皺を寄せて、付けていた眼鏡の位置を直しつつ、ため息をつくのは、王国転送術士協会第5支部のエーレンツァ支部長。
「…ドアーズの失踪、初めからご苦労様だったね。仕事柄、ちょっと言っておきたいこともあるから、機会があればその後任の先生をここへ連れてきておくれ。」
「はい…。」
「まあ、ここで働いていれば必要な仕事や知識は嫌でも全部分かる。何せここはあんたの目指す、転送術士協会そのものだからね。…ようこそ、歓迎するよ。」
真面目にやっていれば立派な術士になれるさ、と肩を叩いてくれる支部長の優しさに、ちょっと救われたような気がして、自分の目が潤むのを感じた。
その3 終
【ひとこと事項】
・転送術士協会 第5支部
王都に8つある転送術士協会の支部の1つ。スコラ・リンデの近所に位置する。
・オリヅル
東国からやってきた留学生。この春卒業し、転送術士協会の正職員となった。
・エーレンツァ
転送術士協会第5支部長の座を預かる老齢の女性。