その21 暗闇の中で(Part. D)
「お爺さんの夢は、勇者様を見つけることだったんですね。」
初めての恐怖と戦う教え子を元気づけようと、ない引き出しをひっかきまわせば、彼女も親切に合いの手を入れてくれる。
「いえ…彼の夢は揺り籠を見つけることでした。彼はその場に留まることで、今後起こるであろう吉凶をいち早く知り、皆の助けとなろうとしたのです。」
反応がないので心配すれば、彼女の瞳は、焚き火を映してきらめいていた。
「…すごいなあ。お爺さんは、夢を信じて、冒険して、それを叶えたんですね。きっと周りは、揺り籠なんて作り話だって、そんなのないよって馬鹿にしたりしたんじゃないかな。」
焚き火を浴びて眠るライトが、寝相を変えてしっぽをパタリとやる。
「そうですね。でも彼は意志を貫き、夢を叶えたのです。周囲でまことしやかにそれを否定していた者たちは、結局、知りもしないのに否定していたんですね。」
「無理って言うだけなら、簡単ですものね…。」
「…迷っていたその者も、そんなお爺さんの話を聞いて、彼のように勇者達を助ける役目を担うのも良いのではないかと思い、その場をやっと旅立った…というわけなのでした。…おわり。」
なんとも味気ない話をし終え、静寂の中で、心もちの不安に襲われる。
丁度その時、ルーシェに示した魔力の消滅を感じて、彼がやり遂げたことを知る。
「そんな話聞いたこともありませんでした。勇者を助けるお役目の勇者様。そういうのも、素敵ですね♪」
面白かったです、とお礼を述べる彼女の表情は、幾分すっきりとしてみえた。
「…さて、明日まで何もなければ、任務も完了ですが…ん?」
帰路の話をしようとすれば、足元にしっぽをパタパタ当てて、「ま」「つ」「り」とジェスチャーするライト。そこでやっとブラウテューベンのことを思い出す。
「ああ…せっかくですから明日は五月祭りを観てから帰りましょうか。」
「(*’’▽’’)!!」「ばんざいなのじゃー(’ω’*)!!」
ぱあっと明るくなる教え子と使い魔の様子に、少し緊張の糸が解けた。
その21 終
【ひとこと事項】
・任務の報告
今回の任務は、朝までキャンプをして転移点の安全が確保されればひとまず完了となる。あとは帰って来れば良い。その道中は、何をしようと報告の義務はない。




