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転送術士候補生  作者: よのもり せいう
20/23

その20 行先(Part. H)



晴れと曇りを数えてみれば、いつか晴れの日が多かったと気づくだろう。

教員紹介誌に載っていた、ポケット先生の座右の銘を思い出す。

今日は曇りの方の日なのだろうか。


「-眠れませんか?」


転移点に作ったテントを背に焚き火に当たっていると、先生がミルクをくれた。

ここには結界があるし、衛兵のおじさん達もいる。足元にはライ君も。

でも、それでもなお、カップを持つ手が少し震える。


初めての任務。

安全だと言われていた旅に突然現れた、恐怖。

日常と危険は、紙一重だということを、思い知らされた日。

平和の内側で育ってきた私はこの日、否応にもその境界線に立ってしまったのだ。


あのアンデッドの姿は、もしかすると、明日の自分の姿かもしれない。

そんな想いが、さっきからぐるぐるしている。


「…眠くなるために、おとぎ話でもしましょうか?」


「…え?」


そんな折に、先生が柔らかな声で話し始めてくれた。

先生がおとぎ話なんて、びっくりである。

でも今は、その声が聴きたい。


「ある時、勇者の揺り籠で眠りすぎた者がいました。」


「揺り籠で…眠りすぎた?」


「ええ、この世界で何をなすべきかわからないうちに、眠りすぎてしまったんです。」


「あらら…。」


自分の中のかっこいい勇者様像…さっきのルーシェ様のような…とは全然違う。

でもそういう悩み、分かるなあ。


「ある時、その者は妙な視線に晒されていることに気が付きました。なんと…変なお爺さんが彼をじっと見つめていたのです!!」


「ええっ、お爺さんっ―Σ(゜v゜;)!?」


「何なんでしょうねえ…でも、そのお爺さんは、目を輝かせてこう言ったのです。ついにワシは夢を果たした!!伝承は本当だったのじゃっ!、と―」



その20 終


【登場人物・事項】


・晴れと曇りを数えてみれば、晴れていた日が多かったことに気付くだろう

Si numeres anno soles et nubila toto, invenies nitidum saepius esse diem. 

 Publius Ovidius Naso, Tristia.


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