その20 行先(Part. H)
晴れと曇りを数えてみれば、いつか晴れの日が多かったと気づくだろう。
教員紹介誌に載っていた、ポケット先生の座右の銘を思い出す。
今日は曇りの方の日なのだろうか。
「-眠れませんか?」
転移点に作ったテントを背に焚き火に当たっていると、先生がミルクをくれた。
ここには結界があるし、衛兵のおじさん達もいる。足元にはライ君も。
でも、それでもなお、カップを持つ手が少し震える。
初めての任務。
安全だと言われていた旅に突然現れた、恐怖。
日常と危険は、紙一重だということを、思い知らされた日。
平和の内側で育ってきた私はこの日、否応にもその境界線に立ってしまったのだ。
あのアンデッドの姿は、もしかすると、明日の自分の姿かもしれない。
そんな想いが、さっきからぐるぐるしている。
「…眠くなるために、おとぎ話でもしましょうか?」
「…え?」
そんな折に、先生が柔らかな声で話し始めてくれた。
先生がおとぎ話なんて、びっくりである。
でも今は、その声が聴きたい。
「ある時、勇者の揺り籠で眠りすぎた者がいました。」
「揺り籠で…眠りすぎた?」
「ええ、この世界で何をなすべきかわからないうちに、眠りすぎてしまったんです。」
「あらら…。」
自分の中のかっこいい勇者様像…さっきのルーシェ様のような…とは全然違う。
でもそういう悩み、分かるなあ。
「ある時、その者は妙な視線に晒されていることに気が付きました。なんと…変なお爺さんが彼をじっと見つめていたのです!!」
「ええっ、お爺さんっ―Σ(゜v゜;)!?」
「何なんでしょうねえ…でも、そのお爺さんは、目を輝かせてこう言ったのです。ついにワシは夢を果たした!!伝承は本当だったのじゃっ!、と―」
その20 終
【登場人物・事項】
・晴れと曇りを数えてみれば、晴れていた日が多かったことに気付くだろう
Si numeres anno soles et nubila toto, invenies nitidum saepius esse diem.
Publius Ovidius Naso, Tristia.




