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転送術士候補生  作者: よのもり せいう
19/23

その19 戦い終わって(Part. L)


幾星霜を重ねた遺骸は、どれも朽ちていた。

一段落した我々は、おもむろに頭蓋を拾う死霊術師に身を強張らせる。


「何を…する気なのじゃ( ;ᾥ; )?」


「頭蓋だけでも故郷へお還ししようと思いまして。」


ディアスが緑の燐光を伴い、魔術を行使する。

どうやら遺骸から生前の記憶を読取っているらしい。


「…この頭蓋の主は、西方戦争の際にここで命を落とした兵士ですね。元は山向こうの村で農業を営み…どうやら妹を一人残して出兵したようです。」


散らばった衣服はほぼ腐り落ちていたものの、錆びた得物には、隣国フィーンの古い紋章が刻まれていた。


彼が丁寧に頭蓋を空間術の中へとしまい込む。

すると教え子がおずおずと近づき、震える手で別の頭蓋を差し出した。


「…お手伝いします。」


一瞬彼は、言葉に詰まって、珍しく戸惑う様な表情を見せた。

それでもすぐに頭蓋を受け取ると、しまいこむ。

作業は淡々と進み、暫くしてようやく近くの頭蓋をすべて集め終えた。


「これでひと段落ですね。私はここへ来るまでに解呪した亡骸の回収に行ってきます。2人は先に転移点に戻っていてください。衛兵がいるので、安全でしょう。」


ハーミアの疲れも心配だったので、早速踵を返す。

と、3歩歩いたところで声がかかった。


「お手伝い…ありがとうございました。」


振り向けば、教師は軽く頭を下げていた。

彼女が困る前には向き直り、にこりと微笑む。


相変わらず不気味な笑顔であったものの、その表情は、ほんの少しだけ、穏やかなものにみえた。


  

その19 終


挿絵(By みてみん)

【ひとこと事項】


・西方戦争

 ジルオールとフィーンの間で起きた国土を争う戦争。現在は国交を回復しているものの、この二カ国は過去4度に渡って戦争をしている。


・記憶の読み取り

 霊を媒介に、そこに刻まれた記憶を辿る術。良い使われ方をしない場合も多い。


・ディアスの転移

 本来、防衛上の観点から国境をまたぐ転移はご法度である。


―――

・Part. L

  ライトを一人称とするパート

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