その19 戦い終わって(Part. L)
幾星霜を重ねた遺骸は、どれも朽ちていた。
一段落した我々は、おもむろに頭蓋を拾う死霊術師に身を強張らせる。
「何を…する気なのじゃ( ;ᾥ; )?」
「頭蓋だけでも故郷へお還ししようと思いまして。」
ディアスが緑の燐光を伴い、魔術を行使する。
どうやら遺骸から生前の記憶を読取っているらしい。
「…この頭蓋の主は、西方戦争の際にここで命を落とした兵士ですね。元は山向こうの村で農業を営み…どうやら妹を一人残して出兵したようです。」
散らばった衣服はほぼ腐り落ちていたものの、錆びた得物には、隣国フィーンの古い紋章が刻まれていた。
彼が丁寧に頭蓋を空間術の中へとしまい込む。
すると教え子がおずおずと近づき、震える手で別の頭蓋を差し出した。
「…お手伝いします。」
一瞬彼は、言葉に詰まって、珍しく戸惑う様な表情を見せた。
それでもすぐに頭蓋を受け取ると、しまいこむ。
作業は淡々と進み、暫くしてようやく近くの頭蓋をすべて集め終えた。
「これでひと段落ですね。私はここへ来るまでに解呪した亡骸の回収に行ってきます。2人は先に転移点に戻っていてください。衛兵がいるので、安全でしょう。」
ハーミアの疲れも心配だったので、早速踵を返す。
と、3歩歩いたところで声がかかった。
「お手伝い…ありがとうございました。」
振り向けば、教師は軽く頭を下げていた。
彼女が困る前には向き直り、にこりと微笑む。
相変わらず不気味な笑顔であったものの、その表情は、ほんの少しだけ、穏やかなものにみえた。
その19 終
【ひとこと事項】
・西方戦争
ジルオールとフィーンの間で起きた国土を争う戦争。現在は国交を回復しているものの、この二カ国は過去4度に渡って戦争をしている。
・記憶の読み取り
霊を媒介に、そこに刻まれた記憶を辿る術。良い使われ方をしない場合も多い。
・ディアスの転移
本来、防衛上の観点から国境をまたぐ転移はご法度である。
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・Part. L
ライトを一人称とするパート




