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転送術士候補生  作者: よのもり せいう
15/23

その15 到着(Part. H)



「つきました~っ!あ、こんにちは!」


ブラウテューベンに着いた翌日のこと。

街から歩いて半日程で、今回の点検対象となっている転移点に到着した。


翡翠色の葉の生い茂る木々に包まれた、古い遺構の中。

衛兵のおじさん達に挨拶をして、身分を示す。


振り向けば、歩き疲れてぜぇぜぇ言っている先生が遠く手を振り返してくれる。

もうちょっと体力をつけた方が良いですねえ(*⁰▿⁰*)


おじさん達に使い魔を出す許可をもらって、リュックからライ君を降ろす。

すると彼も目を覚まして、転移点の周りをクンクンしながら確認し始める。


「…異常はなさそうだね。」


「うむ、まあ、大丈夫じゃろ。」


古木の根元に、自然に馴染むように鎮座する、狐色の石に彫られた魔法陣。

転送術の着地を安定させる測位術の術式に、周囲に魔物が入らないようにする聖域の術式…古い物ではあるものの、うん、大丈夫そう。


手順に従えば、次はこの魔法陣を使って、実際に王都の支部にワープしてみる。

往復できるか確かめられれば、機能面の検査の方は完了だ。

あとは一昼夜ここで過ごして環境面の安全性をみて、報告すれば良い。


「ふぅ…やっと着きましたね…良い運動に、なりました…。」


「先生、転送術士も体力が大事ですよ!運動とかしましょう!」


「ははは…私は死霊術が専門なので;」


眼鏡をかけ直す先生は、古木に腰かけて苦笑い。

一生懸命歩いてきた感じが、何というか、ちょっと失礼かもだけど、可愛らしかった。


「あ、あの…先生…次の往復確認をしてきても良いですか?

 その…できれば一緒におトイレも行きたくて…。」


「あ…ああ、どうぞどうぞっ;!」


()花術(かじゅつ)はこういう任務を想定して覚えていた。

でも…やっぱりちゃんと行けるなら行きたい。


先生が許してくれたので、転移点から転移術を使ってみる。

するときちんと王都に帰れたので、支部長に現状報告もしてから森に戻った。



その15 終




【ひとこと事項】


・転移点

 ワープの発着点の総称。この場所を用いることで転移の安定性が格段に増す。また、よくできた転移点は付加的な魔法陣によって結界的な機能を持つこともあり、この場所を拠点とすることで、キャンプをしても魔物に襲われず、安全に体力を回復したり、旅の記憶を十分に振り返ったりすることができる。


・転移点の衛兵

 王国では重要な転移点には衛兵を配備し、その悪用を防いでいる。


・測位術

 周囲の空間の地形を感知する魔術。転送術士は転移後の着地や、暗がりの中や障害物越しの転移を行う際にこの術を利用することがある。転移点に描かれた魔法陣は、この作動を補助的に支援するものであり、転移能力さえ有すれば、転移点ではほぼ自動的に安全な着地が可能となる。


雉花術じかじゅつ

 登山者の間で用を足すことを、その姿から「雉打ち」、「花摘み」と呼ぶことになぞらえ、これらの頭文字を取り、排泄に関する魔術をこう呼んでいる。転送術を応用した雉花術は、排泄物を排泄直後に地中深くに転移させる効果を有する。


――――

※“雉花”という熟語は造語です。


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