その14 弾む街角(Part. D)
「五月祭り…ですか?」
「そうなんですよ~。あと数日だから、この有様でっ!」
ブラウテューベンに着いてみると、人の往来が妙に多く、壁や街灯に真新しい飾り付けをする市民の姿が目立っていた。
この街の転送術士協会に到着の挨拶に伺えば、職員達も慌ただしく往来している。
「そんな時期だったんですね!」
「帰る頃にはうまいものが食べれるのじゃ!」
ハーミアは新生活ですっかりこのイベントを忘れていたらしく、走り回るライトと共に、両手を合わせて喜んでいる。
「支部長には到着の報告をしておきますので、どうぞ現地に向かってください。」
術士協会の男性職員が、魔方陣の上に転送されてきた荷物を抱えて玄関へと運ぶ。
短く刈り込んだ髪型や盛り上がった首の筋肉が精悍で、実に良い。
と、その間にも次々と荷物が転送されてきて、女性の職員達が荷札を見ながら運ぶ先を指示したり、台車を押して走り回ったりと汗をかいている。
「男性の職員は少ないのですね。」
「攻撃系や研究の方に行っちゃいますからね。」
彼女によれば、魔術職の中でも攻撃系の専門職と研究職が男性に人気らしい。
そして、それらに男性が流れる影響で、転送術士協会には女性が多いのだという。
確かに補助的な魔術であり、民間の現場仕事のようなこの職場は、人気の真逆である。
もちろん職業選択の自由の上でのバランスであるため、仕方はない。
ハーミアとそんな会話をしつつ、邪魔にならないように早々に店を出る。
外には大きな荷馬車が停められていて、協会に届いた積荷を満載にして動き出す。
「…輸送の大部分を転送術士が担ったら、輸送業は廃業になるのでしょうか。」
「皆がお金持ちになったら、あるかもですね。」
「…?」
「転送術では一度に多くは運べないですし、魔力の消費も激しいから、その分輸送費が高いんです。だから大量の食べ物とか、安価なものは通常の輸送の方が向いていて、そこで住み分けになっています。」
つまり転送術士協会の輸送品は、高級品ということか。
確かに馬車には、街中の配送にも関わらず護衛に数名の冒険者が付いていた。
「それじゃあここからは歩きですね。頑張りましょうっ!」
地図を片手に、術士の卵が元気に微笑んだ。
その14 終
【ひとこと事項】
・五月祭り
王国各地で行われるイベントで、春の到来を祝うことを目的としている。
・転送術を用いた輸送
現在の水準では、30kgの穀物を隣町に運ぶ場合、転送術と物理的な輸送手段のコストがほぼ同等となる。このため、速達性や安全性を求める富裕層や多額の賞金を得る冒険者の移動手段、人命の関わる緊急性の高い輸送等に協会に依頼が入る。




