その11 宝石店の前で(Part. H)
「携帯できる食料よし、飲み水よし、着替えも大丈夫…」
都に来て初めてのクエストに備えて、ライ君を連れて買い出しへきていた日。
揃えた品々を保有術で鞄の中に作った空間にしまい、ドーナツを片手にベンチで一休みしていると、街路に宝石店があることに気がついた。
「わあ♪きれいだね(*’’▽’’)」
相棒を膝に乗せ、一口あげる。すると彼はモシャモシャしながら相槌を打つ。
話し相手がいるって、嬉しいな。
「うむ…そういえばお前さん、どうして杖に木珠を嵌めておるんじゃ?」
「これ(っ ‘ ᵕ ‘ c)?」
ちょうど術を使った後だったから、目についたのだろうか。
杖を取り出し、その柄の部分をライ君に見せる。
「転送術士といえば、地球儀石や天球儀石じゃろうて。」
ぴょんと膝から降りて、ショーウィンドウから、これこれ、とジェスチャーする。
航海士が海を象る宝石を持つように、転送術士は星を象る石を身に付ける。
見本を見せてくれなくても、知っているよ。
「この杖は、合格祝いにパパとママが買ってくれたんだ。でも石は相性とか、値段とか、良いのがなくてね。そのうち良いのが見つかるといいんだけど…。」
お金も貯めなきゃ、なんて思った矢先に視界に窓の反射で映る、手にしたお菓子。
早速の散財にバツの悪い気分になる。
「…そういえば、ポケット先生の杖には大きい地球儀石が付いていたなあ。」
「あれは高価なものなんじゃぞ。」
「…えっ!?ライ君知ってるの(・△・)」
「肖像画が学園にあったじゃろ?」
「あー、あれね〜。」
ポケット先生の姿は、面接試験の時に一回しか見たことがなかったけれど、実際に授業を受けられていたら、どんな風に喋って、どんな風に笑ったり、怒ったりするんだろうか。
会いたかったな…。
そんなことを思いながら、ベンチを後にした。
その11 終
【ひとこと事項】
・ハーミアの鞄
母親のおさがりで、鞄を触媒に通常の6倍程の容積の荷物が入る空間術が施されている。
・地球儀石
青地に緑の斑模様が海と陸のように美しい宝石。
・天球儀石
青地に金色の含有物が星空のように美しい宝石。
・ハーミアの杖
入学祝に買ってもらった20cm程の杖。軽くて丈夫な木材が使用されている。
・ポケットの肖像画
学園に飾られている、各教員の肖像画。歴代の教員のものも飾られており、本人より若干美しく描かれている。ポケットの肖像画には、巨大な地球儀石をあしらった長杖を持った姿が描かれている。




