その1 出会い(Part. H)
“転送術科 ドアーズ・ポケット先生 失踪のお知らせ”
入学式早々に聞かされたニュースに、王都に来てはじめて貧血を起こしかけた。
それはきっと、これから私の師となるはず人の名前だったからである。
「大丈夫?」「あ、ありがとう…(・△・;)」
肩を支えくれた隣の子にお礼を言いつつ、何とか話の続きを聞こうとする。
でも、声は音のように聞こえていても、内容が耳に入ってこない。
高名な転送術士、ポケット先生の弟子になりたい―。
そう思ってこの学園に来たのに…。
新しい制服の裾を掴むと、冷たく硬い感触が身に染みた。
と、そのときだった。
学生達が、にわかにわあっとざわついたので、何だろうと顔を上げる。
すると檀上には、校長先生に紹介されて話す、一人の新任教師の姿があった。
緑がかった髪に、表情を隠すように光る眼鏡、話すと吊り上がる怪しげな口元。
「…ポケット先生の代わりにこの学校の教員となりました、ディアスと申します。
転送術科も兼任しますが、専門は…死霊術です。」
望んでいたはずの先生が、行方不明。
そして代わりの先生の専門が、私の希望と全然違うもの…。
初日から不良になっちゃおうかと思いました。
その1 終
【ひとこと事項】
・ハーミア
転送術士になるためにやってきた新入生。
・ドアーズ・ポケット
魔術学校スコラ・リンデに務める高齢の転送術士。
・ディアス
行方不明のドアーズの代わりに転送術科も兼任となった死霊術士。
・魔術学校スコラ・リンデ
最高峰ではないが、歴史は古い。それ故かマイナーな学科も有する学校。
・転送術
人や物を対象の場所へと移動させる魔術の総称。自身を移動させる魔術を転移術、他を移動させる魔術を転送術と分けて呼ぶこともある。
・転送術士
転送術を専門とする魔術士の呼称の1つ。
・死霊術
他者の生命を媒介に行使する魔術の総称。その性質ゆえに、この世界では忌み嫌われる傾向にある。この術を専門とする者を死霊術士という。
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・Part. H ハーミアを一人称とするパート