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vol.9 盗賊団

   [Ⅰ]



 護衛隊の指揮を執るゴーヴァンさんと挨拶を終えた後、護衛者だけで集まり、軽いミーティングを開始した。

 まずゴーヴァンさんが説明を始める。


「さて……それでは手短に今後の説明をする。我々は今からヴェスピナ街道を通ってエルカへと向かうわけだが、途中に旧街道と新街道の分かれ道がある。どちらも目的地であるエルカに通じる道だが、今日はやや遠回りになる左の旧ヴェスピナ街道を進む予定だ」

「え!?」


 それを聞き、他の者達がざわつきだした。

 今の提案に声を上げる者が、何人かいた。


「なぜ旧街道からエルカに向かうんだ? あそこは遠回りな上に、途中、険しい岩山の谷がある。あまり、荷を運ぶには適してない気がするが……」

「そうだぜ、ゴーヴァンさん。おまけにあそこは最近、馬車移動に使っていないから、道が荒れてるって話だ」

「我々もそう思う。新街道の方が良いと思うがな」


 他の者達の言い分を聞く限り、旧街道は悪路のようだ。

 するとゴーヴァンさんは、落ち着けと言わんばかりに、両手を軽く仰いだ。


「待て待て。皆の言う事はわかるが、まずは私の話を聞いてほしい。実は数日前も我々がボルカノ商会の護衛をしたんだが、その時は右手の新ヴェスピナ街道を通った。だがその時、我々は途中、ジャグーナ盗賊団に襲われたのだよ」

「ジャグーナ盗賊団だって……それは本当なのか」


 その盗賊団の名前を聞いた途端、他の者達はまたざわつき始めた。

 どうやら、いわくつきの盗賊団なのかもしれない。


「ああ、本当だ。その時は我々が何とか退散させたが、今回もそううまくいくとは限らん。よって今日は、旧ヴェスピナ街道に進路を変える事にしたのだ。それに今回は、積み荷の量もかなり多いから、より慎重に行きたいのでな」


 ゴーヴァンさんはそう言って、荷馬車に視線を向けた。

 俺はそこでリーサに小声で訊いてみた。


「なぁリーサ……ジャグーナ盗賊団て何? 名前からして犯罪集団というのはわかるけど」

「このファーレンの周辺一帯に出没する盗賊団の事よ。聞くところによると、結構狡猾で、こいつ等にやられた積み荷は多いみたい。しかも、階級の高い戦闘員の護衛でも、たまにやられてるみたいね。階級の低い戦闘員が護衛の場合は、犠牲になった者達もそれなりにいるみたいよ。だから今回、トカレス階級以上で追加募集してたのね」

「へぇ……なるほど。まぁとりあえず、面倒そうな奴等という事か」

「ええ。はぁ……2000リアじゃ安かったかも」


 リーサは溜息を吐くと、口を尖らせ、少し憮然とした表情になった。

 俺達がそんなやり取りする中、ゴーヴァンさんは続ける。


「そういうわけで、今日は旧ヴェスピナ街道に進む予定だが、何か異論のある者は手を上げてほしい」

「ジャグーナ盗賊団が出るなら、仕方ないか……積み荷の安全が第一だからな」


 誰も手を上げないようだ。

 というわけで、俺が手を上げておいた。


「あ、は~い、質問です。良いですか?」

「貴方は……確かクロウだったか。で、なんだろうか?」

「さきほど前回襲われたと仰いましたが、その時、ゴーヴァンさん達は何名で護衛してたのですか? それと盗賊団の数を教えてもらえるとありがたいです」


 ゴーヴァンさんは、暫し考える素振りをすると口を開いた。


「前回の護衛者は5名だ。敵ははっきりと覚えてないが、10名ほどだったと思う」

「そうですか。ではもう1つ。ジャグーナ盗賊団は名前のようですけど、襲ってきた奴等は自ら名乗ったのですか?」

「ああ、そうだ。変な話だが、奴等は名乗ってから襲い掛かってきたよ。俺もそれを聞いて驚いたのだからな」

「へぇ……そうなんですか。なるほど。ありがとうございました。私からは以上です」


 きな臭い匂いがするが、今は答えが出ない。

 まぁとりあえず、今はこの流れに身を任せてみるとしよう。


「他に何かあるか?」


 誰も手を上げる者はいなかった。


「では、質問がないようだから次に行かせてもらおう。それで、護衛隊の並び順だが、先頭と最後尾だけ俺が決めさせてもらう。他は、各自好きな位置で護衛についてもらいたい。では隊の先頭だが……指揮を執る私と、ここにいるモイス、ベル、ロイが担おう。そして最後尾だが……」


 ゴーヴァンさんはそこで、2人いるニューフィアに視線を向けた。


「リュスとイグナム……先程、自ら申し出てくれた君達にお願いしたい。両名とも剣士階級はリジョルだから、安心して任せられるのでな。そして、彼等に加えて……」


 するとゴーヴァンさんは、なんと俺達に視線を向けたのである。


「リーサとクロウ……君達にお願いしたい。先程階級を聞いたら、2人共リジョルだと言っていた。頼めるか?」


 どうやら俺達に殿(しんがり)をしろという事のようだ。

 ちなみにだが、自己紹介の後、俺はゴーヴァンさんに階級を訊ねられたので、とりあえず、リジョルという事にしておいた。

 理由は、変に注目されるのが嫌だったからである。リーサは俺に不満そうな視線を送っていたが……。

 まぁそれはさておき、リーサはそこで、俺に振り向いた。


「ねぇ、クロウ。隊の最後尾でもいい? 敵の襲撃に真っ先に遭うかもしれないけど」

「いいよ、別に」


 俺は即答していた。

 この世界に来てからというもの、義経の記憶のせいで、物事に動じなくなっている自分がいる。

 日本にいたときなら即座に断っていただろう。

 知っている人間が今の俺をみたら、性格が変わってしまった風に見えるかもしれない。


「では、リュスとイグナムと共に、最後尾の方は君達に任せる。よろしく頼んだぞ。では、私からは以上だ。各自が持ち場に着き次第、ここを発つとしよう」――



 ミーティングを終えた後、俺達は隊列の最後尾へと移動した。

 そこで2名のニューフィアもこちらへとやってきた。

 近くでニューフィアを初めて見たが、耳の形と髪の色以外、人間とほぼ同じであった。

 耳の先は尖っており、人間の耳より明らかに長い。

 髪はやや光沢のある灰色をしている。人の白髪とはまた違う色合いだ。

 ちなみにだが、2人共、肩より長い髪をしていた。この世界は種族問わず、ロン毛が好きみたいである。

 また、2人の肌は浅黒く、メキシコ人のような中南米系の感じであった。

 もう見るからに、ファンタジーゲームに出てくるダークエルフという感じだが、ここにいる者達は他の人間達と同様、共存するただの種族に過ぎない。

 俺からすると神秘的な種族に見えるが、ここの人達からすると珍しくもなんともないのである。


 まぁそれはさておき、目の前にいるニューフィアだが、1人は俺くらいの身長で筋肉質な体型であった。

 年の頃は20代後半くらいで、やや眼つきの鋭い男だ。

 もう1人はやや背が低く、細身の女性のような体型をしていた。年は俺より若く見える。人間なら10代半ばか、後半くらいだろう。

 線の細い美しい顔立ちをしており、まるで女性のようであった。というか、俺には女性にしか見えなかった。

 それと、2人共、重厚な鎧と剣を装備しているので、剣士としてヴィルカーサからやって来たのだろう。この装備を見る限り、ソーサリアではない筈だ。多分……。

 だが彼等の装備を見ていて、1つ気になった点があった。

 それは何かというと、背の低い方のニューフィアの装備であった。

 そのニューフィアは長身の者と比べると、かなり良い装備をしていたからである。材質も高級そうなのが見て取れる。

 一際目を引いたのが、背の低い方のニューフィアが装備している鏡のように磨かれた盾であった。

 盾の縁には蔦のような意匠も凝らしてあり、かなり高級感があるのだ。

 もしかすると、相当に値のはる品物なのかもしれない。

 布の服に長剣と短剣のみという、俺の貧相な装備に比べると雲泥の差であった。


 俺がそんな風に彼等を見ていると、長身のニューフィアが話しかけてきた。


「俺はイグナムという。今日は最後尾の護衛仲間という事で、よろしく頼む」


 続いて、もう1人のニューフィアが挨拶してきた。


「俺はリュスだ。よろしくな」

「私はリーサ。よろしくね」

「俺はクロウです。よろしくです」


 俺達が簡単な自己紹介をした後、ゴーヴァンさんの声が響き渡った。


【よし……では出発だ! 各自、周囲の警戒を怠るな!】


 そして俺達は移動を開始したのであった。



   [Ⅱ]



 ファーレンを発ってから3時間ほど経過した。

 周囲はずっと同じような草原地帯が続いてるため、あまり進んでいる感はない。

 だが、路面状況は次第に悪くなっていた。荷馬車の揺れが大きくなっているのが、その証拠であった。

 また、出発した時は暖かかった日射しも、今やただ暑いだけのモノへと変わっていた。

 時折、街道を吹き抜ける強めの風が、ありがたい存在だ。

 そんな中、俺は移動しながら、用意しておいた革製の水袋を手に取り、口に運ぶ。そうやって少しづつ水分補給をしていた。

 それに加えて、今はかなり眩しいので、俺とリーサは簡単な日除けを作る為に、頭に布切れを被せ、その上から紐で額辺りを縛るという格好をしていた。

 現実世界の中東辺りでよく見かけるターバンスタイルである。


 話は変わるが、一昨日、ヴィルカーサで仕事を引き受けた後、俺はリーサと共に、旅に必要なモノを買い出しに行った。といっても、買ってくれたのはリーサだが。

 で、その時、水を入れる革製の水袋と携行食を幾つか購入したのである。

 水袋は凡そだが、5リットルくらい入りそうな代物であった。

 携行食は二度焼きした糞固いパンと、干した果実である。

 なので、味気も何もない食料だが、あまりしょっぱいモノだと水が必要なので、このくらいで丁度良いのかもしれない。

 買ってくれたリーサに感謝である。


 まぁそれはさておき、炎天下での行軍は、馬に乗っているとはいえ、体力を使うモノであった。


(流石に炎天下は暑いなぁ……ちょっと暫くの間、天魔の秘術は止めておこう。さすがに身体への負担が多い……)


 そう……実は俺、天魔の秘術を一時的に解除しているのである。

 修行を始めてから10日ほど経過してるので、目論見通り、身体も筋肉がつき始めていたが、事ここに至っては中止せざるを得ない状況だ。

 その為、天魔の秘術を使った身体トレーニングは、平常時だけにしようと考える俺なのであった。


(旅の場合は、体力温存しとかないとな……義経もそうしてたし)


 ふとそんな事を考えていると、隣にいるニューフィアが俺に話しかけてきた。


「ところで、クロウ。アンタに1つ聞きたい事がある」


 話しかけてきたのは、背の低いリュスという名のニューフィアであった。


「ン? 何?」

「何で防具を装備しないんだ?」


 もううんざりする質問内容であった。

 実はこの質問、自己紹介の後にゴーヴァンさんにもされた上、他の者にもされたのである。

 正直、質問がウザいから鎧が欲しくなったくらいであった。


「なんでって言われてもねぇ……まぁとりあえず、今は邪魔だからかな」

「邪魔? 防具は身を守る為のモノだぞ」

「じゃあ、逆に聞くけどさ、リュスはそんなに鎧を着こんで熱くないの? 体力奪われるよ」

「それは熱いが……鎧とはそういうモノじゃないのか」


 リュスは当然のように言い放った。

 まぁそれが正論ちゃ正論だ。熱いの覚悟で装備するモノだから。

 と、そこで、イグナムが話に入ってきた。


「リュス……彼は自分の剣に自信があるのでしょう。そうでなければ、防具無しで護衛など中々できぬものです」

「でも彼は、我等と同じリジョル階級だぞ。危機感が無さすぎるように見えるがな」

「そうなのよ。クロウには私も言ったんだけど、要らないの一点張りなんだもの」と、リーサ。


 なぜか知らないが、俺が悪者みたいであった。


(ああ、面倒臭い……防具を装備しないってそんなに悪い事なのか……まぁいいや。それよりも気になる事がある。イグナムはなんで、リュスに敬語を使うんだろう……俺達にはタメ口なのに。それに、リュスの喋り方……微妙にたどたどしいんだよな。無理してあの喋り方をしてるみたいに感じる。まぁ気のせいかもしれんけど……ン?)


 ふとそんな事を考えていると、俺達の前方遠くに、背の低い岩山が姿を現したのである。

 標高にして100m程度だろう。そこまで高くはない。

 するとそこで、リーサは溜息を吐いたのであった。


「ここからが険しいのよね、この旧街道は……」


 どうやら、これが噂の険しい岩山の谷のようだ。



   [Ⅲ]



 俺達は岩山の街道へと足を踏み入れた。

 そこはまるで、岩の塊を鋭利な刃物で切り裂いたかのような谷であった。

 岩山は褐色の山肌で、草木は1本も生えていない。

 左右の岩壁は直角に切り立っているような感じの為、まるで岩の回廊を通っているような感じであった。

 とはいっても、街道の幅が50mくらいはあるので、そこまでの閉塞感はない。

 おまけに、今は丁度、谷に日の光も射し込む為、街道が明るいのも影響しているのだろう。

 だが、兵法的に言うなら、地の利はあまりない場所と言えた。

 もし護衛の指揮を執っているのが義経ならば、この道は通らないであろう。

 後ろと前を封じられたら終わりだからである。


(さて……何か起きそうな予感がするな。その時、ゴーヴァンさんはどうするつもりだろうか……俺が敵なら、この岩山にいる内に襲うけどね……ン?)


 と、その時であった。

 俺の真横にある岩山が、何回かピカッと光ったのである。

 それは鏡の光を反射させたような感じであった。


(今のは光の反射か……なるほどね。そういう事か……読めたよ)


 俺達は暫く進みつづける。

 そして異変は、谷の中に深く進んだところで起きたのであった。

 前方から、ゴーヴァンさんの大きな号令が上がる。


【敵襲だ! 全員、戦闘態勢に入れ!】


 なんと前方には、50人くらいの盗賊みたいな輩が通せんぼするかの如く、立ち塞がっていたからである。全員武装をしており、剣や槍に弓といった得物を装備していた。

 中には、戦国時代の傾奇者のように虎皮のベストを着てる奴や、モヒカン頭に刺青彫った人相悪い奴など、それは様々であった。勿論、種族も様々である。

 先頭の者達は全員剣を抜いた。

 と、そこで、リーサの大きな声が聞こえてきた。


【クロウ! こっちにもいるわ! コイツ等、待ち構えてたのよ!】


 後ろを見ると、前方と同様、50人くらいのならず者達がいた。

 もう用意周到というほかない。


(あらら……囲まれちゃってるね。このままだと、完全に詰みだな。まぁでも……打開策は1つあるけどね……)


 などと思いつつ、俺は向こうの出方を窺った。

 ゴーヴァンさんの怒声が響き渡る。


【貴様等! ここに待ち構えていたのか! なぜここを通るとわかったッ!】


 前方にいるならず者の中から、白い仮面を被った怪しい輩が出てきた。オペラ座の怪人みたいな仮面である。

 そいつは浅黒い肌をした人物で、金色の鎧と黒いマントを身に纏い、キラキラと高級そうな装飾が施された剣を腰に帯びていた。

 明らかに趣味の悪い、成金剣士といった見た目であった。

 筋肉質な体型で、上背も俺よりありそうなので、結構強そうな雰囲気は持っていた。性別は多分男だろう。

 白い仮面を被った奴は笑いながら話し始めた。


【クククッ……馬鹿め。我等ジャグーナ盗賊団を舐めるなよ。お前らのことなんぞ、何でもお見通しよ。クククッ、さて、これだけの人数に勝てるかな、護衛隊よ。積み荷を置いてとっとと逃げ帰るのが得策と思うがな……さぁどうする? このまま引くなら命までは奪わんでおいてやろう。だが……たてつくなら皆殺しだ!】


 その言葉を言い放った直後、ならず者達はヒャッハーと言わんばかりに歓声を上げた。

 まさに今、世は北○の拳状態である。


(やっぱここは、こんなんいるんだな。聞いてはいたけど、治安は悪いわ。こういうのが野放しになってるって事は、多分、騎士団とかも、ここまで手が回らんのだろう……)


 俺がそんな事を考える中、ゴーヴァンさんは苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めた。


【き、貴様ぁぁ! 俺が屈服するとでも思うのか!】


 だがそんな勇ましいゴーヴァンさんとは裏腹に、周りの護衛達は明らかにビビッていた。


【貴様がいくら叫ぼうとも、周りはもう降参状態だぞ! 仲間の顔を見てみろ! フハハハ】


 仮面の男の言う通り、もはや戦意喪失状態であった。

 戦力が違い過ぎて話にならないのだ。

 100人に囲まれた中、20人で積み荷を死守するのはもはや不可能であった。

 と、そこで、リーサが俺の隣に来た。

 2人のニューフィアもこちらへと来る。


「どうしよう……ヤバいわ。これだけ力に差があると、無理よ。報酬は諦めるしかないわ……」と、リーサ。

「これでは無理だ。諦めるしかないな」

「イグナムの言うとおりだ。俺達は勝てない」


 俺は頭を振った。


「いや、そうでもないかもよ」

「どういう事?」

「え!? そうでもないって……どういう意味?」


 リーサとリュスは眉間に皺をよせ、首を傾げた。

 と、そこで、ゴーヴァンさんが剣を収めたのであった。

 どうやら日和ったみたいである。


【グッ……仕方ない……ここは我々の負】


 俺はそこでゴーヴァンさんを静止した。


【ゴーヴァンさんッ、待った!】


 ここにいる者達は全員、俺へと視線を向けた。注目の的である。

 ゴーヴァンさんは俺に弱々しい視線を投げかけた。


「なんだ、クロウ……何かあるのか?」

「負けを認めるには早いですよ」

「悔しいが……どちらにせよ、我々の負けだ。こんな負けるとわかっている無駄な戦いで、皆の命を犠牲にするわけにはいかん」


 するとそこで、白い仮面の男が俺を指さした。


【誰だ、貴様! 俺は責任者であるコイツと話している! 関係ない奴は引っ込んでいろ!】


 俺は奴に笑みを返した。


【貴様! 何がおかしい!】

【用意周到だねアンタ……だが、何事にも例外はある。試してみる価値はあるから、俺はそれを今試すとするよ!】


 俺はそう言うや否や、天魔の秘術を使い、隣にいるニューフィアに両足で飛び蹴りをした。


「キャッ」

「グアッ」


 その直後、予想外の攻撃にリュスとイグナムは落馬する。

 そして俺は2人の間に着地し、リュスの剣を左手で抜き、リュスの首元に当てがったのである。

 イグナムは慌てて起き上がる。


【貴様ァァァ!】


 イグナムはそこで剣の柄に手を掛けた。


(まだ抜いてなかったのか、遅いねぇ……まぁいい。コイツが、どの程度の腕か見てみよう……義経のやり方で)


 イグナムは剣を抜く。

 その刹那、俺は右手で自分の剣を抜き、奴の剣を思いっきり斬りあげた。

 カキィンという金属の衝突音と共に、奴の剣が宙に舞う。

 そして俺は、奴の首筋に剣を当てがったのである。

 遅れて、イグナムの剣は、俺達の後方の地面に突き刺さった。

 俺はそこで奴に言った。


【動くなッ! 動いたら斬る! 不意の一撃で剣を手放すような奴に、俺は負けんよ】

「な……き、貴様……その階級章……まさか、アレクラント階級の剣士だったのか。グッ……ゴクリ……」


 今の攻撃で、首に掛けてあるアレクラントの階級章が表に出たようだ。

 まぁそれはさておき、イグナムは生唾を飲み込むと、諦めたかのように力を抜いた。

 俺はそこでリュスに視線を向ける。


【と、突然何をする、クロウッ! 俺は仲間だぞ!】と、リュス。

「下手な芝居はもういいよ」

【クククッ、仲間割れか、貴様】と、仮面の男。


 俺はそこで仮面の男に言ってやった。


【さて……お前達が我々の邪魔をしなければ、コイツの命は助けてやろう。どうする?】

【お前は馬鹿か。なぜお前達の仲間割れで、俺が譲歩しなきゃならんのだ!】

【クロウ! 一体何をしている! なぜリュスとイグナムに剣を突きつけるんだ!】


 ゴーヴァンさんは目を大きくしながら叫んでいた。

 訳がわからないといった風であった。


【この者達はコイツ等の仲間だからですよ。さきほど、リュスが盾に日光を反射させて、仲間に合図も送ってましたしね】

【なんだってェェェ! 俺はお前達の進言を信じて、この旧街道にしたんだぞ! 騙したのかァァァ】


 ゴーヴァンさんは目をひん剥かせるかの如く、大きな目を開けて叫んでいた。

 どうやらこの旧街道ルートは、彼等の進言で決めたみたいである。


【ウソ、ホントなの、クロウ!】と、リーサ。


 俺は頷くと続けた。


【ああ。それとこのリュスは、恐らく、そこにいる仮面の男と深い関係があるに違いない】

【な、何を馬鹿な事を! そんなわけある筈ないだろう。そんな女の事など知らんわ!】


 俺はその言葉を聞き逃さなかった。


【へぇ……リュスは女なのか……なるほどね。という事は、愛人か、娘ってところかな】

【し、ししし、知らん! 知らんぞ、俺は!】


 明らかに慌てている風であった。

 俺は今が攻め時と見て、追い打ちをかける事にした。


【なんだ知らないのか。では、殺してしまっても問題ないわけだ。じゃあ、そういうわけで、ごめんな リュス】

【イ、イヤァァァ】


 リュスは泣き叫ぶ。

 俺は思わせぶりに、剣をわずかに動かした。

 すると、その時であった。


【ま、まま、待った! ウグゥ……こ、殺さないでくれ……大事な娘なんだ】


 仮面の男が陥落した瞬間である。

 その直後、力が抜けたかのように、奴は肩をだらりと下げたのであった。


【じゃあ、我々はここを通させてもらうよ。まず手始めに、そこにいる奴等を下げてもらおうか】

【グッ……お前達……道を開けろ】


 ならず者達は指示に従い、渋々とだが道を開けた。

 俺はそこで、ゴーヴァンさんに言った。


【ゴーヴァンさん、俺とリーサは後から行きます。先に街道を進んでください】

【あ、ああ……お前達はどうするんだ?】

【俺達は頃合いを見て、ここを撤収しますから】

【わかった。では頼んだぞ。行くぞ、皆!】


 そして彼等は俺達を残し、移動を再開したのである。

 俺はそこでニューフィア2人に剣を当てがいつつ、彼等に告げた。


「さてでは、リュスはまず立ってもらおうか。それとイグナムは動くなよ」


 リュスはゆっくりと立ち上がる。

 イグナムは身動き1つしなかった。

 武器がないので、多少諦めているのだろう。


「さて……イグナムはもう解放してやろう。だが、リュスは一緒に途中まで来てもらうよ」


 俺はそこでリュスの背後に行き、彼女の手を後ろに回す。

 そして、俺は自分の剣を仕舞い、彼女の剣を首に当てたのであった。

 彼女は無言であった。抵抗もしない。完全に諦めたようだ。

 俺はそこでリーサに言った。


「リーサは俺の馬を連れて一緒に来てくれ」

「わかったわ」

「では盗賊団の皆様方はそこを動かないように……動いたらリュスの命はないということで」

【グッ……いいだろう】


 白い仮面の男はそう言って、溜息を吐いた。

 俺達は盗賊団に正面向きながら、街道の先へと後ずさる。

 その後、奴等から200m以上離れた所で、俺は立ち止まった。


「この辺でいいだろう。リュス……お前を開放してやるよ」


 リュスは前を向いたまま口を開いた。


「クロウ……いつから私達が怪しいと思ってたの?」

「途中からだよ」

「なぜ?」

「なんとなくだ」

「なんとなくって……どういう意味よ」


 リュスは俺に振り向く。

 そこで俺は、一番、疑問に思ってた事を彼女に伝えたのであった。


「だってさ……リュスみたいな綺麗な男、俺は人生で一度も見た事ないんだよね。だから、出逢ってすぐ、リュスは女性だと俺は思った。喋り方も微妙にぎこちないしね。まぁそれで、なんで男装してんだろう? って思ったら、もう怪しくなっちゃってさ。それが気付く切っ掛けだったのかな。それと、イグナムと比べてリュスの装備は良すぎたのも気になった。おまけに、イグナムはリュスに敬語使うしさ。一体、どういう関係なんだって思ったよ。まぁでも、盾で合図送ったのが致命的だったけどね。以上で~す」


 リュスは意外だったのか、キョトンとしてた。

 中々に可愛い顔である。

 俺はそこで、リュスを開放した。

 そして馬に飛び乗り、彼女の剣を地面に置いたのである。


「さて、剣は返すよ。それと、これは警告だ。あれだけの盗賊がいるとなると、次は騎士団が来るだろうから、覚悟しといたほうが良い。じゃあな、リュス。あんまり悪さするなよ」


 俺はリーサに目配せする。

 そして俺達は先に進んでいるゴーヴァンさん達に合流すべく、馬を走らせたのであった。

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