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vol.8 初仕事

   [Ⅰ]



 俺とリーサは朝食後、早速、ヴィルカーサへと向かった。

 外は快晴で、心地よい朝日が降り注いでいた。気分もポカポカしてくるような朝の陽気である。

 そんな朝日を全身に受けながら、大通りへと出た俺達は、徒歩でヴィルカーサへと向かう。

 ヴィルカーサへと続く大通りには、沢山の人々や荷馬車が行き交っていた。

 また、進んで行くにつれ、剣や盾などを装備した物騒な連中の姿も見かけだした。

 人以外の種族もその中にはいた。獣人みたいなのや、エルフみたいな者達である。

 リーサの話によると、獣人みたいなのがライガスで、エルフみたいなのがニューフィアという種族らしい。

 ライガスは人より俊敏で、やや匂いに敏感だそうで、他は人間と同程度の身体能力のようだ。

 それからニューフィアは外見的な違い以外、人間と身体能力的にはそれほど変わらないそうである。寿命も、わずかに長いくらいらしい。

 ただ、ニューフィアは人よりも精霊の力に敏感だそうで、中には精霊と交信できる者達もいるそうだ。

 そして、そういうニューフィアは魔法みたいな事もできるそうである。

 その辺は、RPGのエルフとほぼ同じだなと思ったのは言うまでもない。

 ちなみにだが、俺は精霊が何なのかはわかってなかったりする。というか、リーサもよくわからんらしい。ここの常識では、神に次ぐ存在という位置づけだそうだ。

 まぁそれはさておき、現在、視界に入るこの光景が、この国における朝の日常なのだろう。


(ここでは剣や鎧を装備した格好が、日本における作業着やスーツに該当するのかな。まぁ常識も何もかもが違うから、何とも言えないけど……今の日本人が見たらさぞ驚く事だろう。特にライガスとニューフィアは……まぁ一部のファンタジーマニアには垂涎(すいぜん)の的だろうが……)


 ふとそんな事を考えながら歩いていると、リーサが心配そうに訊いてきた。


「クロウ、本当にその装備でいいの? 長剣と短剣だけだよ。しかも、兄さんのお古だし……」

「ああ、これで良いよ。それに、どんな依頼を受けるか決まってもいないしね。もしかすると、今日できる仕事は、ないかもしれないし」


 そう……リーサの言う通り、俺の今日の装備は、ローシュさんのお古の剣が二振りだけである。

 長剣はリーサが使っている剣とそれほど違いはない。

 しいて言えば、刃渡りが80cm程はあるので、リーサのより数cm長いというくらいだろう。

 短剣は刃渡り30cmほどなので、小太刀みたいなモノである。

 ちなみにリーサは、胸当てと肩当と小手みたいな武具を装備していた。

 ガシュワンの森で初めて出会った時と同じ格好だ。



「でも……せめて胸当てくらいはしてきた方が良いのに。兄さんも、この間の胸当てを使えばいいって言ってたよ。クロウは兄さんと体型似てるから、着れると思うし……」

「まぁそれも一理あるんだけど、元々、防具類はつけて生活してなかったから、別にいいよ」


 本当の理由は天魔の秘術の行使に邪魔だからだが、今言ったのも半分は本音である。

 そもそも義経がいた平安時代後期だと、合戦の時くらいしか基本的に甲冑を身に付けない。

 普段は帯刀はしても直垂(ひたたれ)姿が武士の基本的な衣服であった。

 それに加えて、この国の鎧は日本の甲冑より重いので、あまり装備する気になれないのである。

 まぁ防御力に関しては認めるところだが……。


「そっか……以前住んでいた所では、防具とかつけてなかったんだ。まぁクロウがそういうなら、それでいいか。ところで、ねぇ……クロウ、聞きたい事があるんだけど、いい?」

「なに?」

「クロウって……ファルメキアに住んでいた事ってあるの?」


 ファルメキア……ローシュさんとリーサに、この間教えてもらった国の名だ。

 ロートリアの東に位置する隣国で、現在は紛争状態にあるらしく、国境では物々しい雰囲気になっているみたいである。

 2人の話によると、300年ほど前は、ロートリアとファルメキアは同じ1つの国だったらしい。その当時の国名はロードヴァインだったか。

 300年前、ロードヴァインの国王に双子の王子が生まれたらしいのだが、のちにそれが原因で内戦が起きたようだ。

 で、その双子の王子の勢力が袂を分かち、ロートリアとファルメキアになったそうである。それ以来、あまり両国は仲が良くないそうだ。

 と、まぁそれはさておき、質問に答えるとしよう。


「ないよ。というか、その国も、俺が住んでいた所では聞いた事もないからね。この間、リーサとローシュさんに教えてもらって、初めて知ったんだから」

「そ、そうよね」

「それがどうかしたの?」

「ううん。なんでもない。聞いてみただけよ。さて、ヴィルカーサが見えてきたよ」


 リーサはそう言って微笑むと、前方に見えるヴィルカーサを指さした。


(今の質問は恐らく……俺に探りを入れてたのかもな。そういや、あの森で初めて会った時、ベイルが俺に対して不審な目を向けていたな。だが、知らんものは知らんので、こればかりは信じてもらうしか無いところだけど……)


 などと考えつつ、俺はリーサと共に、ヴィルカーサへと入っていったのであった。


 ヴィルカーサの中へ入ると、朝という事もあってか、武装した連中が結構おり、ホール内の掲示板と睨めっこしていた。

 リーサの話によると、ヴィルカーサの仕事内容の更新は朝と昼らしい。

 良い依頼は早い者勝ちらしいので、賞金稼ぎ達は結構朝早くから来るそうだ。

 ちなみにだが、新規の仕事はホール内の掲示板に告知されているそうである。

 また、緊急性の高い仕事の場合は、専用の掲示板があるらしく、そこで周知されているみたいだ。

 まぁそれはさておき、俺達は受付カウンターへと向かった。

 受付にはミアという受付嬢とボードウィンさんがいた。

 2人は俺達に気付き、笑みを浮かべた。


「ああ! リーサさんにクロウさん、おはようございますぅ」

「ン? おお、これはこれは。今日から、いよいよ仕事を始めるのかな?」

「ええ」

「まぁそんなところね」


 するとミアが少し驚いた表情をした。


「え? リーサさんもヴィルカーサの仕事をするのですか?」

「まぁね。でも、騎士団を辞めたわけじゃないわよ。事情があって、私も少しの間、クロウと一緒に賞金稼ぎすることになったの」

「そうなんですか。では、またよろしくお願いしますね、リーサさん」

「よろしくね、ミア。さて、どういう仕事にしようかな……私達で出来そうな依頼って何かある? できれば、往復で2日程度の護衛とかあるといいんだけど」


 ミアは手元にある台帳らしきモノを手に取った。


「2日ほどの護衛ですかぁ……では、これなんかどうですぅ? エルカの街へ、運搬護衛がありますよ。これは、追加人員の緊急募集で定員10名までのようですぅ。今は半数くらいしか決まってないので、まだ余裕ありますよ。一応、トカレス階級以上の戦闘員となってますから、条件は問題ないですぅ」

「エルカの街か……あの辺、最近、野盗が出没してるみたいで物騒になってきてるのよね。まぁだから、追加人員の緊急募集なんでしょうけど。で、運搬はいつなの?」

「運搬は明日で、依頼主はボルカノ商会ですぅ。成功報酬は1名につき2000リアなので、あまり高額ではないですねぇ。距離も近いからだとは思いますが」

「2000リアか……まぁ最初の仕事としてはいいかもね。どうする?」


 リーサは俺に視線を向けた。

 とりあえず、賞金稼ぎの仕事なんぞやった事がないので、リーサに任せる事にした。


「リーサの判断に任せるよ。ヴィルカーサの仕事に関しては、リーサが俺の師匠だから」

「そう言われると、なんか照れるわね。じゃあ、私が決めるね」

「ああ」

「この仕事引き受けるわ、ミア」

「わかりましたぁ。では、ここに、引き受けの署名をお願いしますぅ」


 ミアは手元にある台帳とペンをカウンターの上に置いた。

 そして、リーサはペンを取り、台帳のとある欄に署名し始めたのである。

 ちなみにだが、署名に使っているペンは、昔ながらの羽ペンみたいなモノであった。

 インクに付けて書く筆記用具である。


「ところで、集合場所とかはどこなの? いつ頃集まればいい?」

「それですが、ニーサの鐘が鳴る頃、ボルカノ商会前に集合となっておりますよ。それと、馬も各自で用意となっておりますね」

「ニーサの鐘が鳴る頃に集合と、あとは馬ね。わかったわ」


 と、そこで、今まで静かにしていたボードウィンさんが口を開いた。


「話は終わったようだね。ではクロウ殿、君に渡すモノがある。これを受け取ってくれたまえ」


 ボードウィンさんは、金色のコインのようなモノがついたネックレスを俺の首に掛けたのである。

 コインには剣の絵が彫り込まれていた。


「ン、これはなんですか?」

「これはアレクラント階級の剣士に贈るヴィルカーサの階級章だ。ヴィルカーサは他の街にもあるから、階級証明を求められた際にはコレを出すといい」

「へぇ……階級章ですか。では、ありがたく頂いておきます」

「うむ。では、君の今後の活躍に期待しているよ……というのは愚問かな。とにかく、頑張ってくれたまえ」

「はい、頑張ってきます」――


 とまぁそんな感じで、ヴィルカーサの初仕事は、明日からという事になったのである。


 


   [Ⅱ]



 朝日が昇り始めた頃、重厚なニーサの鐘がファーレンの街に鳴り響く。

 これは、エル・ニーサ神殿にいる神官達の1日の始まりを意味する鐘の音であった。

 そして俺とリーサは、そんな頃合いに、ボルカノ商会の前へとやってきたのである。

 それと、馬に乗って来いという指示だったので、俺とリーサは今、馬に跨っているところだ。

 この馬はローシュさんのモノで、これも急遽貸してもらう事となったのである。

 ちなみにだが、俺自身に乗馬経験はない。

 だが、義経は乗りなれているので、その経験のお陰で今乗れているというわけである。

 まぁそれはさておき、ボルカノ商会はヴィルカーサがあるファーレンの大通り沿いにあり、街の入口にやや近い位置に拠を構えていた。

 石造りの大きな四角い建物で、その横には蒲鉾屋根のデカい倉庫が建っている。見た感じ、この街では大きい会社組織なのだろう。

 その倉庫の前には、沢山の積み荷がある馬車が何台かあり、その周りには武装した連中が20人くらいいた。

 結構大人数での護衛になるようだ。

 獣人みたいな種族・ライガスや、やや肌が浅黒いエルフみたいな種族・ニューフィアもいた。

 ちなみにだが、ニューフィアの中でも、少し人種的な差があるみたいだ。

 とはいっても、黒っぽいか、白っぽいかの差らしいが。



(多種多様な構成だな……ニューフィアという種族が2人いるけど、肌が浅黒いからダークエルフって感じだ。まぁしかし……超ファンタジーな感じだわ……)


 一応、武装した連中を見たところ、人間が10名にライガス7名、ニューフィア2名といった感じである。

 それ以外に、布の服を着た軽装備のオッサンが荷馬車の御者席に何人かいた。

 見た感じ、この国の一般ピーポーみたいな格好なので、ボルカノ商会が手配した運び屋なのだろう。

 まぁそれはさておき、俺とリーサはその集団のところへ移動する。

 そこで、軽装備の男と金属製の鎧を装備した剣士風の男が、馬に跨り、俺達の方へとやってきた。

 軽装備の男は小太りな体型で、黒いベストと鍔のついた帽子を被っていた。

 この国でよく見かける商人風の男だ。

 剣士風の男は筋肉質な長身で、顎と口に無精髭を生やすワイルドな風貌の男である。

 5分刈りくらいの坊主頭で、ちょっと強面(こわもて)の男だ。

 2人共、年は30代くらいだろう。


「もしや、追加募集の護衛の方々ですかね?」と、商人風の男。


 リーサが応対してくれた。


「はい。ヴィルカーサから名簿がいっていると思いますが、私がリーサで、こちらがクロウです」

「そうですか、そうですか。では、今日はよろしくお願いします。こちらは、今日の護衛隊の指揮を執る剣士の方です」


 剣士風の男は俺達に軽く会釈すると自己紹介を始めた。


「私は今日の護衛隊の指揮をとらせていただく、ゴ―ヴァンという者だ。よろしく頼む。っといっても、リーサは私の事をよく知っているだろうがな」

「ええ。お久しぶりです、ゴ―ヴァンさん。今日はよろしくお願いします」

「騎士団に入ったと聞いたが、辞めてヴィルカーサに戻ってきたのか?」

「いや、まだ騎士団に籍を置いてますよ。今日は彼の付き添いで来ました。暫くの間、彼と共に行動する事となりましたので」


 リーサはそこで俺に視線を向けた。

 ゴ―ヴァンという男は、顎に手を当て、俺を流し見る。

 なんとなく品定めしてる風であったのは言うまでもない。


「ふむ……貴方がクロウか。貴方の事はボードウィンさんから昨日聞いた。凄腕の剣士だとな。今日はよろしく頼むよ」


 ゴ―ヴァンという男はそう言って笑みを浮かべたのであった。

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