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vol.7 ヴィルカーサ

   [Ⅰ]



 リーサに案内され、俺はヴィルカーサという仕事斡旋所にやってきた。

 ヴィルカーサは大通りに面した所に建っており、それなりに大きな、石造りと木造の混在した建物であった。

 3階建てで、隣には武道場みたいな施設もあった。そこからは元気の良い掛け声が聞こえてくる。

 また、主に武装した連中ばかりだが、結構、人の往来が多い所であった。

 この近辺はこういう奴等ばっかなんだろう。

 以上の事から、布の服着てる俺達は、かなり浮いていた。


(ここがヴィルカーサか。なんか……殺伐としてんなぁ。まぁしかたないか。リーサの話だと、訳ありな困った人達の駆け込み寺みたいなところだし……)


 玄関を潜るとホールがあり、その壁には何やらチラシのようなモノが一杯貼り付けてあった。

 人相画や化け物の絵みたいなモノが描かれているので、賞金首や討伐関連のポスターが貼り付けてあるのだろう。

 ちなみにだが、なんて書いてあるのかはわからない。

 どうやら言葉は通じるが、文字は読めんみたいだ。

 少しショック受ける俺であった。


(お、おのれ……あの占い師め……異世界に行かせるんなら、現地の文字読めるように特典つけろよ。というか、俺は今、何語喋ってるんだよ……ったく)


 などと心の中で悪態突きながらホールを真っすぐ進むと、カウンターがあり、そこに受付嬢と思わしき眼鏡を掛けた可愛らしい女性と、武装したオッサンがいた。

 ちなみにだが、女性は武装してない。赤いワンピースっぽい服を着ており、こういう場所にはあまり似つかわしくない感じだ。

 ブロンドの長い髪をツインテールにしている所為か、どことなく、子供っぽい雰囲気の漂う女性であった。

 また、オッサンは40代くらいで、やや短めのブロンドの髪を後ろに流していた。整えた口髭と顎鬚が特徴のオッサンであった。

 銀色の胸当てに剣を装備しており、モロに剣士という出で立ちである。

 ガタイもかなり良く、俺よりも上背があるオッサンだ。

 リーサは2人に向かい、フレンドリーに声を掛けた。


「久しぶり、ミア。それとボードウィンさん」

「お、リーサか。久しぶりだな」

「あ! リーサさぁん。久しぶりですぅ。元気にしてましたかぁ?」


 気の抜けるほんわかした話し方の女性である。

 殺伐としたこの空気の中で、異質な声であった。


「まぁね。でも、今はちょっと療養中だけど」

「そうなのですかぁ。お身体大事にしてください。そういえば、人づてに聞きましたよ、第7騎士団に入ったって」

「ごめんね、ミア。色々と忙しくて、挨拶に来れなかった」

「いいですよ。騎士団に入団すると大変だって聞きますし。ところで、今日はどうしたのですかぁ?」


 リーサはそこで、俺に視線を向けた。


「実は、ヴィルカーサの新しい利用者を連れてきたのよ」


 受付嬢は俺を見る。


「この方ですか? どういう適性の方ですかね?」

「彼は剣士なんだけど、今って剣士階級の認定試験受けられる?」

「受けられますよ」


 受付嬢は隣のオッサン剣士に視線を向けた。

 オッサン剣士は、俺を少し流し見た後、ニコヤカに口を開いた。


「ほほう、剣士として登録されるのですか。私はここで、階級を決める認定官をしているボードウィンという者です。お名前を聞いてもよろしいかな?」

「私の名はクロウと言います」

「ではクロウ殿。剣の腕を確認させていただきますので、私の後に続いてください」


 オッサン剣士はそう言うと、カウンターから出てきた。


「頑張ってね、クロウ。階級が良いと受けられる仕事も多くなるから。それと、その方は昔、ファーレン1の剣士だったと言われてる方だから、気を付けてね」

「へぇ……まぁとりあえず、行ってくるよ」


 そして、俺はリーサに見送られながら、オッサンの後に続いたのである。

 オッサンはホールの脇にある通路を通り、やや広い部屋に俺を案内した。

 ざっと見た感じ、100㎡くらいのフロアスペースがありそうな所であった。

 壁には何種類もの武器や鎧が立て掛けらている。

 剣や槍に弓に斧、そして革製や金属製の鎧や盾等、それは様々であった。

 恐らく、実戦形式の模擬戦闘の部屋として使われているのだろう。

 ちなみにだが、室内は無人である。

 まぁそれはさておき、部屋に入ったところで、オッサンは俺に振り返った。


「さて、では、そこに立て掛けてある訓練用の剣と鎧をどれでもいいから取りなさい。武器はどれも刃引きだから切れる事はないが、怪我は十分にあり得る。そのつもりで来なさい」

「わかりました」


 俺はそこから、リーサが使っている剣と似た得物を手に取った。

 重さ的には1.5kg程度だろう。両刃の西洋剣である。


「それでいいかね? 防具は?」

「模擬戦なら必要ないでしょう。剣だけでいいです」


 とはいうものの、天魔の秘術を行使してる最中なので、あまり余計な負荷を身体に掛けたくないというのが本音であった。


「怪我をしても知らないよ」

「覚悟の上です」

「そうか……君がそう言うなら、仕方がない。では、そこの開始線につきなさい」


 オッサンは、自身の対面に引いてある白い線を指さした。

 俺はそこに移動する。


「では始めるとしよう」


 そしてオッサンは、剣を中段に構えたのである。

 だが、俺は構えを取らなかった。

 オッサンは眉根を寄せる。


「もう始まっているぞ……なぜ構えない」

「私の剣は基本的に自然体からです。必要に応じてしますよ。どうぞ、続けてください」


 そう……これが、鬼の面を被った者から習った、義経の剣術の心得なのである。

 構えは必要に応じてするモノであり、状況に応じて変えてゆかねばならないのだ。

 義経は鬼の面から武術の心得として『戦いの最中でも鳥や虫、木々の声を聞け、肌で気を感じよ、大地の姿を見よ』と教わっていた。

 常に変化する状況の中で剣を振るうというのが、基本的な考えなのである。

 

「自然体からだと……馬鹿な」


 オッサン剣士は少し面食らっていたようだ。

 多分、剣術に対する考え方が違うのだろう。

 俺達は暫し対峙する。

 オッサン剣士はジリジリと横に動き、打ち込むタイミングを計っていた。

 こういう動きをするという事は、気負いのない俺に少しは警戒しているのだろう。

 20秒ほど対峙したところで、オッサンが先に動いた。

 オッサンは間合いを詰め、上段から真っすぐ振り下ろす。

 その刹那、俺は半歩動いて剣をわずかに避け、オッサンの懐へと入った。

 そして、喉元に剣の切っ先を付けたのである。

 それは一瞬であった。

 オッサンは剣を振り下した姿勢のまま、弱々しく声を発した。


「ま、参った。そこまで……」

「手合わせ、ありがとうございました」


 俺はオッサンに一礼したあと、剣を元の位置に戻した。

 オッサン剣士はその場で暫し呆然としていたが、程なくして俺に視線を向けた。


「君は……一体何者だ。少し衰えたとはいえ、私が手も足も出ないなんて……」

「そんな大層なもんじゃないですよ。とりあえず、ただの剣士ってことで」

「ただの剣士って……君ねぇ」


 面倒臭そうだから、もう話題変えよう。


「それより、さっき剣士の階級と言ってましたが、どういう風になっているんですか? 私はこの国に来たばかりなので、ご教授頂けるとありがたいのですが」

「ン? 君はロートリアの者じゃないのか。確かに、あまり見かけない風貌だ。我々と同じような種族だが、ニューフィアやライガスでもないし……まぁいい。ヴィルカーサでの剣士階級は5段階ある。各階級には、この国で価値がある宝石の名前が付けられている。下から順にローム・オラン・トカレス・リジョル・アレクラントという名だ。私に勝った君は、文句なく、最も高い剣士階級のアレクラントだよ」


 初めて聞く宝石の名前だが、剣士階級は認定官によって、厳格に格付けされているようだ。

 このヴィルカーサでは、階級によって受けられる仕事とかも決まってるみたいだから、これは仕方ないのかもしれない。

 だが、あまり階級上げられて注目されるのも嫌なので、少し調整をしてもらおう。


「そうなのですか。では……真ん中のトカレスという階級で登録してもらってもいいですかね?」

「え? なぜだ?」


 オッサン剣士は眉根を寄せ、首を傾げた。


「あまり大きな肩書もつと面倒そうなんで、そのくらいが良いです。それに……賞金稼ぎとして長くやっていくつもりも、今はあまりないので」


 だがオッサンは頭を振る。


「残念だが、私は認定官を預かる身だ。それはできない。ヴィルカーサの階級に偽りが出る事になる。その場合は、階級はアレクラントで登録して、トカレス階級の仕事を受けるというやり方にしてほしい」

「そうですか……なら仕方ないですね。ではそれでお願いします」

「ああ、そうしてくれ。しかし……君は変わってるね。他の者は皆、逆の事をお願いしてくるのに……階級下げてくれなんて、初めてお願いされたよ」――


 剣士階級の認定試験が終わった後、俺はオッサンにまたカウンターへと案内された。

 リーサはやや心配そうに、結果を訊いてきた。


「クロウ……どうだった?」

「まぁ一応、良い成績だったよ」


 するとそこで、ボードウィンさんが一度咳払いをして、リーサに結果を告げたのである。


「オホン……彼は文句無しにアレクラント階級だ。凄い剣士を連れてきたな、リーサ。私の時代は終わったというのを再確認したよ」

「文句無しにアレクラント……やっぱそこまで行っちゃうんだ。いや……そんな気はしてたんだけど。すごいね、クロウ。私もリジョルが精一杯だったのに……」

「まぁでも、たまたまかもしれないよ」

「まぐれで私には勝てんよ……こう見えて、私も歴戦の剣士だという自負はあるからな。さて……では改めて、言おうか。ようこそ、ヴィルカーサへ。クロウ殿、貴方をアレクラント階級の剣士として歓迎しよう」――




   [Ⅱ]




 異世界に来てから何日か経過した。

 その間、俺はリーサやローシュさんに色々と教えてもらっていた。主に、この国の文字や魔法の事に加え、風習や決まり事等を。

 文字の方は、簡単な単語の読み書きはなんとなくわかったが、長い文章を解読するには結構時間が必要であった。

 これは腰を落ち着けて続けていくしかないだろう。

 それから魔法だが、これは師から弟子への口伝みたいな方法でしか身に付けられないそうだ。

 なので、魔法を扱える者というのは貴重な存在らしく、数もそれほど多くはないそうである。

 呪文も秘匿とされており、どういう発動様式なのかはわからないそうだ。魔法を使う者にも、それはわからないらしい。

 ただ、魔法というのは古代文明の遺産らしく、ある種の考古学的な位置づけになっているとの事であった。

 解明されてない部分もかなり多いそうで、魔法を扱う者達は日夜、それに励んでいるそうである。

 ちなみにだが、魔法を扱う者の事をこの国では『エル・ディル・ソーサリア』と呼ぶそうだ。

 このエル・ディル・ソーサリアとは、この世界の古代語で【真理の言葉を伝える者】という意味だそうである。

 とはいうものの、名前が長いので、殆どの人はソーサリアと呼んでいるそうである。


 まぁそんなこんなで、俺は色々と学びながら異世界生活しているわけだが、まだ、ヴィルカーサで仕事の依頼は受けてない。

 しかし、もうそろそろ仕事を始めようと思っているところである。

 リーサも明日から仕事に復帰するそうなので、俺もそれを機に動くつもりだ。

 そして、俺は今、そんなリーサに稽古をつけているところであった。

 ちなみにだが、場所はリーサの家の敷地内で、稽古は木の棒でやっているところだ。


「デヤァ」


 気合十分な掛け声と共に、リーサは俺に向かって袈裟に斬りかかってきた。

 俺はその攻撃をひらりと躱し、手に持った木の棒を振り下ろす。

 そして、リーサの額に当たる直前で、棒を寸止めしたのであった。

 多分、宮本武蔵の後の先もこんな感じなのだろう。


「あ~ん、またやられた」


 リーサは力が抜けたかのように、ヘナヘナと地面に沈んでいった。


「だから肩に力入りすぎだって。さっき言ったじゃん。剣なんてコツを掴めば、そんなに斬る力は必要ないんだよ」


 まぁ俺も、義経の記憶があるから言える事ではあるが。

 この際、そこは突っ込まないでおこう。


「そんなこと言うけどねぇ……私、クロウみたいに動けないもん」

「仕方ない。それじゃあ、稽古の方法を変えよっか」

「方法を変える? どんなの?」

「リーサ、そこにある本物の剣だして」

「え……本物の剣を稽古で使うの?」


 リーサは少し嫌そうな顔をした。

 ちょっと怖くなったのだろう。


「ああ。でも、俺と戦うんじゃないよ。リーサは、この落ち葉を相手するんだ」


 俺はそう言って、地面に落ちている軽い木の葉を何枚か手に取り、放り上げた。

 落ち葉は羽のように舞いながらヒラヒラと落ちてくる。


「落ち葉はわかったけど、それをどう相手するの?」

「この軽い落ち葉を剣で斬ってみてよ。リーサには斬れないと思うよ」

「ムゥ! 馬鹿にしたわね。そのくらいできるわよ。見てなさい」

「じゃあ行くよ」


 リーサは意気揚々と立ち上がり、剣を抜いた。

 俺はそこで木の葉を何枚か放り上げた。

 落ち葉は重力に従いつつ、ひらひらと舞い落ちる。

 リーサはそこで勢いよく剣を振るった。が、しかし……木の葉は剣をすり抜け、ヒラヒラと舞い続けたのであった。


「あ、あれ……斬れない」

「な? 斬れないだろ。そんなに力が入ってちゃ、無駄な動きが多くなるんだよ。これから暫く、この修行やって、コツをつかんでね」

「ええ……ずっとやるの」

「ああ。俺も昔はよくやらされたからね」


 これは俺がというより、義経が鞍馬山で鬼の面を被った者にやらされていた修行であった。

 この木の葉を斬るには余計な力が入るとダメなのである。百害あって一利無しなのだ。

 まぁそれはさておき、リーサは俺の言葉を聞き、真面目な表情になった。


「クロウも昔はしてたんだ……そっか。私、頑張ってやってみるわ」

「その意気だね。ン?」


 と、そこで、ローシュさんがこちらへとやって来たのである。

 ローシュさんは騎士の鎧を身に纏う出で立ちであった。

 恐らく、今ここにいるという事は、仕事中に来たのだろう。


「クロウさんにリーサ、頑張ってるね」

「ご苦労様です、ローシュさん」

「お疲れ、兄さん。あ、そうだ。ちょうどよかった。私もう完全回復したから、明日からノードスラムに行けるわよ」


 するとローシュさんは頭をポリポリ掻きながら、申し訳なさそうに口を開いたのであった。


「ああ、それなんだけどな。リーサ……暫く、クロウさんと一緒に行動してもらってもいいか? ヴィルカーサの仕事をしても構わないから」

「え……兄さん、それって……この間言っていた話の事?」


 リーサは何かを察したのか、少し言いにくそうであった。

 ローシュさんは頷く。


「ああ、その話だ」


 リーサは溜息を吐いた。


「そう……わかったわ。でも私、関係ないと思うけどな……」

「まぁ不満はあるだろうが、頼むよ」


 そこでローシュさんは俺に視線を向けた。


「すいません、クロウさん。そういうわけで、リーサと一緒に、暫く行動してもらえないでしょうか? ちょっと今、騎士団内でゴタゴタしてましてね。身内の話で恥ずかしいのですが、前の騎士団長が捕まえられたりと色々ありまして。すいませんが、リーサを暫くよろしくお願いします」

「はぁ、まぁ俺は構いませんけど」


 なんかよくわからないが、俺は暫く、リーサと一緒に行動する事となったのであった。

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