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vol.3 新たな道

   [Ⅰ]




 木の陰に隠れ、恐る恐る様子を窺うアムリは、九郎と化け物の戦いをみて驚愕していた。

 

(あ、あの男……一体何者だ。只者ではないぞ。あの凶悪なガルヴェリオンを……流れるように舞いながら、剣であっさりと倒した。かと思えば、その前は、わけのわからない奇妙な踊りをして、あの化け物の動きを封じていたし……いや、どちらにせよ、只者でないのは確かだ。一体何者なんだ、彼は……)


 アムリがそんな事を考える中、九郎の大きな声が木霊した。


【そこの木の陰にいる兄ちゃん! 助けてェェェェ!】


(に、にいちゃん? ……なんか叫んでるぞ。ああ、ガルヴェリオンの下敷きになってるのか。凄腕の剣の使い手のわりに、意外とマヌケな部分もあるな。とりあえず、行ってみよう……でも、ガルヴェリオンがまだ生きてる可能性がある。なるべく物音立てずに行こう……)


 アムリは化け物を注視しつつ、木の陰から静かに姿を現した。

 そこでアムリは九郎と目が合った。


「おお、やっぱそこにいたか! ちょっと手を貸してください。俺の手を引っ張って、ここからだしてほしい! コイツ超重いッ!」


 九郎はそう言って身体を左右に振り、必死にもがいていた。

 アムリは抜き足差し足で物音立てないようにしながら、九郎へと近づいてゆく。

 だがその時、ビクッとわずかに化け物の前足が動いた為、アムリは少し後ずさったのである。

 そして化け物は、中の空気をすべて搾り出すかのように、大きく息を吐き、身体の動きをすべて停止させたのであった。


「大丈夫、死んでるよ。化け物が死んだばかりなので、少し動いただけです。死後痙攣(しごけいれん)てやつです。それより、早く!」


 アムリはゴクリと生唾を飲み込み、ゆっくりと九郎へ近づく。

 その際、凶悪な化け物の亡骸に目が行った。

 化け物の2つある頭部の喉元からは、真っ赤な血液が滴たり落ち、地面に大きな血だまりを作っていた。

 それは中々に凄惨な光景となっていた。


(それにしても……よく1人でこの化け物を仕留めたな。まさか、こんな芸当ができる奴がいたとは……。我が国の精鋭よりも、凄い剣の使い手なのではないか、彼は。……まぁいい、それは後だ。今は彼を早く救出しないと……)


 九郎の所へと来たアムリは、早速、救出に取り掛かる。

 それから程なくして、少々大変だったが、アムリはなんとか九郎を引っ張り出したのである。

 九郎の衣服は、化け物から滴る血液で血塗れとなっていた。

 そして、解放された九郎は、そこで安堵の息を吐いたのである。


「フゥゥ、助かったぁ。ありがとう。一時はどうなるかと思ったよ。あの化け物の下敷きになるのは想定してなかったから……」


 九郎はそう言って地面で大の字になった。


「あ、ああ……いや……礼を言うのはこちらの方です」


(さっきまで……我が国で、高危険度の魔獣指定になっているガルヴェリオンと戦っていたというのに、なんだ、この軽さは……この男……もしかすると、相当に名のある剣士なのではないか。そう言えば、以前、セイゲンの森の民に聞いたことがある。森の奥に武術の達人がいると……)


 緊張感のない九郎の言葉を聞き、アムリはそんな事を考えていた。


「それはそうと、ご助力感謝します。貴方のお陰で命拾いしました。ところで……貴方は一体何者なのですか? 先程の身のこなしや、剣の腕前といい、さぞや名のある剣士だとお見受けしましたが……」

「そんな大層な者ではないですよ。それより、あちらの女性ですが、早く治療しないと不味いですよ。一応、俺も応急処置はしたけど、かなり傷が深い。早く、医者に見せたほうが良いと思います」


 九郎はそう言って、やや離れたところで倒れている女性剣士を指差した。 


「あ! そういえば、リーサがやられたんだった! 早く、癒しの魔法薬で回復させないとッ!」


 アムリはそれを聞き、慌てて女性剣士の元へと向かったのである。




   [Ⅱ]




 魔法使い風の男によって化け物の重みから解放された後、俺は暫く休息することにした。

 眼前には、目を覚ました時と同様、広葉樹の枝葉が重なる光景が広がっている。

 そこから差し込む木漏れ日や、温かく優しいそよ風も何も変わらない。

 先程の戦いなどなかったかのように、平穏な空気の漂う場所であった。

 俺がいるこの場所は、森の中ではあるが少し開けており、木漏れ日の射す量も多いせいか、やや明るい広場みたいな所であった。

 その所為か、自殺する為に登っていた山のような鬱蒼(うっそう)とした感じはない。(むし)ろ、安らぎを感じるくらいだ。

 あの化け物がいたのが信じられないくらいの平穏さである。


(さっきまでの殺伐とした空気とはえらい違いだな……まぁ仕方ないか。さて……とりあえず、あの化け物は倒したけど……これからどうすっかなぁ。多分、ここは日本じゃないような気がする……いや、それどころか、地球じゃないかもしれない。それになんとなくだが、俺がここにいるのは、あの占い師が関係してる気がするんだよな……一体、なにがどうなってんだか……ン?)


 そんな事を考えていると、化け物の魔法で痙攣していた他の3人が体を起こし始めた。

 どうやら、化け物の麻痺魔法から解放されたようだ。

 と、そこで、魔法使い風の男が女性剣士に肩を貸し、こちらの方へとやって来たのである。

 この様子を見る限り、怪我の治療はとりあえず終わったのだろう。


(見た感じ、なんとか歩けてはいるな。さっき、魔法使い風の男が言っていた魔法薬とやらが効いたんだろう。そういや、癒しの魔法薬とか言ってたか……一体どれだけ傷が回復してるのか気になるところだが……さて……)


 程なくして、魔法使い風の男と女性剣士が俺の前へとやってきた。

 俺はそこで女性剣士と目が合った。

 すると女性剣士は、申し訳なさそうに口を開いた。


「あの……ありがとう。いえ、ありがとうございました」

「別にお礼は良いですよ。成り行き上、こうなってしまっただけなので。それに、化け物をどうかしないといけないのは、俺も貴方達と同じですしね」

「ガルヴェリオンの事もそうだけど……私の傷……貴方が治してくれたんでしょう? 傷の確認をした時、アムリが言ってました。もうすでに、傷口はかなり塞がっていると……」


 俺は魔法使い風の男に視線を向けた。


「え、そうなんですか?」


 男は頷く。


「リーサの言う通り、完全ではないですが、傷の方は塞がってました。先程、癒しの魔法薬を使ったので、もう傷の方は大丈夫だと思います。出血が多かったので、数日は安静にしてないといけませんが」

「へぇそうだったんだ。まぁ実をいうと、俺も試しでやってみただけだから、どこまで治ってるか、自信は無かったんだよね。でも、それを聞いて安心したよ」


 あの深い傷を回復させたのなら、癒し手は結構使える能力かもしれない。

 義経もあまり他人に使ってなかったようなので、彼の記憶を見ても、その効果の程はよくわからなかったのだ。


(……鬼の面を被った奴が他言するなと言ってたから、義経はそれを守ってたようだ。まぁとはいうものの、記憶を探ると、自分には結構使ってたみたいだな。でも、あまり大怪我しないから、小さい怪我ばかりだが。まぁいい……今は置いておこう。さて、寝たままってのもあれだから、少し身体を起こすか。アイタタタタ……)


 俺はそこで半身を起こした。その際、結構筋肉が悲鳴を上げた。

 天魔の秘術を使っている最中は、あまり痛みというのはなかったが、ここにきてその反動が押し寄せてきたようだ。


(もしかすると、天魔の秘術を使っている間は、痛みを緩和してるのかもしれない。筋肉の強張りは感じたが、痛みというのはなかったし。まぁそれはある意味、危険な事でもあるけど……ン?)


 ふとそんな事を考えていると、女性剣士は俺の前で片膝を付いた。


「色々とありがとうございました。名乗り遅れましたが、私はロートリア王国・第7騎士団所属の騎士リーサと申します。差し出がましいようですが、ぜひ貴殿のお名前を教えて頂けないでしょうか?」

「俺の名は九郎といいます」

「クロウ殿ですね」


 なんとなく発音がおかしいが、そこは気にしないでおいた。

 だが敬称が引っかかるので、それは指摘しておいた。


「殿はいらないよ。クロウでいい。それに、あまり畏まった言い方しなくていいよ。俺は別に、身分の高い人物でもないから」

「じゃあ、そう呼ばせてもらいます。ありがとう、クロウ」


 続いて、魔法使い風の男が自己紹介をしてきた。


「私はアムリといいます。リーサと同じく、ロートリア王国・第7騎士団所属の騎士です。以後お見知りおきを」


 すると、その時であった。


「私の名はローシュといいます」

「俺の名はベイルだ」

「私はミーシアといいます。ご助力、ありがとうございました」


 いつの間にかここに来ていた他の3人も、そこで自己紹介をしてきたのであった。


「この3名もロートリア王国・第7騎士団所属の騎士です」と、アムリ。

「なんだそうだったんですか。旅の者と言ってたから、旅人なのかと思ってました」


 俺はそう答えたが、内心はこうであった。


(ロートリア王国に、第7騎士団ねぇ……かなりファンタジーしてるな。絶対にここ、日本……というか、地球じゃないわ。魔法や化け物が普通に存在してるなんて、おかしすぎだろ。とにかく、死に場所求めてたら、わけのわからん世界に迷い込んだのは間違いないみたいだ。どこだよ一体……まぁどこでもいいけどさ。ったく……)


 正直、開き直っている部分もあるので、これが本音であった。

 ベイルという男が話に入ってきた。


「ああ、それの事か。まぁ本当のこと言うと、俺達は調査目的でガシュワンの森に派遣されたんだよ。それもお忍びでな。最近、この森で行方不明になる者が後を絶たないって話があったんでな」

「お忍びでって事は……人攫いかなにかを想定してたって事ですか?」


 5人は頷く。


「ええ、そのとおりです。最近、我が国も少々、物騒になってきたモノですから……」と、ローシュという男が言った。

「ふぅん……物騒ねぇ」

「よからぬ事をする輩も増えているんですよ。特に、ここ最近は、ファルメキアとの間で不穏な空気もあるので」と、アムリ。

「それはそうと、アンタは一体何者なんだ。女神像の前で倒れてたから、旅人かと思ったが、そうでもないみたいだし。それに、ガルヴェリオンを倒すほどの剣の使い手だ。なんだか違和感ありすぎて、それが気になるんだが……」


 そう言って、ベイルという男は首を傾げた。

 まぁこう思うのも無理ないだろう。

 俺はとりあえず、自殺の部分は伏せ、正直に話すことにした。


「ああ、それなんですがね、実は俺もわけがわからないんですよ。最近、不幸続きだったんで、街で出会った占い師に運勢を占ってもらったんです。そしたら、開運の為に、とある山に登れって言われたので、その山に登ったんですよ。で、その途中で気を失って、そのあと気付いたら貴方達と出会ったんですから」

「占い師に言われた通りにしたら、そうなったというわけですか……それは妙ですね」と、アムリ。

「ええ。それにこう言ってはなんですが……今仰られたロートリア王国という名の国、俺は聞いた事もないです。だから、正直言って、俺はちょっと混乱してるんですよ」


【ロートリア王国を知らない?】


 5人は少し首を傾げながら、互いの顔を見合わせた。

 まぁ彼等からすると、俺はかなりおかしなことを言っている。こういう反応になるのも無理はないだろう。


「ところで、クロウはこれからどうするの?」と、リーサが訊いてくる。

「これからか……どうするかな。とりあえず、この国の事は俺もよくわからないので、貴方がたに同行させてもらっても良いですかね?」


 リーサは他の4人を見た。


「俺は構わないぞ」

「私もだ。それに、彼は命の恩人だ。お礼もしないといけないからな」

「私も構いませんよ」

「私も皆と同意見です」


 リーサは俺に視線を向け、ニコリとほほ笑んだ。


「じゃあ、一緒に行くという事で決まりね。よろしくね、クロウ」


 そう言って、リーサは俺に手を差し伸べた。

 俺はその手を握る。


「ええ、よろしくお願いします」


 と、まぁそんなわけで、俺は彼等と共に、行動する事となったのである。


(さて……この先、何が起こるのやら。でもまぁ、辛い日本にいるより、なんぼかマシかもしれん。それに……色々と好奇心も湧いてきたしね。すこし生きてみるか……あの占い師が言ってた新たな道とやらを……)


 そんな事を考える俺なのであった。

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