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第1話:みやこ

 あの試合から一夜明けて早朝午前5時。今日も命を繋ぐために鉛のように重い(マブタ)をこじあけて起床。とんでもない夢を見た気がするな、とアクビをすればどこぞで聞こえた

「くぁ〜」

と可愛い声。憧れるね〜、朝起きたら隣でこんな声出すような子がスヤスヤ寝息立ててる生活とかさ。

「ねぇ」

鏡に向かっていつものイケメンな俺にそう問いかけたらまぁ何と可愛らしい子。肩にかかるブラウンの髪、眠そうに閉じかけているクッキリ二重の瞼、そこから覗く(ウルシ)のように艶のある瞳、上向きの小鼻に口角のややあがった笑顔良しな口元。もう

「完璧じゃないか」

朝一から良いもの見れたしさっさと学園に行くか。ベッドからモソモソと降りてハンガーのブレザーを手に取る。今度”朝練”遅れたらアポロに次ぐ月面探索機が俺の首になるらしいからな。そんなことをしたら町工場のおっちゃん達の夢を奪ってしまう。

「日本のためにもサボれんぞキョウタロウ君」

やたらトーンのあがってる声を出してようやく脳内覚醒及び事態把握。鏡に映る美少女をビシっと指差して

「まるっとお見通しだ!」

決まった! ……じゃなくて

「ななななななんじゃこりゃー!?」

絶叫。

「キョウタロウ落ち着いて! ベッドの下にあった2冊は机の下に移動しただけよ! 袋とじも開けてないわ!」

別の衝撃的事実を弁解しながらお袋が俺の部屋に飛び込んできた! そして美少女と化した俺を見て時が止まった! で、泣き崩れた。

「うううマリサちゃんに綺麗なままプレゼントするって約束したのにこんな可愛い子コッソリ連れ込んでたなんて! 大人になっちゃってキョウタロウうううでもお母さんちょっと嬉しい!」

「最後の一文のせいで突っ込みどころに困るよお袋!」

次にノソっと部屋に入ってきたのはネジリハチマキを締めた人相最悪のおじさん、俺の親父だ。仕事は債権回収じゃなくて桜花学園で体育を担当。しかし現在はヒロシの親父と同じく教師交換で武装高校に勤務している。腕組みしながら頷いて

「お前の母さんの若い頃にそっくりやぞ、キョウタロウ」

「状況理解の速度がぶっ飛んでるね親父。少しは驚け」

腕組みしてみて柔らかな感触にビックリ。結構胸あるぞ俺。

「あ、なんだセフレだと思ったらキョウタロウだったのね。もうお母さん”キョウタロウが大人の階段登っちゃったんだ”って心配したじゃない」

「リカバリー早いなお袋、あと発想が鬼畜」

”でもって今の事態に安心できる要素が全くないんだが”サイズが全く合わなくなって脱げ落ちそうになってるトランクスとパンツを持ち上げたまま語る俺。

「大丈夫よ可愛い下着はたくさんあるから」

「そんな斜め上のことは気にかけてないよママン」

”わーママですって!”とか俺の新生萌えボイスに頬に手当ててテンションあげてるマイマザー。早朝からいつもこの人は元気だ。

「おう、制服もな、ワシがお前の母さんのセーラー服残してたから完璧じゃ」

「息子の性別は誤差の範囲なのですねパパ」

「っやっだーもー! アナタったらキョウタロウの前でそんな」

”うふふふ”と親父の肩を叩いてるお袋。ここって二人がショックのあまりに倒れて、”わ〜俺は女だし親は召されてるしどうしよう!”って救急車呼ぼうと受話器とってパニックのあまりに177押して本日の降水確率聞いてるってのがお約束の展開だよな? 何でこんなにもいつも通りなんだよ君達。目の前でまだ夫婦漫才やってる二人を見つつ”神の悪戯(イタズラ)よりもっとショックなものを見た気がするな”と溜息を吐いた。

 俺はお袋の寝室に案内され、オススメされるままにやたら可愛い水色の下着着用。

「やっぱりついてないわね」

「そういうこと言わない」

そして学園とは違う赤のスカーフに紺色のプリーツスカートという取り合わせの白ベースのセーラー服装備。

「目覚めそう?」

「そういうことも言わない」

ブラシで髪を解かされて

「ほ〜ら見てごらんキョウタロウ」

姿見の鏡の前に送り出されて立てばそこにはマリサと美月ちゃんに比肩する美少女が!

「萌え〜!」

思わずガッツポーズ! そしてウィンク。もう男やめてもいいかもしれないな。わーん!

 食卓。親父と

「おう、それからお前の母さんに256回目の告白でOKもろたんじゃ」

「告白回数が1バイトとかストーカーの勢いだろ。良く通報されなかったな」

と昔話をしながら朝飯を食ってる一方で、お袋は学園に電話を入れていた。

 「ごちそうさま!」

親父と一緒に両手を合わせて朝の恵みに感謝。席を立つとお袋が俺に制定カバンを渡しながら

「学園には従妹の(ミヤコ)ちゃんが来たってことにしといたからね。キョウタロウはその入れ替えでミヤコちゃんの学校に通うから当面の間学園はお休みってことで。校長先生にはそう伝えたわ」

俺はスースーするスカートの裾を気にしながらもお袋の出してくれた靴を履いてトントン。しかし

「それで良く校長が信じてくれたよな」

「2秒でバレたわ」

「バラそうとしても世界新とれるタイムだね」

「大丈夫よ。それで本当のこと話したら”ミヤコちゃん”ってことで話を合わせてくれるって」

この奇跡って信じてくれるもんなんだな、痛電(イタデン)よりひどい内容だぞ、朝起きたら息子が美少女化してたとかさ。腕を組んで

「拒否られても困るが即OKってのもどんな校長だよ」

「どんなって、美月ちゃんのお母さんじゃない」

またえらく衝撃的な事実が発覚したな。てっきり担任かと思ってたんだけどあのメガネ美人ママ、校長とはね。武装高校から教師交換でやって来ていつのまにそんな地位に上り詰めたんだ? ともかく”いってきます”とガチャっと玄関扉を開ければ

「おはようキョウ、今日も目のクマが……」

ふ〜むどうしようかなこの玄関に突如誕生したツインテールのルネッサンス彫刻。庭に置くには派手すぎるし家においてもかさばるし、やはりこういったハイソなオブジェは隣にあるコイツの豪邸にこそ似合ってるんだよな。あの電動式の門の上にでも飾っておこうか。いやいやそしたら八雲様ファンクラブの巡礼地になりかねないからやはり屋敷内へ……。

「あ、マリサちゃんおはよう」

「おはようございますわお母様」

お袋がニョキっと首を出してマリリンの石化解除。そして俺が”従妹のミヤコちゃん”であることをニコニコと告げ、

「それじゃぁこの子宜しくね」

と最後は笑顔で俺の背中を押してマリサの隣に並ばせた。強いな〜お袋。

 「でも本当に突然ですわね」

”ハァ”とまた溜息のマリサ。お袋が家に入ってからこうして校門を潜るまで溜息の連発だ。猫かぶったまま落ち込むとか器用だな〜とか思いつつ、そのトボトボとした歩調に合わせて相槌を打っている俺。

「今日はキョウタロウさんと夕食を御一緒する約束してましたのに」

独り言かと聞き間違うくらい小さく元気のない声で漏らした。そういえばミユキ先輩、マリサを昨日のチームに召喚するために何か約束取り付けてたな。人身売買紛いの怪しげな単語の連発に思わずモナリザってだけど、あれって普通のデートだったのね。

「ほら、キョウタロウさんのためにこうして準備までして来ましたの」

と制定カバンの中を探り始めた。料理上手のマリサのことだ。俺のために何か作ってくれたのかも知れない。毎日用意してくれるコイツの弁当は絶品なんだけどさ、あれだけ手の込んだ料理を朝から作って、その上で俺と登校時間合わせるためだけに朝練に参加してるマリサ。いったい何のスイッチ入れたらそんなの両立できるんだよ。それも毎日何が嬉しいのか朝もニコニコ、帰りもニコニコ。愚痴も文句もひとつ(コボ)さずにさ、すごいよなおまえ。

”早めに元に戻る方法見つけてやるから、そんな悲しそうな顔しないでくれ”

その華奢な肩に無言で声をかけた。そんな俺に鎖の付いた首輪を”ジャラ”っと取り出して見せるマリリン。


俺はキュートな笑顔で2度と元に戻るかと誓った。


 まぁマリリンのことは一旦置いておいて、早めに”ミヤコちゃん”の属性決めておこうか。どうしようかな、ヤンデレとかポーカーフェイスのロリでもやってみるか? いや下手にキャラ作ったら元に戻ったときにそれが出ちまったらキョウタロウ君のイメージを盛大にクラッシュするからやめておこう。今でさえ訳分からんイメージが定着してるんだからな、って元に戻るのかな俺?

「それじゃぁ私は陸上の練習がありますのでこれで」

「あ、はい八雲さん頑張って下さいね」

おしとやかに体育館へ歩いていくマリサの背中にトビキリの笑顔で手を振った。さ〜て俺も遅れちゃいけないぞ。

 重たい鉄の扉を開けて柔道場にイン。いつもよりやや早く着いたようで、セーラー服のミユキ先輩は胴着をコンパクトに折り(タタ)んでギュっと帯でもって括ったものを肩に下げ、これから更衣室に入ろうとしていた。俺はそのスラっとした背中に向けて今日も元気良く

「おはようございます!」

腰をキチンと引いておじぎ。その声に気付いて振り返るお姉様。

「珍しいな、入部希望者か?」

「やだな先輩何を仰いますやら僅か1名の部員をお忘れ……って」

やっちゃったー。

「すいません間違えました失礼しま」

キチンとお辞儀して退室しようとする俺を強制お姫様だっこして回収していくお姉様。

「いいぞいいぞ! 新入部員は大歓迎だしかも女子生徒とは嬉しいぞ! 胴着はたくさん余ってるから遠慮しないでくれはっはっはっは」


後宮キョウタロウ改め後宮ミヤコ。神の与えし脱・柔道部の機会を逃す。


 朝練を無事に乗り切った俺は今、まだ誰も来ていない暗い教室で朝焼けを眺めている。練習メニューはミヤコちゃんに合わせてだいぶ軽めになっていた。ハイライトだけ申し上げておこうか。

 簡単な自己紹介を終えた”ミヤコちゃん”とミユキ先輩。既に勝手知ったる柔道場ということでいつものノリでマイ胴着に着替えようと更衣室に向かうと

「お〜いミヤコ。そっちは男子更衣室だ」

振り返ればお姉様、クイクイと指を曲げて女子更衣室への危険なお誘い。ハァハァいやいやダメだキョウタロウ君そんなのアンフェアーだ。こういうのはミヤコちゃんじゃなくてキョウタロウ君の時に”後宮、おまえに見てほしいものがあるんだ”と頬を染めつつ伏し目がちに招かれてこそ真価を発揮するというもの。いくらお姉様の着替えシーンが見たいからといって男ならぬ(オトコ)としてのプライドまで捨てるとはいかがなものか?

「手取り足取り着方を教えてやるぞ」

ニッコリ微笑むユキ先輩。

「すぐに参りますわ」

プライド? 何それ美味しいの?

 甘ったるい香りがするお姉様専用の更衣室は畳の敷かれた和風造り。隅にそれとなく設置された刀置きが自然なようで異様。もちろん上に乗っかってるのは朱塗りの鞘。そんな中でミユキ先輩、俺の目を憚ることなくセーラーのサイドファスナーをスーっと下げ、スルリと上を脱いだらなんと! 胸は”黒色のセクシーなブラかな?”という大多数(?)の予想を裏切って”サラシ”をビシっと巻いておられたのです!

「え、えっと、あのどちら様ですかのう?」

現実に帰れば教室でガッツポーズ取ってる不法侵入美少女を見て入り口で困惑してる美少女少年ヨードーちゃん。ひとまず”コホン”と咳払い。さてどうしようか? 彼に打ち明けるべきか否か? 安易なカミングアウトは禁物だが彼は何と言っても演劇部のホープ、観察眼は半端じゃない。俺の下手な演技なぞは一発で見抜いてしまうだろう。おまけに中途半端に隠していて万が一致命的(クリティカル)な場面で俺がキョウタロウであるとバレたらそれこそ人生終了のお知らせだ。これまでにちょくちょくマリサという名のA(アンチ)K(キョウタロウ)Mミサイルの発射装置になってきたヨードーちゃん。その辺りのことを考えたらバラすにしろ騙すにしろ、彼がどのレベルで俺がキョウタロウであると気付くのか事前にチェックしたいところだ。まずは敢えてバレそうなセリフでものたまってみようか? そこまで考えて”うん”と一人頷いた。次のリアクションに困ってオロオロしてる可愛いヨードーちゃんの目を見て、いつも通りクールに前髪をかき上げて

「ひどいなヨードーちゃん。昨日の試合の名一塁手の存在を忘れるなんて」

キョウタロウ節全開で言ってみた。 ヨードーちゃんは”ん?” と一瞬首を傾げたもののすぐ”ああ”とニッコリして

「キョウのことじゃな。すると昨日の試合に応援に来てくれてたのか?」

声と見た目が萌え化し過ぎてキョウタロウ君とリンクしなさそうです。黙っておくとしよう。

「やだ私ったら馴れ馴れしい口を聞いてしまってごめんなさいふふ」

口元に手を当ててクスリ。

「もしかしてキョウなのか!?」

「そこで気付くのはさすが演劇部だよね!?」

 何となく立ち直れない気がしつつ俺は事情をかくかくしかじか説明。

「で、こうなったわけだ。どうだキュートだろ」

腕を組み足を組んで椅子に踏ん反り返ってる美少女を、その前の席で後ろ向きにチョコンと椅子の上に正座し、セクシーな切れ長の目でマジマジ観察しているヨードーちゃん。

「う、うーむ。これは確かに……かわいい」

言って頬を染めた。彼が赤面するなんて珍しいな。ま、そういう今のヨードーちゃんもかなり可愛いんだけどね。しかしさっきから妙な気分だな。今日の朝練の時もそうなのだがミユキ先輩と会った時、こう、いつもみたいに”ユキたん萌え萌え”っていう気持ちじゃなくて”ステキですお姉様”って感じだったんだよな。女の子としては見てるんだけど抱いた感情は”こうなりたいな”っていう”憧れ”に近い感じ。これって女の子視点に近くないか? あまり気持ちをあーだこーだと深く考える主義はないのだが、体がこうなってしまった分だけつまらない事が気になってしまうな。”ふ〜む”と人差し指で頬を掻く。スベスベでプニプニ。正座したままキョロキョロ首を動かして興味深そうに俺を見てるヨードーちゃんをチラっと見て

「どのくらい可愛くなった?」

俺の流し目に

「そうじゃなぁ……」

問われて美少女少年、しばらく小さなアゴを擦っていたがその額に突然ドヨンと青線が降りてきた。

「か、加納先輩だとネピア3箱じゃろうか」

おお、生きた心地しないねその例え。もしもの時は助けてねマジ。目の前でカタカタ震えながら

「バイトの春フェアで甘ロリ着てパフェ運んでるの見つけられた時なんかその日から一週間暴走モードに突入して”シンクロ率400%よ!”とか先輩はエヴァ初号機かと小一時間問い詰めたくなって」

ブツブツ呟いてるヨードーちゃんの頭をつんつん。

「あ〜マジ眠いし疲れるわったく」

という声と共にガラガラと扉が開いたらヒロシ登場。今日はマジメに朝練行ってたのか。さっそく目があった。で、固まってる。こいつにも打ち明けるべきだろうか? ヒロシは機転が利かないし空気もあまり読めない、が、バカ正直だし約束は絶対守るヤツだ。何より家族の次に一番時間を過ごしてきた相手だからな。こういうときこそ相談相手として頼りになるかもしれない。腕組みしたまま”じー”っと顔の火照ってるクマを見て値踏み。ヨードーちゃんは俺かヒロシの第一声を待ってるようで今の沈黙を破るつもりは無いらしい。二人を交互に見てるだけだ。やがてシロクマは”ふー”と溜息を吐いて

「キョウ」

信じられないことを言いやがった! いくら奇跡的な腐れ縁でも一言も交わさずいきなり正体を見抜くヤツがあるか!?

「結婚しよう」

へ!?!?

「紅枝君、いきなりプロポーズするのもあれだけど名前間違えるとか論外よ。それミヤコって読むの。ミヤコちゃん」

後から入ってきたツインテールにヤレヤレと溜息を吐かれてるヒロシ。やっぱりこいつはただのバカだった。 

常日頃無一文です^^


大筋が決まりました。

前回はラブコメといってもかなりコメディよりで、しかもドタバタしてたので

今回は落ちつけて恋愛方面にシフトするつもりです。キスシーンとかも入れます。

それでは引き続き、本拙作をお楽しみ下さいませ<(_ _)>

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