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第6話:信じること

 次の打席でヒロシが鋭い当たりを放ったものの三塁手(サード)真正面でアウト。スリーアウトチェンジ。

「任せたぞサブマリン」

俺はパシっとシキとハイタッチして一塁(ファースト)へ。

 その後はシキの予言どおりタイミングやバットの芯を外れたゴロをヨードーちゃんが華麗に、ヒロシが豪快に、赤木先輩が爽やかに捌いてポンポンポンとあっという間のスリーアウトチェンジ。モヒカン軍団が積極的に打ってきた事もあって球数は僅か7球。桜花学園まさかの隠し球登場でスタジアムのボルテージは最高潮。武装高校の士気を粉々に打ち砕いた。

「う、ウソだろあの”七色のシキ”が桜花にいるのかよ」

「もう野球は引退したんじゃなかったのかよ……」

早くもお葬式ムードな武装高校のナインは肩を落としながら守備について行った。ていうか”七色のシキ”ってシキ君あなた何者? 

 再び俺達の攻撃のターンになれば皆さんお待ちかね、キョウタロウ君の打席だ。

「キョウ君頑張って!」

ポニーテールの女神様の声援に笑顔で応え、

「一発かましてやんなさい」

ウィンクしてるツインテールの美少女に親指を立て、

「私のためにも頑張ってお兄ちゃん」

妹化して微笑むヨードーちゃんに騙されそうになり、

「仮にも私の後輩だ。失態は許さないからな」

お姉様に脅迫され

「後で私とピロシキを食べようね」

キラリと爽やかな赤木先輩のお誘いをお断りし、

「お手並み拝見と行こうかキョウ」

差し出されたベアナックルのように大きなヒロシの拳に

「エレガントに決めてくるぞ」

ゴツンと拳を合せ、野球少年の頭を撫で、最後にまだ倒れているアヤ先輩に一応手を振ってベンチを出た。

「2回の表、桜花学園の攻撃、6番、ファースト、後宮」

蒼天のような青いバットを素振りしながら出てくれば観客席でザワめきが。

「おい、見てみろあれが後宮だぞ」

「え、マジであいつが?」

ふふふいつの間にやら俺も有名になったものだ。まぁ第1部であれほど大立ち回りしたのだから当然と言えば当然だな。さぁ君達この俺を褒め称えるといいぞ。

「あ〜あいつか!」

そう、俺こそが噂のキョウタロウ君だよその眼にとくと焼け付けるが良いわ。

「柔道部に入ったバカは」

僕を見ないで!

「しかも知ってるか? あいつ駅前で美月さん押し倒したらしいぜ」

「み、美月ちゃんを!? マジかアイツ殺す!」

「いやいや紅枝先生から聞いた話だと放課後の食堂で八雲さんも押し倒したらしいぜ!」

「「「や、や、や八雲様を〜!?!?」」」

「マジで? 俺っちは後宮は山之内君と付き合ってるって聞いたんだけど」

「うわもう可愛かったら何でも良いんだなアイツ! でもちょっとうらやましいかも」

「それどころかあの園田先輩に”結婚しよう”って言い寄ったらしいぜ! 2秒で拒否られたらしいけど」

やだな、泣いてないよ?

「む、むしろそこまで行けば尊敬しちまわないか!?」

「いやいや他にもこんな伝説があるんだぜ! 柔道場であの八雲ラッセル先生の構えるミットに向かって”たけのこの山!”とか奇声あげながら殴ってたりな!」

「なんかすげー気がしてきた! 俺もう応援するぜ!」

「お、おう俺もだ! キチガイと天才は紙一重っていうしな!」

「何だか可哀そうな子に見えてきたから俺も〜」

「「「「「後宮頑張れー」」」」」

ほっとけや!!

 歓声の中右打席に入って構え。かつて日本を二度も世界一に導いた天才打者の如くバットを垂直に立ててモヒカン投手(ピッチャー)を見据える。相手は右投げのオーバースロー。持ち球は縦のスライダーとカーブのようだ。雑念を消して精神を統一。狙うはコントロールの甘いカーブのみ。しかしこの観衆、

”スパン!” 

降り注ぐライト

”スパン!” 

まさに気分は

”スパン!” 

「ストラーイク! バッターアウト!」

ハズレ外国人助っ人の気分さ、ぜんぶ直球(マッスグ)かよ。。。項垂れてベンチに帰って

「何やってるのよキョウ」

「一球くらい粘れよキョウタロウ君」

「お兄ちゃんマジメにやって」

「後で刀の(サビ)だな」

「キョウ君まだまだこれからよ」

一人にして欲しかった。

 そのまま試合は着々と進んで行った。アヤ先輩の予想外の長打力、シキの渋いヒット、キョウタロウ君の華麗な送りバントなどで下位打線が脇を固めれば、後は核弾頭マリサの消える魔球ならぬ消える打球、巧打者ヨードーちゃんの左右に打ち分けるバッティング、一発長打の赤木先輩、そして対艦巨砲主義万歳”ファミコンでやれや”のミユキ先輩、内野手をジリジリ後退させる強襲型のヒロシという上位打線が確実に点をもぎ取っていった。投げてはシキの変幻自在のピッチング。マリサの配球バランスのよさもあって狙い球を決めあぐねたままモヒカン軍団はダラダラとゴロを量産し、ヒロシ、ヨードーちゃん、赤木先輩、時にはシキ自身を経由して一塁手(ファースト)である俺のミットにポンポンポンと飲み込まれた。ところで最も期待薄だった美月ちゃんだが、彼女は1打席から武装高校含めた観客全員を味方に取り込み、ストライクを投げ込もうものならモヒカン投手(ピッチャー)雨霰(アメアラレ)のごとく凶器が飛来し、際どい球をストライクと判定しようものなら主審にやはり雨霰のごとく凶器が飛来し、結局この女神様はろくにスウィングすることもなく四球(フォアボール)によってオズオズと一塁(ファースト)に向かうのだった。

 現在6回終わって10対0。桜花学園、武装高校の両校が取り決めたルールにより7回時点で10点差以上開けばコールド勝ち。つまりこの7イニング目をシキが抑えればめでたく試合終了だ。中盤からやや慎重になり過ぎたことと、モヒカン軍団の目が決め球に慣れてきたせいで現在球数は82球。マウンドに立ってやや肩で息をしている彼のことを考えればこの回で決めたいところだ。現在はノーアウトでカウントはツースリー、ランナーはなし。マリサの要求はボールゾーンへ抜けるシンカーだ。シキが頷いて振りかぶり、序盤から変わらぬ美しいフォームでムチのようにしなった腕からボールがリリース! モヒカンはそれを見送って

「ボール! フォアボール!」

初めてのランナーにサヨナラ勝ちを収めたように

「見たかコラー!!」

盛り上がる1塁側モヒカンベンチ。マリサは”今のでOKよ。自信持って”と頷いてから返球。一塁(ファースト)を守っている俺の元に歩いて来たモヒカンへ、パフパフーとラッパを鳴らしてエールを送っているモヒカン軍団。災いの芽は早めに摘むに限るな。俺はマリサにウィンクして”第3次アシカ作戦”を発動。直後火薬が爆ぜるような音が鳴った。ベースから1歩リードーしているモヒカンの肩に衝撃でしびれるグラブを

「ジェバンニが一晩でやってくれました」

謎の掛語を発しつつポンとタッチ。

「へ?」

すぐさま塁審がグっと握った拳を勢い良く振り下ろして

「アウトー!」

「「「「え〜!?!?!?」」」」

1塁ベンチから悲鳴があがった。御覧頂けただろうか? マリサからのノーモーション牽制球。スゴスゴと帰っていくモヒカンランナーを背に俺はジンジンと痛む左手を振りながらシキへボールをパス。これでワンナウト。

「こ、こうなったら捨て身で行くしかねーな」

という声が1塁側のベンチから聞こえて来たと思ったら、打席に立つモヒカン達がインコースの際どい球に反則スレスレラインまで足、手、モヒカンヘアーを出して行って

死球(デッドボール)!」

の声を三回引き出した。出るとこに出てきたようだな。これで1死満塁。マリサは1歩でもリードしているランナーがいないかフェイスガートの奥で青い瞳をチラ、チラと動かしているが、さっきの無反動砲牽制球により全員ピッタリとへばりついている。二塁走者(セカンドランナー)とかはベースに抱きついてる。それで走れんのかお前。しかしこれまで完璧な投球内容だったせいかやや悔しそうにキュっと唇を噛んでいるシキ。

「加納君! 私達がちゃんと守るから安心して!」

大きな声をあげたのは左翼手(レフト)美月ちゃん。

「ど真ん中に投げちまえ。後は俺達が何とかするから」

グラブをパンパンとどつきながらヒロシ。

「たまにはお姉ちゃんにも出番作らせなさい!」

右翼(ライト)でブンブン手を振ってるアヤ先輩。シキは少し落ち着いたようで首を左右に倒し、ホっと息を吐いた。俺はここで”第4次アシカ作戦”をマリサ、ミユキ先輩、赤木先輩に指示した。さて仕上げだ。マリサは予定通りの位置を要求。それは”ド真ん中にゆる〜い直球(ストレート)"。シキは思わず”え?”と口を小さく開けた。ありえないコースだよな。俗に失投と言われている球をシキは要求されているのだ。まして今の局面は満塁、どう考えても試合を棒に振るような采配だ。だけどね。

「お〜いシキ」

俺は彼に呼びかけ”大丈夫。任せろ”と人差し指を左右にクイクイと動かした。人を疑うという事を知らない済んだ目に”理屈で考えず、仲間を信じるといい”と言って見た。すると彼は野球理論は愚か、自分のプライド、経験とも一切天秤にかけることなくすぐさま俺の目を見て”うん”と力強く頷いた。ありがとなシキ。そしてセットポジション。躍動感のあるフォームとはあまりに不釣合いな、目を覆いたくなる程の甘すぎる球をリリースした。もはやキャッチボールの域である。極上の釣り(エサ)。これに食いつかない打者はバットを持つ資格がないと言わんばかりの。俺にはモヒカン打者の表情が狂喜に変わるのが見て取れた。

「もらった〜!!」

フルスウィングの後に響いた快音! 

「フェア!」

打球は果敢に飛び込んだヨードーちゃんのグラブの横を破って勢い良く転がっていく! 直後に悲鳴にも似た歓声がスタジアムに沸き起こった。けれどもシキは表情一つ変えず打球の行方を見守っている。

「よっしゃ帰れ帰れお前らー!」

1塁ベンチで爆発しているモヒカン軍団。次の塁を目指してしモヒカン走者(ランナー)達が一斉にスタートした! 飛んだコースは左翼(レフト)中堅(センター)を真っ二つ! 三塁走者(サードランナー)は悠々の本塁(ホーム)生還! これでシキの完封コールド勝ちは消え、武装高校は何とか次のイニング以降に望みを繋ぐこととなった。すまないシキやはり失策だった、どうか気持ちを切り替えて頑張って欲しい。


ってなるよな普通。


申し訳ないなモヒカン諸君、束の間の天国で。でも誰が外野を守っているのか忘れてもらっては困る。長く艶やかな髪を風に靡かせ、(ハヤブサ)の如く猛スピードで打球に迫るは武神の影、グラブなど自分には必要ないと知って素手でボールを(ワシ)掴み、その美しい栗色の瞳を本塁(ホーム)でグラブを構えている青の瞳に向け

”八雲、受けて見ろ”

音速の壁を越える腕の振りは空間を歪め、大気摩擦によって炎を(マト)った手からは鉄壁をも貫く徹鋼弾が放たれた! 爆風を伴って突っ込んでくる悪魔と化した球をマリサは受け止める! ということはせず、グラブに収めるや否やホームベースを蹴って宙に舞い、フィギュアスケーターがアクセルジャンプを決めるようにクルっと体を捻ってボールの衝撃を円運動に変えた! そしてツインテールで美しい軌跡を描きながら

「赤木先輩いきます!」

三塁手(サード)に向けてトス! 歯をキラリとさせている赤木先輩は腰をドンと落とし、どんな衝撃でも耐えうる空手の生んだ究極の防御! 三戦の構え! 三塁(サード)ベースをガッチリと踏んだまま勢い衰えぬ武神の徹鋼弾を受け止めた! でも耐え切れず笑顔のままレフトフェンスまでぶっ飛ばされた! この間僅か2秒未満! 状況を理解出来ていない観衆、ビール掛けの手を止めたベンチのモヒカン軍団、塁間で石化している走者(ランナー)達、並びに審判。結果を先に申し上げよう。”センターゴロ”からのコースプレーによるゲッツーである。三死(スリーアウト)だ。マリサが主審の目を、ヒロシが三塁審の目を見て

「アウト!」

の声を二度引き出した。よって……

「ゲ、ゲームセット!」

我に返った主審が試合終了を告げると大歓声がスタジアムに巻き起こった。バックスクリーンに次々と打ち上げられる七色の花火、揺れる八雲様ファンクラブの横断幕と奏でられた”八雲様勝利”のファンファーレ、1塁ベンチで幽体離脱しているモヒカンナインなどをバックにシキを胴上げした。

 まだ歓声が鳴り止まない中、ミユキ先輩はマリサの真っ赤になった手を両手で優しく包み込み

「やるじゃないか八雲。さっきのは私もかなり気合入れて投げたんだぞ」

言われてツインテールは頬を染めて

「そんな(ワタクシ)はただ受け流したに過ぎませんわ。園田先輩の球を受けたのは赤……あ」

文字通り俺達が発した言葉は”あ”である。レフトフェンスを突き破って上半身を突っ込んでいる赤木先輩の元に慌てて駆け寄り、ヒロシと俺で引っ張り出した。

 「ほら受け取るといいぞ少年」

「ありがとうございます!!」

ロッカールーム、体を”く”の字のように折り曲げて俺からグランドの権利書を表彰状のように受け取る野球少年。

「何でほとんど活躍してないキョウがえらそうなんだ?」

野球少年の頭をゾリゾリ撫でてる俺を見ながらヒロシが腕組み。

「いやまぁ、作戦立てたの俺だし一応ナレーションだし良いじゃないか?」

「あまり異次元的な発言をするものじゃありませんわよ」

妖怪猫被りツインテールは俺の耳たぶをプニっと引っ張りながらそう言って、シャワー室のほうに向かって行った。俺達も一汗かこうかな。

「さ〜ヨードーちゃんお着替えの時間よこれはお姉ちゃんの命令だからもちろん拒否権とかないからねうふふふ」

「ちょ、ちょっと加納先輩待ってください! ワ、ワシはだから女の子じゃないですって!」

「姉さん無茶苦茶だよ! 最近特に暴走しすぎてティッシュの消費量が家計を圧迫……」

ヨードーちゃんを片手でズリズリと引っ張っていく腕にしがみついているシキごと運搬してるアヤ先輩。そういえば打席で

”姉の愛は岩をも砕く!”

とか一喝しながらライトへ弾丸ライナーを叩き込んだ時もあんな風に瞳がハート型だったよな。あの顔芸ってどうやったらマスター出来るんだろうか。柔道場でユキたんを笑い死にさせたい時とか使いたいんだけどなぁ、と首を傾げながら扉オープン。

「「あ」」

ふ〜むしかしマリサも美月ちゃんも素晴らしいボディだな。下着はマリサが白で美月ちゃんがピンクだどっちもなかなか発育が宜しいようで。しかし驚いたよ最近成長があまりに著しいからパット入れてるのかと思ってたらマリリンそれ本物だったのねゴメンね。今日からもう貧乳って呼ばないよ。しかしどうしようかなこのお約束の事態。俺の眼前には天上世界が広がっているんだけど1秒先の未来は無間地獄なんだよね。これ普通に撲殺フラグじゃないかな? ブラのホック外そうとしてるマリサとパンティに手をかけてる美月ちゃんの石化呪縛が解けたら名作”さよならキョウタロウ”の上映会が始まるよ。良しここで褒めてみようか。

「100点!」

反応がない屍のようだ。(オモムキ)を変えてみようかな。

「キャー!」

「って何でキョウが叫んでるのよ! それ俺と美月のセリフでしょ!」

「はっはっはゴメンゴメン。たぶんこの後キョウタロウ君は叫ぶ暇も与えられないままあの世に直行すると思うから、先に断末魔っておこうと思ってね」

「わ〜さすがキョウ君冴えてるね」

「わ〜そこ否定してくれないんだね、美月ちゃん」

「当たり前じゃない。でも選択肢くらいあげるわよ」

「優しいなマリリンそれじゃライフカードの提示よろしく」


1:殴り殺す 2:蹴り殺す 3:ブチ殺す


「3枚チェンジで」

「ごめんねキョウ君これポーカーじゃないの」

「そういうことでキョウ。覚悟はいい?」

「辞世の句詠みたいな僕」

「ダ〜メ」

こうしてキョウタロウ君は帰らぬ人となった……の一歩手前まで行ってきたよ。人生でツーアウトまで経験したのは今回が初めてだね。野球最高! これから本編が始まるよ!


オープニング:「桜舞うここは桜花学園」:完

プロローグに続く

ここまでキャラ紹介がメインだったので

第2部からの読者様には覚えづらく

第1部からの読者様は食傷気味になられたのではないでしょうか;

とにもかくにもこれより始ります新生桜花学園を

よろしくお願いします<(_ _)>


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