ルート2の5:本当のヒロインって?
「これがうちの姉貴や」
学園の最寄り駅へ向かう電車の中、隣に立っている桃ちゃんが黄色の携帯をオープンして差し出して来た。液晶にはメガネをかけた幼女がニッコリ。セーラー着てなきゃ小学生と間違うレベルです。体の前には大きめのスケッチブックを両手で持っていてそこには丸字で
”知ってるがお前の態度が気に入らない”
「どの角度から見てもあの麗人っていうか、美樹さんに見えないよね」
突っ込んだ俺。それに桃ちゃん”ほな、いくで?”と念を押してから携帯を操作して次の写真へ。
「これもうちの姉貴や」
そこにはあのクールな麗人が写っている、んだけどね……。
「ふ、普通これは家族内だけでお蔵入りして他人には見せない絵だと思うよハァハァ」
だってサイズ合わなくなってるセーラーからおへそ見えてたり、体の艶かしいラインが見えるほどピッチリだったり丈が短くなってるスカートからも太ももがサービスしてるとかとそれはもうヘブン過ぎて一日中見ていても幸せに……ってちょっと待て。
「足元にあのキャンバスが落ちてるし、セーラーも同じじゃないか。どういうことだ?」
「ええとこに気付いたな前田」
「一文字も合ってないよ桃たん」
なんと桃ちゃんによると一枚目のメガネ幼女と二枚目のあの麗人は同一人物だそうだ。信じがたい話だがこの二枚の写真は”美樹ちゃん”が”美鬼さん”へ変わる前後をたまたま撮影したものらしい。俺の目を見ながら
「専門的な言い方したら、”誡め”があるときとあらへんときや」
貞光さんのメールで見た言葉がここでも出た。ともかくその”誡め”が機能したりしなかったりで、幼女になったり麗人になったりするらしい。そしてその”変身”に要する時間はほんの数秒だと言う。
「冗談だよね?」
と聞いても
「せやったらうちも楽なんやけどなぁ」
と否定を込めた溜息。桃ちゃんは自分の耳たぶを触りながら
「こういうのって、”二重体格”って言うんやろか?」
いや、ないと思うよそんなの。しかし実際こうして二枚の写真を突きつけられると何ともいえないな。特に二枚目ハァハァ。
「信じられないですわね。それで、この可愛らしい方が本来の美樹さんですの?」
「そうや。そっちがいつもの姉貴やな。見た目はちんまい(小さいの意味)けど、うちらと同い年や」
マリリンにフリッカージャブ食らって倒れて”大丈夫キョウ君?”とか美月ちゃんに言われてる俺をチラチラ気にしながら答える桃ちゃんゴフ。
電車が”カタンコトン”と規則的なリズムを刻んでいる間、桃ちゃんはさらに美樹ちゃんと自分自身について話してくれた。まず彼女のママの旧姓、つまり結婚前の名字は”吉備津”といい、祖先を辿っていくと”吉備津彦命”という人に行き着くらしい。吉備津彦命さんって誰ぞや? と言うと、岡山出身の方ならご存知だと思うが、昔話でお馴染み、あの有名な”桃太郎さん”のモデルとなった人だ。正確には今は神様だね。そこで聞いてもいないのに桃ちゃん
「せやかてうちはな、吉備団子が好きか、言うたらちゃうねんで?」
手で”パタパタ”と否定のジェスチャーしてからニッコリ
「みたらし団子の方が好きなんや。へっへー」
ともかく団子は好きなようです。なんか幸せそうだ。まぁそれは置いといて、肝心なあの麗人の強さ。それは
「武術なら美雪従姉、召喚術なら姉貴って感じやな」
腕組み。まさかミユキ先輩と名前並べるような存在がいるとは思わなかったよ。ユキたんそこで”ほー”とか怖い笑み浮かべないで、今は対抗意識燃やしてる場合じゃないよ。そして次に人格。幼女美樹ちゃんの方は
「基本的に優しいな。あと筆談が好きなのと、カバンの中にえらい数のアメと訳分からんモンが仰山入っとる」
ミステリーだ。そして麗人美鬼さんの方は
「ちょっと気損ねたらプッツン来る。しかも力強いわ、加減せえへんわ、ブっとんだ召喚力あるわで手がつけられへん」
ヒステリーだ。続けて桃ちゃんは溜息を吐きながら
「で、姉貴がこうなった理由はな、亡くなったオカン(母親のこと)がちょっと関係してんねん」
”え?”とそこで皆が桃ちゃんの方を見る。それに慌てて
「ああ、ちゃうねんちゃうんねん、ちゃうねんで。そんな暗い話やないねんけどな」
と桃ちゃんが語ってくれたのは彼女のママが、美樹ちゃんと桃ちゃんの双子を出産して間もなく亡くなったということだ。元々体が弱い上に双子出産でかなり負担がかかり、二人が無事に産まれたのを胸に抱いて確認すると、安堵の溜息を吐いて、そのまま眠るように息を引き取ったらしい。そうして父子家庭になった美樹ちゃんと桃ちゃんだけど、まぁ幼い子というのは純粋だからこそ残酷なもので、よく”母親”がいないことをネタにして周りの子にカラかわれたらしいのだ。良い意味で大雑把だった桃ちゃんにはさほどダメージはなかったらしいけど、繊細な性格だった美樹ちゃんには深刻なダメージがあったようだ。そしてそれに加えて、子煩悩かつ娘を不憫に思った貞光さんは、美樹ちゃんに”童子の血”が色濃く現れているのを分かっていながら”鬼殺し”を怠ったらしい。
「まぁ他にもいろいろあったけど、姉貴がああなったのはそれが一番の原因かなとウチは思ってる」
父子家庭のネタに限れば良く聞く話だけど、こうして当人に実体験として話されたのは初めてだ。陽気に話し終えた桃ちゃんはまたニコっとして
「まぁベタな話やろ? って……どうしたんミィミィ?」
呼ばれたのは席に座ってるミィちゃんだ。桃ちゃんに言われてキョトンと目を向けて
「私がどうかしましたか? ワッツアップ?」
いや妹は普段通りだけど……いや、違う。違った。皆もそれに気づいた。ミィちゃんが寒そうに抱いている自分の両肘、そこに手の爪が深く食い込んで……
「ごっつい、血い……出とるで?」
桃ちゃんに指摘されてミィちゃんはパっと自分の手を見て”あ”とこぼした。そしてその赤く染まっている指先に一瞬だけ表情を凍らせたが
「あ、やだ。私なんだこれ……」
”あはは”と苦しそうに笑い始める。
「ひどいです。なんだろこれ、本当に。あははは……」
と続ける。でもそれにつられないで皆がシンと見守っていると、急にその目からボロボロと涙がこぼれ始めた。そして自分自身それに驚いたように
「あれ、どうしたのかな私。訳分からないです」
と声を震わせて、それから目をセーラーの裾で拭いながら
「こんなケガして、いきなり泣いてそんな……」
そこで何かに押しつぶされたように急に俯いて”ううう”と嗚咽をあげ始めた。”ミィちゃんどうしたの”と手を伸ばそうとしたら、先にギュっと抱き寄せたのは隣に座ってる美月ちゃんだ。
「よしよし。いいこね。いいこ……」
お母さんのような包容力のある声でそう囁いて、ぎゅっとミィちゃんを抱きしめている。押し殺しても漏れてくるその声を胸に受け止めながら、ブラウンの髪を優しく撫で降ろしていく。
「もう我慢しなくていいからね。ミヤコちゃんにはお姉ちゃんがいるからね……」
”ポンポン”とあやすように背中を優しく叩く。その光景に少し呆然としているとツンツンと肩を叩いてきたのはマリサ。そして
”何となく気付いてたんだけど、やっぱりミヤコちゃん何か抱えてこんでるわ”
アイコンタクト。言われてみれば、俺も気になってる事はあった。ミィちゃん今まで少し異常なくらいに”お姉さん”や”お兄さん”を欲しがったり、甘えたりしてたし。それ以外にも寝るときはわざわざマリサのベッドで一緒に寝てたよな。手繋いで。あとやっぱり、今までの元気良さにも何となく無理してる感じがあった。肩を細かく震わせているミィちゃんを、その弱々しい背中を見つめる。忘れてたけど苗字が”後宮”に変わったのも最近だったよな。なんていうか家族とか、家庭とか、こういう言い方ちょっと恥ずかしいけど、”愛”に飢えてたんじゃないかなって思う。幸が薄かったんじゃないだろうか。いやもっと言えば何かのトラウマを持ってるのかもしれない。親子か兄弟か、家族全体かあるいは全部か、それは分らないけど、たぶんそういうのだろう。そして今まで抑え込んでたそれが、さっきの桃ちゃんの話が引き金になって出たのかもしれない。誰が責めているのでもないのに、ミィちゃんは”ごめんなさい、ごめんなさい”と小さな声を震わせている。肘からゆっくりと滴っている血が、少しづつ美月ちゃんのセーラを染めている。そしてそれを黙って見ているパパ。そのパパが、貞光さんとの別れ際、グランドでかけたあの言葉の意味が何となく分かった。貞光さんは俺達に”美鬼さんを倒す”という意味で
”対策を考えるなりして下さい”
と言ったはずだ。でもパパはそれにニッコリしてこう答えたのだ。
”美樹ちゃんを救ってやれる方法を、必ず見つけてくるからね”
学園の前に着くころにはミィちゃんは元気を取り戻していた。そんでもって桃ちゃんの呼び名が”桃姉”に変わって、美花ちゃんはミィちゃんを”ミヤコお姉ちゃん”と呼ぶことになった。姉妹どんどん増えていくね。あとユキたんが美月ちゃんに
「ミヤコは私のものだぞ? 美月にはやらないからな?」
とさっきミィちゃんを取れらたのが面白くなかったようで、実の妹相手にプンプンしつつ
「お、お姉様苦しいです」
とか呻いてるミィちゃんガシっと抱いている。それに美月ちゃんは口元に手を当てて”クスクス”としているばかりだああ可愛い。桃ちゃんなんかも
「うち、姉貴はおるけど妹は初めてやなぁ」
両手を頭の後ろで組んでニコニコ上機嫌だ。良かったね桃っち、それからミィちゃん……って、おいおいみんな気緩み過ぎだぞ? これからラストバトルが始まるかもしれないのにさ。特にママ。今日マリサ邸でマリリンから”リチャードジノリの手描絵皿”っていうすごそうなものをプレゼントされてから上機嫌で一人イタリアに行ってるママ。そこでマリリンに
「任せて! 京太郎君とは来年も再来年も同じクラスで隣の席で生徒会役員よ!」
とか黒いこと言ってるママ。あんたの娘達に少しは気合いれなさいな。溜息を吐いてる俺の前に、カチューシャスカーフを揺らしながらチョコチョコっと美花ちゃんが回り込んできて、その子猫ちゃんみたいな愛らしい目を向けながら
「京太郎お兄ちゃんは誰と一緒になるのですか?」
お兄ちゃん……ねぇ。ミィちゃんの妹になったからそう呼ぶのね。ていうか”一緒”てまた意味深なこと言うね。俺はクールなスマイルを作って
「異次元的な言い方をするならルート次第かな。ミィちゃん、マリリン、美月ちゃん、お姉様、場合によっては桃っちとかまさかの展開でヨードーちゃんとか美樹ちゃんとか美花ちゃんもあるかも知れないな。アヤ先輩はなさそうだけど」
それに”ほー”と人差し指を口元に当てて昼前のお空を見上げてる美花ちゃん。しばらくしてまた俺の方を見て
「今のルートだと誰になるのですか?」
異次元的な質問を返された。さぁ、そこまでは俺にも分らないな。でも誰かとはゴールインするんじゃないだろうか。ジャンルは恋愛だしねぇ、君? まぁそんな具合に、俺達は校門を潜ってあのグランドの方へと向かった。”切り札”を手にして。
坂道を上り始めると皆無言になった。貞光さんの安否については桃ちゃんやパパから”絶対に大丈夫”だとお墨付きはもらってる。次女と兄が二人ともそう言うのだから、きっとそうなのだろう。しかしそれはあくまで”無事”という意味であって、問題が解決するという意味ではない。問題の解決とは事件の解決。つまりそのためには”美鬼さん”を倒す、あるいは”美樹ちゃん”を救うしかない。そしてその”切り札”が、パパの懐の中に忍ばされているのだ。”天叢雲の剣”。斐伊川の源流に残された”たたら製鉄”の跡地から発掘された一振りの脇差。長い間風雨に晒されていたせいで、刃は鞘の中でバッキリと折れているうえに錆びてボロボロ。剣とは名ばかりで、人どころか草一本刈れそうもない赤く錆びた鉄の欠片だ。けれどもパパは
”私たちが戦う相手は美鬼ではなく、ましてや美樹ちゃんでもありません。対峙する相手は村人の命を多く飲み込み、そしてその後も七人の女性の命を奪った罪深く悲しい川の歴史です。歴史は歴史をもって断つしかありません。そこに刃物は必要ないのです”
と言ったのだ。そして最後に
”でもそれが叶わないなら、私と美雪で何とかしなくてはなりません”
と付け加えていた。恐らく”何とかしなくてはなりません”とは美樹ちゃんを救えなかった場合のことを指すのだろう。出来れば俺は、いや絶対にそうなって欲しくない。さらに
”次に弟と美樹ちゃんを見たときに、どうすべきか判断がつくことでしょう”
と最後に表情を強張らせたのだ。胸の高鳴り、胃の痛み、そういう不快感と緊張を堪えながらグランドに辿り着いた俺達。そこで目の当たりしたもの、それがあまりに想像を超えていて愕然とした。
ていうか石化した。
ありがちファンタジー路線でいくなら襲い掛かる凄まじい水圧を誇る八つの柱を華麗にかわしつつも
”美樹! お父さんが分からないのか!?”
とかコテコテのセリフで説得を試みるボロボロの貞光さんであるとか、あるいは感動と笑いのエンディングっぽくいくなら既に元に戻ってる美樹ちゃんと一緒に手を繋ぎながら俺達の方に歩いてきて
”やっぱり娘を信じていて良かったよ兄さん。傑作だろ?”
とニッコリと愛娘を抱きしめる晴れ晴れしい貞光さんであるとか、あるいはコメディ一色でいくならアメを与えつつ俺達を見るなり
”遅いじゃないか兄さん達。サクマドロップはサブプライムの影響で10%減量と知りつつも昼前登場とかどういう思考回路したらそういうクソみたいに呑気になれるんですか? あ〜危なかった。残り一個でしかもハッカだよ”
と美樹ちゃんあやしてる貞光さんとか、そのどれかっぽいのを想像してたんだけど実際は違った。もうかなり違った。その衝撃の映像が……
コレだぁ。→ ワンツースリー。
「は〜い後片付けはチャキチャキやれよ坊や達?」
朝礼台に立って”パンパン”と手を叩いてる貞光さん。そしてその命令に黙々と従ってるのはB級ホラー映画のゾンビみたいに生気がないモヒカン軍団。彼らは緩慢な動作ながらもグランドに散らばっているバイクのカケラやら何やらをグランドの中央、一箇所に集めてスクラップの山を築いていた。
「物を大事にしない連中は本当にいけすかないですね」
ブリブリ言いつつ朝礼台に腰掛けて足をブラブラさせながら、貞光さんの隣でアメをボンチ揚げみたいにバリバリ食ってるのはあの麗人。
「しかしこの歯ごたえ至妙です。やるじゃん父さん」
と目を閉じて”ゾクゾクー”っと肩を震わせてから、一袋まるまる平らげたのか
「お代わりです」
ズイと空袋差し出す美鬼さん。それにニィと笑って
「この食いしん坊め。今度はオレンジか? ストロベリーか? フフフフそれとも通好みのシソ味か?」
「あ〜うん。どうしようかな、メロンあります?」
「もちろんだよ美樹! さぁたんとお食べ」
とかガサガサとアメ袋を懐から取り出して手渡して
「シナリオ的には連日の暴行事件はこの坊や達の仕業、それからグランドを荒らしたのも坊やたちの仕業、そんで校舎に亀裂入れたり窓ガラスをサックリ切ったのも坊や達の仕業にしとこうかな」
最後、冤罪コメント吐露しつつ一人コクコク頷いてる不審サングラス。その隣で美鬼さん、袋をオープンしてキャンディを鷲掴みにして”まぐ”っと口に入れて、ドングリ食べてるリスみたいに頬っぺをパンパンにしながら
「まぁ事情説明するのも面倒くさいし、そうしよかなー。念のためにモヒカンが使った凶器とか捏造しときます」
”バリバリバリ”とキャンディを口の中でクラッシュしながら適当な金属スクラップに向けて手をかざし、そこから超小型の水柱カッターを生成して”ジジジジジ”と器用にカット。あっという間に出来上がったのはかつてアーサー王が使用した伝説の聖剣のように神々しい金属片。それに
「ん〜。もうちょいアホっぽい方がいいと思うよ。なんていうか即席っぽいやつ。ていうか猿でも出来そうなやつ」
サングラスが割とひどいコメント。美鬼さんは”ん〜それじゃぁ”とアメ袋の中を漁り
「ピコピコハンマーみたいなのにして”どう考えてもそれじゃ斬れんだろ脳味噌までモヒカンか”って事情聴取されそうな形とかにします?」
足をブラブラさせつつもキャンディを鷲掴みにしにて”バリバリバリ”
「いやそれは流石に無理過ぎて父さんの幻術でもバレちゃうよ。やっぱりそのエクスカリバーでいいよ」
”よいせ”と朝礼台から降りて即席の聖剣を拾って”ほー。一刀彫り”とか感心してるサングラス。
「じゃ〜その剣で校舎を頑張ってカットして、ガラスもカットしたっていう神シナリオでいきましょうか」
”いいねそれすっごく”とか同意しつつ
「でも頑張っても得るものがないあたり動機付けに困るね、セイ、ハ−」
と貞っちがそれを楽しそうに振り回している。”ふわ〜”と美鬼さんアクビ
「ま〜”やっぱりアホのすることは分らんな”とかに軟着陸してくれるでしょ警察さんも。武装高校だし」
そして袋のキャンディを”ザザザー”っと口に一気に流し込んで”バボリバボリボリボリ”。ズイと空袋を差し出すと、交換に貞光さんは赤い袋を差し出して
「今度は”弾けるキャンディ”行ってみようか? 父さんの自信作」
「「「「「「「自家製かよーー!!」」」」」」
そのあまりにシュールかつフザケ過ぎた光景に俺達は突っ込みつつも横一列に並んでオルセー美術館所蔵、クローデル作”壮年”の如く石化。名彫刻にありながらもなおもキレてるユキたんは右手を月下美人の柄にかけて
「あいつらは斬ってもいいと思う」
ワナワナワナ。でもね、”予想外”については既に特許が申請されておりました。もう本当にどうしようこの事態、ていうか”いつの間に?”としか言いようがないよミィちゃん。筆者がミヤコルートでカミングアウトしようとしたトラウマネタをフラグだけならいいかな? って感じでゲリラ的に入れられて落ち込んでるかと思ったらここでミヤコワールド展開ですか。美鬼さんも貞光さんも石化するしかないよねそりゃ。俺達だってさっきハイソなスタチューになってるかと思ったら一転してハニワだもの。いい加減何が起きてるのか言えって感じでしょ? 言いますとも。ミィちゃんの接近に気付いてスタっとグランドに降りて
「来ましたね? 私に向かって来るってことは相応の準備と覚悟は出来てるってことですよね?」
って感じで格好良く”ギリっ”と手袋を装着しなおしてる美鬼さんにね、俺の妹が、かつてお姉様にやったように右手で”ムンズ”と胸を掴んで石化させとるわけですよ。もういったいこの子は何を考えとるのだと。これいったいどういうジャンルにしたいんだろうね。で、赤面しつつも上目遣いのまま犯罪クラスの萌ボイスで石像に吐いたセリフがこれですよ。
「姉々(ネェネェ)って……呼んでも良いですか?」
語尾が疑問形。完璧。そして沈黙。静寂。グランドを吹き抜ける風。見守る石像達。やがて美鬼さんは”ハァ”と溜息吐いて、それからすぐにその赤く染まった瞳をミィちゃんに向け、口端をあげて笑みを浮かべ、あの巨大な水柱を放った手を向けて……ってやばい!
「ミヤコ伏せろ!」
武神が月下美人の鞘を払って神速の勢いで二人の元へ飛び込んだ!
「し、仕方ないですね本当にこの子は」
そっとミィちゃんを抱いた。行き場を失った武神はそのままマッハ7で校舎に突っ込んだ。地響き。美鬼ティはちょっと頬を紅潮させつつもミィちゃんを抱きよせて
「こ、これからはネェネェの言う通りにしなさい。そしたら、こうして可愛がってあげますから」
ブラウンの髪を優しく撫でている。そしてそれにしっかりと体を預けて”はいネェネェ”と甘えてる義妹。その光景に
「け、傑作だよ! 傑作にも程があるよ!」
と貞っちはお腹を抱えて大笑い……
「あはははは! うううう」
してるようで泣いてる。俺の隣でパパはセンスを”パタタタ”と広げて扇ぎながら
「いやいやいや、これは恐れいりました。すごいですねミヤコちゃん。無法、天に通ずと申しましょうか、ここまで見事な無血開城になるとは想像だにしてませんでした」
とマジで心服したように烏帽子を取って頭を掻いている。で、さらに隣のママとかマリリンとかはグランドのシュールな光景を肩を並べて見ながら
「ついでに美雪が空けたあの穴も、武装高校の方に責任とってもらおうかしらね」
と崩落している下足箱がある入口から何事もなかったのように出てきて髪をサラサラサラと流しているユキたんを指差す。それに
「そうですね。あの時の大型トラックが突っ込んだことにすれば問題ありませんわ」
と頷いているツインテール。
「後で貞光君にも幻術してもらえばマスコミや警察も納得してくれるかしら?」
メガネをクイとあげながら”ん〜”と唸ってるママに、マリサは流し目しながら
「あら先生。目撃者にして被害者の私たちがいるじゃありませんか?」
その視線を受けるようにママもマリサに流し目して、二人は目を合わせたまま少しの沈黙の後、表情を緩ませて
「「おほほほほ」」
もうお前ら勝手にせえや。俺は脱力して肩を落とし
「あーあー、心配してた京太郎君がバカだったよ」
ヤケクソ気味に呟いて頭をクシャクシャと掻いた。
「ホントそうです。バカです」
”へ?”とその予想外コメントに振り向けば、珍しくツンとして後ろで手を組んでるのは美月ちゃんだ。いや怒ってる顔久しぶりに見たけどやっぱすごく可愛い。小鼻の下の桜色の小さな唇がツンと尖っていてもう萌え萌え。……っていうか
「どうしたの美月ちゃん?何か俺地雷踏んだかな?」
マジコメント。それが余計にマズかったのかさらにムスっとして……でも”クスリ”と笑ってから
「んんん。いきなりごめんねキョウ君。何でもない」
とニッコリ。ああ、やっぱり笑顔は美月ちゃんが最強かもしれない。さすがポニーテールの女神様、とか鼻の下を伸ばしてると突然、桃ちゃんの右手を掴んで
「桃花ちゃん、私達もいこっか」
”え? なんや?”とポカンとなってる桃ちゃんをそのまま引っ張って、グランドに走って行ってしまった。その揺れているオレンジ色のリボンと艶のあるポニーを狐につままれたように見守っていると
「お姉ちゃんが今朝から伸ばしていた左手が、ずーっと、ずーっと”お留守”だったのですよ〜」
と美花ちゃんが俺に”ニパーっ”としてから、同じようにタッタッタッタと軽快にグランドの方へ走って行ってしまった。そこでピンと来て”もしかしてスッゲー美味しいフラグ逃してたのかな?”と腕組みしながら目を閉じて、まだ残ってるかも知れない”ミヤコセンサー”に聞いてみた。そしたら
”同じことを私にもしたら許しませんからねネバーネバー”
あまりにクリアーな返答に目を開けてグランドを見れば、ミィちゃんが俺に向かって星が瞬きそうなくらい可愛くウィンクしていた。
ちょっと更新遅くなりました。ごめんなさい<(_ _)>
ノーマルルートももうすぐ終わりです^^
マルチエンディングとして次に予定してるのは
人気投票1位のミユキルートです。新連載という形をとるか、
このまま続けるかは未定ですが、いずれにしても
彼女の魅力が発揮できる内容になると思います^^
それでは引き続き本拙作をお楽しみ下さいませ〜