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第2話:もう一人の破壊神

筆者推奨の読み方^^


ナレーションはスピーディーにサラサラ。

じっくりゆっくり読むとNG


 ガラっと扉を開けたらセミロングの女子校生が朝焼けを見ながら窓際に(タタズ)んでいた。俺とマリサが入ってきたのに気付いて振り返り、弓なりの眉にセクシーな切れ長の目を向け、俺達だと分かると顔を赤らめ、俯いてキュっと自分の肩を抱いて、

「お兄ちゃんなら……私の初めてあげてもいいよ」

「役作りは学園内限定で頼むな」

朝一から危ないこと言ってるこの美少女に溜息を返し、自分の席に制定カバンと柔道着の入ったバッグをドンと置いてひとまず着席。

「スランプかのう? いつものキョウならここで鼻の下くらいは伸ばしてくれるんじゃが」

時代劇口調に早や代わりして、俺の前の机に座って足をブラブラさせてるこの”自称妹”、名前は山之内陽動。通称はヨードーちゃん。苗字からして分かる通り血は繋がっていないし女の子ですらない。演劇部所属。学園(ウチ)の男子学生はブレザーを制服に指定されているのだが、彼だけが唯一例外としてセーラーの着用を校長に認められているのだ。理由はまたいずれ。

「今度の舞台でまた妹役にあたったんだってね」

俺の右隣の机に腰掛けて、ヨードーちゃんの目線で話しているマリサ。すると姉役は間違いなく

「”お姉様”役の加納先輩の指名じゃからな。逆らったら何されるか分からん」

やっぱりアヤ先輩か。アヤ先輩とは今ヨードーちゃんが額にドヨンと青線入れながら口にした”加納先輩”である。演劇部部長。普段は包容力があってオットリした癒し系の先輩なのだが、彼女には”萌え”のツボにハマると男女見境なく着せ替え人形にするという割と致命的な欠点があるのだ。鼻血を噴出しながらヨードーちゃんをお持ち帰りしていく様を傍から見る分にはなかなか楽しいのだが、当人であるこの妹系少年にとっては死活問題のようで

「今朝のミーティングでも”カチューシャのつけ方がなってないわねそんなんで萌え妹になってアタシから鼻血を奪えると思うのやっぱりお姉ちゃんが指導しないとダメねヨードーちゃんうふふふまずはブラの選択から”とか句読点皆無なセリフと共にズリズリ更衣室に引きずり込まれたからのう。問題はカチュのはずなのに下着のつけ方から指導された理由が未だに分からないんじゃが」

カタカタ震えているのだ。

「加納先輩だもんね。ありありと目に浮かんでくるわ」

一人世界恐慌に陥っているヨードーちゃんの頭を指でツンツンしながらマリサ。他人事(ヒトゴト)だよな。することがない俺は目の前をフラフラ遊んでる赤毛ツインテールの先端を蝶々結びで結合。団子結びにしなかったのは俺の優しさだ。

「本日は朝礼があります。学園生はグランドに集合して下さい」

教室のスピーカーから聞こえてきた良く通るウグイス嬢の声。アヤ先輩である。俺達3人は教室を出て行った。


あと本日2発目のビンタを左頬にもらった。


 天気は雲ひとつない快晴。生徒会役員の俺とマリサは朝礼台側、つまり先生方と並んで立ち、ヨードーちゃんなどのそうでない一般の学生達は俺達と向かい合うよう背の順で並ぶ。

 「走れ〜! 閉門まで1分を切ったぞ〜!」

正門からここ、校舎前の朝礼台までは食堂とテニスコートに挟まれた坂道、周囲長500mの池、そしてまた坂道、とかなり距離があるのだが、ミユキ先輩の声はクリアーに聞こえてきた。その檄に急かされてグランドまでの坂をゾロゾロと学園生たちが駆け上がってくる。その中で頭二つ分くらい出ていて否が応でも目に付くシロクマのように大きな男子学生は紅枝(クレエダ)(ヒロシ)。生まれた日時場所から今に至るまで学校、クラスが全て同じという奇跡的な腐れ縁だ。通称はヒロシ。バスケ部所属で俺達1年2組の委員長。彼が運動部にも関わらず今頃になってグランドに走って来ているのはマリサのように”特権”をもらっているからではない。純粋な寝坊だ。目が合って”ウィッス”と手を挙げて朝の挨拶。

「だから私と一緒に来いと言っただろ美月? そしたらあんな連中に絡まれて遅刻することもなかったのに」

「ごめんなさい姉さん。助けてくれてありがとう。今度から気をつけるね」

ミユキ先輩にお小言を言われながら一緒に坂を上ってきたのはマリサの親友にして可愛さも双璧をなすポニーテールの美少女、園田美月。通称は美月ちゃんでトレードマークは大きなオレンジ色のリボン。ミユキ先輩の妹でクラスの副委員長。性格は思いやりがあって優しく、俺の理想をそのまま現実世界に引っ張り出したような女の子だ。ミユキ先輩は美月ちゃんを2組まで誘導し、俺の隣に来て”休め”の姿勢を取ると朝礼が始まった。

 校長の催眠誘導電波攻撃を耐え切って教室へ。俺の左後ろでは机に突っ伏して冬眠を始めるシロクマのヒロシ。後ろではヨードーちゃんがPSPをカチカチと打ち込んで

「ビブラートで〜ごまかさない〜でよ〜こんな高音、苦しいわ〜」

萌えボイスで歌を口ずさみながらリズムゲー。偶然にも俺を挟んで美月ちゃんとハイソな会話をしているツインテールの着メロだ。

「フー」

溜息を吐きながら目頭をつまみ、ハードカバーの本をパタンと閉じたのは俺の前に座っているメガネの美形男子。加納(カノウ)志気(シキ)。通称はシキ。演劇部部長アヤ先輩の弟で性格は人を疑うということを知らない純真無垢の塊だ。

”か〜ちゃん俺だよ俺! トイレにネピアが詰まって会社に賠償金100万払わないといけないんだ!”

そんな香ばしい電話が彼の自宅にかかってきた時に

”トイレのトラブル8000円です”

とクラシアンに電話して結果、住所不定無職の男の逮捕に貢献しというたわりと輝かしい経歴を持っている。そんな彼が読んでいたのは学園の校長と学年主任が発行しているペテン宗教本。当初は1280円という価格で販売がスタートしたのだが、供給に対して需要は皆無で日を追うごとに価格は半額、半額、半額。果ては学園の最寄り駅で校長と学年主任の二人が泣きながらビラ配りのように無料配布している始末だった。それでも在庫タップリなこの本はつい今朝方、何者かによって学園の池に大量に不法投棄されてるのが見つかった。


で、朝礼後に二人そろって逮捕された。


 図書委員である彼は校長の自演リクエストにも関わらず、この本が新着図書いりすべきかどうか吟味するため目を通しているのだ。俺はシキにクイクイと指を曲げて”貸してみそ”とアピール。

「どうぞキョウさん」

手渡されて適当に開いて見れば

”左の尻を叩かれたら右の尻を出しなさい”

パタンと閉じて黙って返品。シキ君いい加減それに付き合うのやめても良いと思うんだ。

 昼休み。

「それじゃ後でな〜!」

食堂のカツサンド争奪戦へ参加表明しながら教室を出て行くクマのヒロシ。美月ちゃん、俺、マリサはお弁当組で、席の位置も横並びになっているから一緒に食べるのが入学当初から恒例になっている。もう慣れてしまっているのだが実はこれ、とんでもないことなのだ。だってね、

「はいこれキョウの」

とマリサが手渡してくる水色のお箸は俺専用、そして二人のお弁当を自由に失敬する権利が与えられているのだ。

「それじゃぁさっそく頂きましょうか」

二人が机の上に置いた白、桜色の大きなお弁当箱はどう考えても女の子が食べ切れる量ではない。そしてお弁当組とかいいつ俺はお弁当を持って来ていない。つまり

「キョウ君、今日もしっかり食べてね」

ということなのだ。言いながら熱いお茶を()れてくれるポニーテールの女神様こと美月ちゃん。最初はやや奥手だったのだが駅前でやむを得ず押し倒してしまったあの一件以来随分と積極的になったものだ。しみじみ回想してるキョウタロウ君

「ほら、キョウ。これでも食べて園田先輩から一本取ってみなさいよ」

マリサがお弁当箱のフタの裏にデーンと大きなハンバーグを置いて差し出してきた。マリサはもともと積極的だったのだが食堂でやむを得ず押し倒してしまったあの一件以来前にも増して凶暴になったものだ。しみじみ回想してるキョウタロウ君。ただの変態ですね。

 クラスに残った男子生徒達から黒紫のような嫉妬と呪いを背中に浴びつつも二人のお弁当を平らげ、手を合わせて

「ごちそーさま」

二人はそれに

「「お粗末さまでした」」

二人とも料理の腕は抜群でマリサが洋食、美月ちゃんが和食担当。

「それじゃぁ、これデザートね」

美月ちゃんが机の上に桜色の包みを取り出したら試練の始まり。ラメの入った水色のリボンがシュルっと解かれたら大量破壊兵器”ミユキお姉様直伝、美月ちゃんの手作りクッキー”が現れる。最初の事件が起きたのは入学2日目の部活紹介。料理部見学の際に体験実習ということでクラスメイトでクッキーを焼いた時だ。オーブンから香ばしい匂いのするプレートを取り出したエプロン姿の美月ちゃんが向日葵のような笑顔で

”食べてくださる方は?”

と言うや否や”あの美月ちゃんの手作り!”という圧倒的ブランド力で瞬く間に完売御礼。そして彼らをシームレスに三途の川へと追いやったのだ。

「うっかりバター切らしてて今日はあまり用意出来なかったけどね」

頬を染めつつ女神様が俺の前に両手で差し出す電気椅子(クッキー)。これまでありとあらゆる策を講じてクラスメイト達にお裾分けして来たのだがそろそろ

「キョウ君にも食べて欲しいな」

ありえないくらい可愛いく上目遣いされた。進退ここに極まれり。数は全部で5枚。被験者No1素体名アナグマのヒロシの観察記録によると

1枚:昏倒、2枚:三途の川、3枚:向こう岸、4枚:脱衣ババと一泊、5枚:未知←いまここ。

マリサとアイコンタクト。ツインテールは100万ドルの笑顔で

”私はキョウを忘れないわ”

千の風になれということですね、分かります。このままでは小説がッドエンドになっちゃうよ、とか多少異次元的な発想を抱きながらも、俺は美月ちゃんを決して傷つけないようクールな笑顔を崩さず、可愛く両手で差し出されたままのクッキーに震える手を伸ばし、

「くっそー! またアンパンかよ…… ってキョウまたお前一人で!」

新ジャンル、自滅型救世主ヒロシが帰ってきた。彼は残念賞(アンパン)を机において今まさに掴もうと見せかけて実は停滞してる俺の手より先に

「ありがとう美月ちゃん! いただき〜!」

三途の川への片道切符(2枚)を手にしてそのまま口に含んでモッシモッシ。持つべきものは親友(バカ)だな。しばらく遊泳してくるといいよ。

「も〜紅枝君、行儀悪いんだから」

クスクス笑ってる美月ちゃん。いつもごめんねヒロシ。ピタっとツキノワグマの剥製のように静止したヒロシの瞳には小宇宙が誕生している。今だ好機を逃すなキョウタロウ

「あ〜! 美月ちゃんのお父さんがグランドにいる!」

「え? どこどこ?」

”今日は神主様の格好かな? それとも猫かな?”とか伏線めいたことを言いながらキョロキョロ窓の外をのぞいてる間にマリサがヒロシを机に押さえつけ、俺がその口に優しくー一枚、二枚、三枚、ラララ閉門(ゲートクローズ)。アゴを掴んで強制的に(ガク)運動! おお! 一噛みするごとにシロクマの瞳が七色の輝きを放っているではないか彼はどこに向かおうと言うのだ! マリサがヒロシの口を押さえて左右にビンタ脳天に肘打ち。 ”ゴグン”という音がヒロシの喉から鳴って床に崩れた。彼は星になった。気付けば一部始終を目撃していたクラスメイト達が”ロダン作「考えても無理」”のように石化。マリサは”コホン”と可愛く咳払いして100万ドルの笑顔で

「マグレですわ」

「「「「ですよね〜!」」」」

さすが”八雲様ファンクラブ”アイドル常識の壁なんか何とも無いぜ! こうして歴史は塗り替えられた。任務完了(ミッションコンプリート)

「ねぇキョウ君、お父さんどこにいるの?」

ポニーを揺らしながらクルっと振り返った美月ちゃんに

「ごめんごめん三毛猫の空似だったよ。あ、それからクッキーありがとう。すごく美味しかったよ」

親指を立ててクールな笑顔を向けると美月ちゃんは火照った頬を両手で抑えておお……可愛い。

「今度は、張り切って20枚くらい作ってくるね」

ヒロシが死ぬかも知れなかった。



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