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ルート1の4:あやふやな犯人像

 臨時朝礼で取り上げられた今朝の事件。校長である美月ちゃんママの指示により今日から当面の間部活は中止。そして下校時には柔道部、空手部、先生方が通学ルートで見張りを担当することになった。

 お昼時、いつもの三人でお弁当をつつきながら話題はもちろんその事だ。俺はマリサのオムレツを箸で三等分しながら

「気になるのは午前8時頃っていう時間だよな。普通さ、ああいうのって遅い時間に帰宅するヤツを狙うのがセオリーじゃないのか。わざわざ人目の多い登校時刻を狙った理由が分からないな」

カットした真ん中を取れば、マリサが左端、美月ちゃんが右端を取る。

「それだけじゃないわ」

マリサが水筒のお茶を淹れて俺に渡しながら

「襲われた子って、別に財布とか取られたものもないらしいわよ。それに恨みとか嫉妬とか買うような派手な子でもなかったみたい。目的も分からないわね」

「お金の線は、私はないと思うな。高校生が通学するときにそんな大金持ち歩いてると思わないし」

”どうぞ”という感じで美月ちゃんがお弁当のフタの上に高野豆腐や(タケノコ)の煮付けやらを乗せていく。遠慮なく箸でプスっと昆布巻きを刺して

「確かに、金目的なら羽振りの良さそうなおじさんを狙うだろうな。一時期社会問題にもなったろ? ほらえっと確か……」

答えがもう一歩のところで出なくて箸をクルクルしてると

「”親父狩り”ですねハム」

俺の箸に刺さった好物がスポっとミィちゃんに飲み込まれて……

「いつのまに来たんだい?」

真っ赤なお弁当箱を両手で持って、俺の背後に立ってモグモグしてる妹。1組に割り当てられたから俺達2組の隣のクラスだ。ともかくヒロシの席をかっぱらって”ほいよ”と隣に置けば”お邪魔します〜ソーリー”と座って

「周りの視線がくすぐったかったので来ました」

ニパっと妹。それから俺とミィちゃんを見比べている美月ちゃんの方を見て

「もう一冊のリボンポニーさんの方ですね」

「兄さんを死地に追いやるのはヨードーちゃんだけで良いよ!?」

 ともかくミィちゃんのお弁当も皆で頂いた。ちなみに中身は中華でエビチリとか抜群。マリサと美月ちゃんのお弁当と合わせたら豪華なことこの上ない。

 いつの間にかスッカリ溶け込んだ妹。もともと小動物が大好きな美月ちゃんは子犬属性のミィちゃんをとても良く気に入り、ミィちゃんもミィちゃんで、美月ちゃんの包容力のある性格をミヤコセンサーで見抜いたのか既にベッタリ。そうして本日3人目の姉を増やすのだった。ちなみに呼称は”お姉ちゃん”。すっかり仲良し姉妹と化して

「はい、アーンしてミヤコちゃん」

「あー」

とかやってる二人に、俺とマリサは顔を見合わせて思わず笑ってしまう。まぁ嫉妬かも知れないけどさ、”兄さん”は俺だけにしてね? 天真爛漫な妹に振り返ると

「お姉ちゃんのクッキー美味しいです」

”モッシモッシモッシ”

ヒマワリの種を夢中で食べてるリスみたいにホッペが丸っこくなっている妹にツインテールとキョウタロウは仲良く並んで石化。シスターミヤコ、それはクッキーという名の的中率100%のロシアンルーレットなのだ今すぐエジェクトしないととんでもないことになるよ。

「他に考えられるのは”見せしめ”とか”八つ当たり”くらいかなぁ」

冷や汗流してる俺とマリリンをよそに、小猫に餌でもやるように、美月ちゃんはミィちゃんの小さな口にクッキーを与えながら呟く。見せしめ、八つ当たり、ね。いやそもそも全うな理由がある保障すらないんだよな。突発的にやったとか、あるいはあまりオツムが良くなくてマジで金品のために高校生襲って、途中で誰かに気付かれたりして怖くなって、何も取らずに逃げたとかさ、そういうのだって考えられるわけだ。三人寄れば文殊の知恵と言うけど、結局今の時点で俺達が出せた答えは”不審な点が多いな”ってだけだった。まぁ

「その辺りは警察さんに任せるとしますか」

呟いて頭に両手を当てて背もたれにもたれる。ミィちゃん、気付けばクッキーコンプリート。そしてケロっとしていた。

 「今後の予定は以上だ。それでは各自速やかに持ち場へ」

放課後、高等学新校舎2階、教壇の後ろにいるミユキ先輩の号令で生徒会役員会議が終わった。ガタガタと席を立つ役員達と臨時召集された各部活の部長達。こういう非常事態でも生徒主導なのが学園(ウチ)の慣わしだ。さてこれから見張りなのだが、俺とミユキ先輩の担当位置は事件のあった公園がある並木道だ。マリサ、ミィちゃんも先生方、空手部と合流して見張りにつく。そして見張り担当が持ち場についてから学園生が集団下校するというのが当面の流れになる。

 校門にて。

「もし何かあったらすぐ姉さんに連絡するんだぞ。必ず3分以内で駆けつけてやるからな」

ミィちゃんを抱きしめながら頭を撫でているミユキ先輩。誇張表現抜きなんだろうな、”3分”って。

「はい、お姉様有難うございます」

ミユキ先輩の胸に顔を埋めている妹。あ〜羨ましいねホント。だけど護衛とかいらないでしょ。聞いた話によればミィちゃんの体力測定の結果ってマリサクラスだったらしいからな。ところで今ミィちゃんに頬ずりしてるお姉様の記録。気になって部活の休憩時間にミユキ先輩に何度か聞いたことがあるのだが、その度に何故か赤面して教えてくれないというミステリーだ。で、それで諦めがつくはずもなく、演劇部部室でハーブティー片手にまったり一休みしていたアヤ先輩を訪ねて聞いてみたところ

”アハハ、それはユキたんルートまでのお楽しみじゃないかな”

という異次元的な答えが返ってきた。いや思わせぶりで恐縮。

 お姉様に開放されるとちょっと酸欠気味になってるミィちゃん。俺の方を向いて

「また後でね兄さん。今日は夕飯期待してて! シーユー」

可愛くウィンク、そして少し先を行くイカツイ空手部集団の方へ軽快に走って行った。ちなみに担当場所は武装高校と試合をした”例のグランド”の最寄り駅だ。ミィちゃんの後姿が駅の改札の向こうに消えるまでお姉様、キュンキュンした眼差しを送りながら

「ああ可愛いなぁアレ欲しいなアレ、何とかならないか後宮」

何をどうしたいのでしょうね。

「変な世界に目覚めないで下さいよ。それより早く行きましょうか」

まだ切なげな目で頬がピンクなユキたんを見て、こりゃ当分熱は下らないだろうな、と溜息を吐いてから公園へ歩き始めた。

 青々とした銀杏の並木道。二人並んで歩きながらミユキ先輩との会話。俺はいつ警察様と遭遇して、お姉様の左手に握られた朱色の危険物が職質されるかと気が気でないのに

「しかしお前とミヤコは瓜二つだな。本当に血は繋がってないのか?」

気楽なものだった。

「いったいどこをどう見たらそうなるんですか? 俺にはサッパリですよ」

何だか上機嫌なミユキ先輩へ”ヤレヤレ”と溜息を吐く。ていうか事件の見張りに来てるのに緊張感ないよな。万が一犯人が現れて襲われでもしたら……何の問題もないか。また学園規則あたりを丁寧に読み上げて死刑判決下してから即執行で終わりだろうな。自己完結してる俺の隣でユキたん、さっきから一人コクコクと頷きながら

”後宮も女装させたらミヤコのようになるかも知れないな。ふむ、今度アヤに相談してみるとしよう”

さりげなくとんでもないことを仰ってます。

「惜しいなぁ。お前が女なら私がたっぷりと愛でてやるのに」

”そして誰にも嫁にはやらんぞフフフ”とか笑ってます。今の御時世それはセクハラと言われるものですよお姉様。てかユキたん、まさか”そっちの気”があるんじゃないよね? 腕組みして疑惑の目を向けていると”ん?”とそれに首を傾げて

「どうした後宮? もしかして妬いているのか?」

「へ?」

急に話が噛み合わなくて素っ頓狂な声を出した俺。

「お前だって私の後輩じゃないか。ミヤコと同じくらい可愛いがっているつもりだ」

間抜けな顔している俺に微笑みながらミユキ先輩。誤解もいいところなんだけどさ、お姉様って何でも直球で言ってくるからたまにドキっとするんだよね。

「それとも、お前もよしよしと頭を撫でてほしいのか?」

”今のユキたんならマジでしてくれるよ〜”ミヤコセンサーが告げているんだけど

「いやいや、そうじゃなくてですね」

照れ隠しにお茶を濁しながら頭を掻いた。もったいねー。

「なんだ、違うのか?」

お姉様しばらくキョトンとしていたが、すぐにまた何かを思いついたようでクスリ。あ、可愛い。立ち止まって俺の方を向いて

「もし通り魔に鉢合わせたら、お前は私が守ってやる。心配しなくていいぞ」

迷子になった子を安心させるような包容力のある笑み。いや違うんですけど……しかし何だろうか、このくすぐったさというか安心感というか、抱きしめたいような抱きしめられたいような。思わず

「お姉様って呼んでも良いですか?」

「何か言ったか後宮?」

「いえ何でもないです園田先輩。だからそれを早く鞘に収めてくれると有難いです」

 結局、公園やその付近の並木道では何も起きなかった。せいぜい”通り魔発生!”という即席の看板が公園入り口に立てられていたくらいで、集団下校していく学園生を見送ることに終始した。

 夕暮れ、自宅前まで来ると窓から明かりが漏れていた。ミィちゃん先に帰ったみたいだな、扉に手をかけるとガチャリと開いてツインテールが100万ドルの笑顔で

「お帰りなさいあなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも」

「すいません間違えました」

クローズ。自宅が分からなくなるなんて疲れてるな俺も。溜息を吐いて妖怪の巣を後にしようとすると再びガチャリと開いて可愛い妹が

「お帰りなさい兄さん。これから夕飯作るからね」

「ただいまミィちゃん。それじゃぁ俺は洗濯物でも取り込んでおくよ」

玄関ではマリリンが笑顔のまま

”後でツラかせや”

理不尽だと思わないかね?

 「包丁片手にこんにちわ〜真っ赤なジュースは絞りたて〜」

キッチン、まな板をトントントンと鳴らしながら妹が口ずさむ謎の歌。どんな夕食になるのかお兄ちゃんちょっと心配。テーブルを拭きながらその後ろ姿を眺める。隣ではマリサが同じく鼻歌交じりにボウルの中の何かを手際よくコネていた。

 夕食は美味しい手作りハンバーグだった。赤ワインを煮立たせて作ったコクのあるソースが絶品。全くどこのシェフだよ君たちは。舌鼓を打ちながらすっかり平らげて

「「「ごちそうさまでした!」」」

と手を合わせる。

「もう風呂は洗ってあるから、二人どっちか先に入っててくれ」

言いながらゴム手袋を装着して流し台の前に立てば

「に、兄さんそんなの私がやりますから!」

あわわと俺の手から皿を奪おうとする妹。いやいやいや

「これだけ美味しい料理作ってもらったのに、皿洗いまで任せたらバチが当たるって。このくらいさせてくれよ」

「いえそうじゃなくて姉さんがお風呂で待ってると思うので早くい」

「そうはならないと思うんだ」

結局は三人並んで食器を洗うっていう効率の悪いことをした。しかし二人ともハイスペックだよな。料理は美味いし家事ができて働き者でさ。申し分ないよねほんと。

「白いオメメのお馬さん〜小川の上を〜プッカプカー」

何かに苛まれそうな歌は歌うけどさ。

 そうして一日が終わった。親と入れ替わりに入って来た二人の女の子との新しい日常。ちょっと非常識だけど楽しくて、ドキドキするような生活。そういうのが続くのかなと思っていた。翌日の朝、次の犠牲者”達”が出るまでは。


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