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ルート1の3:桜花狩り

 重み、柔らかさ、温もり、甘い香り。

「焼き肉挽き肉ミンチ肉〜おじさんその子をどうするの〜」

そして謎の歌。負の感情に苛まれそうな歌詞とメロディに目を開けると、既にセーラーに袖を通してるミィちゃんがお腹の上に騎乗して俺の寝起きフェイスを観察していた。

「おはよう兄さん。お目覚めいかがでしょうかハウアーユーフィーリン」

ニパっとしてる妹。

「そのまま涅槃に入りそうな起こし方やめてくれないかなミィちゃん」

揺れているブラウンの毛先が首筋をくすぐる。腹筋の上に感じる柔らかな感触について考えるのはやめよう、今は、絶対。ともかく俺の返事に満足したのか

「それじゃぁ朝ごはん出来てるので早く降りて来て下さいね」

と横へ”よいしょ”と降りたミィちゃん。ここは兄として言うべきことを言わねばならないぞ。

「ミィちゃんそこに座りなさい」

いくら兄妹でもノックもなしに異性の寝室に入って来てしかもあと少しズレてたら”衝突事故”を起こしてたかもしれない体制で朝をお知らせするとかどれだけお兄ちゃん思いなんだこの妹はフフフってこらこらいかんぞキョウタロウ。

「兄さん今私見てエッチいこと考えてませんか〜?」

人差し指を立てながらエヘンと指摘している妹に

「そんなまさか妹相手に発情するほど兄さんはエロゲーでも鬼畜でもないよ」

とクールに答えれば

「そろそろ夏なので掛け布団、薄めに換えておきました。準備できたら降りてきて下さいね」

ニコっと寝室を出ていく妹。その視線の先には下腹部付近で”アンテナ”を張っている薄いお布団。感度良好。何を受信しようというのだ。あ、朝は仕方ないよね!? うううう、 ともかくチャッチャと制服に着替えることにした。

 トースト、目玉焼き、マッシュポテト、サラダ、ソーセージ、ホットコーヒー。朝早くからよくこれだけ用意出来たな、テーブルの上に並んだ朝食に感心しながら席について手を合わせて

「「「いただきます!」」」

食べ始めた。美味いねもう抜群。トーストはちょうどキツネ色に染まる程度の焼き加減で香ばしいし、目玉焼きも黄身はしっかりセンターだし、ソーセージも表面パリっと中はジューシー。言うことないね。朝は和食派だけど、これなら余裕で洋食に乗換可能。だけど気になる点が一つあるんだよね。勘の良い君ならもう気づいてるかも知れないけどさ。もう少し突っ込むのガマンするね。ホットコーヒーをマイカップに注いで敢えて沈黙を守る。

「あ、ミヤコちゃんそこのナイフとって」

「はいは〜い。どうぞ姉さん」

言うよ? 言うよ? 俺言うよ?

「なんでお前が違和感なく隣で朝飯食ってるの?」

俺の隣でナイフでスーっと目玉焼きをお上品にカットしてるセーラ服マリリンに問いかける。

「明日の朝は俺が作ってあげるから。固いこと言わない言わない。ん〜ミヤコちゃん上手に焼けてるわよ」

とかマリリンに頭を”いいこいいこ”されて”えへへ”とか犯罪クラスに可愛い笑顔でハニカんでるミィちゃん。朝練の前に疲れるのもあれだから突っ込むのは昼休みにしておこう。”やれやれ”と溜息を吐きながら香り豊かなコーヒーを”ズズ”っと味わう。おお、このブレンドは俺好みじゃないかパ〜フェクトだ妹。

「姉さん挙式はいつですか」

”プー!!” 黒い霧を噴いてゲホゲホとむせてる俺に

「お、お口に合いませんでしたか兄さん?」

目をウルウルさせてるミィちゃん。

「いやいやもうあまりに美味しくてイタリアナポリ式に神へ感謝の祈りを捧げてたのさ。それからマリリンちょっといいかな」

ミィちゃんの頭を撫で撫でしてからツインテールを廊下まで誘導。

「おまえうちの妹にどんな呪いを吹き込んだんだ」

とか穏やかにきれてる俺の頭を

「つまり俺の妹のミヤコちゃんね。あ、アホ毛立ってるわ」

とか言いつつ手櫛(テグシ)で寝癖を修正してくれるマリサ。ああ何か照れくさい……じゃなくて

「論理的に今のセリフ破綻してるぞ今からマジで病院連れて行くからな!」

「兄さん〜、姉さん〜。コーヒーまだありますよ。冷めちゃいます〜」

ニョキっとキッチンから顔出してるミィちゃん。うう、冷めないうちに頂くのが作ってくれた人への最低限の礼儀。ましてやそれがこんな可愛い妹ならこの話はさっさと切り上げざるを得ないじゃないか。まぁそんな心もどうせ読まれてるんだろうなウィンクしているこのツインテールにはさ。

「ありがとう。もちろん御馳走になるわミヤコちゃん。冷めないうちに」

 早朝、三人で校門を潜る。道中、ツインテールと妹の会話を聞いていると、昨晩俺が意識を失っていた間にとんでもない事態が進行していたことが明らかになった。まず衝撃の事実第一弾。ミィちゃん女子寮に行かず俺の家に同居! その理由は昨日、美月ちゃんママから

”ミヤコちゃん、あなたの桜花学園編入手続き終わったから、明日からこっちに通うようにしてね。キョウタロウ君にもよろしく伝えておいて”

という電話があったそうだ。確かにミィちゃんみたいな可愛くて宇宙人な子をあんな物騒な場所へ通学させるのは兄として色々な角度で心配だ。飢えたライオンの群れの中に子羊を送り込む、というシチュエーションに似てるようだけど正確には子羊の皮を被ったTレックスを送り込むことになる。何も起きない筈がない。むしろ今までよく無事だったよな。まぁそんなわけで学園(ウチ)へ通うのは大いに賛成だ、が、しかしつまり、今はもう桜花学園の学園生であるから武装高校の女子寮には当然戻れない。ということで親戚である俺の家から通学することになったらしい。そして衝撃の事実第二弾。マリサ同居! その理由は

「何でかなマリリン?」

グランドへの坂を上りながら聞けば、その問いにミィちゃんが

「ご、ごめんなさい。実は私がお願いしたんです」

早い話がご飯の問題だ。朝、昼、晩を全てミィちゃんが担当するのはやっぱり少々キツイらしく、今度も俺がハレルヤってる間にマリサ嬢にご助力を申し出たそうだ。恥ずかしながら俺自身、カップ麺ぐらいしか作れないから、メシに関する問題でミィちゃんの意見には何一つ反論できない。しかしそれでも

「俺の狭い家に寝泊まりすることもないじゃないか? すぐ隣だろ」

体育館と柔道場に向かう別れ際、機嫌良さそうにニコニコしてるツインテールに問えば、またまたミィちゃんが

「ご、ごめんなさい。私、”姉さん”も欲しかったんです。一人っ子だったので」

やっぱり昼休みに詳しく聞こうか。溜息。”それじゃぁまた後で”と体育館へ走っていくマリサに手を振ってる妹。

「あれ、キョウさんお帰りなさい!」

の声に振り返るとグランドを走って来たのはユニフォーム姿のシキ君ではないか。さっそく野球部に入部した模様。

「ウィッス野球少年。朝からご苦労だな」

ひとまずハイタッチ。そして

「それからもう知ってる思うけど、この子、今日から学園に通うことになったからたまに世話を……ってミィちゃん?」

見れば桜花ホールの玄関で俺たちを見てメイド・イン・石化してるヨードーちゃんをつんつんしてる妹。しまった彼には説明してなかったな。”あちゃ〜”と頭をかくと

「キョウさん。早くミヤコさんを連れて行った方が良いと思いますよ。もし姉さんに見つかったらただじゃ」

すまないよな。だって前に俺が”ミィちゃん”の姿で朝礼台上ったときにアヤ先輩確実に目がやばかったもん。俺はシキの助言に従って、ヨードーちゃんのほっぺをニューっと引っ張ったり閉じたりしてる妹を小走りで駆け寄って回収した。

 「「おはようございます!」」

柔道場、二人揃って腰を引いてお辞儀。青畳の上には既にミユキ先輩が胴着姿で腕を組んで立っている。

「おはよう後宮、ミヤコ。定刻通りだ。早く着替えて来い」

「はい!」

サササっと更衣室に向かおうとして……ふと振り返るとミィちゃん、ミユキ先輩をキョロキョロと色々な角度で眺めている。

「何だミヤコ? 胴着の着方が分からないのか?」

笑顔で優しく問いかけてるお姉様。

「あ、いえ、そういうのじゃないんですけど」

とか言いながらも依然周りをクルクル。好奇心旺盛なのは大いに結構、されど相手は武神ミユキ先輩。一歩間違うと後輩と言えどすぐに”制裁”飛んでくるからあまり無茶しないでね。俺なんか”ユキたん”って言うだけで三途リバーへの特急券プレゼントされたからと暖かな眼差しを送っていると

”むに”

お姉様の美乳をムンズと掴んでらっしゃるシスターミヤコ最近君の行動が本当に読めないよマジで死にたいのですかあまりにショックでお姉様笑顔のまま色がモノクロになってるじゃないかしかしそれどれだけヘブンな感触なんだ……って

「何羨ましいことしとるのだミィちゃんワットアーユードゥーイング!?」

超級サプライズに本音暴露しつつ語尾バグってると急にお姉様がフルカラーに戻って後ろに飛びのいて

「な、な、何をするんだミヤコ!」

涙目になって両手で胸かばってる赤面ユキたん萌えー!!

「す、すみませんミユキ先輩。つい」 

言ってオズオズしながらもさらに歩み寄って我が妹は頬を染めて、キュっと握った拳を胸の前にあてて

「やっぱり……すごく綺麗ですミユキ先輩」

「な!?」

おお! 初めて見たぞユキたんの”ドキン”っていう顔! 普段クールなお姉様だけにこの表情は萌えすぎるぞ脳内永久保存版グッジョブ我が妹! ハァハァ。また一歩後ずさるユキたんだけどしっかり追い詰めてピタっと寄り添ったミィちゃん。

「お、お、おいミヤコ……?」

タジタジになってるユキたん武神の新たな弱点発覚せりだ。そのまま潤んだ瞳でお姉様を見上げながら

「先輩、良かったらお姉様って呼んでも良いですか?」

腰に手をスルっと回されて

「ひゃ!?」

ユキたん今の萌えボイス最強だ!! これだけでご飯3杯いけちゃうぞもっとやれ妹! あ〜でも何となく俺とミィちゃんが似てるって言われた理由がここに来て分かった気がするよやっぱりミユキ先輩って”お姉様”だよね! ギュっと抱きつかれてユキたん、切なげになってる目を逸らしながら頬をピンクに染めて困ったように

「そ、それは」

ぶっちぎりに可愛いぞ! こんな憂いを帯びた表情も初めてだ! そこで留めの一撃。

「お願いです、お姉様……?」

さりげなく疑問形で語尾をあげるとかそんな恐ろしいテクをどこで身につけたのだ!? しかも子犬属性抜群のミィちゃんだこのセリフの威力は計り知れないぞ! お姉様には妹が二人もいるとは言え両方ともしっかり者だからろくに甘えられたことがないはずだ! さぁ免疫がほとんどない母性本能をピンポイントで狙った一撃にどうでる!? ミユキ先輩、注目の次のリアクションは!? 頬は染めたまま、でも穏やかな笑みでそっとミィちゃんを抱きよせておお!!

「良いだろう。私がお前の姉さんだ」

ミィちゃんの頭にその白く美しい手をおいて、それから優しく後ろに撫でおろして

沢蟹(サワガニ)のように愛でてやるからなミヤコ」

わかんねー!!

 遅めの外周を3人で”わっしょい”と走る。母性に目覚めたのかミユキ先輩、さっきからミィちゃんを見る目がキュンキュン来てる。すごいな武神が陥落したぞ。ある意味これヨードーちゃん見てるアヤ先輩に匹敵するクラスだ。

「可愛いなミヤコふふふ。その髪はまるで生まればかりのフロリダブルーロブスターのヒゲのようだ」

謎の呟き。ユキたんも大概おかしいよね。本当に人気ランキング一位なのかな?

 とにかくそうして新しく始まった、楽しくも慌ただしい日常の予感。ルートの途中にある並木道。ちょうど左手側に公園が見えてきたところだ。そこでそれは崩れることになる。ミユキ先輩は突然向きを換えて一人公園に走って行った。何だろうか? 俺もミィちゃんもその後姿を見送っていると、ミユキ先輩が公園のベンチを過ぎたところでしゃがみ込んで……。

「兄さん人が倒れてます!」

ミィちゃんが駆け出し……え!? 俺も慌てて後に続いた。そして辿り着いてみればモスグリーンのブレザー、つまりうちの男子学園生がブランコの前で仰向けに倒れている。体中に見られる殴打の跡に表情一つ変えない冷静なミユキ先輩。口元に手を当て呼吸確認、口内を覗いて異物チェック、手首を掴んで脈を取る。一連の動作を素早く行ってから軽く安堵の溜息吐き、それから学園生の上半身をそっと起こした。しばらく背中を擦ってからトンと腰のあたりに軽めの掌打。”ゴホ”っと咳き込んで目を覚ました学園生。その背中を擦りながら

「ゆっくりと息をしろ。もう大丈夫だ」

と語りかけているミユキ先輩。

「ミィちゃん。俺、警察と救急に連絡を入れるから、そこの自販機で何か飲み物買ってやって」

実はいつも持ち歩いてる小銭入れを妹にパス。それから携帯を開いた。後に”桜花狩り”と言われる事件の幕開けだ。

☆☆☆桜花学園視覚化プロジェクト☆☆☆

親愛なる読者様へ:

本拙作をご覧下さいまして誠に有難うございます。

お陰様で更新時にはジャンル別アクセスランキングで1万弱作品中、

3位あたりをウロウロ出来るまでになりました。心よりお礼申し上げます<(_ _)>

今回、読者様に何かの形で御恩返しが出来ればと思い、登場人物や、

小説の一場面をイラストで再現してご覧頂ければと思いました^^

そして本日、素晴らしい絵師様から今回の依頼を御快諾頂けましたのでひとまず

お知らせさせて頂きます。

詳細はまたおって報告させて頂きます^^

それでは引き続き本拙作をお楽しみくださいませ<(_ _)>

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