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ルート1の2:新たな日常の幕開け

 時刻は深夜0時をもうすぐまわるという所、キッチンのテーブルにはお鍋に入ったミィちゃんお手製の鳥雑炊がユラユラ湯気を立てている。とても冷蔵庫の有り合わせで作ったとは思えない味だ。

「時間がもう遅いので、あまり胃に残らないものを作って見たんですけど。やっぱり物足りないですか?」

白菜のお新香を冷蔵庫から取り出しながらミィちゃん。いやいや

「出汁もいいし具も結構あるから充分だよ。居酒屋のラインナップにあっても不思議じゃないレベル」

もちろんお世辞抜きだけど、”えへへ”とか照れてるミィちゃん。さっきからいちいちリアクション可愛いというか分かりやすいというか。でまぁ、それは良いとしてさ。

「何でお前が違和感なくそこにいるの?」

俺の隣の椅子に座って同じくサラサラと雑炊をお上品に食べてるマリリン。

「はいはい固いこと言わないの。あ〜温かいって幸せね。この格好寒いんだから」

ってそのネグリジェ微妙に透けてるから目のやり場に困るんだけどさ俺。ちなみに中も”白”ですよ皆様。

 かつて見たことのない二人の衝撃的な構図のせいで一時期的にハレルヤってた俺。あまりに悔いなかったせいで三途リバーではなく天上世界に招待されていたようだ。そして目覚めたら俺は居間で寝転んでいて”両親出張のお知らせ”の手紙を見つけ、台所で遅めの晩御飯の支度をしているミィちゃんのエプロン姿を見つけたということだ。マリリンは? と探せば、俺の部屋にいてベッドに腰掛け、何ゆえか愛用の安眠低反発枕をギュっと抱いていた。お陰でツインテールの甘い香りが付着。今晩無駄に寝れないかもしれない。

 美味しいご飯が済んで三人で”ごちそうさま”と手を合わせる。

「お風呂もう洗っておきましたから、お湯落としておきますね」

と台所からニョキっと顔を出してるミィちゃんに

「ありがとう。お先にどうぞ、俺ちょっとコイツ送ってくるわ」

とマリサと一緒に玄関で靴を履く。もう春も終わって初夏なんだけどさすがにこの格好は寒いだろうな。”ほいよ”とマリリンの肩に俺愛用のデニムジャケットをかけやると、それを必要以上にキュっと深く羽織るツインテール。顔は何となくこぼれそうな笑みを隠しているような気がする。”これは女心というものだろうか”微かに残っている”ミヤコセンサー”に問いかけつつも家を出た。

 まぁ見送るといっても徒歩5分圏内だ。しかも距離的には0。この5分っていうのはマリサ嬢の豪邸の端から電動式の正面門前までにかかる時間のこと。どれだけでデカいかお分かり頂けるだろうか? ゴージャスな唐草模様が彫られた大きな門の前まで来たら、そこでマリサはクルっと振り返って

「ありがとうねキョウ」

やっぱり本当に嬉しそうだ。そんな可愛い顔で言われたらこそばゆくって仕方ない。ちょっと名残惜しそうにジャケットを手渡されて

「もし、ミヤコちゃんに手出したらタダじゃおかないわよ?」

俺の鼻を人差し指でグリグリ。いや実際問題俺ってチキンだから無理だと思うよ。

「それとも俺に手出して見る?」

「今から救急で病院まで行こうかマリリン?」

”あっそう”とちょっとムスっとしたように背中を向けるツインテール。真に受けた方が大問題だろ。それからハァっと溜息を吐いてから

「あ、あのさ、それでさっきの続きは……?」

”ん? 何のお話でしょうか”と言い掛けて、俺は玄関先で泣いていたマリサへ言いかけていた”あの言葉”を思い出した。やっぱり言わないとダメだろうか。フラグクラッシャーことミィちゃんの一撃であのままお流れになるかな〜? とか少し思ってたんだけど。マリサは無言のまま進もうとも振り返ろうともしない。クソ、また心拍があがって来たぞ。ええい落ち着けキョウタロウ。クシャクシャと頭を掻く。ミィちゃんの時みたいに良い匂いはしない。けどまぁ、先に気持ちを聞いてる分だけやりやすいじゃないか。ホっと息を吐いて

「えっとだな、俺はマリサのことが本当にす、す」

やばいな、この一言やばすぎるな。いざ口に出すとこれ以上に恥ずかしい言葉ってそうはないだろ。マジ無理だってこれ。ていうか現時点で既に意識がどこかに旅立とうとしてるしさ奥の細道かって。しかも視界が白んできて頭はパニックで、顔は赤くて、いや、でもここは男として言わないとダメだろ。ギュっと握りこぶしを作ってツメを立て、痛みで頭を覚醒させ、それでもやっぱり前を向けず下を向いて

「す、ステキだと思うぞ!」

「へ?」

思わず振り返ったマリサ。角砂糖をかじってしまったリスのような顔をしてるんだろうな。うんゴメン俺も今の発言どうかと思うわ。ステキとか訳分からないよね。さらに顔が沸騰してきたのが分かる。顔あげられない。無理、目とか合わせられない。あまりの俺の不甲斐なさに”ハァ”と溜息のマリリン。

「あのねぇキョウ」

と俺の顔を下から覗き込んでお説教が始まる、と見せかけてマリサの唇が俺の口を突然塞いだ。ドクンという胸の高鳴りと共に頭の中に穏やかな死が訪れる。そのまま細い両腕がスっと俺の首に回されて浅かった唇がより深く重なり合う。マリサが背伸びしてさらに強く腕に力を込める。致死量を超えた甘い毒が流し込まれて足がしびれて膝が震える。強烈な電流に思考と体が麻痺する。しばらくそのまま時間が止まって

「ッハァ……」

悩ましい吐息と共にそっと首の束縛が解かれた。そして一歩だけ下がるマリサ。ホゥともう一度溜息を吐いている。

「ま、まぁこれでOKにしてあげるわ」

頬はピンク色に染まっていて、潤んだ視線は俺じゃなくて何もない真横へ。手は後ろで組んで落ち着きがない。俺はまだ呆然と立ち尽くしている。口の中に残った甘い香りと、柔らかだった何かの感触が鼻の奥に抜けて、頭の中をグチャグチャにかき回して正常な思考が回らない。マリサはそんな俺にまた一歩近づいてきて、それこそこの世の男全てを虜にしそうなほどの愛らしい声で

「良いかな……もう一回?」

俺の目を覗き込んできた。その青の瞳から放たれた耐え難い誘惑の鎖、それを必死の力で断ち切って

「ち、ちょっと待った!」

ようやく言い放った。マリサも少し上気してたようでビクっと肩を震わせ、今度はいつもみたいに

「な、なによ。もう2回したんだから3回目くらい良いじゃない!?」

正常に戻ったせいか急に顔が火照ってるマリサ。それに俺は目を閉じて

「お、お前な! そんな簡単に言うけど今のって俺の人生の中で最強最大のインパクトだぞいきなりなにを……って」

ちょっと待った。

「2回目ってどういうことですか?」

目を開けたら既にゴゴゴゴと電動式の門を開けてインしてるマリリン。いや待て! 慌ててかけよって檻の中の猿のように門の格子へガシっとしがみ付いて

「2回目ってどういうことだお前!?」

ツインテールはその向こうで右手を口元に当てて悪戯っぽく笑って

「さ〜? いつでしょうね? ヨードーちゃんなら何か知ってるかも知れませんわ?」

そして背を向けてそのまま美しい噴水やら花壇のある庭の向こうに消えていこうとするマリリンに

「ヨードーちゃん!? 何でそんな名前が出るんだいったい……ってちょっと待て! 人のファ、ファーストなんちゃらを奪っておいてそういうこと」

猿が柵の向こうにあるバナナでも取るようにキーキー呼びかけたら、Uターンしてツカツカとマリサが戻ってきて、俺の前で腰に手を当ててムっと

「うるさわねもう! 俺より先にあんな子と一泊するだけでもすっごい気に入らないのに何様のつもりよキョウ!」

「お前こそ何様のつもりだいきなり俺の初体験奪って言いたいこと言って帰るとかこれマリサルートのつもりか今晩気になって寝れ」

門越しに首に手を回されてまた唇を塞がれる。さっきよりもより大胆になった求め方に限界を軽く超えて情けなく後ろに尻餅をペタン。そんな俺を嬉しそうに見下ろしながらマリサ、長いテールを後ろにかきあげて

「おやすみキョウ。送ってくれてありがとうね。嬉しかった」

”バイバイ”と笑顔で手を振ってからクルっと背中を向けてそのままタッタッタッタと今度こそ広大な庭の向こうへマリサは消えていった。俺はその後姿が見えなくなった今も立ちあがることが出来ず、初夏の夜空に向かって頭から湯気をあげていた。後宮京太郎。高校一年生にしてクラスのアイドルとファーストキスを経験。その威力、まさに幼馴染は破壊神。

 「ただいま〜」

未だに現実を受け止めきれず、ブードゥーのマジシャンに操られたゾンビのごとく帰宅。砂糖よりも甘く、ウォッカよりも強いアルコールをもった幻の火酒。そういうのを飲んだらきっとこうなるんだろうな、と冷静なこと考えてるようで全く冷静でない俺。自宅に帰ったときの習慣は手洗いうがい。最近は新型インフルエンザの影響で特に徹底してるからな、と洗面台に来て蛇口をひねり、バシャバシャと手を洗ってそのまま水をすくって口を……。口を……。何もせずそのまま栓を閉める。一日くらいうがいしなくても大丈夫だよな。いや深い意味とか特にないけどさ、君だってそうするはずだ、断言。鏡に映ったキョウタロウ君はまさにトマトのようである。しかしいつまでもこんな夢心地のままでいるわけには行かないぞ。明日も朝連早いんだからチャッチャとシャワー浴びて寝ようぜ、とバババっと服を取ってお風呂へイン。

「「あ」」

参ったね〜このお約束過ぎる展開さ。もう君達読めすぎてヤッパリな、とか思ってたんだろ。実は俺もだよ俺も。お風呂椅子に座ってるミィちゃんがこっちに背中向けて石鹸で泡だったピンクのスポンジで首筋を洗っててさ、ハトが豆鉄砲食らったような顔して生まれたままのバディである俺を見ている訳だ。いったいこれ何ルートのつもりだよ全く。しっかし肌綺麗だよなさっきまで湯船に浸かってたみたいでピンクで血色はいいし濡れてピッタリ肌に張り付いてるちょっとブラウンな髪もセクシーなことこの上ない。そして俺の最後の砦は辛うじてタオルという神の盾でガードしているから何とか意識は正常だ。さてどうしたものだろうか突如同居することが決まった妹の風呂場に初日から乱入してきた全裸の兄というこの構図。世間一般ではお約束の展開とは言われてるもののそれはあくまで世界の傍観者である神の特権であり当事者である俺にとっては死活問題という他はない。加えてミィちゃんのパワーは既にマリリン級であることを知っている俺はもう棺桶に片足を突っ込ん

「てい」

ミィちゃん突然俺の神盾(タオル)を掴んでピラって

「キャー!」

最終防衛ラインを突如突破されて乙女のような悲鳴をあげつつ離脱して扉クローズ! 一番有り得ん展開だぞ何を考えておるのだこの妹は! ”ガラリ”と扉が開いて

「やっぱり一緒に入りますか兄さん。ウィズミー?」

「絶対そうはならないよ!? ってミィちゃんタオル!?!?!?」

一瞬だけ写った未曾有(ミゾウ)の芸術品に全身を沸騰させつつも神の盾一枚を腰の前でヒラヒラさせながら逃げ出す兄

兄妹(キョウダイ)だから良いじゃないですか。ニードレス」

”それなんてエロゲ?”という妹様の仰ったセリフを聞きつつ廊下に飛び出せば”ガチャリ”と玄関扉が開いて

「もう慌てん坊ねキョウったらジャケット落としてたわよ門の前で……」

マリリン100万ドルの笑顔のまま鼻血出すっていうのはきっと何かにいろいろ失敗してるからやめておこうね。すんごいシュールだから

「兄さんその格好だと風邪ひきますよ。やっぱり一緒に入りましょうシャルウィー」

そこへナチュラルに一糸(イッシ)(マト)わぬ妹登場。マリリン100万ドルの笑顔のまま鼻血を出しつつ背中からドス黒い殺意の波動を立ち上らせるのはきっと何かいろいろ取り返しの付かないことになるからやめておこうね。これホラーじゃないんだからさ。わ〜すごいしかもそのまま石化し始めてるよマリリンいったいぜんたいどうしたのかな。

「あの、兄さん」

「み、ミィちゃん今は何も言わないで」

「はい、それじゃぁ私もうあがりましたので」

そして足元から何かを拾って再び脱衣所に戻っていく我が妹。おおその手に握られたるはキョウロウの最強にして唯一の装備”神の盾イージス”ではないか。ふと見下ろせばいと涼しきかな我が砦。実に清々しい。


これがノーマルルートとか泣きゲーですか


「キャー!」

再び絹を引き裂くような乙女の叫び声をあげて脱衣所に飛び込んだらブラ装着中の妹に遭遇。色は真紅わぉアダルト。

「キャー!」

本日三回目の乙女ボイスをあげつつ我が両手を持って”神の盾”として前かがみで廊下に飛び出して石化したままのマリリンを背にして台所へ突入! そして咄嗟にアイテムを見つけてマッハで装備! おおジョブチェンジされたぞ何だこの装備品は! ステータス画面を開いてみよう!


名前:キョウタロウ

装備:エプロン

状態:裸エプロン

職業:変態


さっきから救いがないだろこの展開! ”ガチャリ”と妹様が超セクシーな下着姿のまま台所へインして冷蔵庫をオープンしながら

「兄さんそれも”あの本”に載ってましたね、アハハ」

とか割と致命的なこと暴露しながら牛乳パックを取り出してそのままゴクゴクわぉ豪快って

「何でここでカミングアウトしてるの!?」

「み、ミヤコさんそれはどちらの本でしたの?」

ナマハゲがやってきた。

「って何でマリリンそんなこと聞いてるの!? ていうか何でオウチにあがってしかも俺のグレープフルーツ飲んでるの!?」

台所の隅で体育すわりしてる兄(職業変態)の抗議をよそに妹(下着)は人指し指を口元に当てて天井を眺めつつ、俺の”風呂上りの楽しみ”にストロー差してチューチューしてるツインテールの問いに

「レットミーシー」

と記憶検索中。俺には分かるよ返答次第ではキョウタロウ君が帰らぬ人となってしまうのがしかしおかしいぞ俺の脳内では二つの意見がぶつかっている。一つは通常のキョウタロウ思考ルーチンにより導き出された”赤毛ツインが裸エプロンなら殺される”もう一つは俺の脳内に残っているミヤコセンサーにより導きだされた”リボンポニーの裸エプロンなら殺される”ということだ果たしてどちらが正解なのか実に興味深いところだって人ごとじゃないぞ。そこで”OK”と声を出したミィちゃん。

「確かツインテールの女の子でした」

さぁどうでる!? マリリンはその返答を受けて頬を染めて

「そ、そうでしたの。あっと、うんそれじゃぁ今度メイドのシンシアに言ってエプロンを一着所望してみようかしらゴニョゴニョ」

とか俯いて危ないこと言ってるツインテール。おお殺意の波動が弱まっていくぞミヤコセンサーに軍配!

「で、その後ろからリボンポニーの女の子が全裸で抱き着いてました」

プリウスもびっくりハイブリット仕様だ。マリリン落ち着くといいぞまたどす黒い波動が全身を覆い始めているこのままでは祟り神になってしまうぞ。

「それからこんな感じで胸を触って耳たぶをこうしてカプっと」

「っあ!」

再び再現された禁断過ぎる花園第二弾に裸エプロンを纏ったまま薔薇色の噴水を巻き上げて倒れる後宮京太郎高校一年生彼女なし(?)。今更突っ込むけどミィちゃん、その赤の下着すっごく危険だよ。あとマリリンが変な気おこしそうだからその辺で。

--FINその2--

まだまだ続くよ。

快く投票下さいました読者様、誠に有難うございました!

現在はユキたんが1位です。強いですお姉様。


お陰さまで第一部と合わせて

107000アクセス突破です。

読者様に心よりお礼申し上げます<(_ _)>

それでは引き続き本拙作をお楽しみ下さいませ☆


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